雨の町の冒険(part7) ~カコシさん~
あの2人の悪霊コンビを倒した後-
私達は、すぐに巨大な魔法陣の前に来ていました。
特に、妨害をされる事も無く。
私達を妨害していた沢山のゴーレム兵やサラマンダー達も、今は身動きをせずに立ち尽くしていました。これは、指揮官を失ったからでしょうか…
「ジリジリジリジリジリジリジリジリ…」
「…」(私達)
まぁ、それはさておき…
泥と血で作られた巨大な魔法陣からは、黒く蠢くカコシがジリジリと湧き出ています。
これが、カコシの発生元みたいですね。
「では、やるわよ…」
「お願い、ルイア…」
ルイアは、魔法陣に向かって、ゆっくりと剣を振りかぶる。
そして、魔法陣を壊そうとすると―
【【【ちょ、ちょっと、何してんのよ!!】】】
「「!!」」(私達)
突然どこかからか、声が聞こえた。
しかし…辺りを見渡しても、誰もいない。
【【魔法陣を壊そうとするなんて…】】
【【ルイアちゃん、一体どうしたのよ!?】】
【【それを壊したら、今までの私達の努力が全部水の泡になっちゃうわよオオオオ!!】】
誰かが、必死にルイアを呼び止める。
【!!】(?)
【あっ…】
【ちょっと、待ってちょうだい】
謎の誰かが更に、そう言うと…
魔法陣の上を漂っていた黒く蠢くカコシが、不気味な音を立てて、渦巻きながら1ヶ所に集まっていく。
【ズズズズズズズズズズズズズズズズ…】
((ま、まさか…))
ここで、ルイアが言っていた巨大な目が登場するのでしょうか。
何となく、そんな感じがしました。
【あっ、やっと上手くいったわ…】
「「!!」」(私)
(あ、あれっ…?)
しかし、出現したのは巨大な目では無く、巨大な口であった。
本当に口だけです。巨大な口が、宙に浮いています。私、個人的には…100年以上前に、ルイアの前に姿を見せた巨大な目かと思いましたけど。
「もう100年以上経っているし、目から口にイメチェンでもしたんじゃないの~!?」
ゼニィーは、言います。
あ~、なるほどね…
私は、恐る恐る聞いてみます。
「あの~…」
「貴方、目だったんじゃ…?」
【んっ…?】
【私は元々、口よ!!】
「は、はぁ…」
となりますと、この巨大な口は…
あの巨大な目とは、また別人…いや、別の人の口なのでしょうか。それから巨大な口、曰く最近になって口の姿になり話せる様になったが、まだこの姿になるのは慣れずに時間がかかるらしい。普段は、闘うルイアの事を静かに見守っていたそうです。
【私…その時が来るまで、あまり自由に動く事が出来ないのよねぇ】
【全く、不便なものね…】
「…」(私)
(ま、まるで、魔法陣が…カコシが…口の姿になって、私達に話しかけている感じがした)
【貴方が言っている『目』の事って…】
【多分、私の先輩である『目の悪魔』さんの事よ!!】
「は、はぁ…」
(目の悪魔…?)
【でも、残念だけどね…】
【先輩は、今は色々あって封印されちゃっているのよね】
【先輩は、大昔からね…私達の楽園を創ろうと頑張っていたみたいだけど、本当に色んな人達から邪魔をされていたみたいで…それで最近は、歳のせいもあってか、かなり力も衰えていたからね。ついに、その姿を発見されちゃって、捕まって…封印されてしまったよ】
「…」(私)
【結局、先輩は…念願を叶える事が出来ないまま、二度とこの世界に出て来れない様に、封印されてしまったわ。先輩は、とても苦労人よ。そして、その努力は報われる事は無かった】
【ああ~、なんて可哀想な先輩…】
【私も、まだ助けに行ける様な状態では無かったから!!】
【【【本当にイイイイ―!!】】】
【ごめんなさい】 【ごめんなさい】 【ごめんなさい】
【ごめんなさい】 【ごめんなさい】
【ごめんなさい】 【ごめんなさい】 【ごめんなさい】
【ごめんなさい】 【ごめんなさい】
【ごめんなさい】 【ごめんなさい】 【ごめんなさい】
【ごめんなさい】 【ごめんなさい】 【ごめんなさい】
【ごめんなさい】 【ごめんなさい】
【ごめんなさい】 【ごめんなさい】 【ごめんなさい】
【ごめんなさい】 【ごめんなさい】
【ごめんなさい】 【ごめんなさい】
【ごめんなさい】
「そ、そうなんですね…」
「あ~、冷静になって下さい!!」
私は、巨大な口をなだめます。
【あっ、ごめんなさい、ごめんなさい】
【少し、取り乱しちゃったわ…】
「…」(私)
巨大な口は-
その後も、ペラペラと話す。
巨大な口、曰く…
『目の悪魔』が封印された事については、たまたまパーシャを通りかかった、亡骸ス(ナキガラス)から聞いたとの事です。
亡骸スとは…
世界中を飛び回りながら、屍肉を漁っている見た目はカラスっぽい魔鳥らしい。目の悪魔の先輩は、亡骸スによく餌付けをしていたので、亡骸スから懐かれていたそうです。
「亡骸スか~!!」
「精霊の国にも、たまに来るよー!!」
「アイツら、ボク達の事を『アホ~』とか『バカ~』とか悪口を言って来る嫌なカラスだよ~!!」
ゼニィーは、言う。
精霊の国では、亡骸スでは無く、馬鹿ラスと呼んでいるらしい…
【ふ~ん、精霊の国ね…】
【そうそう、精霊の国と言えば…落ちている小銭を1日中探している変な精霊がいると聞いたわね。本当にそんな精霊って、いるのかしら!?】
「はぁ、アンタ、何を言っているの~!?」
「そんな変な精霊、いる訳…」
そう言いかけて、言葉に詰まるゼニィー。
「「コラー!!」」
「「ボクを変な精霊って、言うなー!!」」
【んっ、どうしたの…?】
「…」(私)
【そうそう、ルイアちゃん!!】
【やっぱり、貴方…私の見込んだ通り、素晴らしい才能の持ち主だったわね。僅か100年ちょっとで、こんなに沢山の魔法薬を生み出すなんて…とても、ビックリしているわ!!】
【私を育んでくれて、どうも有り難うね!!】
そして、ルイアにお礼を言う巨大な口。
「いえいえ、そんな…」
【…】(巨大な口)
「…」(私達)
【【いやいやいや-】】
【【そんな事よりもこれは一体どうゆう事なの、ルイアちゃん!!】】
【【世界を平和にしてくれる、この魔法陣を守る事が貴方の使命だったんじゃないのっ!?】】
巨大な口は、思い出した様に慌ててルイアに問う。
「貴方との…」
「悪魔との約束は、もう終わりよ」
「「私は、もうこの闘いを終わりにするわ!!」」
ルイアは、カコシの元凶となっている魔法陣を守る闘いは、もう終わりにしたいと申し出た。
【【ええええっ!!】】
【そ、そうなの…ルイアちゃん】
【ショボーン…】
【まぁ、私も良かれと思ってルイアちゃんに協力していただけだから…】
【止めるのも、続けるのも貴方の自由よ。ルイアちゃん】
巨大な口は、ションボリしながら言う。
「…」(私)
これは、もしかして話し合いで何とかなりそうでしょうか。
そんな、期待を抱く私。
「「「「「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオ―!!」」」」」
「「「「「メラメラメラメラメラメラメラメラ―!!」」」」」
「「「「「「ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド―!!」」」」」」
町を呑み込こみながら
渦巻く炎の勢いは、その勢いを更に増していた。
まるで、ガスコンロの火力を弱火から強火にした感じです。
「「「「「ガラガラガラガラガラガラガラガラ―!!」」」」」
「「「「「ガシャアアアアアアアアアアアアアアア~ン!!」」」」」
(((ドロドロドロドロ…))) (((ドロドロドロドロ…)))
(((ドロドロドロドロ…))) (((ドロドロドロドロ…)))
炎の熱と吹き荒れる熱風に耐え切れなくなった建物は、ガラガラと音を立てながら崩壊していく。そして…見れば、あの耐火性能に優れたゴーレム兵やサラマンダー達がドロドロに溶けていた。
そんな、迫り行く…
天まで届きそうな、燃え盛る地獄の業火を
巨大な口は、無い目で只々…
静かに見つめている様な感じであった。
「…」(私)
(ピコーン!!) (ピコーン!!)
(ピコーン!!) (ピコーン!!)
あっ、体表バリアが点滅している。
これは、つまりバリアを容易に壊す力を有した敵が、近くに存在すると言う事ですが、そんな敵なんて…これは、只の誤作動でしょうか?
だって、ゼニィーは悠久の時を生きているそうですが…その中で、今まで点滅した事は3回しか無かったとの事ですから。その内の2回は、誤作動だったみたいです。
「「「「「「「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ―!!」」」」」」」
【だけどね、ルイアちゃん―】
(だけど、何…!?)
巨大な口は、口を開く。
【この世界には、道理があるわ】
(ど、道理…!?)
【もし、止めたいと言うならば…】
(言うならば…!?)
【【【お前が今までの作り出した膨大な怨念と呪薬を、全て片付けてからにして貰おうかアアアア!!】】】
(やっぱり、そうですよね…)
「「「「「カアアアアアアアアアアアアアアアアア~!!」」」」」
巨大な口が、急に口調を変えて話すと―
巨大な魔法陣が強い光を発する!!
「「危ない、イブっ!!」」
「えっ…!?」
「「「「「「「ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ―ン!!」」」」」」」
「「ウワアアアアアアアアアアアアアアアア~!!」」
ルイアは、咄嗟に私を抱えて遠くに回避する。
「「「「「ドドドドドドドドドドドドドドドドドド―!!」」」」」
「「「「「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ―!!」」」」」
「「「!!」」」(私)
魔法陣が突然、大爆発したのだった!!
魔法陣があった場所からは、凄まじい風と共に、大量のカコシが黒煙の様に止めどなく放出されている!!
そして―
更に空を見れば、空を覆い尽くしていたカコシの雲も…渦巻く様に下に降りてくる。
【【【【【【【ズズズズズズズズズズズズ―!!】】】】】】】
それらは、全て一ヶ所に…
―巨大な口に集まっていく―
この異空間に存在する全てのカコシが、一ヶ所に凝縮していくだ。
これから一体、何が起きるのか!?
私達は只、呆然とその光景を眺めていた。
そして、次第に吹き荒れる風が止んでくる…
【…】
【…】
【…】
―目の悪魔の先輩は、私にアドバイスをしてくれたわ―
【例え…この世界を平和にする魔法薬を世界に放ったとしても、そこにはそれを打ち消してしまう憎き強者達がいると―】
【だから、まず最初にソイツらを直接殺しに行けとね。この最恐の鎧を身に纏って…】
【ふぅ…】
【本当は…もう少し魔法薬を集めてから、この姿になりたかったんだけど、まぁ仕方無いわね】
―それは、巨大な騎士みたいな姿をしていた。
大きさは、超巨大サラマンダーと同じくらいでしょうか。巨大な騎士の全身は、黒く蠢く漆黒の鎧を纏っている。そして、漆黒に染まった巨大な騎士の顔には、あの巨大な口がスッポリと収まっていた。
巨大な口も…
巨大な騎士の顔に収まると、普通の口に見えるサイズでした。
「ヤバいね、アイツ…!!」
ゼニィーは、何かを悟った様に言います。
ゼニィー曰く、感じる魔力量は同じ騎士でも、先程倒したナハリタと比べ物にならないらしい。ナハリタが数百人、数千人…いや、それ以上にいる様な途方も無い絶望的な魔力を発しているとの事です。確かに私にも、ヤバい何かを感じる。その圧倒的な威圧感は、超巨大サラマンダーが只のすばしっこいトカゲに思えてしまう。
ルイア、貴方…
物凄いものを生み出してしまったわね。
【これが…貴方が、今まで作ってきた物の全てよ】
【ルイアちゃん…貴方と私は、今まさに世界を創り替えようとする闘いのスタートラインに立っているのよ。本当は、ここまで来てしまった貴方に もう “止める” という選択肢は存在しないんだけど…】
【それでも、もし止めたいと言うのならば―】
【フフフフ…この私を、綺麗に清算してくれるかしら?】
巨大な騎士はニヤリと笑い、そう言った。




