137話 売却
「ヒュウウウウウウウウウウ~!!」
腕時計を見れば、もう10時過ぎになっていました。
今日の天気は、相変わらずの晴天で野山を吹く風は…
緑豊かな草木の香りを運び、私の身体全身を包み込んでいた。
「ファアア~ア…」
んんん~、良い風ね!!
そして、眠そうにボーっとしながら周りを見渡す私。そういえば…ゼニィーはどこに行ったのかしら?
いつも、起こしてくれるはずのゼニィーの姿が見当たらないのです。
まぁ、その内に戻って来るかな…
というか身体が少し痛い。昨日、イブパンチの練習で結構、身体を動かしたので、その筋肉痛でしょうか。
とりあえず、朝ごはんでも食べますか。
私はポーチから、フライパンを取り出して加熱します。このフライパンも魔法具で、魔力を込めれば火を使わなくとも熱する事が出来るのですよ。
「ジュウウウウウウウ~ウ…」
私は良い感じに熱を持ったフライパンに、卵を数個落とします。朝食のメニューは目玉焼きですね。
「…」(私)
えっ『卵なんて、持っていたの!?』なんですが…昨日の道中、たまたますれ違った農家のオジサンから、お裾分けして貰ったのです。
卵だけに、たまたまですね(笑)
いや、本当に有難いですね~!!
私は、焼き上がった目玉焼きをお皿に乗せます。
そして、目玉焼きだけでは殺風景なのでティーポットとティーカップを出して、紅茶を注ぐ。あ~、この紅茶ですが、地球のボロアパートの部屋にあったティーパックですよ。
「う~ん、良い香り…」
私は、まずは紅茶の香りを堪能します。そして、ナイフとフォークを使って、上品に目玉焼きを切り分けながら、それを口に含む。まるで、優雅に朝食の嗜む、お姫様みたいね(多分…)
気分だけでも、そんな感じにね。
そうそう、気分と言えば…
今日は、とても爽快な夢を見たわね。後半は、ともかくとして…最初の場面はスーパーマンになった気分でした。
やっぱり、夢はこうじゃないとね~!!
多分、イブパンチが完成した嬉しさが夢にも出てきた感じですね。私は今日見た夢を思い出しながら、軽く微笑みます。
…というか、本当にゼニィーはどこに行ったのかしら!?
折角、ゼニィーの分のティーカップも用意してあげたのに、これじゃ冷めちゃうじゃないの!!
「お疲れ様で~す!!」
「!!」(私)
そう思っているとゼニィーさんが、どこからか戻ってくる。
「あっ、ゼニィー!!」
「アンタ、どこに行っていたのよ!?」
「いや、それよりも聞いてよ、ゼニィ~!!」
私は、今日見た夢の事をペラペラと話す。
「ふ~ん、それは良かったね~!!」
「そうでしょ、そうでしょ」
「「ガサガサガサガサガサガサ-!!」」
「「ウゴオオオオオオオオオ-!!」」
「!!」(私)
ゼニィーと談笑していると…
茂みから、数匹のゴブリンが出てきました。
多分、朝食の匂いにつられて来たのでしょうか。
「「け、剣よ、出てこ~い!!」」
私は焦りながら、ポーチから剣を取り出そうとします。夢の様にイブパンチでは、倒しませんよ。
あれは、あくまでも夢なので…実際は、高額のイブパンチなんて、余程の事がなければ使いません。
「あ、あれ、剣が出てこないよ(汗)!!」
「ど、どうして…!?」
いくら、ポーチから剣を呼び出しても全然出てこない。
「えっ、剣なら売りましたよ~!!」
ゼニィーは言う。
「…」(私)
「「えっ、何でええええええ!?」」
「いや、だってイブが剣を売っても良いと言ったから…」
「「いや、私はそんな事、言ってないわよ!!」」
「今朝、言ったじゃ~ん!!」
「こんな感じで…」
~以下は、今朝の回想~
「イブ、朝だよ~」
「そろそろ、起きた方が良いんじゃないの~!?」
「ムニャムニャ…」
「何て爽快なパンチなの…」
「もう剣なんて、必要ないわね…」
「えっ、そうなの…!?」
「まぁ、確かにイブの腕じゃ、持ってても意味が無いもんね~!!」
「それじゃあ…近くに町があったから、ボクがそこで売ってきてあげるよ。フフフフ、売る事に関しては煎餅の営業担当である、このボクにお任せあれ。速攻で売ってくるよ。イブは、朝食でも作りながら待っててね~!!」
「じゃあ、行ってきま~す!!」
~回想終わり~
「…」(私)
「「いや、起きている時に確認しろオオオオ!!」」
私は、ゴブリンに袋叩きにされながら叫ぶ。
「ゴメン、ゴメン~!!」
「昨日の失敗で、失った信頼を取り戻そうとして、焦っていました!!」
「昨日の失敗って、イブパンチの値段の桁を間違えた事…!?」
「ううう、アンタの前では迂闊に寝言も言えないわね…」
「ガンガンガンガン-!!」 「ガンガンガンガン-!!」
「ガンガンガンガン-!!」
「ガンガンガンガン-!!」 「ガンガンガンガン-!!」
辺りには、錆びた剣で私が叩かれる音が響く。
「でも、ぶっちゃけ必要ないよね…」
その鈍い音に紛れて…
ゼニィーは、ボソッと呟く。
「…」(私)
「「いやいや、確かに必要無いかもしれないけどさ。あれは私の大事な思い出の品で…」」
「「絶対に、手放しちゃダメな剣なのよ!!」」
「ふううううう~う…」
「…という訳で、ゼニィー」
「その町まで、案内しなさい。剣を取り戻しに行くわよ」
「は~い、分かりましたよ~!!」
私とゼニィーは、町に向かう事にする。