表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

157/187

157話 夕焼けの海






「ザザアアアア~ン!!」  「ザザアアアア~ン!!」




     「ザザアアアア~ン!!」




「ザザアアアア~ン!!」  「ザザアアアア~ン!!」





夕焼けに染まる海を眺める私。


リルさんにフラれた後、私は砂浜に来ていました。


特に意味があって、来た訳ではないのですが…



只…海が見たくて。






砂浜に押し寄せる波音を


静かに聞く私-




私はいつも通り、独りぼっちに戻っていました。




「あ~あ、何でリルさんは…」


海風に髪を靡かせながら、私は寂しく呟く。



「多分…イブの剣の腕を見て、絶望したんじゃないの~!?」


「「う、うるさいわね!!」」





           

「…」(私)






いや-


冷静に考えたら、ゼニィーの言う通りなのかもしれない。騎士というのは、強い害獣や悪い人達と闘う危険な仕事だからね。


前世の私の経験からも、それは痛い程良く分かる。

リルさんは…私の実力を見て、騎士(弟子)は無理だと判断したのならば、それは懸命な判断と言えるだろうか。





「ハァ…」


「まぁ、そうかもしれないわね」



私はゼニィーに言い直します。

やはり、騎士の弟子というのは無理な設定だったかな。私…滅茶苦茶、弱いからね。


只、問題なのは…




「このお金、どうしよう…?」



私はリルさんから別れ際に札束を貰っていました。

数えてみたら100万Gもありますけど…



「やったね、イブ~!!」

「これで高級なリゾートに泊まれるね~!!」


「「いや、泊まらないわよ!!」」



「…」(思考)


リルさんは、何でこんな大金を私に…

弟子が無理ならば、別に普通に断って貰っても良かったのに。


そういえば…

リルさんは、私の事を見捨てしまったと言っていましたが、そのお詫びの意味もあるのだろか。



「う~ん…」

「とりあえず、このお金は返すわよ」


「えええ~、返しちゃうの!?」


不満そうに言う、ゼニィーさん。



「うん、だけど…」

「今はまだ返さないわよ!!」

「リルさんは、多分…お金を持っていない私の事を心配して、お金をくれたのよ。今、返してしまったら…リルさんは余計に心配してしまうわ」




(あと、別れた直後に…)


(すぐに会うのも気まずいですからね)



「それに実際問題…」

「私がお金を1銭も持っていない事は事実だからね。貰ったお金は必要最低限で、有り難く使わせて貰いましょう。返すのは、お金に目処がついてからよ」




「ええ、お金の目処ですか~!?」



「それはつまり、ゼニィー!!」

「明日、ギルドに行きましょう」

「そこで…出来そうな依頼とか、仕事とか探してさ。しっかりと安定した収入が得られる様になってから、リルさんに100万Gを返しましょう。その方が、リルさんも安心するでしょ。まだ魔術品オークションまでは時間もあるからね」



「なるほどね~!!」



「まぁ、そんな感じで行くわ」



「流石、イブだね~!!」

「リルさんにフラれて、落ち込んでいると思ったけど、気持ちの切り換えが早いね~!!」







「…」(私)






(気持ちの切り換えか…)

        






「ザザアアアア~ン!!」  「ザザアアアア~ン!!」




      「ザザアアアア~ン!!」





  「ザザアアアア~ン!!」  「ザザアアアア~ン!!」








夕陽に赤く染まったゼニィーは言う。


私は夕陽を見つめたまま…言う。





「フフフ、そうでしょ…」

「それはね、私には切り換える気持ち自体が無いからよ。ここに来る前の私はね…」





そう、地球の頃の私は-




「人生で、色々と悩み苦しむ事が多くてね…」


「もう全てに疲れてしまったのよ。このままだと…抱えている問題に心が押し潰されて、自暴自棄になってしまいそうだった。自暴自棄になって…自分や他人を傷付ける事はだけは避けたいからね」



「だから…」

「私は、込み上がる負の感情を全て押し殺して…」

「世間一般の常識だけを考える様にした」




世間一般の常識-



それは小学校の道徳の時間で学んだ様な…


『困っている人がいたら、助けましょう』や『自分がされて嫌な事は、他人にもしてはいけません』などなど…私的にザックリと言えば、そんな感じの事でしょうか。




「世間一般の常識があれば…」

「少なくとも、自暴自棄になる事は無いからね」






「今…私の頭の中にあるのは、世間一般の常識だけよ。それに従って…只、黙々と身体を動かしているだけ」




   


もし感情を抱いてしまえば



私の心は、すぐに脆く崩壊してしまうでしょう







「ザザアアアア~ン!!」  「ザザアアアア~ン!!」




      「ザザアアアア~ン!!」





「ザザアアアア~ン!!」  「ザザアアアア~ン!!」









-夕陽は綺麗ね-






そんな-


私の心の内を知っているのは、夕陽だけです。

地球の時も、こうして夕陽に向かって話していましたからね。



もう涙を流さないと決めたのに…



夕陽を見ると、自然と涙ぐんでしまう。

それは夕陽が…私の事を慰めてくれているからでしょうか。





「ゼニィー…」




「アナタも、私の事を慰めてくれるのかしら!?」







「ああ~、残念!!」       

「小銭が落ちていると思ったら、瓶の蓋でした~!!」





「…」(私)



砂浜で嘆くゼニィーさん。

ああ~全く、私の話しを聞いていませんでした。


と言いますか-

ゼニィーは拾った瓶の蓋を、また砂浜に捨てようとします。



「ゼニィー」

「ゴミは、ゴミ箱に捨てるのよ」


「あっ、そうだね!!」

「ゴメン、ゴメ~ン!!」

 


『ゴミはゴミ箱に捨てる』

これはどこの世界でも共通の常識だよね!!





「さてと…」





「じゃあ、そろそろ行きましょうか」

「これ以上、この景色を見ていても何も変わらないし…とっととギルドで依頼をしながら、オークションの場所を突き止めるわよ」        



「は~い、分かりました~!!」




私達は夕陽の海を背に、また歩き出します。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ