142話 別れ道
「ワイワイワイ…」 「ガヤガヤガヤ…」
「ワイワイワイ…」 「ガヤガヤガヤ…」
巨大ゴブリンを完全に討伐した後-
私達3人はサルチカの町に行くと、町の人達から歓迎を受けました。今は、卵オジサンのお店の前のロータリーにいます。
ロータリーには、町の人達が皆、集まっている。
「この町を助けてくれて、有難う!!」
「君達には感謝するよ!!」
町の人達を代表して、卵オジサンは言う。
「いえいえ、そんな…」
「そんな大した事はしてませんよ」
カナタさんとバンビさんは、謙遜しながら言う。
町の皆から歓迎を受ける私達は…まるで、ヒーローになった気分ね。いやいや、実際…そうなのかもしれない。フフフ、アメコミのヒーローに憧れていた私にとっては、悪くない気分ですね!!
…因みに、カナタさんとバンビには、私が最後に放ったイブパンチの事は秘密にしといて欲しいと言ってあります。
なので、町の人達には…
騎士志望の2人が巨大ゴブリンを討伐して、私は取り巻きのゴブリンを倒したという感じで伝えています。まぁ、事実上…別に私がいなくても2人は巨大ゴブリンに勝てる実力は有していましたから。
これで良いのです。
只…今回の反省とすれば、1回倒したと思って、油断してしまった所ですね。これは、私が闘いの後に思い出した事ですが、害獣討伐の基本として、敵の体力(RPG風に言えばHP)が完全に無くなるまでは、攻撃を止めてはいけないのです。時折、回復魔法を使われて、復活する事がありますので…
そう、カナタさんは-
巨大ゴブリンの急所を攻撃しましたが、少しだけ急所の位置から外れていたので、体力が僅かに残っていたのです。あと軽く…もう1回だけ攻撃すれば、良かったのです。
それで、2人は巨大ゴブリンに勝てていました。
これからは、しっかりと体力が完全に無くなったか確認する必要があります。まぁ、簡単な事ですよ。
「君達3人は、騎士志望なのか…」
「まだ騎士にもなっていないのに、巨大ゴブリンを倒すなんて…素晴らしいよ。まさに、騎士の金の卵じゃないか。あっ、そうだ-!!」
「良かったら、この剣は君達にあげよう!!」
卵オジサンは言う。
「…」(私)
あの~、卵のオッサン…
私も一緒に騎士志望になっていますけど。
いやいや、それよりも卵オジサンは、私が使っていた350万Gの魔剣をくれると申し上げている。太っ腹過ぎないか、卵のオッサン!!
「ハハハハ-!!」
「本当に優秀な剣は、若く才能ある者に使って貰わないといけないからな。それに、これは僕からだけのお礼じゃないぞ。この町からのお礼として、是非受け取って欲しい。僕が代表で決めたんだ。そう何と…僕は-!!」
「この町の町長でもあるんだぜ!!」
「えっ、そうなんですか」
「凄いですね!!」
驚く3人。
「勇敢で優秀なる君達よ-」
「町からのお礼として、この剣を授けよう」
「「あ、有難うございます!!」」
カナタさんとバンビさんは、卵オジサンに言われるがままにお礼を言う。
んっ…と言う事は、卵オジサンは武器屋の店長であり、農家でもあり、この町の町長でもあるのか。凄い兼任していますね!!
((凄いな、卵オジサン!!))
「…」(私)
あ~、そう言えば…
ずっと、卵オジサンと形容していたので、名前を聞いていませんでした。
「そういえば、オジサン…」
「名前、何て言うの?」
「僕の名前かい!?」
「僕の名前は、エッグキングだ-!!」
(えっ、エッグキング…!!)
(まるで、卵の王様の様な名前ね…)
「そういえば、お嬢ちゃんの名前も聞いてなかったな。何て、言うんだい!?」
「私の名前はイブと言います」
「なるほど、イブと言うのか!!」
「ハハハハ、何かイケてる名前だな!!」
「フフフ、オジサンもね!!」
(コツン!!)
「「「ワアアアアアアアアアアアア-!!」」」
私と卵オジサンことエッグキングさんは、グータッチを交わします。
そして、皆から盛大な歓声を受ける私達-!!
さぁ、いざ出発の時です!!
私達3人は-
町の人達に見送られて、サルチカの町を後にする。
○
「カァカァカァカァカァ-」
「カァカァカァカァカァ-」
サルチカの町を出発した後、私達3人は-
道中、巨大スライムやゴブリンを倒したりしながら田舎道を歩いていた。そして気付けば、もう夕暮れになっていました。
時間か経つのって、あっという間ですね。
山並みに沈み行く夕陽を見ながら、そう思う私。
今日は色々とありましたからね。
私は、前を歩く2人の長い影をボンヤリと眺めていると…
(イブさん…)
(イブさん…)
「!!」(私)
「じゃあ、俺達はこっちの道を行くから…!!」
「今日は、本当に有難うね!!」
カナタさんとバンビさんは、物寂しそうな顔で言う。そう、ここはサウスヴェルと王都の分かれ道です。
2人とも、ここでお別れです。
「じゃあね、2人とも…」
「立派な騎士になってね!!」
「イブさんも、良い旅を続けられる様にね」
「王都で、また会いましょう」
カナタさんが言う。
「王都で、騎士になって待ってるぜ!!」
バンビさんが言う。
「貴方達2人なら、問題無く騎士になれるでしょう」
「王都で、また会いましょう!!」
「フフフ、有難うイブさん」
「「「じゃあ、またね~!!」」」
手を振り合う、2人と1人-
遠くなる2人の影は、次第に夕闇の中に消えていく。
彼らも…そして…私もお互いの姿が見えなくなるまで、手を振り続けていた。
「あれっ!?」
「イブは、あの2人と一緒に行かないの~!?」
夕陽に向かって、ヒラヒラと手を振る私にゼニィーが言う。
「私の行き先は、サウスヴェルだからね」
「それに私は騎士にはならないわよ」
「ふ~ん…」
「一緒に行きたそうな顔をしてたからさ~!!」
「フフフフ…」
「それって、どんな顔よ!?」
「でも、折角350万Gの魔剣を貰えたのに、それをカナタさんにあげちゃうなんて…イブも凄い太っ腹だね~!!」
「う~ん、まぁ自然な流れでね」
「それと結局さ~!!」
「パーシャ騎士団の剣も、返金して返して貰ったんだね~!!」
「…」(私)
「何で返して貰ったの~!?」
「やっぱり、腰痛が酷くなるから~!?」
しつこく、聞いてくるゼニィーさん。
「私の場合…剣だけじゃ、守りきれないものが多すぎるわ。少し頭が冷えたというか、やっぱりパーシャ騎士団の剣は私の大事な剣だからね。手放す訳にはいかないわ」
「ふ~ん、そうなんですね~!!」
「勿論…お金が貯まったら、買っても良いけどね!!」
「だから、今はまぁ-!!」
-良い夢が見れたと思って!!-
私は可憐に髪をかき上げながら、軽い微笑む。
そして、夕陽を背にまた歩き出します。
寂しい山脈の冒険(完)