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102話 人の寿命 





「イブ先輩…」


「貴方はどうやって、そして…どうして生き返ったのですか?」


今度は、キャロットさんが私に質問をしてくる。






「…」(私)






「ううううう~ん…」



「どうやって、生き返ったかは…私にも、よく分からないんですよね。とりあえず、今は…私にも世界を旅するという夢があったから、それを叶えている感じですね。その旅のついでに…見つけた呪具は、壊そうと思っていますけど」


私は、眠そうに身体を伸ばして答えます。





「そうなのね…」


「でも…それだと、これから忙しくなるわね。この王国には、呪具が沢山あるからね。それはもう、この王国全体が呪われてしまっている状態よ」





「…」(私)


(えっ、そんなにあるんですか!?)




困惑する私。






            (因みにですが…)





キャロットさんが、長年使っていた大鍋もお察しの通りの呪具みたいです。



その鍋の効果は…


魔法薬を作る際に、生物の血を材料として混ぜる事で、その魔法薬の効果を飛躍的に向上させる事が出来るみたいです。若返りの呪薬は、元は気になるシワが消えて美肌になれる嬉しい魔法薬だったみたいですね。


あとですが…


材料である血は、別に人間の血で無くても、生き物ならば何でも良いとの事です。しかし、人間の生き血…特に若い人間の生き血が、一番効果が高い薬が出来るとの事で…


キャロットさんは、いつもその血を使っていたとか。






「まぁ~、1つずつ全部の呪具を壊していくのは大変だよね。それならば、先にこの王国の呪い根源となっている3つの宝具(高位の呪具)を壊す事が良いんじゃないの~!?」



(ゼニィーさん!!)


困惑している私を見て、提案するゼニィー。




「と言うのもね~」




「…」(私)



ゼニィー曰く…


呪具も、その力の強大さによって『高位の呪具』と『普通の呪具』とで格付けされているらしい。キャロットさんが、長年使っていた大鍋(呪具)ですが、これは…





           『普通の呪具』らしい。




『高位の呪具』は、もっと色々とヤバいらしいです。


因みに、カコシの原因となっていた呪具(渇望の泥剣でしたっけ…?)ですが、この呪具は『高位の呪具』でも『普通の呪具』でも無いらしいです。


その更に上の―




「カコシの呪具は『超高位の呪具』だね~!!」




との事です。


そして…その『超高位の呪具』級の呪具になると、何故か知りませんが自我を持つ事があるとか。まぁ、カコシも普通に話してましたからね。





「ズズズズズズズ―」





ですので…


カコシの呪具よりかは、ヤバくないらしい。


つまり『高位の呪具』が、どれくらいヤバいかと言いますと…それは、実際に目に見てみないと何とも言えませんね。


(まぁ、少なくとも…たった3つの呪具だけで、大国同士の戦況をガラリと変えてしまう程の力を持っている事は、確かですけど)




そして…


この『高位の呪具』の所有者は、呪具の素晴らしさを世間に広める為に、新たな呪具を作り出して、他の人達に呪具の使用を勧める習性がよく見られるそうです。呪具を作る魔法である悪魔特有の魔法『呪具創成』は、高位の呪具の所有者である人間にも、その内に発現する魔法との事です。



これは、つまり―




高位の呪具を使っていると、その人は次第に悪魔そのものになってしまうという事でしょうか。まぁ、分かりませんけど…









           「ズズズズズズズ―」





           (う~ん、そうね…)









となると…


3つの宝具(高位の呪具)の所有者が、この王国の呪具の製造や流通に関わっている可能性が高そうですけど。この王国を呪いから解放する一番手っ取り早い方法は、3つの宝具(高位の呪具)を壊す事なのでしょうか。




(まぁ、闇雲に呪具を壊すよりは、狙いが絞れた気がしますけど…)




(しますけど…)




(そうですけど…)





その『宝具』とやらを壊すにしても


それは、一体どこにあるのでしょうか。


色々と情報が、足りませんね。









「どうしたんですか、イブ先輩!?」


しばらく、考え込んでいる私に声をかけるキャロットさん。



「…」(私)


(あっ、そうだ…昔、王国に仕えていたキャロットさんならば、宝具に関して他にも色々と知っているかもしれないわね!!)



「あの~、キャロットさん…」

「3つの宝具って、今どこにあるのか知っていますか…?」







           「…」(キャロットさん)







「ごめんなさい…正直、どこにあるのか全然分からないわ」


「宝具に関して、私が知っている情報とすれば…今、話した事くらいかしらね。昔、王国に仕えていた事もあったけど、その時は只ひたすらに、言われた通りに怪しい魔法薬を作っていただけだから…」



「そうなんですか…」



「私の婚約者も、一応は3つの宝具のどれかの所有者だけど…」

「最後に彼を見たのは、1世紀も昔の話しだからね。私の彼ですら、今はどこで何をやっているのかは…もしかしたら、名前も変えているかも知れないわ」



「そ、そうなんですね…」



「ハァ…」



どうやら、キャロットさんは具体的な情報は持っていないみたいです。これは、探すのに骨が折れそうですね。ため息を吐き、天井を仰ぐ私。







「…」(私)







「イブ先輩は、これからどこに向かうんですか!?」



「えっ、あ~」

「特に理由は無いですけど、道なりでサウスヴェルに行こうと…」



「あら、そうなんですね!!」

「フフフフ…それならば、ちょうど良いと思いますよ。今度、サウスヴェルでは王国の一大イベントである魔術品オークションが開催されるわ。凄い、グッドタイミングじゃないの!!」



「えっ、魔術品オークション!?」

「…って、何ですか!?」


「う~ん、魔術品オークションはね―」




キャロットさん曰く―


魔術品オークションとは年に1回、この王国の大きな町で開催される王国の一大イベントみたいです。そのオークションには、国内外から集められた珍しい魔法具、美術品、宝石などなどが出品されるのですが、その出品の中にはちょくちょく『便利で優秀な魔法具』として、呪具も入っているそうです。



この王国における呪具の販売は…


主に、このオークションで行っているとか。



このオークションには…


王国中の貴族やお金持ちの人達が集まり、それはそれはとても人気のイベントみたいですね。そして、オークションへの参加は会員制で…まぁ、どちらかと言うと王国の上級階層向けのイベントみたいですが…






「一般の人でも、高額であるオークションの会員証を購入すれば、参加する事が出来るわよ。その会員証はね、有効期限が切れるまで何年も使えるから購入して…まぁ、損は無かったかしらね!!」


「私も…近くの町で開催される時は、気分転換にオークションに参加してたんだけどね。本当に、皆の熱気が凄かったわ…私も欲しい物があったんだけど、どんどん値段が上がるから、いつも全然買えないのよ♪」




「…」(私)




「それで、その時にさぁ~」

「たまたま、隣に座っていたオジサンから『便利で優秀な魔法具の、正式の名前は呪具と言うんだよ』という事とか、色々と教えてくれたんだけどね。その時の私は『何、言ってるんだ…このクソガキは』くらいしか考えなかったわね~♪」





「な、なるほど…」



「そうよ…」









             「…」(私)




             「…」(キャロットさん)








「そう、だから―」


「そこに行ってみて、呪具を壊すのも良いし…そのオークションの関係者の人は、王国の呪具の流通や製造に深く関わっている事は間違いないわ。3つの宝具の情報も、きっと手に入ると思うわよ」




「な、なるほど…」




「そうよ…」








「フフフフ…」



「もしかしたら、私の婚約者も…そこに来るかもしれないわよ」





「ふ~ん、そうですか…」








「…」(私)







ワクワクしたテンションで話す、キャロットさん。


しかし、その顔はとても眠そうに疲れていた。





そういえば…


時計を見れば、もう夜が明けそうな時間です。


私も夜通し活動していたので、とても眠いですね。


今日は、本当に疲れました。






キャロットさんも…


きっと、そんな感じなのでしょうか。






いや-





キャロットさんは、今日だけの疲れでは無い気がした。


その若々しく綺麗な顔には、百数十年にも渡る苦労が滲み出ていました。













「良かったら…」


「この家にある物は、何でも使って貰っても良いわよ」


「まぁ…そんな、大した物は無いけどね」













「チュンチュンチュンチュンチュン―」



昨夜…降っていた雷雨も、いつの間にか止んで、窓の外は静寂に包まれています。次第に、外もうっすらと明るくなってくる。静寂の中から、ちょくちょくと鳥の鳴き声が聞こえ始めていた。


鳥さん達は…

どうやら、朝になるのを待っていたのでしょうか―



今日は、澄み渡る良い天気になりそうですね。


ポトポトと水滴が静かに滴り落ちる窓の景色を眺めながら、私はそう思った。夜が明けて、また新しい1日が始まる。




さてと、今日は1日何をしましょうかね。







「ズズズズズズズ―」




「!!」(私)



気付けば、湯飲みに入っていたお茶も飲み干していました。






(フフフフ…)



(フフフフ、キャロットさん)



まぁ、どっちみち…

私は、最初から3つの宝具を壊そうと思っていましたけどね。





       「「「ガタアアアア―ン!!」」」




「じぁあ、キャロットさん…」


私は、座っていた椅子から勢い良く立ち上がる!!

それと同時に、窓から眩しい朝陽が差し込む―





       「パアアアアアアアアアアアアー」




「「私と一緒に、その彼とやらを呪いから叩き起こしに行くわよ!!」」




私は朝陽の背に浴びながら、キャロットさんに手を差し伸ばします。


どっちみち、最初から私の狙いは貴方の彼だったのよ!!






「こんな、私を誘ってくれるのね…」


「呪具に操られていたとはいえ、沢山の人を殺した私を―」




「それならば、それ以上の人を救えば良いじゃないか!!」


私は、謎の勢いで言う。







「イブ先輩…」




「フフフ…」




キャロットさんは、朝陽の中で静かに微笑んでいた。








「有難う…」





「でも、ごめんなさい」

「もう、お迎えの時間が来たみたい」





   「キラ―」 「キラ―」  「キラ―」




       「キラ―」  「キラ―」



   「キラ―」 「キラ―」  「キラ―」



      「キラ―」  「キラ―」

  


   「キラ―」  「キラ―」  「キラ―」

  

  

    「キラ―」  「キラ―」  「キラ―」





 

        「「「!!」」」(私)




キャロットさんの身体は、キラキラと消え始める。





「キャ、キャロットさん…これは、一体!?」



「私の身体は、元々ボロボロなのよ。それは、呪薬を飲んでいたからでは無く、只の歳のせいでね。120歳を超えた辺りから、若返りの薬を飲まなければ、私の身体はすぐに腐り始めてしまう状態だったわ」


「それは、人間の寿命の限界が120歳と言われているからかしら…」








             思い返せば―








それからは、朽ち果ててしまう肉体を繋ぎ止める為の闘いだったわ。


そして更に130、140、150歳と歳を重ねていくに内に、若返りの呪薬の効果も薄れていった。最近は、若い女性の血で作った若返りの薬を大量に飲まなければ、身体が保てない状態だった。


しかも、飲んでも…あっという間に、効果が切れてしまう。




「どうやら…若返りの呪薬で、寿命が延長を出来るのは160歳辺りまでなのかもしれないわね。最後に無茶をして、身体がとうとう限界を迎えたみたい」



染々と言う、キャロットさん。



「キャ、キャロットさん…」




「耳が遠いと、お話しなんて出来ないでしょ」


「どっちみち、死期を悟っていた私は…最後に、あの鍋に入っていた呪薬を全部使い切って…若い姿になって、人生の幕を降ろそうとしていた。1人で寂しく逝くはずだったのに…凄い嬉しいサプライズね。いや、それとも私は―」






       最後に、昔の夢でも見ているのかしら?







「その指輪は、貴方に託します。私がそれで彼の事を思い出した様に、それを使って彼に私の事を思い出させてあげて」



「ちょっと、キャロットさん!!」




貴方が、ゼニィーちゃんね―





           「!!」(私)




キャロットさんは、私の横をパタパタと飛んでいるゼニィーを見て言う。


どうやら、ゼニィーが見えるらしい。

身体の中の呪薬が、全て無くなったからか―




「私の料理は、美味しかったかしら?」



「うん、まぁね…」

「でも、毒が入っていなかったら、もっと良かったかもね~!!」



「フフフフ…」

「そうね、今度は毒が入っていないを作ってあげる」





そうだ―


あの人も、私が作る料理がとても大好きだったわ。

特にクリームシチューが大好きで、いつも長々と飽きる程に味の感想を言っていたわね。


もし、彼が指輪だけで思い出す事が出来なかったら…

それを作って彼に食べさせてあげて。レシピは、私の手帳の中に入っているから、頼んだわよ!!





「「ちょ、ちょっと、キャロットさん―」」


「「待って―」」



慌てる私。私は、キャロットさんの手を掴もうとするが、掴む事が出来ない。すり抜けてしまう。






ルイアさん達と、貴方の行く先を見守っているわ―










           ―有難う、イブ―














キャロットさんの姿は、私の前から消えていた。

















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