……もうなんか準決勝
「【古代凱装羅骨】」
「【ランド・オーヴァー・グロー】」
「【古代(略)……」
「【未幻螺旋淳朽燈楝】
「……(略)」
「【SIGN OVER GREED】」
それから、シロンは勝った。
もうなんかずっと勝ちまくった。
「〈ブリーズビーム〉」
「〈凱霊脚〉」
ハッシュの風ビームを極小の動きで避け、ジェット踵落としで彼女を倒した。
「あー、大体察してましたけど、また負けました……。格闘技の技術上がってません?」
「まあね」
「折角今までモンスター系としか当たらなかったのに」
「凄い確率だね」
シロンの体感では、必殺技でモンスターになる確率は5分の1くらい。
……中々の細筋を辿って来たらしい。
「あと何回勝てばいいのかな?」
「今もう準準決勝ですよ?」
「え?」
「メニュー欄からトーナメント表が見えますよ」
ハッシュに言われた通り、メニューを開いてみると……確かにトーナメント表を見ることができた。
シロンの名前は、分岐があと二つの所まで進んでいる。
「あと二回だけ!」
「頑張って下さいねー。ユーキャンドゥーイットです」
ハッシュは親指を立てて、笑顔で見送った。
◇
準決勝。
相手は……なんか凄い女の人。
なんというか、圧というか、神性というか……そんな感じのやつがある気がする。
「よろしく!」
シロンの挨拶は、している内に段々とフランクになってしまい、最終的によろしくの一言になった。
ちなみに、よろしくの前は一周回って丁寧に『よろしくお願い致します』だった。
「……(ペコリ)」
それを、相手の女性はお辞儀で返した。
ここにきて、新しい返事である。
あいも変わらずザ・バードが現れて、開始の宣言をする。
『では、始めますよ。デュエル開始ィィィ』
「【古代凱装羅骨】」
「【憑臨 ガブリエル】」
シロンは骨の鎧を纏い……相手は装備から変わっていった。
普通の服は白色の足まで届くシャツになり、翼は大仰な物になり……頭に天使の様な黄色の輪っかがついた。
一言でいうと、天使。
「天使になれるって感じかな?」
「……仮初だけど」
そう言って、相手はシロンの方に手を伸ばし、水魔法を撃った。
「〈天水・波〉」
ザザザザザ
どこからか、巨大な波が現れ、シロンの方に向かって進んで行く。
速くない相手だったら、これだけで大量の水に飲まれて窒息してしまうだろう。
流石に準決勝まで残った人だけあって、出力が高い。
「〈ゴーストジェット〉」
シロンはそれを迂回して、相手の方に突っ込んだ。
心臓の位置が分かりやすい人型なので、霊力の腕を相手の心臓に向かって伸ばし……消えた。
相手に近づくにつれて、存在が保てなくなった。
「……段々霊力が効かない人がいても動じなくなってきたよ」
「……?〈天水・漸〉」
水の刃がシロンに飛んだが、彼女はそれを腕の鎧で弾き、立ち向かっていく。
霊力が効かない以上、シロンは近づくしかない。
「〈凱正拳〉」
「〈天水・壁〉」
透き通った水が拳に立ちはだかり……威力は下がったが、通った。
霊力がなくても、近接戦闘はシロンの方が有利だ。
「〈ゴーストジェット〉〈凱霊脚〉」
「〈天水・球〉」
オウムの人から教わった(?)ジェットを付けた拳で殴ろうとしたが……やはり水で大きく威力が落ちる。
さらに、どこからか水が現れて球を形成し……相手は水球の中心に居座った。
「うわぁ……〈凱正拳〉」
「〈天水・流〉〈天水・雨〉」
完全に水に引きこもり、さらにその水流すら操って、極限までシロンの攻撃の威力を削いだ。
そして、空は真っ黒な雲に包まれ、ザーと凄まじい勢いで雨が降り始める。
もちろんシロンはビチョビチョになってしまうが……害はなさそうだ。
「〈天水・漸〉」
「おっと」
水の刃を鎧で防いだ。
そのまま攻撃を続けつつ、少し思考に集中を割く。
相手の行動に違和感がある。
これまで戦ってきた相手にも防御を中心に戦う人はいたけど、その人は毒や時間経過のパワーアップなど、時間を掛ければ有利になるギミックがあった。
だが、そんな現在そんなギミックは見えていない。
そして……今のところ、雨を降らせる意味が全く見えないのだ。
毒でもなく、ポ〇モンみたいに水魔法の威力が上がる訳でもなく、むしろ雨に魔力を割いているせいか、水刃の威力は落ちていた。
では、何故雨を降らせるのか?
ボチャン
その時、水の音が聞こえた。
大粒の水が、池に入る様な……。
「ッツ!」
「気付きました?」
シロンはバッと下を向き……底に溜まっている水を見た。
この決闘会場は、球状の結界になっている。
そこそこ大きな球なのだが、大粒で凄い勢いの雨によって、ガンガン水で満たされていく。
「……もしかして、この結界をプールにしようとしてる?」
「……満たされる前に倒せるといいですね」
そう言って、天使は下に急降下していった。
数発殴るも、水で防がれ、底の水に潜られた。
「……私泳げないけど、どうにかなるよね」
ボチャン
シロンは大きく息を吸い込み、息を止めて水に潜った。
視界の右上に酸素ゲージなるものができ、段々と減っていく。
このゲージがゼロになったらHPが減るようになる。
ノーダメージで動ける時間は、約1分。
水中で思い切って目を開け……青い世界がシロンを迎えた。
雨からできた水だからか、そこそこ綺麗な水で、視界はとれる。
「ゴボゴボ(いた!)」
天使は、できるだけ距離をとるためか、水の底で待機していた。
「ゴボゴボ(〈ゴーストジェット〉)」
「〈天水・流〉」
霊力のジェットで突っ込むが、天使は水流を操って、できるだけシロンを近づけない。
それでも、慣れていない中必死に泳ぎ、鎧に包まれた拳を握った。
「ゴボゴボ(〈凱正拳〉)」
「ッツ!」
拳が腹に直撃したが、水のせいで上手く動けない。
人生で初めて泳げないことを後悔しつつ、霊力のジェットも絡めてなんとか食らいついていく。
だが、数発入れた頃には、右上の酸素ゲージは真っ赤になっていた。
そろそろ上がらなきゃっと思った瞬間。
「〈天水・糸〉」
水の糸に絡まれてるのに気付いた。
そこまで強度がある糸ではないので、シロンならすぐに引きちぎれるのだが、パニックでまともな思考ができない。
無理に足掻いて、逆に糸が複雑に絡まってしまう。
そして、遂に酸素ゲージが尽き、代わりにHPが減っていく。
「ゴボゴボ(〈ゴーストジェット〉!)」
ヤケクソになったシロンは、全力で霊力のジェットを使って、無理やり水の糸を千切り、水面から顔を出した。
「ハァ、ハァ」
息を荒げ、体内の酸素を補充する。
酸素ゲージは少しづつ回復し、満タンになったらもう一度潜る。
さっきよりも水は深くなり、潜るのに時間がか掛かってしまう。
さらに……何故かさっきよりも潜りにくい気がする。
「〈天水・重〉」
シロンは知らないのだが、天使の魔法によって水が重くなり、浮力が高くなったのだ。
……軽く頭の中で計算したが、このままではどう考えても時間が足りない。
必死に打開策を考え……一つの賭けを思いついた。
そして、直ぐにそれを実行する。
「解除」
シロンは骨の鎧を解除した。
そして、久しぶりにスキルを【ヴィゾーヴニル】に変えた。
「〈獣槍〉」
水中に槍を作り出し、天使の方に撃ち出した。
水流を切り裂いて、天使を傷つける。
いける。これなら戦える。
「〈天水・漸〉」
「〈獣槍〉」
水の刃を槍で相殺し、多数の槍を撃つ。
あっちが水の雨を降らせるなら、こっちは槍の雨を降らせる!
あれから、シロンと天使は、槍と水刃をぶつけ合った。
大体の槍は撃ち落とし、体中に傷をつけつつ、槍を撃ち続ける。
両方のHPが尽きかけ、遂に最後の瞬間。
「〈レーヴァテイン〉」
「〈天水・閃〉」
綺麗な槍と水のビームがぶつかり合い……槍が水を両断し、天使の体を貫いた。
シロン、決勝進出。
必殺技がなかったのに押しきれたのは、雨に無駄なリソースを吐いてしまっていたから。
スキルを切り替えた時点で、窒息死を諦めて普通に戦ってたら、天使の方が勝っていたかもしれない。
【ガブリエル】
二大天使の片翼。ちなみにもう片方はミカエル。
神からのメッセンジャーとか、受胎のイメージが強いけど、いい能力が思いつかなかった。
四大元素で水に分類されるからこうなった。
霊力が効かなかったのは勿論神性から。




