109話 難題
「この星は、とても大きいからね。星の呼び方も国や地域によって、違うんだよ~!!」
「へぇ、そうなんだ…」
「精霊の国では、ベオン星って言っているけどね~!!」
「ふ~ん、ベオン星か…」
(安直にデカイ星とか、ふざけた名前で読んでると思いましたけど、まぁ…普通の名前と言えば、普通の名前なのでしょうか)
「特に名前の由来は、無いけどね~!!」
「精霊の皆でね、響きの良いイケてる呼び名を考えました~!!」
「そういえば、イブは別の星から来たと言っていたね~!!」
「えっと、地球だっけ…!?」
「…」(私)
ゼ、ゼニィーさん…なんと地球の事を聞いてくれるんですね。私は、少しテンションが上がります。
「そうそう、地球で合っているわよ!!」
「私は…その地球の小さな島国に住んでいてね。この広大な世界に比べたら、箱庭の様なギュウギュウな所だったけど、まぁ…それでも、ゲームとか、漫画とか、テレビとか、娯楽が沢山あって退屈はしなかったわ。そして、そこで毎日せっせと仕事も頑張っていたわ」
「まぁ、面白い星だったわよ」
(まぁ、彼女はいなかったけどね)
「因みに…私が今、身に付けている物は全部地球で買った物なのよ。例えば…このパーカーとか、ズボンとか、靴とか、靴下とか…本当に全部ね!!」
「どれも近所の安い店で、適当に選んで買った物なんだけどね。まさかさ、こんな所まで付いてくるとはね!!」
「ハハハハハハ…」
そして―
それらは今では、この世界のどこを探しても売っていないであろう…地球の思い出の品…とても、大事な私の一張羅です。私は、心の中に秘めていた地球への思いが溢れ出たのか、夢中で地球トークをしていました。
「あっ…そ、そうなんだね」
ゼニィーは、引いていました。
「…」(私)
「「「いや、そっちから聞いといて引くんじゃなあああ~い!!」」」
私の声は、輝く夜空に消えていきます。まぁ、私も少し夢中で…地球の事を話し過ぎましたね。ゼニィーが、引いてしまうのも納得です。そんな思いで、私は改めて星空を眺めます。
「…」(私)
(でも、本当の事なんだけどなぁ…)
だって-
私の見た目は、ベオン星出身の可愛らしい女性ですけど…その中身は、地球にいた30歳過ぎのオッサン間近の青年なのです。今でも『住んでいる所は?』と聞かれると、東京板橋区…とボロアパートの住所を言ってしまいそうになるのです。
「ハァ…」
(あっ、そういえば…)
グリフィンを見た時や、キャロットさんに会った時は、また…この身体の人物『イブ』になった感覚になっていましたね。
いつも、気付いたら…
いつの間に『イブ』になっていて、そして気付いたら、また『地球の私』に戻っている。これは、二重人格みたいなものでしょうか。あまり、良い表現が見つかりませんね。
時折、自分が誰なのか、自分でも分からなくなります。
「ピカアアアアアアアアアアア―ン」
(あっ、また流れ星だ…)
遥か空高く、夜空を駆け抜けていく流れ星―
私は夜空を見上げながら、そっと胸に手を当てる。
そして―
遥か遠くに広がる星達に、思いを馳せます。
(イブ…)
(イブ…)
(イブ…)
貴方は、今どこにいるの-?
私の心の中のどこかに、とても小さく潜んでいるのでしょうか。それとも、夜空の星達の様に
とても、遠くから私の事を見ているのでしょうか。
『前世の私…』
そんな、貴方を見つける事は―
この満天の星空から、地球を見つける事くらい難しい気がした。次は、いつ…
私にその姿を見せてくれるのでしょうか。
「…」(私)
(あっ、そうだ!!)
いつか、地球の身体に戻って…この可愛らしい女性をお茶にでも、誘ってみたいわね。それが出来る魔法は、この世界のどこかに無いかしら!?
地球の頃は、一度も女性と2人でお茶に行った事が無い、残念な結果に終わりましたけど…これは、もしかしたらワンチャンがあるのかも!!
私の無かった夢は、少しだけ膨らんだ気がしました。
そう、気がしただけです。
まぁ、只の冗談ですから。
私は、一体何を考えているのでしょうか。
幾億千万の星達に囲まれながら、私は思う。
「「「!!」」」(私)
「ピカアアアアアアア―ン」
「ピカアアアアアアア―ン」
「ピカアアアアアアア―ン」
「ピカアアアアアアア―ン」
(あっ、流れ星の群れだ…)
輝く星でギュウギュウ詰めになった夜空に、幾つもの流れ星が『スイスイスイー』っと、飛び交います。そうそう…子供の時は何故、流れ星が他の星にぶつからないのか不思議に思ったものです。どの星も、とても近い所にあるものだと思っていましたから。
そして、いつも―
「ピカアアアアアアア―ン」
「ピカアアアアアアア―ン」
「ピカアアアアアアア―ン」
『パンの食べ放題に、毎日行きたい』とか『パーシャで一番美味しいパンが作れるパン職人になれます様に―』とか、無邪気なお願いをしていたものですね。
えっ…何故、パンなのかですか!?
それは、私は子供の時からパンが大好きですからね。そして、私の一番最初に思い描いた将来の夢は、パン職人になる事でしたからね。
あっ、そうだ…
今度、パンの食べ放題にでも行きたいわね。誰かと一緒に行きたいですけど…ルイア達は、もういませんので。折角だし…良い殿方とか、いませんかしらね。
例えば…
異世界から来た、頼りになる人とか!!
「…」(私)
(あ~、これは自作自演です。紛らわしくて、すいません)
(そして、虚しい…)
「あの~…」
「1人でニヤニヤとして、どうしたんですか!?」
ゼニィーは、気持ち悪そうに私を見ながら言った。
「ハァ、只の思い出し笑いよ」
「もう、寝ましょうか…」