11話 やっぱり飲み会です
「ワイワイワイワイ…」
「ガヤガヤガヤガヤ…」
巨大スライムを討伐した夜、私達はこのパーシャ騎士団のある人の送別会
に参加していた。町の酒場を貸切りにして、パーシャ騎士団の面子はワイワイ、ガヤガヤと楽しそうにお酒を酌み交わしている。
私とルイアも、もう20才だからお酒は飲めるのです!!
しかも、明日は2人とも休みだから今日は心いくまで飲む事が出来ます。
「「最高オオオオ―!!」」
「「今日は、飲むぞオオオオ―!!」」
「「「カンパアアアアーイ!!」」」(騎士の皆)
私は先程、頭によぎっていた不安なんて、もうどこかにいっていた。
そして、これが誰かの送別会という事も…
「おめでとうございます、スターレス団長!!」
「いや…スターレス総団長」
「まさか、この国の総団長に抜擢されるなんて…」
「団長殿は、我がパーシャ騎士団の誇りです!!」
コーレン副団長は横に座る、イカついチョビ髭の大男にそう言っていた。
「…」(私)
そうそう、そうなんです!!
今日は、我がパーシャ騎士団のトップであるスターレス団長の送別会なのです。スターレス団長は来月に、このパーシャ騎士団から異動してしまうのですが、今度は…何と、王国騎士団の総団長に任命されたのです!!
総団長というのは
この王国の全ての騎士団のトップになります。
こんな田舎の騎士団から、その様な大役を担う人が出るなんて…とても驚きであり、このパーシャの町や…我がパーシャ騎士団にとっても、それは大変栄誉な事であるのです。
「スターレス団長、おめでとうございます!!」
「凄いですね、大出世じゃないですか!!」
「スターレス団長、メチャクチャ強いですからね!!」
「尊敬してます、スターレス団長!!」
騎士の皆も、スターレス団長の事を誉め称える。
「よせよせ、あまり誉めるのではない…」
スターレス団長は、そんな皆からの言葉に冷静そうな表情で返していた。
スターレス団長は、その実力は言うまでもありませんが…そのイカつい体格から連想する様な、豪快な性格などでは無く…むしろ、その逆でとても物静かで謙虚な人であった。
そして、シャイな一面も…
スターレス団長は、皆にこう言った。
「え~、オホン」
「私が…騎士団の総団長になれたのも、我が優秀なパーシャ騎士団の皆の活躍があったからこそなのだ。皆がいなかったら、私は総団長には、なれなかった。これは、皆のおかげだ。そして、我が功績など…皆の功績に比べれば微々たるものだ。だから、私には総団長になれた事を嬉しいと思っている暇なんて無いのだ。これからも、至らぬ私は騎士として、変わらずに精進するのみだ」
「お前達も無理がないようにな…」
「そして…栄えある、このパーシャ騎士団の活躍を耳にする事を、遠くから楽しみにしている」
「心より礼を言う。我が…仲間たちよ。有難う」
「スターレス団長…」(私)
「「そんな事言って、本当は嬉しいじゃないんですか!?」」
「「顔に書いてありますよ~」」
「「嬉しくて、照れているんじゃないんですか、団長―!?」」
「「コラっ、イブ!!」」
お酒の影響か、勢いでそう言ってしまった私をルイアが叱る。
無礼講すぎましたね。
「「ゴホゴホゴホ―」」
スターレス団長は、飲んでいたお酒を少し吹き出し…
図星の如くゴホゴホとむせていた。
スターレス団長は、皆から誉められて、顔を少し赤らめていたのです。
「顔が少し赤くなっているわよ、団長」
サニーさんは、クスクス笑いながら言う。
「やっぱり嬉しいですね、団長」
そして、コーレン副団長がとどめをさす。
「よせ…これは、酔っぱらっているだけだ!!」
スターレス団長は…
軽く怒りながら、恥ずかしそうにプイっと皆から顔を背けてしまった。
「…」(私)
う~ん、明らかに照れている。
そんな、このオッサンの仕草は、どこかツンデレ要素を感じさせた。
オッサンのツンデレなんて、全く需要がないと思うのですが…
ですけど、皆は笑っていました。
「「団長…この町から、いなくなっちゃうなんて寂しいですっ!!」」
バルモは、涙ながらにスターレス団長に言う。
「俺は、貴方に筋肉自慢コンテストで勝つ事が目標だったのに…」
「済まぬ…」
聞けば、この町の筋肉自慢コンテストで準優勝だったバルモを抑えて、優勝したのがスターレス団長だったみたいです。
いや、アンタが優勝してたんかいっ!!
「「スターレス団長オオオオ―!!」」
そして-
バルモは感極まって、スターレス団長に抱き付いていた。
抱き付かれたスターレス団長は、どうしたら良いのか純粋に困っていた様で…とりあえず、何も言わず抱き合っていた。
このムキムキの2人の男が抱き合う姿も、全く需要が無いと思うのですが…バルモ、貴方も中々無礼講ね。
ですけど相変わらず、皆は笑っていました。
私を含めて。
「ワイワイワイワイワイ…」
「ガヤガヤガヤガヤガヤ…」
その後もー
こんな感じで、賑やかで騒がしい時間が過ぎていった。
普段は、騎士として皆…大変な思いをして仕事をしているので、その束の間の安堵の時間を楽しんでいる様に思えた。私もその中の1人で、騎士団の皆と酒を酌み交わし、色々な話をしました。
それはそれは、とても楽しい一時でした。
そして…この仲間達がいれば、私はどこまでもいける様な…
そんな感じがした。
どんな苦難があろうと心挫ける事なく、立ち向かっていけると…
「…」(私)
お酒の影響か、表現を誇張しすぎましたね。
ちょっと、恥ずかしいです。
◯
「ワイワイワイワイワイ…」
「ガヤガヤガヤガヤガヤ…」
酒場の喧騒の中でー
相変わらず、スターレス団長は静かにお酒を飲んでいる。
スターレス団長も、今の私と同じ様な事を考えているのでしょうか。
どこか、そんな感じがする表情で…
ワイワイガヤガヤと騒ぐ、皆の事を見ていました。
そして-
「心より礼を言う 我が誇り(パーシャ騎士団)よ」
「ん…?」
スターレス団長の口元が僅かに動き、そう言っている様に見えた。
実際には、何も聞こえていません。口元の動きを見て、その様に言ったのではないかという、只の憶測に過ぎません。
小さく、そう呟いたであろうスターレス団長の言葉は-
辺りの喧騒の中に、消えていきます。
「今…何か言いました、団長!?」
隣に座っているコーレン副団長が聞きます。
「いや、何も言っとらんよ!!」
スターレス団長は照れながら、そう言った。
楽しい一時は、いつまでも心の中に…
そして、時代は移り変わっていきます。