124話 親愛の凝香
-貴方は一体、どんな魔法を使ったの?-
その少女が、魔法を唱えた瞬間-
その少女の掌の上には、豆電球の様な小さな白い光がポツンと1つ浮かぶ。そして-
そこから、一気に凄まじい烈風が吹き荒れた。
「「「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオ-!!」」」
その吹き荒れる風は、真冬の様な凍てつく風では無く
春の訪れを感じる様な、ほんのりと暖かく
若葉と花の香りが混じる、心地よい風であった。
まるで、晴れ渡る大草原の中に1人立っていて、強い風を受けている様な清々しさに包まれる。
ああああ、この感じは-
魔獣使役の魔法を極めた者が使える、親愛の凝香だろうか。
前にも、私に闘いを挑んだ冒険者が放ち、頭がクラクラとしてしまった面倒臭い魔法だが…所詮はその程度で、簡単に打ち消す事が出来た。
私は-
打ち消そうと、闇の魔法を発動させようとするが-
「「「な、何っ!!」」」
私は、驚愕して目を丸くする!!
その少女を取り囲んでいたグリフィン達には、何と-
目が嵌まっていたのです!!
そんな事、あり得ない!!
そして更に、そのボロ雑巾の様に汚れたグリフィンの毛並みは、まるで全身をシャンプーをして洗って、ドライヤーをかけたかの様に、綺麗に整っていた。傷付いた身体も、治っている。
「…」(私)
グリフィン達は、少女の周りに集まり許しを乞うていた。
襲ってしまった事を謝っているのか。
少女も、それを受け入れて許しているそうで…
頭を撫でていた。
背筋が凍る程、異様な光景だ-
悪霊の私的には、何かヤバい感じがした。
私は、あらゆる闇の魔法を発動させて、吹き荒れる春の烈風を止めようとするが…いや、少女の掌に灯った小さな光に向けて攻撃をするが。
全然、意味が無かった。
とても、近い距離のはずなのに何故か
攻撃が届く前に消えていく。
それは-
夜空の星に向かって、攻撃しているかの様な虚しさを覚えた。
とても、近そうに見えて…手が届かない。気付けば、あっという間に魔力を使い切っていた。
次第に-
辺りは金色になり、更に輝きを増していく。
何故だろう…
瞬きすれば、する程にグリフィンと戯れる少女の姿が、私の姿に重なっていく。
(((ま、眩しい)))
-私は、眩しさにそっと目を閉じた-
「「ヒュウウウウウウウウウウウウウウウ-!!」」
「「ゴオオオオオオオオオオオオオオオ-!!」」
吹き荒れる風の中から、声が聞こえてくる。
「ワイワイ…」 「ガヤガヤ…」
「ワイワイ…」 「ガヤガヤ…」
「ほらほら、皆集まって~!!」
「はい、そのまま、そのまま…」
「絵を描くから、しばらく動かないでくれ」
「え~…」
「しばらくって、どれくらいなの?」
「んっ、3時間くらいかな」
「「いや、長いよ!!」」
「今日は、本当に澄み渡る良い天気だ!!」
「バックの広大な山並みも、クッキリと見えてるし…これは、とても良い絵が描けそうだな」
「本当に、絵の事ばっかりなのね…」
「「ハハハハハハハハハ~♪」」
「…」(私)
懐かしい声が、沢山聞こえてくる。
「そういえば、ミズナはどこに行ったんだ?」
「アイツも、絵の中に入れたいんだが…」
「えっ、ミズナ…?」
「そういえば、向こうで人形遊びをしていたわよ」
「相変わらず、人形遊びが好きなんだな…」
「グリンよ、ミズナを呼んで来てくれないか!?」
(あっ、私ならばここに…)
その時で、あった-
-さぁ、皆がいるわよ-
「「「「「!!」」」」」(私)
突然、後ろから誰かが抱きついた!!
そして、私の声で…私の耳元で言った。
私は、驚いて目を開ける!!
「あっ-!!」
目を開くと、そこには-
私の目的だった、かつての幸せの日々が目の前に広がっていた。
澄み渡る青空から降り注ぐ日差しは、村を燦々と照らす。
少し先に見える広大な山並みには…ウッスラと白い雪がかかり、それが日差しに反射して、ダイヤモンドの様にキラキラと煌めいていた。
ここは、ヴェルフィン村の広場だ-
そこで村の皆とグリフィン達が集まって、私の事を見つめていた。
私は、皆に声をかけようとするが-
それと、同時に景色が戻る。
そこには、相変わらずグリフィンを撫でる少女の姿があった。
(な、何だ、幻か…)
でも、昔は…
こんな感じで、皆と仲良く暮らしていたんだっけな。
当時の感覚が、ジワジワと沸き上がってきた。
-仲直りをしよ-
そして、あり得ないワードが、私の頭の中に浮かんでいた。
でも、仲直りって…
だって、私の村は…ある日突然、グリフィン達に襲われてしまって、全てを壊されてしまったのだから。昨日まで、とても仲良く暮らしてたのに。
一体、どうして!?
そう、あれは-
いつも通りの長閑な日だった。