主人公VS主人公
「まずは一回戦突破!」
「よしよシ」
一回戦突破を祝って、二人でハイタッチした。
パチっと景気の良い音が鳴る。
「凄かったー。ねえ、あのバイクって何?」
「私の鱗器ダ。……こっちだと翔具って言うんだったケ?」
名を[電走駆 エレクトリックBIKE]といい、遠距離魔法型のアンペルが、相手と距離を取る為に生み出した鱗器だ。
昔は結構活躍していたけど、必殺技が出てからは撃ちだされてばっかになった。
「ところで……次の試合遅くない?」
「んーっと……二回戦の相手は相打ちで、次は三回戦からになるらしイ」
「ラッキー♪」
……別にシロンは戦闘狂などではない。
ただ食べ物のために大会に出ているだけに過ぎないのだ。
「じゃあ、待機時間何すル?」
「……リンゴ!」
「ゴールデンレトリーバー」
「ば!? ば、ば……バッチ!」
「ドッグ!」
『ピンポンパンポン。シロンさんとアンペルさん、第四会場にお集まり下さい』
「グレビーシマウマ……なんか呼ばれてないカ?」
「いそげー!」
二人でしりとりに熱中していると、いつの間にか対戦準備が整っていた。
足が遅いアンペルを引っ張って、最速で会場へ向かう。
「ギリギリセーフ!」
「学校で言うとチャイムと同時くらいだけどナ……」
そう言って、少しやつれたアンペルは顔を上げ……今回の相手を見て目を擦った。
同じく相手の二人も目を擦っている。
「どうしたの?」
「……相手が知り合いだっタ。……っていうか、同じクラン ダ」
「え!?噂の!?」
アンペルが手を振り、相手もそれを振り返す。
「よし、あっちの男の能力は超スピードで、女の方は高機動と再生力ダ。即死させない限りは復活すル」
「……容赦ないね」
「私は男の方に二戦二敗してるから、お前がそっちと戦ってくレ」
「分かった」
いつもの如くザ・バードが中央に出現し、開始宣言をする。
『デュエル開始ィィィ!』
「【RALGAN】」
開始した瞬間にアンペルが女子の方に銀の弾丸を撃ち、躊躇なく腹を撃ちぬいた。
必殺技を発動させる前に頭を撃ちぬきたかたが、さすがの距離に狙いを外した。
「【不老不死海月ノ異名】」
「ッチ」
聞いていた通りの再生力で、腹の穴が直ぐに塞がり……中学生くらいだった見た目は二十歳くらいまで成長した。
右手に魚のぬいぐるみを携え、回避運動をとりながらアンペルに接近する。
「そう簡単にはいかないカ。【RAILGAN】【RAILGAN】」
「効かないよ」
黄色の線が腕を吹っ飛ばし、喉を貫いたが、すぐに再生してしまう。
「……本当に大丈夫?」
「一撃で貫けばいいんだから、これでも有利な方ダ。それより男の方を頼んだゾ」
「分かった!【古代凱装羅骨】」
「【終焉まで続く加速】」
アンペルのことは置いておいて、自分のことに集中することにした。
必殺技を発動させて骨の鎧を纏った。
そして、相手は……凄まじいスピードで空中を泳ぎ出す。
さっきの合体人間以上のスピードで、霊力のジェットを使った状態よりも少し速い。
「はやっ!〈ゴーストジェット〉!」
無いよりはマシだとジェットで加速し、真正面から超スピードで衝突する。
そして、二人が交差する瞬間。
「〈爆霊覇〉」
猫の手を突き出し、霊力を流し込もうとしたが……身の捻り一つで躱された。
そして、カウンターの拳が骨の鎧に入り、少しよろける。
しかし、パワーはあまりないのか、ダメージはほとんど入らない。
「……硬いなぁ」
「〈霊爪〉」
「っと!」
霊力の爪で反撃しようとしたが、その速度で通り抜けられ、攻撃は空を切った。
どうやら、相手はスピードを活かしてヒット&アウェイでジリジリとこちらを削る気らしい。
そして、二回目の交錯。
今度は当たりやすい様に、最初から両手の霊の爪を取り出し、広範囲攻撃を実行する。
「これなら避けれないでしょ!」
「甘い!」
相手は……躱すのではなく腕を掴んで抑え込んだ。
少しは掠ったが、ほとんどダメージは入らない。
どうやら、耐久もそこそこあるらしい。
「よっと!」
「うぅ」
腕を抑えたまま足で蹴られた。
押さえつけられている腕を、パワー差で押し切ろうとしたが、また逃げられてしまった。
今のところ、一方的にやられている。
何故こうなっているかというと……圧倒的経験不足だ。
これまで、シロンは圧倒的スピードで戦ってきた。
お陰で、同速はあっても、自分より速い相手とは戦ったことがなかったのだ。
「ディアー助けてー!」
「アンペルだヨ!悪いがこっちも余裕がない!【RAILGAN】」
「〈喰縫〉」
相手の少女は、脇腹を貫いたレールガンを無視し、魚のぬいぐるみを伸ばしてアンペルに襲い掛かった。
口を開いたぬいぐるみがアンペルに迫り、それを彼女はレールガンで破壊するが、体と同じくすぐに再生する。
中々カオスなことになってるが、五分五分といった状況。
こっちに手を出す余裕はなさそうだ。
「分かった自分でどうにかしてみる。何かエネルギー切れ?してるみたいだし」
「……?待テ!」
相手(男)は、さっきまでずっと同じ速度で泳いでいたのに、今はシロンから離れた場所でゆっくりと動いている。
あのスピードで動くには、何か制限があるのかもしれない。
チャンスだと接近する最中、背後からアンペルの忠告が聞こえてきた。
「減速しているなら気を付けロ!奴のそれはチャージ行動ダ!」
「バラすなよ!」
近づく度に、段々と気温が高くなっている気がする。
それは、相手の拳に熱が溜まっている証拠。
彼は、赤く輝く右腕を携え、再び加速した。
アレはヤバい!
三度目の衝突。
「〈霊爪〉」
霊力の爪をクロスし、相手の攻撃を防ぐ体勢をとった。
しかし……チャージした熱拳は止まらない。
「〈紅蓮拳〉」
「ッツ!」
霊の爪は砕け、拳が迫ってきた。
ギリギリで霊爪を使って、腕をずらしたお陰で致命傷は避けれたが、直撃した部分の鎧は剥げ、拳が体に入る。
体勢は崩れ、追撃が来ると不味かったが、相手は慎重なのか、駆け抜けて距離をとった。
もう一度食らうと不味いため、熱を溜められる前に接近して叩こうと思ったけど、スピードの差は埋まらない。
ガン逃げされると、どうしても追いつけない。
また熱がチャージされ、周りが温かくなってきた。
アレだと、さっきみたいに掠っただけでも、やられてしまうだろう。
……じゃあ、やることは一つだ。
四回目の激突。
相手の赤光の拳が迫るが……軌道は単調右ストレート。
「〈紅蓮拳〉!」
「とお!」
相手の右腕を、左腕で防いだ。
左腕の鎧はもげ、凄い勢いでHPバーが短くなっていくが、そのほんの少しの時間でやることがある。
さっきから、相手はずっと正面から突撃して来た。
なら……そこにトラップを仕掛ければいい。
「〈クラッシュハート〉」
「ッグ!」
相手が来ると思われる場所に、霊力の腕を置いていたのだ。
そして、全ての霊力をそっちに回し、最速で相手の心臓に手を伸ばした。
心臓を潰された相手も、HPが減っていき……相打ち。
「よろしく、アンペル」
「頼んだぞ、ファニー」
二人は、ほぼ同時に消えていった。
「……あっちは相打ちになったらしイ」
「じゃあ、こっちも決着を付けようか」
黄色のラインが飛び交い、ぬいぐるみが喰らいつく。
先に相手を捉えたのは……相手の方。
「〈喰縫〉捕まえた!」
「うワ!」
魚のぬいぐるみに噛まれて、引き寄せられる。
そして、アンペルをグルグル巻きにして拘束した。これで手は動かせない。
「終わりだよ」
「……ああ、お前がナ」
アンペルは……二本の足に、バイクを乗せていた。
バイクに電気が通い、甲高い音が鳴る。
「二本の棒と金属があれば撃てるんだ。【RAILGAN】」
「ッツ、〈紅撃〉!」
相手の紅色に輝く抜き手がアンペルの心臓を貫き、撃ちだされたバイクが相手の頭を吹っ飛ばした。
まさかのこっちも相打ち。
「……え、これで終わり?」
「引き分けだしナ……。こんなことそうそう無いと思ってたんだガ」
「まあいっか。次はどこ行く?」
「……とりあえず、お前のファッションセンスをどうにかしよウ。どうせその幽霊みたいな服しか持ってないんだロ?」
「え、どうして分かったの?」
こうして、二人は服屋へと向かった。
……あんまりクライマックス感ないけどもうすぐ完結します。
【マグロ】
加速
普段は遅いけど、最高で時速80くらい出せる。
急に加速して網にぶつかったりするので、養殖が難しかったりする。
【ベニクラゲ】
不死身
老いで死にそうになると、若返って生き残る。
その性質から、不老不死クラゲ(ウミガメとかに食われると死ぬ)とも言われる。
空想上の生物にも思えるが、現実にいる生物。




