105話 迂回路
「ヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ-!!」
「「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア~!!」」
「ヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ-」
「ヒュウウウウウウウウウウウ-」
「ヒュウウウウウ-」
「…」(私)
「パタパタパタパタパタパタ…」
(あれ…私、空を飛んでいる!?)
気付くと、私は宙に浮いていました。
「「本当にアンタは、世話が焼けるね~!!」」
「あっ、ゼニィー…」
(そ、そうか…)
「ご、ごめん…」
ゼニィーは、私のパーカーを持ちながら飛んでいた。
「で、でも凄いわ…」
「私、空を飛んでいるわ!!」
「そんな、呑気な事を言っている場合じゃ無いよー!!」
「普通に、重量オーバーだから!!」
「「オラアアアアアアアアアアアア―!!」」
ゼニィーは、掛け声と共に何とか橋の上まで、私を引き揚げます。
ゼニィーのお陰で、谷底に転落するのを免れた私。
「「ちょっと、気を付けてよね~!!」」
ゼニィーは、怒りながら言う。
「ご、ごめん…」
「私も、気を付けていたんだけど…谷底を覗いていたら、急に頭がクラクラして、気を失っていたみたいなのよ」
「ゼニィー、何でだと思う…?」
「いや、ボクに聞かれても分からないよ!!」
「とりあえず、橋の真ん中を歩いて下さ~い!!」
「は、はい…」
「分かりました…」
○
(テクテクテクテクテクテク…)
「ヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウ―」
それから、しばらく…
陸橋を歩いていると、日差しも傾き始めていました。今の時間は16時前です。もう少しで、夕方ですね。私は…紺碧に染まった空を流れ行く、雲達を見上げながら黙々と進んで行きます。
「…」(私)
このまま、橋を歩きながら夜になってしまいそうですね。
つまり、今日は橋の上で野宿という事です。
その昔はー
この陸橋は、昼夜を問わず馬車とか…人とかの往来が沢山あったので、そんな橋の真ん中で野宿をするなんて、あり得ない事だったでしょうね。例えるならば…国道の上で、野宿をする感じでしょうか。
ですが、今は相変わらず誰ともすれ違わないので、野宿をしても全然問題は…
「「「「イブっ、危ない!!」」」」
(えっ…!?)
「ガラガラガラガラガラガラガラ…」
「「!!」」(私)
「こ、これは酷い…」
ある場所で、私の足は止まってしまいます。なんと、橋の先がありませんでした。橋が丸ごと大きく崩れているのです。数百メートルは、余裕で崩れているでしょうか。
「ボクが言っていなかったら、また落ちてたよね~!?」
「アンタ、一体…どこを見ながら歩いているの~!?」
ゼニィーは、また怒りながら言う。
「ご、ごめん」
「空を見ながら、考え事をして歩いていたら、全然気付かなくて…」
「ゼニィー、私って…」
「注意力散漫なのかな…?」
「うん、そうだと思うよー!!」
「それも、致命的にね。とりあえず、真っ直ぐ前を見ながら歩いて下さ~い!!」
「は、はい…」
「分かりました…」
「…」(私)
「それで、ゼニィー…」
「あの~…」
私は、目をキラキラさせながらゼニィーを見つめる。
「…」(ゼニィー)
「「いや、流石にあそこまで運ぶのは無理だと思うよー!!」」
「「途中で、力尽きて落っこちちゃうよー!!」」
「は、はい…」
「分かりました…」
「でも…」
(じゃあ、これから…どうやって進んで行くの?)
「ヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウ―」
「バサバサバサバサバサバサバサー」
―私は、崩れた橋の前に立ちながら考えます。
行き止まりの先は、只々…
広大な山並みだけが、漠然と広がっていました。
果てしなく広がる大自然の景色です。
そして、深い谷から吹く風は…
私の長細い髪を、バサバサと靡かせます。
(ふ~ん…)
そういえば、今の私は可愛らしい少女?の姿でしたね。
私は、靡く髪を抑えながら気付く。
ウッカリしていると、いつも忘れてしまいます。
だって、私の中身は…
30過ぎのオッサン間近のフリーターの青年ですから。
東京板橋区在住の素朴で、寡黙な青年ですから。
そう、それは―
― 私だけの特別な秘密 ―
「…」(私)
いや、別に秘密という訳でも無いですが…仮に誰かに言っても、信じてくれないでしょうね。最悪の場合は、痛い人認定をされるので、それはもう秘密も同然なのです。
そんな、寂しい秘密を抱えながら
私は、一体どこに向かっているのでしょうか。
この先には、その答えがあるのでしょうか。
私は、いつまで―
寂しく険しい旅を続けていくのでしょうか。
私は、途切れた道の先の先に、天高くそびえる山並みを見ながら
只々、呆然と立ち尽くしていた。
「ヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウ―」
(んっ…?)
良く見ますと…崩れた橋の向こう側にも、今の私達と同じ境遇なのでしょうか。途方に暮れて、こちらの方を見ている人達がいました。やっぱり…ちゃんと直してくれないと、困っている人がいるのでしょうね。
「「!!」」(私)
「見て、見て、イブ~!!」
「何、ゼニィー…!?」
橋の端の方から、ゼニィーの呼ぶ声が聞こえる。
ゼニィーが呼ぶ方に行くと、そこには看板がありました。
そして、看板の先には…簡易的な橋がありまして、それは山の方の道に続いています。
(フムフムフム…)
『橋の崩落により、こちらの道から迂回をお願いします』
(お~、なるほどですね!!)
てっきり…ここで、行き止まりかと思いましたが、ちゃんと先に進む道が用意されていたみたいですね。それは、何となくですが…
まだ、この陸橋が…パーシャの町が、完全に王国から見捨てられた訳では無い様な感じがしました。
私は、少し安堵した気持ちになります。
「それじゃあ、迂回して行くわよ!!」
「は~い!!」