100話 花瓶
バルキードとの戦争以降、この王国は呪われてしまったわ。
この王国は、バルキードとの戦争には勝ったけど…
その代償は、あまりにも大きかった。
この王国をバルキードから勝利に導いた3つの宝具の正体は、全部禍々しい効果を持った高位の呪具達。それは、今も尚この王国を狂わせてしまっている諸悪の根源―
私の婚約者であった、あの人もその呪具の所有者。
そして―
その呪具の効果かは定かでは無いけど、彼は全く歳をとらなかった。
これは―
私が燃え盛るパーシャの町から逃げ出して、王都に着いた時の話し。
彼は、私が来るのを王都の入り口の大きな門の所で待っていたわ。
私達は、そこで涙ながらの再開を果たしました。
「「よく無事だったアアアア!!」」
お互い深く抱き合いながら、彼は言う。
彼は…私が皆を見捨てて、パーシャを見捨てて、逃げて来た事を知ってたのか、知らなかったのか、それとも…そんな事なんて、どうでも良かったのか。
何も私を咎める事は、無かった。
只々、私が生きていた事に涙を流していた様であった。
そして―
「お前に、これを先に渡しておく」
彼は意気揚々に言うと、ポケットから何かを取り出した。
それは、金色に輝くとても綺麗な指輪だった。そこには、私と彼の名前が刻まれている。それで、彼は続けて言った。
「戦争が終わったら、盛大に結婚式を挙げよう」
―と。
この時に、彼から光彩の指輪を貰ったわ。
戦火の中で、永遠の愛を誓い合う2人。
その時の―
彼の真剣な眼差しは、いつまでも経っても忘れないでしょう。
(いや、盛大に忘れてましたね…)
絶望と希望が交ざり合う中でも…
それが私の人生の中で、一番の嬉しい幸せな思い出になったわ。
それは、多分…彼にとってもね。
「「「「「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ-!!」」」」」
「「「ガシャアアア―ン!!」」」 「「「ガシャアアア―ン!!」」」
「「「ガシャアアア―ン!!」」」 「「「ガシャアアア―ン!!」」」
「「「ガシャアアア―ン!!」」」
「「「「「ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア―ン!!」」」」」
それからも…バルキードの侵攻が進み、ヴェル王国のあらゆる町は火の海と化していった。そして、王都にも酷い火傷や怪我を負った人達が治療を求めて、沢山担ぎ込まれてきたわ。
私は回復術士として、王都でそんな人達の治療に明け暮れていた。
そんな、ある時―
「素晴らしい魔法具が完成したぞ!!」
「そして、私はその魔法具の使用者になった!!」
「これは、凄い魔法具だぞ。これで戦争を終わらせる事が出来るぞ。これでお前とも、やっと普通に幸せに暮らす事が出来る…!!」
あの人は、私の両手を握りながら力強く言う。
それは、それは、とても嬉しいそうに言っていたわ。
そして、その目はまた涙ぐんでいた。
私は、何の事がよく分からなかったが…
私まで、もらい泣きをしてしまいましたわ。
彼の力強く握った手の感触は、今でも忘れられない。
(いや、これも途中で、盛大に忘れていましたね)
―そして、それがあの人らしいあの人の最期に聞いた言葉だった。
バルキードとの戦争に、勝利した後…
彼は、まるで別人の様に人が変わってしまった。
私の事はまるで、忘れてしまった様に、何やら怪しげな実験を繰り返している。私が結婚の話しをしても、彼は『そんな約束したっけ…?』と首を傾げていた。
明らかに、おかしい―
だけど―
何故、そうなってしまったのか理由が分からなかった。
只…気になる事が1つあるとすれば、彼が使っている魔法具…それは、ヴェル王国を戦争から、勝利に導いたとされている魔法具だった。
私は…彼が使っている魔法具とやらを拝見した事があるが、それは長細い棒に人の頭の様な物が付いていて…とても気味の悪い形で、見ていて吐き気を催すものであった。
彼は、そんな魔法具を我が子の様に可愛がっていた。
まるで、本物の生首を愛でている様に…
その姿を見た私は、背筋が凍ってしまったわ。
―もしかしたら、この魔法具に心を操られているのではないか?
私は次第に、そう推測する様になった。
そして、ついに私は行動に移したわ!!
「「「ガシャアアアアアアアアア~ン!!」」」
「「お、おい…お前、何をしているんだ!!」」
私は…彼の目の前で、その魔法具を取り上げて、思いっきり床に叩きつけたわ。床に叩きつけられた魔法具は、不気味な頭の部分が花瓶の様に粉々に割れていた。
そして-
すかさず、光彩の指輪を魔法を発動させた!!
私は、魔力を一杯に込めて―
私達の記憶が頭に浮かべば、元に戻るかもしれないと期待しながら。
「「「バアアアアアアアアアアアアアア―ン!!」」」
強く眩しい光が、彼に当たる。
そして―
光が消え去り、彼の姿を見ると
私は、その身が凍り付いたわ。
―彼の身体には、頭が付いていなかった―
く、首から上が無いのだ!!
彼の頭は、どこに―
私は理解が追い付かず、その場に立ち尽くす。
【クス…】 【クス…】 【クス…】
【クス…】 【クス…】
【クス…】 【クス…】 【クス…】
【あ~危ない、危ない…】
【その指輪、少し危ないね…】
そして、何故か私の足元で声が聞こえる。
私は、恐る恐る足元を見てみると…
「「「「!!」」」」
―それは、人の生首であった!!―
生首が、私に向かって喋っている!!
その生首には、細長い棒が付いていて、多分…これは、彼の魔法具じゃないかと思った。
【その指輪、私好みにコーティングしてあげる♪】
【3、2、1-】
【【【バアアアアアアアアアアアアアア―ン!!】】】
黒い光が、私を包み込む。
―そこで、私の意識は途絶えた。
○
目覚めると私は、暗い実験室の様な所にいたわ。
まぁ、そこは後になって王宮の地下である事を知ったんだけど。
それで、しばらくすると…
彼は大きな鍋と共に、私の所にやってきたわ。
そして、私に言った。
【そんなに、私と結婚がしたいのか!?】
【それならば…この鍋で言われた通りに魔法薬を作ってくれれば、その内に結婚してやるよ】
―と。
この時に、私は鍋と出会いました。イブ先輩に壊された…いや、私が間違って念力で壊してしまった我が子の様な鍋にね。その後、私はそこで…彼の言われた通りに、ひたすらに黙々とその鍋で怪しい薬を作っていたわ。
彼と結婚したい一心で―
というのも勿論、理由としてあるけど、それとはまた別に…私は不思議と彼の言った事に逆らう事は出来なかった。まるで…催眠術をかけられる様に、彼の言葉に素直に従っていたわ。
そして、時間だけが過ぎていった。
私は、みるみる内に老けていく。
いつの間にか手や顔はシワシワになり、髪の毛は真っ白な白髪になっていた。しかし、その反面―
彼は、若いままだった。
そして、今から約100年前…齢が、70歳を超えた辺りでしょうか。
私は、いつも通り怪しい魔法薬を作っていると、彼は私の所に来て…こう言ったわ。