15話 新技披露
私は最近になって “魔獣召喚の魔法” を習得していました。
今日、この場所で私達の両親とルイアに見せたくて、初めて披露します。
因みに…ルイアに知られない様に、町の公園で何回か練習していました。
「凄いわね、いつの間に…」
ルイアは、素直に驚いている。
「フフフフ…じゃあ、やるわよ」
早速、私は魔獣召喚の魔法を発動させると、目の前に大きな魔法陣が出現して、風と一緒に土埃が舞い上がります。そして、その中から…私の背丈と同じくらいの大きな犬が出てきました。
「ワン、ワン、ワン、ワン!!」
白い毛で、とてもフサフサとしている。
この近辺に生息する魔獣 “白麗犬” です。
人懐っこく、飼い慣らせばゴブリンやスライムなどの害獣を駆除させる事が出来ます。
魔獣召喚の魔法はー
召喚した魔獣と一時的に主従関係を結び、術者が敵と見なしたものと闘ってくれます。そして “魔獣召喚の魔法” は “魔獣使役の魔法” の使い手に、よく発現する魔法です。この2つの魔法は、魔獣を使役して闘うという点から、どこか似ている魔法ですが…これは、魔獣使役の魔法が、魔獣召喚の魔法から派生した魔法だからみたいです。
そうー
この2つの魔法を組み合わせる事で、魔獣と更に連携を深めて、闘う事が出来るのです。
それで…魔獣召喚といいますと、異界から強い魔獣を呼び出すイメージですが、実際は違います。自分の魔力と同等くらいの魔獣を周辺から魔法陣を通して呼び出すのです。私の魔力ですと…呼び出せる範囲は、精々この町の近辺のみですが、一流の魔獣調教士ともなると、その範囲が大陸全土まで広がると言われています。
そして…呼び出せる魔獣の種類は、術者の性格や使う魔法の属性などによって、決まるそうです。
私の場合は…基本は、犬系の魔獣を呼び出せるみたいですね。
まぁ、私は犬が好きですからね。
本当にその通りだと思います。
「ワン、ワン、ワン、ワン!!」
「可愛い、ワンちゃんね」
ルイアは、フサフサした毛を撫でながら言う。
「何回か呼んでいる内に、仲良くなっちゃたわ」
私も、フサフサした毛を撫でながら言う。
呼び出せる範囲内にいれば、前に呼んだ同一の魔獣も呼ぶ事が出来ます。
そして…白麗犬は、私のつけているネックレスを取ろうとしている。
「ダメよ、これは私の大事な物なんだからっ」
私が仲良くなった、この白麗犬は…金目の物が好きらしいです。
そして、落ちている小銭を探す事も得意で、町を一緒に散歩していた時によく小銭を見つけていました。
「名前に似合わず、貪欲なのね…」
ルイアは、軽く微笑みながら言う。
銀色の髪がキラキラと風に靡いています。
因みに…私がつけているネックレスは、指輪をネックレスにしたものです。これは、私の父の形見で “身代わりの指輪” という魔法具です。
この魔法具は発動させると、近くにいる人のダメージを70%、肩代わりする事が出来ます。もしもの時に…仲間を守る為に使うみたいですが、自分の身を犠牲にするので、あまり使いたくはないですよね。
「フフフフ…」
「70%って、何か中途半端な割合ね」
「本当は全部、肩代わりする物もあったみたいだけど、高くて手が出なかったみたい。まぁ、これも十分高いけどね」
「私の家は、そんなに裕福じゃ無かったみたいだし…」
「父が、何故これを買ったのか…今となって分からないわ」
「ふ~ん、そうなのね…」
―フッ―
「あっ、消えた…」(私とルイア)
しばらくして…召喚時間が終わったのか、白麗犬は元の場所に戻っていきます。…少し早かったですけど、これが私の新しい魔法です。
「でも、まだこれで終わりじゃないわ!!」
「!?」(ルイア)
「まぁ…これは、まだ使えないんだけどね」
私は、更に召喚魔法に連動して、魔獣使役の魔法の方にも新しい技が発現していました。
それは “親和契約” です。
「親和契約…?」
ルイアは、よく分からなそうに言う。
“親和契約とはー
その契約を結んだ魔獣を召喚する事が、出来る召喚契約の一種である。これは通常の召喚と違い、親和を築いて条件さえ満たせば、魔獣の種類や自身の強さを問わず、あらゆる魔獣と契約を結び、召喚する事が出来る。そして、召喚した魔獣とは感覚や魔力の共有が出来るなど、様々な効果が付与されるので、高度な連携を図れる事が期待される。その親和契約を結ぶ条件と制約として―”
私はギルドカードをスマホの様にタップして、目の前に画面を映して、説明します。
ギルドカードには、ご丁寧にも使える魔法の簡単な説明も記載されておりまして、こんな感じで映し出して、色々と見る事が出来るのです。
「…」(私)
…とまぁ、呼べる魔獣の種類は問わないとか、更に嬉しい特典が付いていたりとか、中々便利な魔法なのですが…しかし、この魔法の一般的な用途は、契約を結ぶ為の条件と制約の部分に書かれています。
それは―
まず、契約を結ぶ為の条件が、かなり厳しいです。
その条件とは、お互いの親和を築いている事は勿論ですが…その魔獣と親和を築いたという確かな実績も必要らしい。
確かな実績とは、その魔獣と共に過ごす時間が累計で5年を超えないといけなかったり、他には…害獣を一緒に闘い倒して、一定の経験値を稼がないといけないとか。
一定の経験値とは、大体30万EXPとされています。
巨大ゴブリンでいうと、数百体以上ですかね。
ゴブリンならば1万体以上ですか…その位の害獣を一緒に倒さないと、契約を結ぶ条件は満たさないのです。
因みに、私の今まで獲得した経験値は27万EXPですよ。
ツースターになるには、30万EXPが必要なので、あともう少しの頑張りです!!
「…」(私)
これらの条件から…
この親和契約は、長年連れ添って親和を築いた魔獣と更なる連携を図る為に使われています。
親和を築いた魔獣とこの契約を結び召喚する事で、感覚や魔力を共有が出来るので…極端にいえば、一心同体になって、強くなれますので、魔獣調教士の必殺技とされているとか。なので…魔獣を呼ぶというよりかは、お互いを一定時間パワーアップさせる為の強化魔法として、広く認識されていますね。
「サアアアアアアアアアアアアアアー」
爽やかな風が吹いて、私の髪を靡かせる。
私は髪を手で押さえながら、寂しげに遠くの方を見つめる。
そしてー
この親和契約を使えるのは、生涯で一度だけらしい。
なので、長年連れ添った魔獣との絆の証として…
もっと言えば、一生のパートナーの証として、この魔法は使われているのです。魔獣調教士とは…相棒となる魔獣と一緒に、敵と闘うのが基本的な戦闘スタイルとなっています。
「私も…その内に相棒となる魔獣を作って、一緒に闘いたいわ!!」
「ふ~ん、でも一生のパートナーか…」
「イブは、どんな魔獣を一生のパートナーにしたいの?」
ルイアは、私に問う。
相変わらず、銀色の髪がキラキラと風に煌めいている。
「う~ん、まだ先の事だけどね…」
「これから、もっと色々な魔獣と触れ合い、親和を築いて…その中から選びたいと思っているわ」
(でも、まぁ…一応候補は、いますけどね)
騎士の皆で、天魔の山脈の “星屑の天蓋” まで遠征で行った時にいました、グリフィンなんか良いんじゃないかなと思ってます。知性も高くて、穏やかであり、なによりカッコ良い魔獣だし。
「そして…いつか、その魔獣と世界中を旅してみたいわ!!」
それが、最近の私の夢であったー
「勿論…騎士として、更に立派になって、この国をもっと平和にした後の話だけどね」
「私も、その旅に連れていってくれないの?」
ルイアは、問う。
「ルイアはコーレン副団長と結婚して、幸せな家庭を築くんでしょ」
「「ブウウウウウー!!」」
「「ちょ、ちょっと、何を言っているのっ!!」」
ルイアは、軽く吹いていた。
そして…恥ずかしそうに顔を赤らめていました。
「ハハハハー」
私は、笑っていました。
だから、私と一緒に旅をしている暇なんてないでしょ。
◯
私達は用事を済ませて、丘を下っていました。
そして、先程の話しの続きをしていた。
召喚魔法の…いや、ルイアの恋の話しを。
「ルイア、貴方…コーレン副団長にいつ告白するの?」
「もう、その話しはいいって…」
「それにコーレン副団長は、サニーさんと仲良さそうだし…」
「もう、付き合っているんじゃないかって噂だし」
「分からないわよ」
「仕事上、仲が良いだけかもしれないし」
「そうかもしれないけど…」
「やっぱり、キャロットさんの薬に頼ってみる…?」
「…」(ルイア)
でも、実際に成功例はあるらしい。それは…キャロットさん本人だ。
キャロットさんは自分で作った勇気を出す薬を飲んで、王都にいるある人に告白をして成功したらしいです。
ある人とは、この王国のとても偉い人みたいです。
まぁ、超遠距離恋愛ですけど…
昨日の飲み会で、私とルイアにひっそりと教えてくれました。
「「私は、自分の力で告白するわ。薬なんかに頼らない!!」」
ルイアは、固く決意した様にそう言います。
しかし…
「でも、やっぱり勇気が…」
「ハァ…」
「ルイアと傷心旅行なんてゴメンよ…」
―天気は、先程の晴天から次第に曇り始めていました。
そして、遠くの空には、真っ黒な雲が立ち込めている。
これから先、天気が崩れるかもしれませんね。
とりあえず『お菓子の城』でも行ってみましょうか。
2人で、そう話していた時に、その知らせは突然やってきた。