161話 急展
「あら、何かご用ですか?」
(あ、あれ…!?)
私が話しかけた人は…
怪しい格好をしたお婆さんではなく、若いお姉さんであった。服装を見るに、お姉さんはギルドの職員でしょうか。
「…」(私)
お婆さんは、どこに行ってしまったのでしょうか。
何か消えてしまいましたね…
「すいません…」
「ひ、人違いでした」
私はオロオロとしながら言う。
「お嬢さん、見かけない顔ですね」
「もしかして…ここのギルドに来るのは初めてですか?」
「今日はどんなご依頼をお探しでしょうか!?」
ギルド職員のお姉さんは、ニッコリと笑いながら私に言います。こんな見た目は頼りなさそうな可愛らしい私?でも親切に応対してくれるんですね。
何か有難いです。
まぁ、ですが…
「すいません」
「依頼を受けたいですけど、ギルドカードを持ってなくて…」
「あら、そうなのですね!!」
「では、ギルドカードの購入の手続きから始めましょう。あちらの受付の方にお越し頂いても宜しいですか!?」
「…」(私)
「あ~いや、私お金を持っていないので…ギルドカードは作れないんですよ。なので、今からアンダーギルドに行こうかと思ってまして…」
ギルド職員のお姉さんは、自然な流れで購入の話を進めてきますけど…そもそもギルドカードならば、すでに持ってますからね。シックススターなのをバラしたくないだけで…ギルド職員のお姉さんには悪いですけど、ギルドカードは作る必要が無いんで-
「「「!?」」」(私)
私は…ギルド職員のお姉さんに申し訳なく言ったが、異変に気付く。
【アンダーギルドですか…】
「「えっ…!?」」
お姉さんの顔が恐ろしい程に歪んで、私の事を睨んでいる。ギルドカードの購入を断ったからでしょうか…いやいや、そこまで怒らなくても(汗)
((いや、お姉さんだけじゃないぞ-))
(シイイイイイ~ン…)
先程まで…
お祭りの様に賑わっていたギルドの中が、一瞬で静寂に包まれる。空気が凍り付いた様に皆、何も喋らない。
そして、どうやら皆…
私の事を見ている様でした。
全員の冷たい視線が私に突き刺さる。ある人は…まるで、私を斬り殺す様な殺意に満ちた目で剣を握りしめている。
((一体、何で!?))
【アナタ、この王国の法律を知っているんですか…】
【ギルドカードを所持していない者は、ギルドの中に出入りする事を固く禁ずる。但し、例外としてギルドカードを購入する場合を除く】
((ええっ、何その法律!?))
【この法律を破れば、一番良くて一生牢獄ですよ…】
((ど、どうしよう!!))
てかギルドの中に入っただけで一生牢獄って、罪重た!!
急な展開に、頭が真っ白になる私。
「どうしよう、ゼニィー」
困った私は、ゼニィーに聞こうとするが…
(シ~ン…)
ああ、ゼニィーはすでに消えていた。
また小銭を探しに行ったのでしょうか(涙)
絶体絶命の私、この場をどう切り抜ければ…私がアタフタしている間に、私はもうギルドの全員に取り囲まれていた。皆…手には武器を持っている。そんな武器を持って、どうするつもりなんだ。こんなか弱い少女にちょっとオーバーキル過ぎじゃないか(涙)!!
何か一生牢獄と言うか、もうここで斬り捨てられそうな感じが…
((アアアア、そうだ!!))
「「私、ギルドカードを買いに来たんですよ」」
「「皆を驚かせ様と思って、持ってないフリをしました!!」」
そう言って-
私は咄嗟にポーチから100万Gを取り出して、皆に見せます。そう、一応100万Gを持っていたのでした。リルさんから受け取った100万Gをね…私は…涙目になりながら手に高々と掲げます!!
(急な展開過ぎて、持っている事を忘れていました…)
「「「「「オオオオオオオオオオオオ~!!」」」」」
「「パチ」」 「「パチ」」
「「パチ」」 「「パチ」」 「「パチ」」
「「パチ」」 「「パチ」」
「「パチ」」 「「パチ」」 「「パチ」」
「「あら、そうだったんですね~!!」」
「よく、こんな大金を…」
「とても大変だったでしょう」
「ですけど、その苦労も報われましたね。今日から晴れてギルドのいや、ヴェル王国の正式の国民として、認められた事と同じ意味ですよ。おめでとうございます!!」
「は、はい…」
ギルド職員のお姉さんは、喜びに満ちた顔で言う。
そして、私を取り囲んでいたギルドの皆さんは盛大に拍手をしています。先程の凍った空気から、一気に歓声と歓喜に包まれるギルド。
よく見れば、紙吹雪も舞ってます。
「「パチ」」 「「パチ」」
「「パチ」」 「「パチ」」 「「パチ」」
「「パチ」」 「「パチ」」
「「パチ」」 「「パチ」」 「「パチ」」
「「お嬢ちゃん、お嬢様ちゃん」」
「「良かったら、俺達のパーティに入らないかい!?」」
「は、はい…」
先程、剣を握りしめていた男性冒険者の方が、まるでナンパの様に私に話しかけます。
「「おい、シャルナークス」」
「「困ってるだろ、このロリコン!!」」
「「最初は同性のパーティが良いんだよ!!」」
「うわぁ何だよ、デリシャウス」
そう言って、即座に女性冒険者が誘いを遮る。
「私はデリシャウス!!」
「女性冒険者グループ『デリシャス』のリーダーだ。我がパーティは女性だけだからな。気兼ねなく、手取り足取り、何でも教える事が出来るぞ!!」
「おお、それは良いですね」
(女性だけのグループか…手取り足取り…ムフフフ)
「「いや、ちょっと待て!!」」
「「彼女は私のお店でメイドをやって貰いたい!!」」
そう言って、執事風のオジさんが横入りしてきます。う~ん、彼はメイド喫茶の店員でしょうか。
「「いや、私が-」」
「「いや、俺が-」」
「「いや、僕の所で-」」
「「拙者の所で-」」
((えええ…))
メイド服って、似合うかな…と呑気に考えている内に、次々とギルドの皆さんは、私が欲しいと名乗りを上げる。何か私を取り合って、イザコザになってますね。凄い大人気じゃん私…
「「「コラアアアアアアアアアア~!!」」」
「「ちょっと、皆さん落ち着いて下さい!!」」
「ハァハァハァハァ…」
「仕事を決めるのも、依頼を決めるのも、ええと…」
「あっ、私イブと言います」
「そう、イブさんが決める事ですからね」
「は~い…」(ションボリ)
「…」(私)
ギルド職員のお姉さんの一言で、その場は治まりました。先程とは、違った意味でヒヤヒヤした私。
「え~、ゴホン」
「とまぁ、ここには頼れる皆さんがいますから…」
「分からない事や困った事があったら、何でも聞いて下さいね。私はギルド職員のグーグスと言います。イブさんへ、改めて-」
-ようこそ、ギルドへ-
「…」(私)
皆の温かい視線が、私を包み込んでいた。
私は…ギルドの皆さんの態度のギャップと、受け入れられた安堵感で、既に頬には涙が流れていた。
私は服で涙を拭う。
「あの~、でもすいません(グスン)」
「買う前に、ちょっとトイレに行って来ます」
「はい、どうぞ、どうぞ!!」
「すいません…」
「「ダダダタダダダタダダダタダダダタ-!!」」
(((ハハハハハ~!!)))
(((皆、優しいよオオオオ~)))
私はトイレに行くフリをして、ギルドから逃げ出します。その顔は…涙を流しながら、笑いながら、悲しいのか、嬉しいのか、よく分からない顔をしていました。
とりあえず-
(((この国、ちょっとおかしいかもオオオオ~!!)))