138話 武器屋(前編)
私は、今-
売られてしまった大事なパーシャ騎士団の剣を取り戻す為に、ゼニィーの先導で田舎道を歩いている所です。
まぁ、売ったのはゼニィーなんですが。
(テクテクテクテク…)
そうそう、それで私を襲ったゴブリン達ですが、彼らはどうなったのかと言うと…私は、彼らの顔を鷲掴みにして、安らぎの匂いを発動させました。
手のひらから放出された匂いを直接、嗅いだゴブリン達はフラフラとどこかに消えてしまいましたね。凄い無理やりな力技です。
「豪快な倒し方だったね~!!」
「剣なんかよりも絶対、カッコいいよ~!!」
ゼニィーは言う。
「それは誉めてるの、ゼニィー!?」
「というか、剣って…どれくらいで売れたのよ!?」
「300万Gだよ~!!」
「「嘘、高かああああ!!」」
「「パーシャ騎士団の剣って、そんなに高いの!?」」
「うん、そうみたいだね~!!」
「…」(私)
「というかゼニィー…」
「人から姿が見えない貴方が、よく売る事が出来たわね。そもそも、アンタ達…精霊は煎餅を売っているって言っているけど、姿が見えないんじゃ、人に商売なんて出来ないんじゃないの!?」
(まぁ、そんな私も口下手だから、人の事は言えないですけど…)
そうそう、それで…
精霊の姿は、大多数の人間には見えないのである。
仄かな疑問を抱く私。
「う~ん、よくある質問だね~!!」
「だけどね、『人から姿が見えない』=『売る事が出来ない』とは限らないよね。確かに、人から姿が見えない事は、商売をするにあたりデメリットだけど、それを最初から売る事が出来ないと決め付けるのは悪い事だよ~!!」
「どうやったら…売る事が出来る様になるか考えて工夫するんだよ。デメリットなんて、工夫次第でどうにでもなるし…そして、その工夫を考えて試行錯誤する事が、商売の醍醐味にもなるんだよ~!!」
「…」(私)
「そ、それもそうね…」
何故か論破されてしまった気分になる私。
一応、頷きます。ですが…アンタがそんな事を言っても、全然説得力なんて無いわよ。
ウッスラと笑みを浮かべて私はそう思う。
「この町ですよ~!!」
「ほう…」
道を進む事10分くらいで、ゼニィーが訪れた町に到着しました。町の入り口の看板には、サルチカと書いてある。
サルチカと言えば…
サウスヴェルの近くにある小さな町ですね。
サウスヴェルと同じ『町』と呼ばれてますが、その規模はサウスヴェルと比べて、全然小さいです。村を少し大きくした程度の閑静な町になります。
早速、町の中にお邪魔する私。
町の通りには、草花と同化したお洒落なレンガ造りの家が建ち並んでいる。私は石畳で舗装された道をテクテクと歩いていきます。
「テクテクテクテクテク…」
(ふ~ん…)
チラホラと人はいますけど…
やはり、町と呼ぶには数が少ないですね。静か過ぎて、寂しい感じです。もしかして…この町も、またパーシャみたいに曰く付きなんでしょうか。
「…」(私)
まぁ、只の冗談ですけど。
多分、それは違うでしょう。
すれ違う人達は、私にニッコリと挨拶をしてくれます。私も笑顔で、お辞儀をして返す。
チラっと柵ごしから、民家の庭を見ますと-
芝生の上を子供達がワイワイと遊んでいる。それを見ながら、老夫婦は庭でガーデニングをしていました。
道端や屋根の上には-
猫が日差しを浴びながら、気持ち良さそうに昼寝してますね~
そんな、通り過ぎていく景色を見れば。
皆…普通にのんびりと暮らしている事が分かります。
「ザアアアアアアアアアア-!!」
しばらく-
道なりに歩いていくと、広場に出ました。
広場の真ん中には、噴水がありまして…そこから勢い良く水飛沫が噴き出ている。ロータリー的な感じでしょうかね。
それで…そこには綺麗な円を描く様に、お店が建ち並んでいました。
「ここのお店だよ~!!」
「へぇ、ここなのね…」
ゼニィーは、その内の1軒のお店を指差す。
「武器屋さんだよ~!!」
「中々、イケテル名前じゃないかな~!?」
(えっ、イケテル名前…?)
『田舎の武器屋』
『黄身にはケチャップ~君には強さを~』
「…」(私)
お店の看板には、目玉焼きの絵も一緒に描かれていた。
アンタのイケテルセンス、ぶっ壊れてるんじゃないの…!?
お店の名前を見て、そう思う私。
とりあえず、中に入ります。
「カラン、カラン-」
「!!」(私)
「おお、凄い…」
私は初めて見る…いや、久しぶりに見る光景に思わず、感嘆の声を漏らす。まぁ、武器屋さんですからね、剣や弓や槍などが沢山置かれていました。
「ピカピカ…」 「ピカピカ…」
「ピカピカ…」
「ピカピカ…」 「ピカピカ…」
それらは、どれも-
ワックスで光輝く新車の様に、ピカピカと煌めいている。見蕩れてしまう私。何か…ここに来た目的を忘れてしまう程、ワクワクしてしまいます。
「いらっしゃいませ~!!」
「今日は、どんな武器をお探しかい!?」
私が興味津々で、お店の中を見ていると…
奥の方から、店員さんが出てきますが。
「「!!」」(私)
「「あっ、昨日の卵をくれた農家のオジサンですか!?」」
「んっ…!?」
「あ~、君は確か昨日、僕が卵をあげた冒険者のお嬢ちゃんかい!?」
「そ、そうですよ!!」
店員さんは何と…
昨日、卵をお裾分けしてくれたオジサンでした。
凄い奇遇ですね!!
「僕は、この武器屋の店長もやっているんだよ!!」
卵オジサンは自信満々に言う。そんな卵オジサンですが、ちょび髭を生やした大柄のオジサンです。着ている可愛らしい柄の小さなエプロンが、とてもミスマッチですね~
「凄い、武器屋と農業の兼業なんですね!!」
「ハハハハ、そんな事ないよ!!」
「どっちが本業なんですか!?」
「どっちも本業さ!!」
卵オジサンは、キメ顔で言う。
「へぇ、凄い…」
「あっ、卵も凄い美味しかったですよ!!」
「フフフフ、有難う…」
「こだわりの自慢の卵だからね。丹精込めて、作っているから当然かな。そうそう、それでお嬢ちゃんはどんな武器をお探しかいなのかい!?」
「は、はい…ぶ、武器!?」
「この武器屋も、僕の自慢の卵同様…僕の自慢のお店さ。田舎の店とは思えない程、質が良い武器を売っているぜ。勿論、品揃えも抜群だ。大きな町の武器屋とクオリティは、全然変わらないんだぞ!!」
「ハハハハ~!!」
「へぇ、それは凄い…」
「…」(私)
「あの…オジサン、すいません」
「私は、その…武器を買いに来た訳ではなくて、このお店で売った剣を返金するので、返して欲しいと思いまして来たのです」
「あれ、そうだったの!?」
「ん~でもお嬢ちゃん、剣なんて売りに来たっけ!?」
卵オジサンは、キョトンとしながら言う。
「あ~私が直接、売りに来た訳ではないんですよ。えええ~と、色々と事情がありまして…」
ゼニィーの事は流石に言えませんからね。
言ったら、ややこしくなるので…
私は、経緯の大部分を省略して話します。
「今日の朝、パーシャ騎士団の剣を300万Gで買い取って貰いましたよね。その剣の持ち主は私なんですよ。だから…」
「「!!」」(私)
「き、君があの剣の持ち主だったの…?」
卵オジサンは震えた声で言う。
えっ、急にどうしたの…!?
「「「有難とオオオオオオオオ~!!」」」
そして、突然-!!
歓喜に満ちた卵オジサンは私の手を、両手で固く握りしめながら言う。
「「えっ、ええええ~(ど、どうゆう事!?)」」