64話 両者立ち合い
【この姿になるのは、初めてだけど、何故かそんな感じはしないわね】
【凄く懐かしいというか、何か無性に目がウルウルするわね…】
【あっ…でも私、目が無かったわ(笑)!!】
「…」(私達)
巨大な騎士の口は、1人で何かを言っていた。
【そうだ、この騎士の名前は…何にしようかしら?】
【う~ん、迷うわね…】
【そういえば、地上では私の事を『カコシ』と言っていたわね】
【フフフフ…じゃあ、名前はカコシにしましょうか!!】
そして、名前が決まったそうです。
まぁ、私としても、カコシの方が馴染みがあって呼びやすいので良いのですけど。
【あ~…ちょっと、待ってくれるかしら!!】
【私、まだこの身体に慣れてないから、少しだけ準備運動をしても良いかしら!?】
「ご、ご自由にどうぞ…」
【悪いわね~♪】
カコシは、せっせと準備体操を始めた。
そういえば、いつの間にか景色が変わっていました。
私達は、燃え盛る町から…
今は、見渡す限りの大草原の中に立っていた。
見上げる空は―
星1つ無い漆黒の闇に包まれていて…明かりといえば、何処からか漂ってくる火の粉達であった。赤黒くユラユラと煌めく火の粉達は、まるで…飛び回る蛍の光の様に、闇夜を照らしている。
「「クソっ…」」
「「舐めやがって!!」」
「「ル、ルイア…!?」」
ルイアは、追い詰められた小動物みたいになり、カコシに向かって剣を大きく振るった。
「「「これが、私の全魔力だ!!」」」
「「「受け取れええええー!!」」」
―炎の魔法 奥義 白火刃 ―
おお、ルイアの振るった剣からは、白く輝く巨大な火の刃が飛び出す!!
そして、途中にいた巨大サラマンダーに、その刃が当たると…その瞬間に蒸発していた。その火の刃は、凄まじい熱量が込められている。
私が、バリアで受け止めたナハリタの剣の威力を凌ぐ斬撃でしょうか!!
まさに、ルイアの全力に相応しい一撃が―
「「「「「「「「ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ―ン!!」」」」」」」」
準備体操をしていたカコシに直撃した!!
「「ハァハァハァハァ…」」
「「ど、どうだ…!!」」
ルイアは、息をあげながら勝利を期待します。
しかし―
「「「「「!!」」」」」(私達)
「「「む、無傷だとっ―!!」」」
カコシは、変わらずに準備体操を続けていました。
今は、せっせと屈伸をしています。膨大な量の黒く蠢く小さなものが、ギチギチに凝縮された鎧は、もはや原子1個ですら、入り込む隙間が無いのでしょうか―
つまりー
凄まじい強度があるみたいです!!
【もう、せっかちさんね…】
【ホレっ、お返しよ~!!】
カコシは、そう言うと剣を軽く一振りしました。
―ヤバいいいい!!―
咄嗟に、危険を感じた私は周囲にバリアを張る。
「「「「「「「「ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ―ン!!」」」」」」」」
カコシの振った剣からは―
巨大な漆黒の刃が飛び出し、大地を裂きながらバリアを直撃した!!
「「「「「「「スドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド―!!!」」」」」」」
「「「ウオオオオオオオオオ~!!」」」
バリアの中にいるのにも関わらず、その衝撃は凄まじく―
全身を激しく揺さぶります。その刃の大きさと威力は、ルイアの放った全力の刃を遥かに凌いでいる。これだけは、確実にそう言えました!!
「サアアアアアアアアアアアアアアアアアアア―!!」
(うっ…)
(こ、これは…)
そして…威力もさる事ながら、その漆黒の刃からは大量の黒く蠢くカコシが放出されていました。黒く蠢くカコシは、辺り一面に雨となって降り注ぎ、雨に触れたゴーレム兵や巨大サラマンダーをドロドロに溶かしている。
もはや…古傷が開くとか、そうゆうレベルでは無く、触れたものを全て死に追いやる猛毒になっている様でした。
今の一振りだけで、町が滅んでしまう―
ここが、異空間で良かったです。
…と言いますか。
「バリバリバリバリっ…」
「あの~…」
「ゼニィーさん…?」
バリアに、大きなヒビが入っているんですけど。
ゼニィーさん、これは一体!?
「「アイツの攻撃が、強すぎるんだよ~!!」」
「「あと数回、今の攻撃を受けたらバリアが壊されちゃうよ~!!」」
「「えっ、ウソおおおお―!?」」
「私は、なんて事を…」
ルイアは、両膝をついて途方に暮れていた。
「…」(私)
「ルイア…」
「貴方のせいじゃないわ…」
「イ、イブ…」
「ウソ、貴方のせいよ!!」
「ちゃんと、責任とってよね!!」
「えっ…」
「フフフフ、冗談よ」
私は、軽く微笑みながら言います。
(ううううううう~ん)
さてと…
途方に暮れているルイアを横目に、私は伸びをしながらカコシを見つめます。私も、少し真面目になって、頑張らないとね。
「やっと、倒しがいがある奴が出てきたわね…」
「さぁ、お遊びはここまでよ!!」
「私の奥義、お見舞いしちゃうぞ~!!」




