162話 アンダーギルド
「ハァハァハァハァ…」
ここまで来れば、大丈夫でしょうか。
しばらく、走った私は息を整えながら思う。
「ワイワイワイ…」
「ガヤガヤガヤ…」
そして…
私はまた人混みの中をトボトボと歩いていきます。
「…」(私)
もしかしてですが…
リルさんが100万Gをくれた理由は、ギルドカードを購入して、この町で真っ当な職業で働きなさいと言う事だったのでしょうか。
そんな事を思いながら…
私は手に持ったお財布を、何とも言えない気持ちで見つめます。
「ワイワイワイ…」
「ガヤガヤガヤ…」
とりあえずです。
普通のギルドで依頼を受けるのは無理でしょうから、怪しいお婆さんから教えて貰ったアンダーギルドに行ってみようかしら。
親身になって話を聞いてくれると言うアンダーギルドにね!!
私は気持ちを切り替えながら、地図を見て進んでいきます。
すると…その内に薄暗い路地に入って行きました。路肩には、昼間からお酒を飲んでいるのでしょうかね。顔を赤くしたオジさんが、酒瓶を抱き抱えながら寝ています。
そして…
別の所を見れば、明らかにカタギじゃなさそうな、手に立派な刺青を施したグループがワイワイと騒いでいる。地元の不良グループの集まりか、それとも犯罪者グループなのか。
何か怖いですね。
見るからに治安が悪そうです。
女性が1人で歩くには、危ない通りかも。
(ビクビクビク…)
しばらく、ビクビクしながら歩いていきますと、目的地であるアンダーギルドに到着しました。外観は…とても綺麗とは言えない、古びた木の小屋って感じですね!!
窓は埃で酷く曇り、中が良く見えません。
お店の看板には…
『ようこそ、出稼ぎの皆さん』と書いてありますので、多分ここで間違いはなさそうですが。
「カラン、カラン」
「…」(眼帯のオジサン)
「…」(私)
とりあえず…
中に入りますと、カウンターには片目に眼帯をして、片手はフックの義手の…海賊の船長みたいなオジさんがいました。眼帯のオジさんは、中に入って来た私を無言で出迎える。
見た所…親身とは程遠い見た目ですが、きっと中身は親身な人なはずです。
「「ゲラゲラゲラゲラ~!!」」
「「ハハハハハハハハ~!!」」
「…」(私)
そしてなんですが、店内の奥の方を目を向ければ…
狼の獣人のグループでしょうか。まだ昼間なのに、酒瓶を片手にテーブルを囲みながら、ゲラゲラと笑っていました。
あの人達に絡まれたら、面倒臭そうですね…
私は彼らと目を合わせない様に、ビクビクしながら眼帯のオジサンに話しかける。
「オジサン、依頼を探しに来ました」
「依頼なら、そこに張ってあるぜ」
「…」(私)
オジさんは面倒臭そうに顔だけ動かして、私を案内する。私は…オジさんの目線の先を見ますと、そこそこの大きさの掲示板がありました。そこには、沢山の依頼の紙が張ってあります。
「ふ~ん…」
《依頼(求人)》
~仕事内容~
天魔の山脈にある鉱山での魔石採掘です。
~条件~
年齢性別を問いませんが…
若くて、元気な方を歓迎します。
~報酬~
1日2000G
《依頼(求人)》
~仕事内容~
サウスヴェル湾での漁業のお仕事です。
主に海に出て、漁をして貰います。
荒波の中での過酷な仕事ですが…
大物が釣れば高収入が期待出来ます。
~条件~
年齢性別を問いませんが
若くて、元気な方を歓迎します。
~報酬~
釣果に応じて、決定します。
何とも言えない様な依頼(求人)が多々ありますね…
鉱山とか大海原とか、大変そうな現場ですよね。
まぁ、仕事の内容はともかくとして…
この王国はギルドカードを持っていない人には、凄い待遇が悪いみたいですよね。
(そうだから…)
一応は雇って、仮に使えなかった場合は…
例えば、大海原だったらそのまま海に突き落とされてしまいそうな気がして、背筋が震えます。
『せめて、餌になって魚を誘き寄せろよ』とか言われてね。
考え過ぎでしょうか。
私は、掲示板を流し見ていきますと-
「「!!」」(私)
《依頼(求人)》
~仕事内容~
ドップス邸でメイドになりませんか!?
未経験でも大丈夫です。1から手取り足取り教えます。
~条件~
25歳以下の容姿端麗な女性
~報酬~
1日5000G
おお、メイドですか。
う~ん、メイドか。いけるか、メイド?
でも、私的に1番良そうな求人を見つけましたね。
これはどうでしょうか。私は興味津々に、それを眺めていますと…
「お嬢ちゃん、今日は運が良いな」
「その依頼は、ついさっきドップス邸の執事長であるギレン様が張っていったものでな。出稼ぎに来た右も左も分からない若者達を立派なメイドに育てくれるんだよ」
「おお、立派なメイドですか…」
「おお、そうだぞ!!」
「まぁ、別に立派なメイドにならなくても、メイドとしてしばらく働く事でギルドカードの購入費用を手助けしてくれるんだ。更に…この町で生きていくノウハウも手厚く教えてくれる。他の求人よりも報酬も良いぞ!!」
「へぇ…」
「ドップス様はとても優しい方でな…」
「ギルドカードの購入費用を貯めて、晴れてギルドカードを購入する事が出来れば、自分の好きな仕事をしても良いし、そのままメイドとして仕えるのも良いし、どちらでも良いと言っておられたな…だから、いつも定員がすぐに埋まってしまう人気の仕事なんだよ!!」
眼帯のオジサンが言う。
「へぇ、そうなんですね」
メイドか…悪くないかな。
「「へいへい、お嬢ちゃん、お嬢ちゃん!!」」
「「そんな仕事より、俺達がもっと良い所を紹介してやるよ~」」
「「え…!!」」(私)
私がメイドになるかどうか、考えていると-
突然後ろから、あの狼の獣人のグループが私に絡んで来る。狼の獣人の口からは…よだれがポトリと滴り落ち、私の事を舐め回す様に見ている(汗)
私はどうしたら良いのか分からず、身体が固まってしまいます。
【そうだ!!】
【まずは一緒にお茶でも飲みながら、ゆっくりとお話ししようぜ~】
「「や、止めて下さい」」
そう言って-
狼の獣人の1人が…私の腕をガッシリと掴む。か弱く非力な私の力では、振り払えない様な強い力で。このまま連れて行かれたら、私は一体どうなってしまうのでしょうか(汗)
((だ、誰か…))
私は涙目になりながら、必死に抵抗するが-
((そうだ、オジサン-!!))
私は咄嗟にオジさんの方を見て、助けを求めますが…
「お嬢ちゃん、今日は運が悪かったな」
オジさんは、ため息をつきながら目を逸らす。
((ええええ、全然親身じゃない!!))
【良い仕事が無くて、困ってるんだろ!?】
【俺達が親身になって教えてやるよ…】
「…」(私)
「「「「「ドバアアアアアアアアアアアアア~ン!!」」」」」
【【【えええええええええ~!!】】】
「「ガラガラガラガラ~!!」」 「「ガラガラガラガラ~!!」」
「「ガラガラガラガラ~!!」」 「「ガラガラガラガラ~!!」」
彼らが、私をお茶に誘おうとした次の瞬間-
彼らの悲鳴と共に、建物の壁が大きく吹き飛んでいました。掲示板は遥か彼方に消える。
多分-
サウスヴェルのビーチを超えて大海原まで吹き飛んだでしょうかね。
【【【ヒイイイイイイイ~】】】
私の発した衝撃波と威圧に、狼さん達はひれ伏せています。
そう私は-
マネーカウンターこと、イブパンチを発動させていました!!
只…発動させた範囲は、拳ではなく指先だけですが。私の指先には、青い光がチョンと灯ったのです。その光が灯った瞬間に、そっと指先を掲示板にチョンと当てたのです。すると、チョンと指先で掲示板を押した力は何十倍にも倍加されて、建物を吹き飛ばした…と言う訳です。
「ヒュウウウウウウウウウ~!!」
ポッカリと空いた穴からは、海風が気持ち良く入り込んできます。アンダーギルドの小屋は半壊状態でした。遠くまで…吹き飛ばされたであろう掲示板は今頃、海の藻屑になっているでしょうね。
私は…海風に髪を靡かせて
木っ端微塵に吹き飛んだ掲示板の木片を握り締めながら、情けなく腰を抜かしている狼の獣人達に言います。
【この可愛らしい女性を、お茶に誘うのはこの私だ…】
【【【次、指1本触れてみろオオオオ!!】】】
【【【2秒後には、サウスヴェルの海の藻屑となって消えるだろう】】】
「「はいいいいい」」
「「すいませんでしたアアアアアアアア!!」」
私は彼らを凄まじい形相で、睨み付けていた。
何か声質も変わってますね!!
逆に狼さん達は、不良から立派に更正したかの様な清々しい声で謝ってました。
(まぁ、分かれば良いのです!!)
「オジサン、私の受ける依頼が決まったわ!!」
「は、はい、依頼ですか…!?」
木片に埋もれたオジさんは、キョトンとした顔で言う。私はオジさんの顔に依頼の紙を投げ付けます!!
《依頼》
~討伐~
この王国に巣食う3つの宝具を破壊せよ!!
~推奨~
☆×6以上
~報酬~
500G
~備考~
首を洗って待ってろよ!!
「は、はい…」
「が、頑張って下さい…ね」
アンダーギルドの皆さんは、冷や汗を掻きながら私を見送ります。