実家から仕送りがきた話
落とし噺が好きなんです。
「ったく、珍しくテメェの方から呼びつけたかと思ったら売り子やってくれたあ、オメェも偉くなったもんだなあ」
「いや。違ぇんだよ兄ぃ。じつぁ実家から柿づくし送られて来ちまってさあ。でも俺一人じゃ食い切れねぇから売って金に換えちまおうと思ってよ」
「バカ。欲張るんじゃねえ。そういう時はご近所にお裾分けってのが世の相場なんだよ」
「何言ってんだよ、兄ぃらしくねえな。兄ぃいつも言ってるじゃねえか『オメェは何かにつけて無え袖を振ろうとするんじゃねえ』てさ。袖がねぇところに加えて裾まで分けちまったら、オレの服、乳隠しにしかならねぇじゃねぇか」
「そう言う意味で言ってんじゃねえや! ――でもま、そう言うことなら手伝ってやらねぇでもねえか。実家から送られてきたってぇこたぁ、送り主はあの姉ちゃんかい?」
「ああ。兄ぃも知ってるあの姉ちゃんさ。弟のオレが言うのもなんだが、ありゃ干物女だな。もっとも本人は、今はまだこれでいいとか言ってるけどよ」
「ハハ……まあ、あの人も気立てだけぁ良い人だ。本人がその気になりゃあ、そのうち良縁に恵まれることもあるかも知れねぇわな」
「そんなに言うんだったら兄ぃが貰ってやってくれりゃあいいのによ」
「バカ。俺は既婚者だっての。――でよ。この値札、オメェがこさえたのか?」
「おうよ。なかなかいい出来だろ?」
「ああ。オメェ意外と達筆なんだな。それに……ハハ、いっちょ前に売り文句まで付けちまって。え~、なになに――」
「……どうよ兄ぃ。この値札なら客も集まると思うかい?」
「……うーん……いや。せっかく作ったオメェには残念かもしれねぇが、これぁ片付けた方がいいんじゃねえかって、俺は思うなあ」
「なんで!? 今兄ぃ褒めてくれたじゃねえかよ?」
「いや、値札の出来はいいよ。値段も手頃だし、売り文句も悪かねえ。例えばこいつなんかは俺も感心したよ」
――よく色付いてちょうど今が食べごろです。そのままかぶりつくのがおススメ。 熟れた柿 1ヶ100円――
「なんだよ? それの何がいけねぇんで?」
「うん……なあオメェ、この字、見てみな? これぁオメェ、『柿』って書きたかったんだよな? ……でもなあ、オメェが書いたこの字……木へんにしなきゃいけないところが……女、に……なってんだわ」
「はえ?」
「あのな。この字な。木へんと女へんを間違えると……意味がだいぶ変わってきちまうんだ。ほれ、そのつもりでもっかい読んでみろよ」
――よく色付いてちょうど今が食べごろです。そのままかぶりつくのがおススメ。 熟れた姉 1ヶ100円――
「あれえっ!? じ、じゃあ、こっちの干し柿の方も……」
――姉をむいてから寒空の下で時間をかけてよっく干したので美味しさが増しました。言うなれば姉の干物。 干し姉 1ヶ200円――
「……うん。やっぱりダメだな。ちぃっとばかしいかがわし過ぎらあ」
「ど、どうしよう兄ぃ? もう作り直す金もヒマねぇんだけど……」
「まあそう慌てんなって。いっそのこと、売るのはやめて近所にお裾分けすることにしちまえばいいじゃねえか。そうすりゃあ、元より振る袖がねえところに、裾まで分けちまったテメェと、むいてから干された姉……姉弟そろっておんなじにような格好なれるんじゃねえかな」
「なあ兄ぃ……たしかにオレぁ、姉ちゃんは干物女だって言ったけど、干物女ってそう言う意味じゃねぇからな」
終劇