閑話 リムスの憂鬱
とある日。
イベントに向けてレベル上げでもしようかと、今日も今日とてUAOにログインすると……UFOの通路でリムスが死んでた。
「うわ!……どうしたの?」
彼は顔を上げると、滝の様な涙を流し、シロンに泣きついた。
「助けて下さい!」
「よしよし、落ち着いて」
とりあえずギターを持たせてリムスを落ち着かせた。
軽いBGMを弾きながら、彼は事情を話し始めた。
「うちのクラスに放愛さんっていますよね?」
「うん、可愛いアイドルだよね」
「文化祭で一緒に舞台に立ったお陰で、そこそこ仲良くなったんですよ」
苦悩からか、少しずつ音楽のテンポが速くなっていく。
「良かったじゃん!超人気アイドルと仲良くなれるなんて」
「安心して夜道を歩けなくなったけどね。それで、休み時間の雑談で暇な時はUAOをしているって話になったんだ」
莫大なストレスを発散するように、段々と演奏が本格的になっていった。
「そしたら放愛は『私もやってみたい』とか言って……エスコートを頼まれたんだよォォォォ!!」
ジャジャジャジャーン
心の内を全て吐き出したのか、演奏が終わった。
いつの間にか大合奏になっていたそれに、シロンは拍手を送る。
「エスコートしてあげればいいじゃん」
「……無理です。女子と一対一で話すなんて無理です。手伝って下さい!」
「えぇ……まあいいけど」
リムスの余りにも凄まじい気迫に、つい安請け合いしてしまった。
◇
次の日。
シロンとリムスは、初心者の放愛さんを案内するために、第一の町壱ミルを訪れた。
「そろそろ来る頃です。特徴は……アイドルオーラを見れば分かるって言ってます」
「えぇ……あ、いた」
とてもアバウトな特徴に困惑したが、すぐにそれらしい人物を見つけた。
何というか、ピンと伸びた背筋や、笑顔を絶やさないその表情はまさに『アイドル』という感じだ。
二人は彼女と接触した。
「えっと、放愛さん?」
「晴山君……と、誰?」
彼女は艶やかな声でリムスの名前を発し、敵意の籠った低い声でシロンの名前を聞いた。
シロンは、その視線に若干の敵意を感じつつも自己紹介をした。
「同じクラスの空峰だよ。こっちではシロンって呼んでね」
「晴山です。こっちではリムスでお願いします」
「何その名前w」
「……好きな音楽家からとりました」
彼らは仲睦まじく話していた。
シロンはもう二人でいいのではと思い、しれっと帰ろうとしたが、リムスに服の袖を掴まれた。
……よく見ると、表面上は流暢に話している様に見えて、彼の手は小刻みに震えている。
「見放さないで下さい(小声)」
「何で?仲良さそうに見えるのに(小声)」
「体が拒否反応を出すんですよ(小声&泣き)」
シロンとリムスでコソコソと話していると、無視されたと感じたのか、放愛は少し大きな声で話し出した。
「私は放愛彩。こっちではアイルって呼んでね♡」
流石プロと言うべきか、綺麗なウィンクまでして自分の存在をアピールした。
だが……その有名な名前のせいか、周りが騒ぎ出す。
「え……もしかして、トップアイドルの放愛彩?」
「同姓同名とかじゃないの?」
「いや、ガチファンの俺には分かる!あれは彩ちゃんだ!」
「掴まって!〈ゴーストジェット〉」
「ワッ!」
集まって来たプレイヤー達を振り切るために、右手でリムスを、左手にアイルを抱え、霊力のジェットを使用した。
壱ミルには初心者しか残っていなかったからか、二人を抱えたままでも逃げ切ることができた。
「キャー!こわーい!」
「今そういうの大丈夫なんで」
「そっか」
アイルは初心な反応をしたかと思うと、リムスの言葉で一瞬で冷めた。
純粋なシロンのアイドル像が音を立てて崩れていく。
「まあでも、良いな景色だよね。綺麗……というより、面白いって感じで」
「そういうのもこのゲームの魅力の一つだからね」
シロン達は見慣れていたが、上空から見る町の景色は壮観だった。
生活感があり、下の人たちの日常をみることができる。
新鮮というか、面白い。
「……またみんなで絶景スポットに行きたいね」
「ですね」
「……」
今度一人でスポット探ししようかな?
「どこかいいとこあったっけ?」
「月とか良い感じじゃないですか?お月見みたいに、お地球見って」
「確かに。地球は青かったって言ってみたい」
「……ちょっと電話」
飛んだままリムスと身内話をしていると、ほぼ空気だったアイルが電話だと言って、地上に降りた。
UAOでは電話番号を登録することで、ゲーム内からでも通話ができるようになる。
ゲーム内同士だと無理。
高い声で話している辺り、仕事の話かな?
電話が終わって、彼女はシロン達に向き直り、
「仕事が入っちゃった。今日はありがとね」
「そうですか、お仕事頑張って下さい」
「あ、フレンド登録しとこうよ」
メニュー欄を開いて、キーボードでアイルの名前を打ち込んだ。
しかし、何人か同じ名前の人がいて、どれが放愛か分からない。
「こういう場合ってどうしたらいいのかな?」
「下の方にフレンドコードが……」
一人一つ割り振られるフレンドコードを使うことで、無事にシロンとリムスはアイルとフレンドになった。
《チーム・スカイマウス》以外の人だと初めてである。
登録が終わり、改めて挨拶を交わした。
「では、さよなら」
「バイバーイ」
アイルは去っていくリムスに向けて手を振り……残ったシロンと向き直った。
「……それで、話って何?」
さっき彼女からフレンドコードを見せてもらう時に『二人で話したい』と書いてあったのだ。
そこで緊張で少しでも早く帰りたそうにしているリムスを追いやり、シロンとアイルのみが残った。
「もしかして仕事っていうのは……」
「それは本当、まだ少し時間があるだけ。話っていうのは……あなた、リムスもとい晴山君とどういう関係?」
そう言って……アイルはシロンに詰め寄った。
この前蘭丸にも詰め寄っていたし、彼女の常套手段なのかもしれない。
「答えて!」
「友達だよ。ゲーム友達」
「本当に?」
今回の行動が怪しかったせいか、アイルは信じてくれない。
しかし、これ以上問い詰められたくないシロンは反撃にでることにした。
「もしかして、リムスのことが好き……とか?」
「うん」
白を切るつもりだと思っていたシロンは、そのあっさりとした返答にかえって驚いた。
言葉に詰まっている間に、アイルは語り始めた。
「彼の歌があれば、私はさらに輝ける。歴史に名を刻む偉大なアイドルになれる!」
「それだけじゃないよね」
「……絶対に口外しないでよ?」
「うん(ワクワク)」
彼女は顔を赤くして、少し躊躇いつつも、しっかりと話してくれた。
「普段は低姿勢なのに、演奏中は強引な性格になるギャップが……萌える」
「……萌えちゃったか~」
意外と真っ当(?)な理由だった。
まあ、アイラもしっかりと話してくれたので、こちらも誠意を持って話す。
「そっか……でも、本当に私はリムスとなんでもないし、LIKEだけどLOVEまではいかないよ。他に好きな人もいるし」
「……(ホッ)」
「だけど、リムスから恋愛相談されたことはあるから……頑張ってね!」
「え!?」
その後、相手について問い詰められたが、流石にリムスが可哀そうなので、相手については知らないことを貫き通した。
ツィンも安心して夜の道を歩けなくなるかもしれないし。




