決戦②
ラウルの電気が収まり、残ったのは、電流で焼け焦げた珊瑚のみ。
相手クランのメンバーは、誰も見えない。
「勝った?」
『フラグ建てn』
「〈捧命矢〉四千万」
既にボロボロだった宇宙ステーションに矢が刺さり、ラウルが撃墜された。
どうやら、弓使いは珊瑚の影に隠れていたらしい。
「あの電撃の中、どうやって生き残ったんだろう?」
「……分からない。何か特殊なスキルが働いてるとしか……」
ツィンでも全く分からないらしい。
だが、彼は大将ではなかったハズ。
大将はどこに行ったのか……。
すると、海底の砂が盛り上がり、そこから相手大将のイグノと、分身の少女が出てきた。
どうやら、地面に穴を掘り、その中に潜んでいたらしい。
「そんなのアリ!?」
「海底で戦ってなかったら、勝ててたのに」
クラン決戦まで負けていたのが響いている。
相手の生き残りは、大将イグノ、特殊な生き残り弓使い、分身少女(刀使い)の3人。
対して、こっちの残りも、シロン、ツィン、深淵の3人。
「もう人数少ないし、私も戦うよ!」
「……分かった。付いて来て」
「気を付けろよ」
深淵を残して、ツィンと共に相手との距離を詰める。
相手も、遠距離型っぽい弓使いを残して、イグノと分身少女が前に出てきた。
「ツィン、領域再展開できる?」
「だから領域展開は止めてって。大丈夫、何時でも再展開できるよ」
「良かった」
少しずつ二つの勢力が接近し、緊張感が高まる。
イグノは、前は素手で殴っていたのに、今回は何か考えがあるのか、一本の木刀を取り出した。
そして……二人は、ほぼ同時に動き出す。
「〈ゴーストジェット〉」
「【終焉まで続く加速】」
超スピードの両大将が加速し、一足速く接触した。
前と変わらず、スピードはこっちの方が少し遅い。
「〈霊爪〉」
シロンは、前に有効だと分かった霊の爪を振るった。
だが、爪が当たる寸前でイグノは止まり、シロンの攻撃は空振りになってしまう。
その隙に付け込む様に、体を回転させて木刀を打ち込まれたが、ギリギリで左腕が間に合った。
そこにカウンターを合わせるも、通り抜けて躱された。
やはり、自分より速い相手と戦うのは苦手だ。
「シロン、こっちヘルプ!【巣構築・美燕嶺徹】」
ツィンに呼ばれて、振り返って見ると……イグノが深淵に向かって行ってた。
近接が弱い深淵から倒すつもりらしい。
「今行く!〈ゴーストジェット〉」
スピードではイグノに負けているので、追いつけるのか不安だったが……割とすぐに追いつけた。
どうやら、ツィンの強化領域内ではシロンの方が速いらしい。
「〈爆霊覇〉」
「っと!」
シロンは霊力を込めて掌拳を突き出したが、木刀で受け止められてしまった。
無機物への攻撃力は低いので、木刀を破壊するには至らない。
「〈霊界の招き手〉」
耐久もそこそこ高いので、さっさと終わらせるために、心臓を潰しに行く。
「食らえ!」
「うわ!」
前に使って、正体がバレていたのが悪かったのか、木刀を投げられ、思いっ切り拒否された。
そのまま、領域外へ逃げられる。
「ツィン、深淵、そっちは任せたよ」
「任せて!」
「ああ、お前はその戦いに集中しとけ」
「……じゃあ、行ってくる」
あの高速の戦いには、ツィンと深淵は混ざれない。
出来ることは、残った二人と戦うのみだ。
「やるよ」
「ああ」
「【偽りの魚群】」
分身少女は、再度100人に分身した。
同じ顔が百個並び、一種のホラーゲームの様になっているが、ツィンは恐れない。
最初に前に出てきた、4体を
「〈燕刀一文字〉」
横薙ぎの一閃で斬り飛ばした。
しかし……全く斬った感触がない。
「……え?」
「行け!」
空振りになった隙に、分身の数体が突っ込んできたが……返しの刃が切り刻んだ。
ツィンの斬撃は、返しの刃と合わせて倍になるので、多数の分身と戦うには相性がいい。
そして、今度はしっかりと感触があった。
どうやら、実体がある分身と、ない分身があるらしい。
「一筋縄ではいかなそうだね」
「そっちこそ」
分身が回り込んでいき……上下左右前後、全て囲まれた。
ツィンは、背後の気配を気にしつつ、相手の様子を観察する。
そして、大量の分身が突っ込み、遠くの分身は小銃を構えた。
一刀では手数が足りない。
長刀の半ばを持ち、形態変化させ……双刀を親指と人差し指の間、薬指と小指の間に挟んだ。
ここに来て、右手が使えなくなったのが響いている。
「〈スターシックスショット〉!」×沢山
「〈燕返し・乱〉」
無数の銃弾が放たれたが、二本の刀を振り回して、そのほとんどを切り落とした。
しかし、数発は当たっている。
このまま、遠距離攻撃を続けられたら不味かったが……そんな陰キャ戦法をする気はないらしい。
「〈葬流漸〉!」
「〈玖洙流漸〉!」
何か心境の変化があったのか、力押し戦術に切り替え、前後から同時に斬りかかってきた。
「〈燕刀二紋次〉」
それを回転斬りでいなしたが……上には攻撃できていない。
「〈流墜漸〉」
分身の一体が上から刀を振り降ろし……少し狙いは外れたが、右肩に当たり、ツィンに大きめのダメージが入った。
あとHPは7割といった所か。
「ッツ、やるね」
「あなたなんてすぐ押し切る」
「冷た!まあいいや」
ツィンは、そう言って……双刀の片方を投げた。
人数差で誤魔化しているが、ステータスでは相手の方が断然高く、刀は避けられない。
そして、今やられた分身は――本体だった。
相手の分身全てに意思がある訳ではない。
実体がある分身の一体に意識が宿り、他の分身はその命令に従って動く。
その意識を宿した者がやられたとしても、他の実体分身に意識が移り、全滅するまで死なない。
なので、意識がある本体は、他の分身に紛れて出来るだけ観測と指示に徹するのが仕事。
……そして、ツィンはそのギミックを見抜いた。
一体だけ様子が違う分身がいて、他の分身が動くたびに、そっちに視線が行く。
……武士道精神か、ツィンの正面で待機してなければ、見破れなかったかもしれない。
さらに、意識が移った分身は……予想通り、辺りを見回した。
どの分身に行くかはランダムで、状況把握をすると思っていたのだ。
投げつけた刀を回収し、もう片方の刀を次の本体に投げ、また次の本体を探す。
「ッツ、コイツ!」
「次、そこ!」
投げた刀は弾かれたが、すぐに接近し、その命を刈り取る。
次、すぐに首を左右に振った分身があったが……ツィンの勘が、あれは違うと囁いている。
どこか違和感があり、ざっと周りを見渡すと……ツィンと演技分身の間をジッと見ている奴がいる。
「お前だ!」
「はぁ!?」
また本体が変わり……何故か、分身が全員を変顔し始めた。
気がふれたのか?
そのシュールな光景に、吹き出しそうになったが、自分の勘を頼りに、一番面白いを思った分身に刀を投げる。
「……それ!」
「どうして!?」
どうやら、正解だったらしい。
この後も、何回か命中率2%以下のゲームを当て続け……遂に、全く分からない問題が出た。
静寂。
どの分身も、繭一つ動かさない。
さすがに、全く情報がないと、ツィンでも当てることはできない。
しかし、動かないならあっちも攻撃できない。
絶対に、動き出すタイミングがある。
数分後。
ツィンは、ずっと集中力を切らさずに、ただの物の様に静止し続ける分身を見続けた。
だが……一匹だけ口角が動いている分身がいた。
トラップかと、その周りの分身を注意して観察したが、口角の奴以外は全く動かない。
もうその口角が本体かと思い始めた頃、その分身が動き出した。
……動きを止め切れていなかっただけだと判断し、そいつに刀を投げる。
「〈葬流漸〉」
その刀は相手に弾かれたが、すぐにキャッチして追撃する。
刀を振って、撃破したが……その背後に、もう一人いた。
流石に集中力が落ちていたのか、隠れているのに気付かなかった。
「〈天翔流漸〉」
返しの刃に当たらない様に踏み込み、脇腹から肩口にかけて、浅い傷が入る。
さらにHPが削れたが、まだ行ける。
「〈燕刀一文字〉」
双刀を一本の長刀に変え、その分身を倒した。
次は……
「〈流墜漸〉」
「ッツ!?」
上から一体の分身が降ってきて、ツィンの首に刀を当て……頸動脈を斬った。
実は、実体がある分身は、上から降って来たので最後。
なので、次に何処に行くのか分かるため、反応が速かったのだ。
だが、HPが尽きるまで、まだ時間はある。
その数瞬中に、
「〈燕刀一文字〉!」
最後の分身を撃破し……周りの分身は消えた。
◇
「〈捧命矢〉三千万」
「〈魍魎〉」
相手の、ガタイの良い弓使いが、何かの数字を宣言し、強力な矢を射た。
深淵は、妖怪を固めて威力を殺し、なんとか防ぐことに成功した。
「〈魑魅〉」
そのまま、袖から大量の魑魅魍魎を放ち、相手を追い込んでいく。
「〈マグネッターΩ〉」
何体かは弓で撃ち落とされたが、まるで追いついていない。
……今回の矢の威力は、さっき数字を宣言したものと比べて、威力が段違いに低い。
何か制限があるのだろうか?
とにかく、相手は深淵の妖怪に囲まれ、攻撃されている。
このまま倒せたら楽なのだが……そう簡単には行かなそうだ。
「フッ、これで終わりだ!行け魑魅魍魎ども!」
「……粉砕・玉砕・大喝采!」
チ ドカーン!
爆発が巻き起こり、相手を囲んでいた妖怪達は死んだ。
相手は……自爆したのだ。
深淵は、相手の良く分からない行動を不信に思いつつ、油断なく爆弾で発した煙に、袖を向ける。
そして、煙の中から真っ先に飛び出して来たのは……矢。
「〈捧命矢〉四千万」
「ッツ、〈魍魎〉」
咄嗟に妖怪を固めて対応したが、威力を殺しきれず、右足の先が消えた。
煙の中からでは、狙いが付けにくかったのだろう。
「ッチ、痛いな」
「ッチ、外した」
深淵のHPはまだ6割ほど残っているが、あの矢がクリーンヒットしたら、即死だろうから、あまり関係ない。
何かと謎が多い相手だが……しっかりHPは減っている。
攻撃を続ければ、十分倒せるだろう。
「〈魅魍〉」
「うお!?」
深淵は、袖から俊足の蛇を放ち、相手に食らいつかせた。
相手は弓でそれを防いだが……それなら、相手のメインウェポンである弓が使えなくなる。
「〈魑魅〉」
「クッソ!〈捧命矢〉千万」
相手は弓を使わずに、矢をダイレクトに刺して蛇を退治したが、その頃には既に他の妖怪に囲まれていた。
一瞬で相手は怪物の塊になった。
「ッチ!」
「やらせるか!」
相手は、慣れた手付きで爆弾を取り出し、着火したが……蛇の一体を爆弾の導火線に食らいつかせ……火が消えた。
もちろん爆発しない。
「よし」
深淵は、喜びに手を握った。
このまま、爆弾に気を付けつつ、魑魅魍魎で圧殺できれば……行ける。
幸い、HPは少し遅いが、順調に減っていき……いきなり、HPが一気に減った。
不信に思って、深淵が少し移動した瞬間。
「〈捧命矢〉三千万」
妖怪を貫いて矢が飛び……深淵の顔の右側を通り抜け、髪が落ちた。
……移動してなかったら、やられていたかもしれない。
どうやら、数字を使った攻撃は、自分のHPを消費していたらしい。
まだ、ラウルの電撃を耐えきった謎が残っているが……まあいいか。
その時、相手を囲んでいる妖怪たちの間から、眩い光りが漏れてきた。
もう消費するHPも少なく、強力な攻撃はできないだろう。
だが……謎の恐怖心があり、深淵は魑魅魍魎の壁を作った。
「〈魍魎〉」
これで安心。
そう思ってた。
段々と光りが強くなっていき……
「〈ステラ〉!」
レールガンの様な光りの閃が、妖怪の壁を貫き……深淵のほぼ全身がなくなった。
そして……強力な矢を放った、弓使いも死んだ。
自爆技☆
……うん。
大将同士の最終決戦まで相打ちで終わらせる気はないので、安心してください(?)
ステラは、ネットで調べれば元ネタが出て来るよ。




