103話 執念の…
「チュンチュンチュンチュン―」
「サアアアアアアアアアアアアアア―」
居間には、窓から差し込む朝陽が燦々と降り注いでいた。
さっきまで…
誰かと楽しそうに話していた、その場所は嘘の様にシーンと静まり返っていました。キャロットさんの姿は、跡形も無く消えていた。まるで、最初からそこに居なかった様に―
私の方こそ、昔の夢を見ていたのでしょうか。
朝陽は、私だけを只々虚しく照らしていた。
結局…
キャロットさんも、ルイア達と同じ様に成仏?してしまいました。
「キャロットさん…」
私は、口を重たく呟く。
「人間の寿命って、短いんだね~!!」
ゼニィーは、言う。
「アンタ、一体何歳なのよ…」
「そういえば、キャロットさん…この家にある物は好きに使って良いって、言ってたよね。早速、使える物が無いか、家の中を確認しようよ~!!」
「…」(私)
(気持ちの切り替えが、早すぎだろ…コイツっ!!)
「ホラホラ…これが、キャロットさんの言っていた手帳じゃないの~色々な料理のレシピが、書いてあるよ。クリームシチューのレシピもあるよ~!!」
「そ、そうなのね…」
「イブ、今度このクリームシチューを作ってみてよ~!?」
「イブって、料理作れるんでしょ!?」
「…」(私)
「私…料理と言えば、カップ麺くらいしか作れないわよ」
「「えっ、カップ麺って何!?」」
「…」(私)
(まぁ、そうね…)
キャロットさんの婚約者に食べさせる前に、1回試しに作ってみたいわね。ですけど…私は料理を作った経験が、まるで無かった。地球では、カップ麺くらいしか作った記憶が無いですし。なので…
出来れば、料理が上手い誰かに作って貰いたいですけどね。
旅を続けていく内に、誰かにお願いをしましょうか。
「!!」(私)
「そうだ、ゼニィー!!」
「寝室にあった、あのフカフカベッドを持って行くわよ!!」
「えっ、あの大きなベッドを―!?」
「流石に大き過ぎるんじゃないの…イブのポーチの中にも、入らないでしょ!?」
「押し込んででも、持っていくわよ!!」
「押し込んででもって…」
「ベッドに対する執念が凄まじいね」
ゼニィーは、困惑していた。
とりあえず、私達は寝室に行く事にする。
「カチカチカチカチ―」
○
「「ウオオオオオオオオオオ―!!」」
「「クソっが、何で入らないのよ!!」」
寝室にて、考えられない暴言を吐く私。
「あのさ~」
「やっぱり、ダメなんじゃないの!?」
「うううう~、そんなはずじゃ…」
しばらくー
私はベッドと格闘していましたが、ポーチの中に全然入りませんでした。やっぱり、ベッドが大き過ぎるのか。
「もう諦めたら~!?」
見かねたゼニィーか、私を諭す様に言う。
「「いや、まだよ!!」」
「「そうだ、細かく分解すればポーチの中に入るかも!!」」
「「ゼニィー、ドライバーを探してきて!!」」
「えっ、そこまでして持っていくのー!?」
私の凄まじいベッドに対する執念に、驚愕するゼニィー。
「でも、マットレスとかは分解は出来ないでしょ~!?」
「…」(私)
「じゃあ、せめて枠組みだけでも…」
「「枠組みだけ、持ってどうするの!?」」
唖然とするゼニィー。
「カチカチカチカチ―」
「カチカチカチカチー」
「そういえば、さっきからさ~」
「カチカチと鳴っているけど、何の音だろうね!?」
ゼニィーは、不審そうに言う。
「えっ、何も聞こえないけど…」
ですが私には、何も聞こえません。
「まぁ、とても小さな音だからね!!」
「人間の耳には、聞こえないのかもね~!!」
「は、はぁ…」
ゼニィーは、耳がとても良いから聞こえるのでしょうか。それは、カチカチと何かを刻んでいる音みたいです。どこかの時計の音でしょうか。しかし、その音はちょうど私の立っている床下から聞こえて来るらしい。
何故、こんな場所から…
私は、床に耳を押し当てて確認してみます。
「カチー」 「カチー」 「カチー」
「カチー」 「カチー」 「カチー」
「カチー」 「カチー」 「カチー」
「「カチイイイイイイ―ン!!」」
「「「「「ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア―ン!!」」」」」
「「「「「ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド―!!」」」」」
「モクモクモクモクモクモクモクモクモクモクモク…」
「えええ…」(私)
一体、何が起きたのか分からなかった。
「何これ…」
気付けばー
私は瓦礫の中に埋もれていた。
キャロットさんの家は、跡形も無く吹き飛んでいました。
「あのカチカチした音は、どうやら時限爆弾みたいだったね~!!」
煙から出てきたゼニィーは、言う。
「じ、時限爆弾…」
「えっ、何で!?」
「さぁ、よく分からないけど…キャロットさんの身に何か起こった時に作動する仕組みになっていたんじゃないのかな…例えば、証拠隠滅の為とか!?」
「そ、そうなの…!?」
キャロットさんは、自分で仕掛けたのを忘れていたのでしょうか。
「…」(私)
そういえば…
私の周りには、粉々になったフカフカベッドがありました。
「良かったね、ちゃんと分解が出来たじゃ~ん!!」
「あっ、それもそうねー!!」
「…」(私)
「「いや、分解し過ぎだろオオオオオオオオー!!」」
―私の虚しい叫びは、森全体に響いていました。
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