101話 ハネムーン
【長い間、お勤めご苦労だったな…】
私のもとに来た彼は言う。
そして、彼は…
何人かのお連れの人?も引き連れていた。
【言われた通り、結婚してやっても良いが…お前は、もう老いぼれじゃねぇか。不老不死になった俺とじゃあ、歳が全然釣り合わねぇんだよ。悪いが、老いぼれにはもう用は無い!!】
【まぁ、だがな…】
【これでも、お前には色々と感謝もしているのだ。沢山の魔法薬を作ってくれたからなぁ。だから、余生はゆっくりとどこかで過ごしたらどうだ!?】
【そうだ…お前の故郷は、パーシャと言っていたな。故郷のパーシャで、余生でも過ごしたらどうだ!?】
彼は、提案する。
【【ハハハハハハハハ~】】
【あの呪われた町にですか。それは面白いですね!!】
お連れの人は、彼の提案をゲラゲラと笑っていた。
【そうだ、そうだった…】
【お前の夢は、空を飛ぶ事だったな。流石に結婚は出来ないが、その夢だったら叶えてやる事も出来るぞ…スターレス君、スターレス君…君、この前…竜を操れる様になったんだよね。練習として、彼女をパーシャの町まで送って差し上げなさい】
【承知、致しました】
【まぁ、せいぜい竜とのハネムーンでも楽しむんだな!!】
【その鍋は、引退記念にくれてやるよ!!】
【【【それじゃ、アバヨオオオオ!!】】】
【【【【【ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ―!!】】】】】
そして―
私は鍋の中に強制的に閉じ込められて、竜と死のハネムーンに行きました。が、しかし…その道中にトラブルがありまして…パーシャの町は、その呪われた土地柄の為か、竜が嫌がりパーヴェルの森付近で立ち止まってしまったのです。
そこで…
竜は、面倒臭くなったのか、上空から鍋ごと私を突き落としました。普通ならば、地面に叩きつけられ私は即死ですよね。しかし、私は無傷でした。
しかも、鍋の中に入っていた私は、何も衝撃を感じませんでした。
まるで、落ちた時の衝撃を鍋が全て吸収してくれた…そんな感じがしました。鍋が私の事を守ってくれたのでしょうか。
「ズズズズズズズ―」
「ズズズズズズズ―」
…地面に転がった鍋から、ズルズルと這い出る私。
まるで、粗大ゴミを不法投棄する様に、私はどこかの森に捨てられたみたいでした。この時…私が感じた気持ちは、彼に捨てられてしまった絶望でしょうか…それとも、深い悲しみでしょうか。
―いや、違いました。
相変わらず私は、彼と結婚がしたい一心だったわ。
そんな思いの私は、若くなればまた彼が振り向いてくれると考えて…
この地で、若返りの薬を作る事を始めたのでした。
そして、今に至る。
◇
「今、思ってみると…」
「長年、呪薬の作製に関わっていた私は、もう正常な判断も出来なくなっていたのかしらね」
「ズズズズズズズ―」
キャロットさんは、お茶を飲みながら染々と言う。
「そしてね…その若返りの呪薬も作り始めたのは良いんだけど、いつしか…彼の事すら忘れて、若さだけを追求する只の化物に成り果てていたわ。これは、恐らく若返りの呪薬の代償の影響だと思うわ。元々…作り始める前から、精神がおかしい状態だったけど、それが更におかしくなってしまった感じね…」
「そ、そうなんですね…」
とまぁ、色々とあったみたいで、こうして…若返りの魔女キャロットさんが出来上がったみたいです。キャロットさんは、この森の周辺の村の住人や、森の道を通る旅人や商人達を誘き寄せて、呪薬の材料にしていたらしい。
そして、時折…気分で今回の私みたいな感じに、家に招き入れた人に毒料理を出していたとか。そういえば…キャロットさんは、魔法薬を作るのと一緒に、料理を作るのも得意でしたからね。
「ズズズズズズズ―」
お茶を飲みながら、染々と思う私。