150話 人形達の温かい歓迎?
「イブ、アナタまさか人形を見たの!?」
「…」(私)
リルお姉様は、心配して聞いてくる。
倉庫の中にあった人形達は、何故か私とゼニィーしか見えていなかったらしい。つまり、あの人形は幻だったのか…それとも、お化けとかね(汗)
んん~、とりあえず…
また痛い人だと思われたら嫌だな。
なので、リルお姉様に話しを合わせる事にしましょうか…
「いやいや、倉庫には人形なんてありませんでしたよ。そうそう人形なら…町中に変なココナッツの人形が沢山ありましたよね!!」
「あ、あの人形、凄く可愛いな~と思って…ハハハ!!」
私は無理やりに話しをねじ曲げます。
「何だ、そうなのね…」
「ハァアア、良かった!!」
「…」(私)
リルお姉様は、凄く安心した様子であった。
人形という言葉に、酷く動揺している感じもしますが…
「あの~?」
「人形がどうかしたんですか!?」
私は聞きます。
「ん~、どこから話せば良いのか…」
リルお姉様は、暗い顔で言う。
「サウスヴェルの港周辺の通りはね…」
「皆…『徘徊人形の葬路』と呼んでいるのよ」
「その理由は、夜道を歩き回る人形の姿が度々目撃されているからよ」
(は、徘徊人形の葬路ですか…!?)
「へぇ、そうなんですね…」
「しかし、凄い不吉な名前ですね」
「つまり、その通りにはお化けが出るんですね!!」
「う~ん、お化けね…」
「この世界には、魔獣とか色々な生き物がいるけど…幽霊とかお化けとか、そうゆう存在は見た事が無いし、いないと信じたいわ。お化けなんて、非現実的な考えよ」
「な、なるほど…」
「そうですよね!!」
ハッキリと言うリルお姉様ですが…
彼女の膝の上には、ゼニィーが座っていました。
滅茶苦茶、近くに非現実的な存在がいますけどね。
「この町の有力者である、トコナッツ大商会の上層部の人達はね…」
「人形が目撃される事については、誰かが魔法を使用してのいたずらか、それとも…港の周辺は飲み屋が多いから酔っ払いも多くてね。酔った人が、幻覚でも見たのだろうとも、考えているわ」
「ふ~ん…」
まぁ、非現実的なお化けの可能性を考えるよりも…
そっちの考えの方が妥当と言えば、妥当ですね。
「まぁ、そう考えてはいるみたいだけど…」
リルは相変わらず、暗い顔で言う。
(考えてはいるみたいだけど、何…!?)
「実際に…港周辺の通りでは、誰かが行方不明になったり、殺されたりといった事件が度々、起きているのよ。犯人は捕まっていない。皆…人形に拐われたとか、殺されたとか言っているわ。だから、私達も警戒を強めていて、頻繁に港を巡回しているという訳なのよ」
「はぁ、なるほど…」
「こんな事が起きてなかったら…」
「只の噂話で、流しても良いんだけどね」
「それが出来ない状況なの…」
「ふ~ん…」
そして、リルお姉様曰く-
目撃される人形は、1種類や2種類では無く…今まで、様々な種類の人形が目撃されているのだという。同時に、複数の人形を見る人もいるみたいですね。
例えば-
屋根の上から見つめていたり…
建物の窓枠に腰掛けて、手を振っていたり…
三輪車に乗って、道を横切ったり…
小さい子ども達が路地で遊んでいると思ったら…
皆、人形だったり。
突然、後ろから抱き付いてくる事もあるらしい。
そして、更に
その人形達については、ジンクスがあり…
目撃した人形の数だけ、最低でも大怪我以上の不運な事が起きると言われているとか。人形を3体見た人は短期間で3回事故に遭い、3回目の事故で行方不明になったみたいですね。
「…」(私)
あの倉庫には、人形はどれ位いたかしら…!?
少なくとも、数百体はいましたね。
いや全員集合してますじゃあああん(汗)
これから、一体どんな不運な事が起きるのでしょうか。
冷や汗を掻きながら、リルお姉様の話を聞く私。
「まぁ、そんな辛気くさい話は置いといて」
「明日は私、休みなのよね!!」
「だから、この町を案内してあげる」
「そして、勿論…稽古もね!!」
リルさんは、話題を変えてニヤリと私を見る。
「よ、宜しくお願いします!!」
「フフフフ…」
「今日は、疲れたでしょ」
「もう、休みなさい」
「は、はい!!」
今日は色々な事がありましたので、凄い疲れましたね。ですけど、ちゃんとした寝る所も見つかり、リルさんという素敵な女性にも出会いましたので、プラスマイナス0でしょうか。
明日から楽しみですね。
それじゃあ、お休みなさい-
◯
「チュンチュンチュンチュン-」
半分位、開いた窓からは鳥の声が聞こえます。
そして…
鳥達の声に混じって、僅かに波の音も聞こえてくる。
そういえば、この騎士団の宿舎は、海の近くにありますからね。海に近いだけあって、波の音が聞こえてくるのでしょう。
部屋の中には-
木の香りと、仄かな潮の香りが漂います。
「ファアアア~ア…」
眠そうにアクビをする私。
「おはよう、イブ」
「よく眠れたかしら…!?」
まだ完全に目覚め切れていない私に-
リルさんは言う。そんなリルさんは…昨日の騎士の隊服から、私服になっていました。私服姿の彼女は、休日を優雅に過ごす女優かアイドルの様に、清楚で煌びやかで美しかった。
私は、うっとりと彼女の私服を眺めながら…
しばし、至福の時間を堪能します。
そう、私服だけにね!!
(クンクンクン…)
(ああ~、良い匂い…)
それで、テーブルの上にはすでに朝食が置いてあります。朝食は、パンと目玉焼きとホットミルクですね。普通の食事なのに、何故か涙が出てしまう。
目玉焼きはリルお姉様の手料理です!!
「とても、美味しいです!!」
「こんなに美味しい料理…初めて食べましたよ!!」
「フフフフ、大袈裟ね」
私のオーバーな表現に、微笑むリルお姉様。
ですけど、実際…
この世界に来て、初めてのまともな食事なので、オーバーな表現ではないんですけどね。本当に初めてなんですよ、ハハハ…
「ボクの分は、無いんだね~!!」
「そ、そうね…」
「アンタには、後で魚を出してあげる」
「えええ~、あの味の無い魚ですか~!!」
「…」(私)
不満そうなゼニィーさん。
私は、気まずそうに黙々と食べます。
~10分後~
「さぁ、行きましょうか-!!」
意気揚々に言うリルお姉様-
朝食も食べ終わり、早速リルお姉様とデートに出発です。
いや、デートでは無いですね。
でわでわ、いざ-!!
サウスヴェルの観光へ出発です!!