106話 休憩
「グビグビグビグビグビグビ…」
「プハアアアアアアア―」
「ああ、生き返ったアアアア―!!」
私達は、途中で座れそうな…ちょうど良い岩を見つけて、そこで休憩していました。私は、水筒を片手にグビグビと水を飲み干します。この水筒も魔法具で、魔力を込めれば水が沸いてくる優れものです。温度調整も可能で、今はキンキンに冷えた冷水にしています。
そして、そして勿論この水筒も、地球のボロアパートにあった…
「ボクにも、ちょうだ~い!!」
「…はい、どうぞ!!」
「グビグビグビグビグビグビ…」
「プハアアアアアアア―」
「この冷たさ、身体に染みるねええええ―!!」
「この為に、生きているんだよなアアアア―!!」
「…」(私)
まるで、ビールを美味しそうに飲んでいるオッサンみたいな台詞ね。
まぁ、私も人の事は言えませんが。周りには誰もいませんので、まるで家にいるような感じで素が出てしまいますね!!
私の周りにいるのは、草花の上をヒラヒラと舞う蝶々達だけですから。
「ヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウ―」
「はぁ~あ、良い風…」
岩の上に座りながら、風を受ける私。相変わらず…とても綺麗な高地の道です。サウスヴェルまでは、長い道のりみたいですが、こんな道が続くのであれば、疲れも忘れて歩いていけそうですね。
因みに…
サウスヴェルで行われる魔術品オークションは、1ヶ月後みたいです。少し足早に歩けば、問題無く間に合う距離みたいですね。なので…このままハイキング気分で、天魔の山脈を越えて…そして、サウスヴェルに着いたら、そのオークションとやらを優雅に嗜む感じで―
そんな感じで、行きましょうかね!!
今後の予定を頭の中で、やんわりと思い描いていきます。
これも、自由気ままな旅の醍醐味ですね。
「ヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ―」
「ゼニィー、ゼニィー!!」
「んっ、何ですか~!?」
「ゼニィーは…」
「サウスヴェルに行ったら、何かしたい事はあるかしら?」
私は弱くなった日差しに照らされながら、ゼニィーに問う。
「そうだね~!!」
「大きい町ならば、小銭が沢山落ちてそうだから、とても楽しみだね!!」
「…」(私)
「はぁ…」
「そうですか…」
そして、次第に―
地平線の彼方から、空はうっすらと黄昏色に染まっていました。
私は、辺りの景色を流し見ていくと―
「あっ!!」
「あそこを見て、見て、ゼニィー!!」
「グリフィンが、飛んでいるわ!!」
「あっ、本当だね~!!」
―遠くの空には、グリフィンが飛んでいました。
そうそう、そうなんです!!
天魔の山脈の『天魔』とは、グリフィンの事を言います。
「ふ~ん…」
(何か、とても懐かしいですね…)
大空を、格好良く飛んでいるグリフィンの姿は、私の胸を大きく揺さぶりました。それも、そうですね。グリフィンは…前世の私の憧れの存在でしたからね。飼い慣らして、騎士である私のお供にしようと思っていましたから。
当時の感覚が、フツフツと甦ってくる気がしました。
私は―
あの時に、死んでなければ…
グリフィンを従えて、その内にスリースターの騎士団長くらいには、なっていたのでしょうね。だって…私は、才能溢れるナイスガールでしたから。
まぁ、今は全然ダメダメですけどね。
夕焼けに、浮かぶグリフィンの影を見ながら
私の目は、無性にウルウルとしていました。
「私も、グリフィンに乗って大空を飛びたいな…」
そして、私は自然と言葉を漏らす。
「それならば、ボクがお願いしてみようか~!?」
「えっ!!」
「そんな事、出来るの!?」
「精霊はね、動物と話す事が出来るんだよ~!!」
「グリフィンとも、話す事が出来るから乗せて貰えないか、聞いて来ようか~!!」
「へぇ、凄いわね…」
ゼニィー曰く…動物(親和を築ける穏やかな魔獣も含む)にも、精霊の姿が見えるとの事です。なので、そんな動物達にとっては、精霊とはごく見慣れた身近な存在であるらしいです。
「それじゃあ、行ってくるよ~!!」
「お願いね、ゼニィー!!」
夕陽の中に、消えていくゼニィーを見送る私、
…因みに、親和を築ける穏やかな魔獣の事を親和獣と言います。
親和獣は、人と殆んど変わらない感情を持つと言われておりまして、とても賢いのです。こちらが言っている事も大方理解が出来ますし、高位の魔獣調教士になれば、人と同じ様に、意思疎通を図る事も可能なのです。
う~ん…そうなると、グリフィンと普通に話す事が出来るゼニィーは、超高位の魔獣調教士ね。ハハハ!!
「…」(私)
まぁ、期待して待ちましょう。
~ 10数分後 ~
「ただいま~!!」
「ごめん、駄目でした!!」
夕焼け空から、戻ってきたゼニィーは言う。
「えっ、そうなの…!?」
「…」(思考)
まぁ、乗せてくれるかは…グリフィンの気持ち次第ですからね。それに初対面の人が、いきなり乗せてと言っても、かなり警戒はしますよね。断られるのも、無理はないですよね。
「…」(私)
「ハァ…」
しかし、少し期待していただけに肩を落とす私。
「因みに、どんな理由で断られたの…?」
「それがね~!!」
「グリフィンに声を掛けたら『ギャアア、何だコイツ!?』と驚いて、逃げちゃったんだよ。少し、粘ってもみたけど『ギャアア、来るな化物!!』と酷い事を言われちゃったからね!!」
「口と性格が悪いよ、あのグリフィン~!!」
「…」(私)
精霊って、見慣れた存在じゃ無かったの…?
異様な存在として、普通に避けられていますよね…
「まぁ…皆、それぞれ性格が違うからね!!」
「また、違うグリフィンがいたら、お願いしてみるよ~!!」
「はぁ…」
「わ、分かったわ…」
お願いをする以前に…
根本的に難しい感じがした私であった。
「カアカアカアカアカアカアカア―」
そして-
夕焼けに染まった空には、カラスが鳴いています。
待っている間に、それなりに陽も暮れてきましたね。
丁度良い、自然の椅子もありますし…このまま、今日はここで野宿でもしますか。
「ゼニィー、今日はここで野宿よ!!」
「晩飯の準備をしましょう!!」
「はいよ~!!」