寂しい山脈の冒険(part9) ~悩み~
天魔の山脈、星屑の天蓋を出発した翌日-
途中、何度か休憩を挟んだ後、私達は山の麓に到着していました。送ってくれたグリフィンとも、ここで別れを告げて、今はサウスヴェルの町に向かって歩いてます。
私は…茂みや小さな野山に囲まれた、静かな田舎道を進んでいく。天気は、紺碧の空に綿飴を千切ったみたいな雲がプカプカと浮かぶ、晴天ですね。
「ヒュウウウウウウウウウウウウウ-」
時折-
爽やかな風が吹いて、私の髪をヒラヒラと揺らします。あと狐や鹿ですかね…動物達が茂みからちょくちょく顔を見せて、私の横を通り抜けていく。
んん~、自然豊かな里山を歩いているみたいですね。清々しい気分です。
いや、本当にね(強調)!!
「イブって、高い所がダメだったんだね~!!」
「それで、よくグリフィンに乗ろうと思ったね~!!」
ゼニィーは言う。
「…」(私)
「「う、うるさいわね!!」」
そうそう、何故グリフィンにサウスヴェルまで送って貰わなかったのか?と言いますと、何か…私、高所恐怖症だったみたいです。
地球にいた頃の私は、多分そんな事は無かったと思うんですけど、前世の私の方がそうだったのでしょうか。
ん~、前世の私…
そんなんで、よくグリフィンをパートナーにしようと思ったわね。私も、ゼニィーが言った事をそのまま、前世の私に言いたかった。
まぁ、そんな事情もあり…
最初は、グリフィンに乗れた感動が打ち勝っていたのか、大丈夫だったんですけど、次第に恐怖がジワジワと湧いてきたのです。天魔の山脈を乗り越えるまでは、何とか耐えていたんですけどね…
多分、グリフィンにはもう乗れないですね(泣)
「ハァアア…」
ため息を吐く私。
「もうすぐで、サウスヴェルかな~!?」
「人ともチラホラとすれ違うね~!!」
「いや、まだ距離はあるわよ」
まぁ、一応…降り立った山の麓は、もうサウスヴェル領ですけどね。廃れていたパーシャとは違い、こっちは栄えていますので、それを証明する様に、チラホラと人とすれ違います。
まぁ…と言っても、数人位ですが。
サウスヴェルの町までは、まだ数百キロはあります。徒歩で数日はかかるでしょうか。
「そうだ、ゼニィー…」
「わざわざ、山の麓で降りた理由は、これだけじゃ無いわよ」
「えっ、そうなんですか~!?」
「サウスヴェルは多分、呪具を持った悪い人達の巣窟よ。そこで呪具を壊すとなると…もしかしたら、激しい闘いになると思うわ。防御面では、バリアがあるから心配ないと思うけど、攻撃面では不安がありすぎる…」
「だから、到着するまでに少しでもスライムとかの害獣を倒して、経験値を得て、強くならないといけないわ。今まで得てきた経験値は、ミズナさんに果ての魔法を使った反動で、水の泡になってしまったからね」
そう-
果ての魔法を1回使うと、反動で経験値が0になってしまうのです。私が今まで…コツコツと害獣(主にスライム)を倒して、積み上げてきた経験値は、全て水の泡になってしまったのです。
特に、パーチカ村のスライム討伐で得た経験値が無くなった事は痛いわね。あれで大分強くなった気がしたので、残念です。
「今更、経験値を稼いでも、意味が無いんじゃないの~!?」
「スライムやゴブリンを少し倒した位じゃ、大して強くならないよ~!!」
「今のイブの魔力は幼児並みだし、そこから普通の冒険者並みに強くなるだけでも、相当の年月がかかると思うよ~!!」
「うう、そんなにハッキリと言わなくても…」
「果ての魔法があるから、別に良いんじゃないの~!?」
「果ての魔法は、もう使いたくないわ…」
「反動が強いから、お守り程度としての認識よ。ヴェルフィン村ではさ、グリフィンのアンデッドにやられ放題だったじゃん。あんなやられ放題じゃ、これから先…ダメなんじゃないかと、ふと思ったのよ」
「もう少しこちらから、攻撃が出来る手段が欲しいわね」
「ふ~ん、攻撃する手段ね~!!」
「本当はね、私…バリアにだって頼りたくなんだからね。折角、立派な剣があるんだから、これで防御したり、攻倒したいわよ。それが普通の闘い方よ。そう、私は只ね…」
「剣で闘いたいのよ…」
私は、本音をポロリと言う。
「ふ~ん、そうなんだ…」
「剣は只の飾りのつもりで、持っているのかと思ったよ~!!」
「…」(私)
「ハハハハ…」
「確かに、ゼニィーの言う通りね。今更、経験値を少し積んだ所で、何も意味が無いのかもね。アアア~ア、じゃあ他に何か攻撃する方法とかないかしら!?」
「う~ん、そんな事言われてもね…」
「ボクは、防御専門の非戦闘員だからな~!!」
「攻撃の事なんて…」
「強いて言うならば、バリアカウンターかな~!!」
「「えっ、バリアカウンター!?」」