157話 夕焼けの海
「ザザアアアア~ン!!」 「ザザアアアア~ン!!」
「ザザアアアア~ン!!」
「ザザアアアア~ン!!」 「ザザアアアア~ン!!」
夕焼けに染まる海を眺める私。
リルさんにフラれた後、私は砂浜に来ていました。
特に意味があって、来た訳ではないのですが…
只…海が見たくて。
砂浜に押し寄せる波音を
静かに聞く私-
私はいつも通り、独りぼっちに戻っていました。
「あ~あ、何でリルさんは…」
海風に髪を靡かせながら、私は寂しく呟く。
「多分…イブの剣の腕を見て、絶望したんじゃないの~!?」
「「う、うるさいわね!!」」
「…」(私)
いや-
冷静に考えたら、ゼニィーの言う通りなのかもしれない。騎士というのは、強い害獣や悪い人達と闘う危険な仕事だからね。
前世の私の経験からも、それは痛い程良く分かる。
リルさんは…私の実力を見て、騎士(弟子)は無理だと判断したのならば、それは懸命な判断と言えるだろうか。
「ハァ…」
「まぁ、そうかもしれないわね」
私はゼニィーに言い直します。
やはり、騎士の弟子というのは無理な設定だったかな。私…滅茶苦茶、弱いからね。
只、問題なのは…
「このお金、どうしよう…?」
私はリルさんから別れ際に札束を貰っていました。
数えてみたら100万Gもありますけど…
「やったね、イブ~!!」
「これで高級なリゾートに泊まれるね~!!」
「「いや、泊まらないわよ!!」」
「…」(思考)
リルさんは、何でこんな大金を私に…
弟子が無理ならば、別に普通に断って貰っても良かったのに。
そういえば…
リルさんは、私の事を見捨てしまったと言っていましたが、そのお詫びの意味もあるのだろか。
「う~ん…」
「とりあえず、このお金は返すわよ」
「えええ~、返しちゃうの!?」
不満そうに言う、ゼニィーさん。
「うん、だけど…」
「今はまだ返さないわよ!!」
「リルさんは、多分…お金を持っていない私の事を心配して、お金をくれたのよ。今、返してしまったら…リルさんは余計に心配してしまうわ」
(あと、別れた直後に…)
(すぐに会うのも気まずいですからね)
「それに実際問題…」
「私がお金を1銭も持っていない事は事実だからね。貰ったお金は必要最低限で、有り難く使わせて貰いましょう。返すのは、お金に目処がついてからよ」
「ええ、お金の目処ですか~!?」
「それはつまり、ゼニィー!!」
「明日、ギルドに行きましょう」
「そこで…出来そうな依頼とか、仕事とか探してさ。しっかりと安定した収入が得られる様になってから、リルさんに100万Gを返しましょう。その方が、リルさんも安心するでしょ。まだ魔術品オークションまでは時間もあるからね」
「なるほどね~!!」
「まぁ、そんな感じで行くわ」
「流石、イブだね~!!」
「リルさんにフラれて、落ち込んでいると思ったけど、気持ちの切り換えが早いね~!!」
「…」(私)
(気持ちの切り換えか…)
「ザザアアアア~ン!!」 「ザザアアアア~ン!!」
「ザザアアアア~ン!!」
「ザザアアアア~ン!!」 「ザザアアアア~ン!!」
夕陽に赤く染まったゼニィーは言う。
私は夕陽を見つめたまま…言う。
「フフフ、そうでしょ…」
「それはね、私には切り換える気持ち自体が無いからよ。ここに来る前の私はね…」
そう、地球の頃の私は-
「人生で、色々と悩み苦しむ事が多くてね…」
「もう全てに疲れてしまったのよ。このままだと…抱えている問題に心が押し潰されて、自暴自棄になってしまいそうだった。自暴自棄になって…自分や他人を傷付ける事はだけは避けたいからね」
「だから…」
「私は、込み上がる負の感情を全て押し殺して…」
「世間一般の常識だけを考える様にした」
世間一般の常識-
それは小学校の道徳の時間で学んだ様な…
『困っている人がいたら、助けましょう』や『自分がされて嫌な事は、他人にもしてはいけません』などなど…私的にザックリと言えば、そんな感じの事でしょうか。
「世間一般の常識があれば…」
「少なくとも、自暴自棄になる事は無いからね」
「今…私の頭の中にあるのは、世間一般の常識だけよ。それに従って…只、黙々と身体を動かしているだけ」
もし感情を抱いてしまえば
私の心は、すぐに脆く崩壊してしまうでしょう
「ザザアアアア~ン!!」 「ザザアアアア~ン!!」
「ザザアアアア~ン!!」
「ザザアアアア~ン!!」 「ザザアアアア~ン!!」
-夕陽は綺麗ね-
そんな-
私の心の内を知っているのは、夕陽だけです。
地球の時も、こうして夕陽に向かって話していましたからね。
もう涙を流さないと決めたのに…
夕陽を見ると、自然と涙ぐんでしまう。
それは夕陽が…私の事を慰めてくれているからでしょうか。
「ゼニィー…」
「アナタも、私の事を慰めてくれるのかしら!?」
「ああ~、残念!!」
「小銭が落ちていると思ったら、瓶の蓋でした~!!」
「…」(私)
砂浜で嘆くゼニィーさん。
ああ~全く、私の話しを聞いていませんでした。
と言いますか-
ゼニィーは拾った瓶の蓋を、また砂浜に捨てようとします。
「ゼニィー」
「ゴミは、ゴミ箱に捨てるのよ」
「あっ、そうだね!!」
「ゴメン、ゴメ~ン!!」
『ゴミはゴミ箱に捨てる』
これはどこの世界でも共通の常識だよね!!
「さてと…」
「じゃあ、そろそろ行きましょうか」
「これ以上、この景色を見ていても何も変わらないし…とっととギルドで依頼をしながら、オークションの場所を突き止めるわよ」
「は~い、分かりました~!!」
私達は夕陽の海を背に、また歩き出します。