130話 草花の王冠
「ブクブクブクブク…」
氷が割れて、湖の中に落ちる私。
そういえば、この身体って泳げるのでしょうか。
いや、泳げそうに無かった。必死に、水の中をもがいても全く浮上する感じがしない。でも、不思議と苦しくないのは。バリアのお陰でしょうか。
何て、呑気な事を考えていると、どんどんと真っ暗な水の中に沈んでいく。
ちょっと、ヤバいかも(汗)
「「ガシイイイイイ-」」
「!!」(私)
すると-
私の手を誰かが、ガッシリと掴んだ。
「「「バシャアアアアアアアアアアアアア-ン!!」」」
そのまま、勢い良く湖面から飛び出た私!!
どうやら、誰かが沈みゆく私を引っ張り出してくれたみたいでした。誰でしょうか、ミズナさんか!?
「雑魚で、悪かったな!!」
「!!」(私)
私の目の前には、ゴツい身体をした男の人が立っていた。そして、私に手を差しのべながら、謎の事を言う。んん~この人は、確か…ミズナさんがアンデッドとして、蘇らせたミズナさんのお父さんでしたね!!
「ミズナさんのお父さんですね、初めまして!!」
「いや、俺は冒険者のスギウラスだ!!」
「ミズナさんのお父さんじゃ無いぞ!!」
「!?」(私)
(えっ、どうゆう事…!?)
「ん~とね…この人は、私に闘いを挑んだ冒険者の方よ。お父さんと、間違ってアンデッドにしていたみたい、ハハハハ…」
ミズナさんは、苦笑いしながら言う。
「…」(私)
((いや、ミズナさん適当だな!!))
最早、村人でもないよ…
「まぁ…確かに、お前と比べると俺は雑魚なのかも知れないけどな。これでも、俺はこの大陸ではトップクラスの実力を持つ冒険者だったんだぞ!!」
スギウラスさんは、言います。
「いや、雑魚なんて言って…」
「!!」(私)
あっ、そういえば、果ての抱擁を発動させる前に、そんな事を言った様な気が。ですが、あれは流れで言っただけで、そんなつもりは…
私は、スギウラスさんに謝ろうとするが-
「す、すいませんでした…」
先に、ミズナさんが謝った。
スギウラスさんは、しばらく無言でミズナさんを見ていましたが…
「本当は、剣で斬りたい所だが…悪霊じゃ斬れないからな。いや、そもそも悪霊という魔物は、もうここには存在しないよ」
スギウラスさんは、笑いながら言った。
そして、今度は私を見て…
「イブよ!!」
「お前は、ミズナさんとグリフィン達を仲直りさせたいんだろ!?」
「それならば、俺はその意向に意見する事は出来ないのさ!!」
「えっ、そうなんですか…?」
「冒険者は基本的に、実力主義だからな。自分より力が上の冒険者…つまり、星の数が上である冒険者に対しては、最大限の敬意を払い、その冒険者の意向や指示に従い、魔獣討伐を行わなければならないのさ!!」
「ふ~ん、そうなんですね…」
つまり、例えるならば…
相撲の番付でしょうか。
「因みに、俺は5つ星の冒険者…世間からは、英雄と呼ばれるファイブスターなのだ。人は皆、俺の事を親愛のスギウラスと呼ぶ…いや、そう呼ばれていた。得意技である親愛の凝香を駆使して、この大陸全土の平和と秩序を守っていたイケてるナイスヒーローなんだぜ!!」
「おお…」
「す、凄いですね」
「いや~、だけど…」
「その親愛の凝香が、効かなかった事には参ったけどな~!!」
「そうそう、それで…ファイブスターに、対等に意見が言えるのは、一国を治める王族や高位の貴族、または大国の全ギルドを統括しているギルド総長…ギルドのトップマスターくらいだ。英雄ともなると、それくらい立場が上の人じゃないと、何も意見をする事が出来ないんだよ。これは冒険者の…いや、この世界のルールなのだ!!」
「そ、そうなんですね…」
「イブよ、お前の星はいくつなんだ-!?」
-お前は、シックススターなんだろ!?-
「あ~、そういえば…」
そんな設定がありましたね。
でもスギウラスさんは、何で知っているのでしょうか。
「まぁ、ルールの話しは、さておいてな…果ての抱擁は、まだ終わっていないぞ。むしろ、ここからが本番なのだ!!」
「俺は、何の為に湖に潜っていたと思う…?」
「…」(私)
スギウラスさんは、草花で作られた王冠を持っていた…
「この王冠は、湖の奥底でミズナさんのミイラが大切そうに持っていた物だ。イブ達が話している間に、貰って来ました。ミズナさんよ、この王冠は…誰に渡そうとして、作ったんだい!?」
「そ、それは…」
ミズナさんは、答える。
「「少し時間がかかったが、今まさにその時じゃないか!!」」
スギウラスさんは、ミズナさんに草花で作った王冠を手渡す。
「「ビュウウウウウウウウウウウウウウ-!!」」
「ヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラ-」
朝陽に照らされた、星空の天蓋に強い風が吹き荒れる。
これは、つむじ風でしょうか。
つむじ風に、巻き込まれた草や花びらは、ヒラヒラと天に向かって、舞い上がります。丁度良く水滴に濡れた、それらは陽射しに反射して、キラキラと輝きながら、私達の周りを覆う。
「ザっザっザっザっ…」
そんな花びらが舞う中で-
グリンちゃんは、静かにミズナさんに近付きます。
近付くグリンちゃんに…
ミズナさんは、王冠を被せた。
只の草花で作った王冠は、グリンちゃんの頭にピッタリと嵌まっていました。この王冠は、グリンちゃんに作った物だったのですね!!
そして…
グリンちゃんとミズナさんは、抱き合います。
「「バチ-!!」」 「「バチ-!!」」
「「バチ-!!」」 「「バチ-!!」」
「「バチ-!!」」 「「バチ-!!」」
「「バチ-!!」」
「「バチ-!!」」 「「バチ-!!」」
「「バチ-!!」」
「「バチ-!!」」 「「バチ-!!」」
「「「!!」」」(私)
突然-
どこからか、聞こえてくる万雷の拍手!!
大勢の人達が、拍手しています。
私は、咄嗟に辺りを見渡すが…しかし、拍手をしているのはスギウラスさんとクロケットさんだけです。これは一体、誰の拍手の音なんでしょうか。
「魔法の威力が強すぎて、天使まで呼んじゃったのかもね~。安らぎの匂い系の魔法は、親和獣を呼び寄せる効果もあるんだよ~!!」
ゼニィーは言う。
「これぞ、まさに果ての抱擁だな!!」
続けて、スギウラスさんも言う。
「そ、そうですね…」
グリフィンを撫でる、ミズナさんは-
どこにでもいる様な、長閑な村の少女でした。
悪霊だった時は…最初から無かった様な
只の少女に、戻っている感じでした。
もしかして、もう私の事も忘れてしまっているのでしょうか-
「…」(私)
そういえば、その昔…
この村で、似た様な光景を見た気がしますね。
まぁ、それもそのはずです。私はヴェルフィン村が好きで、何回も行っていましたからね。お気に入りの場所でしたから。
私も、この村にやっと到着した様な…
そんな気分です。
「イブよ…お前、密猟者を倒すんだよな!?」
「それならば、俺も是非、協力させて頂こう!!」
「えっ、良いんですか!?」
ボーっとミズナさんを眺めていた私に…
スギウラスさんは、提案する。
しかし-
「まぁ、今は無理そうだけどな。ミズナさんの魔法が解けた今、朽ち果てた肉体は土に還るだけさ。形ある物は、いつか必ず崩れてしまう。だけど、その逆に形の無い心…魂は、永久に不滅なのさ。これは、この世界…いや、この宇宙のルールなのだ!!」
「な、なるほど…」
力強く言うスギウラスさんに、納得してしまう私。
「だから、この心があれば、何回でも蘇るのさ。また新しい肉体を手に入れた暁に、巡り会おうぜ!!」
「は、はい」
「宜しくお願いします!!」
俺は、親愛のスギウラス-
この大陸全土の平和と秩序を守るナイスなヒーローなんだぜ!!
しかし…
今や、この大陸…
いや、この世界は漆黒の闇に覆われてしまっている。
俺の使命は、この世界の平和と秩序を再び取り戻す事だ。その魂に懸けて、すぐにでも準備を整えて貴方の所に参りましょう。
-そう、すぐにでもな!!-
スギウラスさんは…
ミズナさんの肩に手を置き、ニヤリと笑いながら言った。
-貴方は、旅の人なの?-
-ようこそ、グリフィン村へ-
ミズナさんは、不思議そうに私達の事を見ながら言う。その顔は、あまり状況が理解出来ていない様な表情をしていた。
まぁ…まだ、あどけない子供ですからね(多分)
「キラ-」 「キラ-」 「キラ-」
「キラ-」 「キラ-」 「キラ-」
「キラ-」 「キラ-」 「キラ-」
「キラ-」 「キラ-」
その内に、本格的に朝になり始める。
強い朝陽を浴びたミズナさんの身体は、キラキラと消え始める。
そして、スギウラスさんを始めとするアンデッド組の身体は、ボロボロと崩れていく。どうやら、死者の怨言葉の効果が終了したからでしょうか。
皆、目の前から消えていく。
今までの流れで、何となく分かっていましたが…
やっぱり皆、成仏して消えてしまうのですね。
朝陽が完全に昇ると-
ゼニィーと私の目の前には、只々広大な湖だけが寂しく広がっていた。