108話 バッタと星空
私達は味気のない晩飯を食べ終わり、レジャーシートの上でゆっくりとしていました。まぁ…食べた後は、特にやる事はありませんからね。テレビもゲームも漫画もスマホも無いですから。暇と言えば、暇です。
「ソヨソヨソヨソヨソヨソヨソヨソヨ…」
ソヨソヨと弱くて涼しい山の風が、私に当たる。
「…」(私)
(伊勢海老が食べたい…)
この世界にあるはずの無い伊勢海老に思いを巡らせながら、空を見上げる私。そんな夜空には、満天の星が輝いていました。そういえば…この世界に来てから、しばらく経ちましたが、ほぼ召喚した魚しか食べてないわね。
あとは、たまにリンゴとか。
私が召喚する魚も、もう少し美味しかったら良いんですけどね。
煮干しを食べて、飢えを凌いでいる感じです。まぁ、煮干しは健康に良いんですけど、毎日それだけだと流石にね…
サウスヴェルに着いたら、お洒落なレストランとかに行って…この世界の料理を色々と食べてみたいわね。フフフ、普通のレストランじゃ、無くて…お洒落なレストランですよ(強調)
「ムシャムシャ…」
「でも、ボク達も一気にお金持ちだね~!!」
バッタをスナック感覚で食べながら、言うゼニィー。
「まぁ、そうね」
私のお財布の中には…
キャロットさんから、旅の資金として貰いました100万Gがありました。なので、しばらくはバリア代は大丈夫でしょう。あとは、宿代とか食事代にしましょうかね。
(しかしながら…)
「ゼニィー…」
「貴方、よく100万Gを確保出来たわね。てっきり、爆発に巻き込まれて、どっかに吹き飛んじゃったと思ったけど」
「100万Gは、一番先に確保したから大丈夫だったよ~!!」
「はぁ…」
「流石は、銭の精霊ね(行動が早い…)」
今回は、ナイスと言えばナイスですけど。
「あと、その光彩の指輪も、売れば100万Gくらいだからね!!」
「総額200万Gは、持っている感じだよね~!!」
「「いや、この指輪は売らないわよっ!!」」
「ハァアア…」
この…キャロットさんから、託された光彩の指輪ですが、魔金で作られた高価で貴重な指輪みたいです。キャロットさんの婚約者は、王国のお偉いさんみたいですからね。流石は…贈る指輪も、格が違うわね。
―私は、指輪を見ながら思います。
「…」(私)
「そういえば、あの時…キャロットさんが自分で大鍋を壊した後に『指が熱い、熱い!!』とか言っていたけど、ゼニィーが何かの攻撃をしたの…!?」
(それと、金属を引っ掻く様な音がしたわね…)
「あ~、あれね~!!」
「あれはゴーストキャットと言う、化け猫の攻撃だよ~!!」
「「「えっ、ゴーストキャット!?」」」
「ゴーストキャットは、精神魔法や時空を操る魔法を使う魔獣でね。そして…更にその爪は光属性で、闇の魔法を切り裂き、悪魔を撃退する事が出来るので~す!!」
「へぇ、凄いわね…」
「精霊とも、親交が深くてね!!」
「それもそのはず…悪魔という同じ敵を持つ者同士、ボク達精霊と同盟を結んでいる盟友なので~す。たまに、精霊の国にも顔を見せに来るんだよ~!!」
「へぇ…」
「それは、頼りになる味方ね」
「まぁ、一応そうなんだけどね!!」
「だけど、所詮は猫だからね。自由気ままで、本当に気まぐれな奴だよ。悪魔に攻撃するのも、自身のテリトリーが侵された時だけだし。しかも、いらずら好きでね。たまに精霊の国に来ては、ボク達に怖い夢とか幻覚を見せたりして、困っちゃうんだよね~!!」
「…」(私)
「貴方達、本当に同盟を結んでいるの…?」
疑問に感じる私。
それで-
ゴーストキャットは…ゼニィーのバリアでも、度々透過してしまう程の強い魔法を使うらしい。実力的に言えば、ゴケンジャーの1匹分くらいの力は持っているとの事です(但し、これはやる気を出せばの話しですが)
そして、その姿は…色々な魔法を重ね合わせて隠しているとの事で、その化け猫の意思が無い限り、その姿は決して見る事は出来ないらしい。それは…ゼニィーの姿を余裕で看破したカコシでさえ、見つける事は出来ないだろうとの事。
「でも、まさか…こんな所にいたなんてね。驚いたよ~!!」
「最後に精霊の国に来たのは、500年前だったから…会うのは、それ以来かな!!」
「ハァ、そうなの…」
「…」(私)
ゼニィー曰く…
キャロットさんを居間で監視している時に、壁をすり抜けて登場したらしい。以下は、その時の会話。
『よお、精霊もどき…!!』
「「いや、ボクは精霊だよ(何、言ってるの)!!」」
「というか、5ヶ月ぶりだね~!!」
「元気でやってた~!?」
『えっ、5ヶ月…』
『いや、多分数百年は経ってないか…!?』
『500年くらいは…』
「あれっ、そうだっけ…!?」
「てか、こんな所で何やってるの~!?」
『いやぁ、それがな…』
『異界から、ワンコロにうるさく頼まれてな。全く…こっちは、忙しくゴロゴロと昼寝をしていたと言うのに…』
「へぇ、そんなんだ…」
「どんな事を頼まれたの~!?」
『フフフフ…』
『まぁ、少しだけな…』
(スウウウウウウウウウウウウウ―)
そして、ゴーストキャットは消えたとの事です。
(ふ~ん…)
この世界には、色々な魔獣が存在するのね。
「…」(私)
という事は、つまり…
あの悪夢に出て来た猫はー
「「「!!」」」(私)
「ピカアアアアアアアアアアアアアアア―ン」
「あっ、流れ星よ!!」
「そうだね~!!」
―満天の星空の中に、流れ星が通過します。
「キラ-」 「キラ-」 「キラ-」
「キラ-」 「キラ-」
「キラ-」 「キラ-」 「キラ-」
「キラ-」 「キラ-」
夜が深まるに連れて、夜空の星達の輝きも増している気がしました。
空気が澄んでいて標高が高いから、星空が良く見えるのでしょうか。
見蕩れる私。
そんな、星達の輝きは―
いつの日か、地球で仰ぎ見た天の川よりも綺麗な感じがしました。
先程は、暇と言えば暇と言いましたけど…意外と、この星空を見ているだけでも、結構な暇潰しになりますね。夜空には、ランタンの明かりが必要無い程に、億千万の星が光輝いています。
これは、いつまでも飽きずに見る事が出来ますね。
私は、涼しい山の風に吹かれながら思う。
「ソヨソヨソヨソヨソヨソヨソヨソヨ…」
そういえば-
この星は、銀河系の中にあるのでしょうか?
それとも、銀河系では無い別の銀河の中にある星なのでしょうか?
宇宙のどこにある星なのでしょうか?
そして―
あの満天の星空のどこかに、我が故郷の地球を照らす星…
馴染みの太陽があるのでしょうか。
地球は、恒星では無いので多分見えないでしょうから。
…異世界に来たと言っても、それは只…単純に遠い場所に来ただけかもしれませんね。帰ろうと思えば、別に魔法なんか使わなくても、ロケットを飛ばせば…その内に辿り着くでしょう。
まぁ、メチャクチャ時間がかかりますけど。
いや…その前に、地球の方向が分かりませんね。
「ゼニィー…」
「何~!?」
「今更だけどさ…」
「この星の名前は、何て言うの!?」