139話 武器屋(後編)
「「有難う、君は天使様だよオオオオ~!!」」
「「僕は嬉しくて、嬉しくて…」」
卵オジサンは、感極まって泣いていた。
一体、どうして!?
「「オジサン、ちょっと落ち着いてよ!!」」
「ああ、すまない、すまない…」
「取り乱していたよ!!」
「…」(私)
「ええ~、ゴホンっ!!」
「いや、改めて礼を言うよ。僕のお店の名前を『最高にお洒落で、イケてる名前』と書いてくれて、とても嬉しいよ」
「え、イケてる名前…」
(お店の名前って、黄身がどうこうの変な名前の事でしょうか…?)
「いや、私そんな事、書いて…」
私は苦い顔で言おうとすると-
「そ、そうだよね」
「やっぱり、イケてなんか…」
「「いやいや、凄いイケてる名前だと思いますよ~!!」」
「「でも、私…目玉焼きには醤油派なんで、ケチャップより醤油の方がもっとイケてるな~と思いまして…勿論、ケチャップでも全然イケてると思いますけどね~!!」」
私は慌てて、言い直します。
「フムフム…」
「なるほど。確かに、人それぞれ好みがあるからな…」
「ハァ…」(私)
卵オジサンは、何とか納得してくれたみたいです…
「いや~、俺は何でもこだわるタイプでさ!!」
「お店の名前も、一生懸命考えて良い名前が決まったと思ったのに、今まで誰からも『良い名前ですね!!』とか言われた事がなかったんだよ。しかも、皆…スルーしている感じだったし、この名前はもうダメだと諦めて、変えようとしていた所だったんだ」
「そ、そうなんですね…」
「君のこのメモを見た時は、心が震えたよ!!」
「自信を貰えた、有難う!!」
(メモ…?)
卵オジサンは、私にメモを見せる。
『最高にお洒落でイケてる名前の武器屋さんの店主様へ-』
『この剣を買い取って貰えますか?』
『買い取り金は、封筒の中に入れて頂けると助かります』
「…」(私)
これは、ゼニィーが書いたメモでしょうか。
「お嬢ちゃん、面白い魔法を使うね~!!」
「今朝、開店の準備をしていたら…突然、お店の中に剣がプカプカと浮きながら入って来たから、凄くビックリしたよ!!」
「あ、有難うございます…」
「あとね…本当ならば買い取りには、ギルドカードの提示とか…諸々の手続きが必要なんだけど、メモを見たら嬉しくなっちゃって、省略しちゃったんだ」
「そ、そうなんですね…」
「…」(私)
(ふ~ん、なるほど…)
本当ならば、剣を買い取って貰うには、ギルドカードが必要だったのですね。ギルドカードを持っていない…ましてや、人から姿が見えないゼニィーは、一見売る事が出来ない様に思えるが…卵オジサンの心をメモで掴む事で、それを可能にさせた。姿が見えなくても、しっかりと売る事は出来るんですね。
これがゼニィーが言っていた工夫なんでしょうか。
少し感心する私…
いやいや、そもそも剣は売りませんけどね!!
「それで、オジサン…」
「剣は…?」
「ん~まぁ、別に返しても良いんけど…」
「それより、お嬢ちゃん強くなりたいんだろ!?」
卵オジサンは、私の耳元で囁く。
「目を見れば、分かるよ!!」
「そんなお嬢ちゃんに紹介したい剣がありますよ!!」
「えっ、紹介したい…剣!?」
私は、卵オジサンに言われるがままに案内される。
「こちらのコーナーの剣だ!!」
「ほ、ほう…」
「このコーナーの武器には、最新の技術が使われていてな。その名も『魔力が少ない人でも、問題無く使えますよシリーズ』だ。その名の通り、魔力が少ない人でも、問題無く使う事が出来る仕様になっているぞ!!」
「へぇ…」
そうそう、これはこの世界の知識なんですが…
通常、格が高い魔剣を使うには…使う人も、それ相応に強くなくてはいけません。もし魔力が少ない人が、その様な剣を使ってしまうと…自身の身体に、様々な悪影響(筋肉痛、疲労骨折など)を及ぼしてしまうのです。
「まぁ、最新の技術だけあって、値段は通常の武器より高いけどな。そして…このシリーズの中で、一番性能が良い剣がだな…ちょっと、待ってくれ!!」
卵オジサンは、ショーケースから一本の剣を取り出す。
「この剣には『身体能力向上(大)』と、自身の魔法を強く出来る『魔力向上(中)』の強化魔法が付与されていてな。装備すれば…何と、魔力が全く無い一般人でも、熟練の冒険者並みの強さになれるんだぞ!!」
「す、凄い!!」
「そんな便利な物があるんですね」
私は、目をキラキラとさせながら言う。
「価格は、350万Gだけど…」
「特別に300万Gに割引するよ!!」
卵オジサンも、目をキラキラさせながら言う。
ん~余程、お店の名前を誉められた事が嬉しかったのでしょうか。
「お嬢ちゃんの売った剣のお金があれば、買えちゃうよ。この機会に是非、どうだい!?」
「…」(私)
それで、卵オジサン曰く-
私の持っていたパーシャ騎士団の剣ですが、性能的には20~30万Gの魔剣と同じ位みたいです。何故300万Gなのかと言うと…それは美術品としての価値があるからみたいです。美術品のコレクターの間では140年前に滅んだパーシャ騎士団の剣を『幻の騎士団の剣』と呼んでおりまして、当時の剣は高値で取引されているとの事ですね。
(ニヤニヤニヤニヤ…)
考えてみれば…
別に、自分自身が強くなる必要はないんだよね。
剣が強ければ、良いのです!!
私はニヤニヤとしていると…
「絶対に手放しちゃいけない、大事な剣じゃなかったの~!?」
ゼニィーは困った顔で言う。
「…」(私)
「ゼニィーさん…」
「私の最終目的は、強くなる事なのよ」
「その為には、時にやむを得ない場合もあるわ…」
「ハァ、そうですか…!!」
「外でゴブリンとか、試し斬りして来ても良いよ!!」
卵オジサンは言う。
「えっ、良いんですか!?」
「どうぞ、どうぞ」
「きっと、生まれ変わった気分になれると思うよ!!」
「そうなんですね」
「凄い、楽し-」
「「「「「ジリリリリリリリリ~ン!!」」」」」
「「「「「ジリリリリリリリリ~ン!!」」」」」
「「「!!」」」(私達)
突然-
けたたましい非常ベルの音が鳴り響きます。
か、火事!?
「「「おい、大変だアアアア!!」」」
「「巨大ゴブリンが、この町に向かっているぞ」」
「「すぐに避難を!!」」
焦った人が、お店の中で入って来て言います-!!
「「そ、そうなのか!!」」
「「分かった、じゃあ避難をしよう!!」」
卵オジサンは言う。
この町の近くに巨大ゴブリンが出るとは…
いきなりの緊急事態です!!
「「騎士は、呼んでいるの!?」」
私は、焦った人に言う。
「一応、呼んでいるが遅れているらしい!!」
「騎士が遅れて来るなんて、よくある事だよ」
「案内するから、早く安全な所に避難するよ!!」
「…」(私)
「オジサン、ここにはこんなに武器があるんだから、それを持って闘わないの!?」
「僕の本業は農業だから…」
「あんな化物と闘うなんて、ゴメンだよ(汗)」
卵オジサンは、焦りながら言う。
「…」(私)
「この剣…試しに使っても良いかしら!?」
私は300万Gの剣を手に持って言う。
「えっ、流石にそれは…」
「「卵オジサン!!」」
「「この町が、どうなっても良いの!?」」
「えええええ、卵オジサン!?」
「は、はい、ご自由にどうぞ…」
卵オジサンは私に気圧されたのか、オロオロしながら言った。
フフフフ…
でわでわ-!!
「「よっしゃアアアアアアア!!」」
「「それじゃあ行くよ、ゼニィー!!」」
「は~い!!」
私とゼニィーは、巨大ゴブリンを倒しに行く事に-!!