12話 2次会(前編)
スターレス団長の送別会が終わった後-
私達…第2分団のメンバーは、明日は休みという事もあり、別の酒場に移動して2次会をしていました。
時間は、もう22時をまわっている。
先程の送別会の様な、騒がしい雰囲気とは違い
今度は皆、静かに飲んでいた。
「いや~、スターレス団長、凄いですよね」
「そして、とても嬉しそうでしたね」
私達は、改めてスターレス団長の凄さを話していました。
今回、スターレス団長が任命された総団長というのは、長らくこの王国には置かれていませんでした。昔はあったそうですが、不在のままであった。
今回…久しぶりに、総団長が置かれた形になりますので、今…国中が『総団長が帰ってきた』とか『総団長が復活した』とかで大いに沸いております。
この王国の歴代の総団長はー
国中の騎士団を率いて、竜を退治してきたそうです。
…と言うのも、この王国が歩んできた歴史とは、竜との闘いの歴史であるからです。
この王国…いや、この王国のある大陸は、とても広大であり、そのどこかには竜の住み処があるとされています。そして、100年に一度くらいの頻度で、どこからともなく飛来した竜が人々の町を襲っているのです。
それは魔獣というよりかは、災害に近い存在です。
最後に…
竜が飛来したのは50年前の事になり、当時の総団長が最後、竜と相討ちになり、倒したそうです。そして、そのまま総団長の席は空いたままになっていました。
今回、突然王国が総団長を任命したのは、これから来るであろう竜を見越しての事なのでしょうか…
しかし、まだ時間的には余裕はあります。
どちらかといえば、不審な動向を見せるバルキードへの牽制が含まれているかもしれないですけど。まぁ、その辺は良く分かりませんが…
因みに…
この王国における、竜との闘いの歴史をなぞらえた伝承話『操竜伝説』によると、竜を倒した総団長は、竜を操る “操竜” という魔法が使える “操竜術士” の『称号』を得て、この王国を末長く安泰に導いたとされています。
『称号』というのは、ある困難を乗り越えて、条件を満たした時に得る事が出来る “呼び名” であり、その呼び名に即した特別な魔法が使えるみたいです。そして、その称号の “呼び名” は、私達が身分証として持っている『ギルドカード』という特殊なカードに刻まれるらしい。
“操竜術士” という『称号』は、竜を倒した者が得られるそうで…
この王国の歴代の総団長は、竜を倒して、その『称号』を得たとされています。
「…」(私)
…とまぁ、この『称号』の話しは、あくまで伝承話なので、明確な記録も無く、本当に存在するかどうかも定かではないですけどね。
なんですけど…一応、私も魔獣調教士として、この話は気になっている所であります。だって、竜を操るなんて魔獣調教士の血が騒ぎますからね!!
「竜を見た事はないけど、あの人ならば倒せるんじゃないかぁ」
「だって、メチャクチャ強いし…」
「騎士の決闘も、1回も勝った事がなかったからなぁ」
「ハァ…」
コーレン副団長はため息をついて、言います。
『騎士の決闘』というのは…
名前は重々しいですが、只の訓練の一環で行われる騎士同士の模擬戦の呼び名です。
そして、パーシャ騎士団にはスターレス団長が作った特別なルールがありました。それは…もし団長に勝てたら、その騎士が欲しいものなどの望みを1つ、団長が聞いてくれるというものでした。
因みに…私は、それでパンの食べ放題を奢って貰うという約束を団長としていましたね。まぁ…結局、勝てた人は1人もいませんでしたけど。
これは、騎士のやる気を引き出す為の甘い罠といえるでしょう。
手加減してくれるとはいえ、上官との模擬戦は皆、萎縮してしまいますからね…
「ハァ…」
今はスターレス団長を振り返るにあたり、良い思い出話です。
私は、空を見上げて…
いや、ここは酒場の中なので
薄暗い天井を見上げて、少し寂しい感情に浸っていました。
(また、どこかで決闘する事があるかなぁ…)
「…」(私)
それよりも、先程からコーレン副団長の元気があまり無い。
ため息ばかりついている。
それを察したのか、サニーさんはコーレン副団長に話しかける。
「コーレン副団長もおめでとうございます」
「いや、コーレン団長-」
「…」(私)
そうそう、そうなんです!!
スターレス団長が総団長になった話で持ち切りでしたが、コーレン副団長もこのパーシャ騎士団の団長に昇進していたのです。空席となったパーシャ騎士団の団長の席に、コーレン副団長が収まる形になります。
正式には、来月から団長なんですけどね!!
しかし、スターレス団長は明日の朝に諸々の準備などで王都に旅立ってしまうので、実質的な団長は、もうコーレン副団長になるのです。
「おめでとうございます」(私とキャロットさん)
「やったじゃん、団長」
「…おめでとうございます(照)」
私達は思い出した様に、コーレン副団長を称える。
「よせよせ、あまり誉めるのではない」
「…」(私)
(あの~、スターレス団長が乗り移ってますよ…)
まぁ、でもコーレン副団長は息を吹き返したみたいです。
そして、活気付いた様子で饒舌にある話をします。
「冗談だよ…皆、有難う」
「そうそう、後ついでに報告したい事があるんだ」
「俺、こないだスリースターになったんだ」
コーレン副団長は…
自慢気に懐から、そのカードを取り出し、皆に見せます。
「キララアアアアア―ン!!」(謎の効果音)
「凄いじゃないですか!!」(私とキャロットさん)
「マ、マジですかっ!!」
「団長、スリースターになったんですね…素敵(惚)」
「私は、もう知っていたけどね」
コーレン副団長の手に持っていたのは『ギルドカード』と呼ばれるカードであり、そのカードには3つの煌めく星が刻まれていた。