151話 町巡り
「ワイワイワイワイ-!!」
「ガヤガヤガヤガヤ-!!」
午前の爽やかな日差しに照らされた
町の通りを歩いていく、私とリルお姉様…
あとゼニィーもね。
昨日の雷雨はすっかりと止みまして、空は青一色の夏空でした。今日も暑くなりそうですね。
そして…
相変わらず、通りには沢山の人達が行き交っています。
「ここは、サウスヴェルのメイン通りよ!!」
リルお姉様は言う。
「へぇ~、そうなんですね!!」
その通りは、緩やかな坂道でした。
広い道の両側には、街路樹と共にお店がズラーっと建ち並びます。サウスヴェルも…パーシャの町みたいに緩やかな丘の傾斜に立地しているみたいですね。
坂の下の方には、透き通る水色の海が見えます。
まるで、サンフランシスコの坂道を歩いている気分ですね。
もし、間違って…
缶ジュースを落としたら、浜辺まで転がってしまいそうかも。
「あのお店のスイーツのトロピカル・サウスパフェは、とても美味しいわよ。色々なフルーツが、沢山トッピングされてるからね!!」
「へぇ~、そうなんですね!!」
「こっちのお店はね、お肉屋さんなんだけど…」
「店頭で焼いて売っているフランクフルトがとても美味しいよね。特選の魔豚を使用したフランクフルトを、炭火でこんがりと焼いたサウスヴェルでも人気のグルメなのよ!!」
「う、旨そうですね…」
これは、リアルに食べたいかも!!
「フフフフ…」
「今…ここで食べたら、お昼が食べられなくなっちゃうからね。後で食べましょう」
「そうそう、イブ」
「こっちに来てみてよ!!」
「は、はい…」
私は言われるがままリルお姉様に付いていくと、そこはお土産屋さんでした。
「ほら、トコナッツ君だよ」
「欲しかったんでしょ、記念に買ってあげる!!」
「ようこそ、サウスヴェルへ」
「あ、有難うございます…」
「…」(私)
リルお姉様は、私にココナッツの形をした謎の人形を買ってくれました。あ~、そういえば…昨日、そんな類いの話しをしていたわね。
別にそこまで、欲しくはないんですけど…
ふ~ん、名前はトコナッツ君と言うんですね。
「常夏の町のココナッツ…略して、トコナッツ君よ」
「トコナッツ君はね、私が雇われているトコナッツ大商会のイメージキャラクターでもあるのよ!!」
「な、なるほど…」
そして、トコナッツ君を触ると硬いです。
まるで、本物のココナッツの様な固さですが…
「フフフフ、驚いたでしょ!!」
「トコナッツ君は、本物のココナッツの様に硬いからね。だから、害獣に投げたりして、武器として使う事も出来るわよ!!」
「ま、マジですか…」
(何だ、その無駄な機能性は…)
「ハハハハハハ…」
トコナッツ君を手に持って、少し笑ってしまう私でした。
「坂の上の方は、特に行かなくていいかな…」
坂の上の方を見上げて、リルお姉様は言う。
「…」(私)
リルお姉様曰く-
小高い丘の上にあるのは、高級な別荘や貴族のお屋敷みたいです。私達、庶民には行きにくい場所でもあるんですかね…
「それじゃあ、海とか港の方に行くわよ」
「やっぱり、サウスヴェル一番の魅力は新鮮な魚介類だからね!!」
「はい、楽しみです!!」
そして-
道なりで、港の方に向かう私達。
日差しも徐々に燦々と地面に照り付けて、段々と暑くなってきました。
そんな強い日差しから逃げる様に、私達は細い路地裏の日陰の道を進んでいく。メインの通りを外れると、そこは静寂に包まれていました。
「ヒュウウウウウウウウウ-!!」
密集する家の隙間からは-
爽やかな海風が通り抜けて、私の長く細い黒髪を揺らします。少し遠くには、青い海に浮かぶヨットがチラホラと見えます。
そして、海へと続く…
狭くて長い階段を駆け降りていく。
両側にはヤシの木が生い茂り、垣根には色鮮やかなハイビスカスの花が咲いています。
階段を降りた先には-
「ザザアアアアア~ン」 「ザザアアアアア~ン」
「ザザアアアアア~ン」
私の目の前には…
どこまでも、広がる紺碧の海がありました。
(へぇ…)
「私、海を見るのは初めてなんですよ…」
私はポロっと声を漏らす。
勿論、この世界に来てからの話しですよ。
いや、違う-
初めてでは、無いかもしれません。
遠い昔に…この景色を眺めている様な気もしました。
「そ、そうなの!?」
「イブ、アナタは本当にどこから来たの…?」
リルお姉様は、遠くに浮かぶ雲を見つめながら言う。
「それなりに遠い場所からですよ…」
「でも、夜になれば…見る事が出来るかもしれませんね」
私達は-
しばらく海を見ていました。
「ザザアアアアア~ン」 「ザザアアアアア~ン」
「ザザアアアアア~ン」
「ちょっと、早いけどお昼にしましょうか」
リルお姉様は言う。
そうそう、時間はもうお昼前になっていました。
「ここから、少し歩いた所に美味しいレストランがあるのよ。新鮮な海の幸を食べられるわよ!!」
「やったああ!!」
「それは楽しみです!!」
一度は…サウスヴェルでは、何も口に出来ないと思っていた私。それがまさか、美味しいレストランで食事が出来るとは…とても嬉しいです!!
「人生、何が起きるか分からないですね!!」
私は歓喜して、よく分からない事を言う。
「全く、イブは大袈裟ね!!」
リルお姉様は微笑みながら言った。
さぁ、行きましょう-
◯
「ザザアアアアア~ン」 「ザザアアアアア~ン」
「ザザアアアアア~ン」
昼食後-
私達は、浜辺を歩いていました。
海からは絶え間無く、さざ波が押し寄せる。
波打ち際ギリギリを歩く私は、軽やかにジャンプをして…押し寄せる波達を避けていきます。これは何をしているのかと言うと…ちょっと遊んでいます。
それで、私の少し前にはリルお姉様が歩いている。
「…」(私)
そうそう、レストランの昼食は…
まぁ、美味しかったですね。
雰囲気はイタリアンレストランみたいな感じでしょうか。海の幸を沢山、使用したパスタとかピザとかを食べましたね。
デザートは、フルーツの盛り合わせで…
半分に割ったココナッツの中に沢山のフルーツが入っていました。いや、本当にスマホが無いのが残念です。写真が撮れれば、インスタ映えしたんですけどね!!
因みに…
どのフルーツも地球と同じ様なフルーツだったので、これにも驚きましたね。ハハハハ。
そして、更に-
ロケーションも抜群で、私達が座ったテラス席からは、サウスヴェルの海を一望出来ました。強い日差しが反射した海面はキラキラと輝いて、とても綺麗な景色でした。
まさに、南国の楽園です!!
そんな味もロケーションも最高なレストランでした。
まぁ、そうでしたけど…
「イブ、良かったね~!!」
「本当に美味しかったでしょ~!!」
「…」(私)
しつこく、言ってくるゼニィーさん。
「ええ、凄い美味しかったわよ…」
「だけど、アンタがずっと隣で指を咥えて、見つめてくるから、全然食べた感じがしなかったわ。何…自分が食べられない事に対しての当てつけなの!?」
「それは違いますよ~!!」
「精霊の心は、清らかだからね」
「誰かを憎んだりして、仕返しをしたりとかはしませんよ~!!」
「アンタ、本当に精霊なの…!?」
「でも…それだと、これから困ったわね」
「まともに食事を食べる事が出来ないわ」
「ボクの事を教えちゃえば~!?」
「姿が見えないアンタの事を教えても、多分信じてくれないわよ。それに他にも、隠し事をそれなりにしているからね、ハァ…」
「…」(私)
「ゼニィー、とりあえず…」
「魔術品オークションが終わるまでは、このままで辛抱しなさい」
「ええ~、そうなの~!?」
「じゃあ、魔術品オークションが終わったら、どうするの~!?」」
「それは…今、考えているわ!!」
(う~ん、そうね…)
確かに今は、その場の流れで師匠と弟子の関係になってますが…この世界から呪具が無くなった暁には、全てを打ち明けて-
正式にリルお姉様をパーティに迎え入れたいという計画はあるにはあります。
ですが…
そうなるには、とても長い時間を要すでしょう。
リルお姉様やゼニィーが、待てる様な時間では無いから。
そう、だから私は-
「イブ、誰かと話しているの…!?」
「!!」(私)
リルお姉様は振り返り、不思議そうに聞いてくる。
しまったああ、油断した!!
「「いや、貝と会話してるんですよ!!」」
「「ほら、貝を耳に当てると…誰かの声が、聞こえてくるんですよね~」」
私は咄嗟に落ちている貝殻を拾い、耳に当てながら言う。
「フフフフ…」
「イブ、アナタ…面白い人ね!!」
「ハハハハ、有難うございます…」
「そうだ、イブ!!」
「これから、アナタの力を見せて頂戴…」
「んっ、実力-!?」