134話 新技(後編)
「「オリャアアアアアアアア-!!」」
「「バカアアアアアアアアアア-ン!!」」
私の威勢の良い声と共に-
気持ち良く吹き飛んでいくゴブリンさん。
そう、マネーカウンターが上手く発動したのです。今の所、10回連続で成功しています。しかも、この内の3回は、ジャストミートでした!!
…ジャストミートは、凄まじかったです。
バリアがゴブリンに当たった瞬間、稲妻の様な閃光が走り、ゴブリンはロケットの如く、空高く飛んでいきました。
多分…
数キロ先まで、吹き飛んだんじゃないでしょうか。まるで、漫画の様に星になって彼方に消えました。
うう~ん、これは凄い。
「…」(私)
そうなのです!!
私は…マネーカウンターを失敗する事なく、そして…好きなタイミングで、発動させる事が出来ていました!!
((それは、何故か-!?))
別に、敵側の攻撃を待つ必要は無いのです。
攻撃ならば、こちらから仕掛ければ良いのです。
流れとすれば…
まず、私はゴブリンにパンチをします。そして、私はパンチをする拳に全神経を集中させて、拳がゴブリンの身体に当たる直前に『跳ね返したい』と、念じるのです。すると、丁度…拳がゴブリンに当たるタイミングで、青白く光るので、無事にマネーカウンターを発動させる事が出来るのです。
敵の攻撃のタイミングに合わせるより、こっちの方が格段にタイミングが合わせやすいですね。それは…もうコツさえ掴めば、失敗する事は無い程にね!!
それで-
パンチをされたゴブリンは、それなりの勢いで吹き飛ばされます。そう、私のか弱いパンチは、プロボクサーのパンチを遥かに凌ぐ威力になっていますからね。
えっ…何故、そうなるのか!?
簡単な話です。マネーカウンターは、バリアが青白く光っている時に受けた衝撃を何倍にもして跳ね返します。パンチをしたら…相手も痛いけど、自分の拳も痛いよね。つまり、自分もパンチによる反動の衝撃を受けているのだ。
物理法則では、与えた力と、反動により跳ね返ってくる力は同じである。作用反作用の法則ですね。つまり、自分のパンチの反動による衝撃をそのまま跳ね返してくるのです。これにより-
私のヘナチョコパンチの威力は-
何倍、何十倍にも膨れ上がるのです。
「…」(私)
とまぁ、簡単に言うと…
バリアが青白く光った瞬間に、パンチを当てると凄い吹き飛びますよ。しかも、高確率でジャストミートを発動させる事も出来ますよ!!
…と言う事になります。
パンチをすれば、敵は気持ち良く爽快に吹き飛びますからね!!
ジャストミートだと、爽快なショットで飛ばされたゴルフボールの如く、綺麗な放物線を描き、遠く彼方に消えていきます。
んんん~、ゴブリン相手じゃ、オーバキル過ぎるわね。C5の竜にでさえ、素手で喧嘩を挑めそうかも。
まるで、スーパーマンになった気分ですね。フフフフ、私…アメコミが好きで、そうゆうキャラに憧れていたのでテンションが上がるわ!!
「イブ、頭良いね~!!」
「こんな使い方、全然思い付かなかったよ~!!」
褒め称えるゼニィーさん。
「フフフ、そうでしょ…」
「…」(私)
いや、普通に考えれば分かる事でしょう…
まぁ…それはさておき、一番重要な事があるとすれば。
「「ゼニィー!!」」
「「私は、このパンチを-」」
-イブパンチと名付けるわ!!-
私は、マネーカウンターを使用した超絶パンチを、そう名付けた。
夕焼け空に向かって、力強く拳を掲げる私-
今、まさに新技が誕生した瞬間であった!!
「安直なネーミングだね~!!」
赤く染まったゼニィーは言う。
「う、うるさいわね…」
「カァカァ…」 「カァカァ…」
「カァカァ…」 「カァカァ…」
「ヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウウ-」
(はぁ、涼しい風…)
涼しい風が吹き、私の髪を揺らします。
辺りは、もう陽も暮れ始めていました。
1日って、早いですね。
そして、暗くなり始める長閑な里山の風景は、いつの日か見た地球の景色を思い出します。
それは、子供の頃-
東北の田舎のお爺ちゃん、お婆ちゃんの家に遊びに行った時の景色です。その景色と良く似ています。遠くでは、カラスがカァカァと鳴いている。
夕焼け空で、いつまでも遊んでいる私に『早く家に帰れ』と言っている様でした。
ですが…
私は旅人なので、帰る家はありません。
少し寂しい気持ちですね。
「ふぅううう~」
とにかく、新技は完成しました。
まぁ、有料ですけど。
一応、攻撃手段は確保する事が出来ましたね。ん~それでパンチ1発5000Gだから、え~と今回は20回発動したので、合計は10万Gですね。理不尽な出費ですが、新しい技の開発費用と思えば、仕方がないわね。
それに-
まだ残り90万Gもありますからね。
道端に座り、静かに夕陽の空を眺める私。
「はぁ~、疲れた…」
そして、呟く。
それなりに身体を動かしたので、疲れましたね。
そうそう、自販機とかあればな。缶コーヒーとか買って、疲れを癒したいですけど…地球じゃないし、そんなの無いですけどね。
「お疲れ様~!!」
「あっ、向こうに自販木があるよ~!!」
「飲み物でも、買おうよ~!?」
ゼニィーが言う。
「「「えっ、自販機あるの!?」」」
「いや…自販木くらい、どこにでもあるでしょう。何、言ってるの~!!」
ゼニィーは呆れた感じで言う。
「あっ、そうなのね…」
まさか、地球と同じ様に自販機があるとは…
とりあえず、私はゼニィーに言われた方に行ってみますと。
「…」(私)
「ゼニィー…」
「これ、何の木ですか?」
そこには、不思議の形をした木がありました。他の木より、一回り大きな幹には、自販機と同じ様に商品の見本とボタンが設置されている。というか、もう木の形をした自販機ですね。
「いや、これが自販木だよ~!!」
「えっ、自販機…!?」
(いや、もしかして…)
(自販機の機の部分って、木なんじゃ…)
「もう、本当に何も知らないんだね~!!」
「これは冒険者ギルドが、色々な場所に設置している魔法具だよ。飲み物とか、軽食とか、回復薬とかのアイテムが売ってるよ~。この魔法具はね、街道を行き交う旅人、冒険者、商人達が休憩したい時に、手軽に飲み物や食べ物が手に入る様にする為、設置されているんだよ~!!」
「はぁ、そうなんだ…」
まさか、この世界にも自販機みたいな物があったとは…
いやいやいや、確かにそんなのあったわね!!
ゼニィーに言われて、自販木の存在を思い出す私。
そういえば、その昔…コーレン副団長が、任務の帰りに第2分団の皆に缶ジュースを奢っていたっけな。お疲れ様でしたみたいな感じで。
「よくこの自販木の周りに小銭が落ちてるから、狙い目なんだよね~!!」
自販木の辺りを見回しながら言う、ゼニィーさん。
「「いや、くだらない事するんじゃないわよ!!」」
私はため息を吐きながら、啖呵をきる。
「でも自販木で飲み物が買えるなんて…ボク達、凄いリッチになったよね~!!」
「その程度で、リッチなの!?」
「はぁ、安いリッチね…」
とりあえず、自販木を見てみますと、缶コーヒーが売っていました。丁度良いわね。これを買いましょう。私は、お財布からお金を取り出そうとするが…
「!!」(私)
「あれ、お金どこいった!?」
お財布の中には、お金が入っていません。
そして、代わりに領収書が入っている。これはマネーカウンターを使った際の領収書でしょうか。私は、領収書を見てみますと…
『領収書』
マネーカウンター使用×20回 ※使用料1回5万G
合計 100万G
「「ええええっ100万Gって、どうゆう事…!?」」
「1回5万Gて…いや5000Gじゃないの!?」
驚愕する私。
「ゴメン、ゴメン~!!」
「1回5000Gじゃなくて、5万Gだったみたいだね~!!」
「桁を1つ間違えました…」
「…」(私)
「ほら、精霊って基本アバウトだからさ…」
ゼニィーは、冷や汗を掻きながら言う。
「「いや、精霊のせいにするなアアアアアアアア-!!」
私の叫びは、夕焼けに消えていきます。
所持金が、全て消えました。