日曜朝8時30分
『第四回イベント、開催』
色々買い過ぎて、後処理がとても難しかった文化祭が終わり、久しぶりにゆったりとネットを見ると、イベントの告知があった。
いつも通り月末にやるらしく、ルールはプレイヤー同士のタイマン。
一対一の決闘だ。
真白は、ウキウキしながらUAOにログインした。
UFOの自室に入り、鏡に映った幽霊の様な自分の姿に少し驚く。
しかし、よく見たら可愛げがあったので、そのままリビングへと向かった。
「ハロー」
「久しぶり、ハッシュ」
リビングには、ほとんどの《チーム・スカイマウス》メンバーが生活しており、談笑がよく聞こえてくる。
そして、大きな机ではツィンが深淵に勉強を教えていた。
「どう?」
「まあ、平均より少し上くらいかな。でも、今からやれば十分射程圏内だと思う」
「ここはどうするんだ?」
「点Aと点Dを繋いで、二つの辺と間の角に繋げれば……」
「なるほど」
「……」
自分も力になれるかと深淵の手元を覗き込んでみたが、彼女はシロンには分からない問題を解いていた。
……これなら心配なさそうだ。
ツィンと一対一の練習をするつもりだったが、彼女は今手が離せないらしい。
他の誰かとしようと思い、一番近くにいたハッシュに話しかけた。
「ねえハッシュ、次のイベントの練習しない?」
「ああ、タイマン大会でしたね。オーケーです、ボコボコにしてあげますよ」
「何々?」
ハッシュと共に決闘場に行こうとしていると、近くで遊んでいたユーもやって来た。
しかし、いつも一緒にいるラウルがいない。
「ラウルはどうしたの?」
「仕事。私の為に頑張ってくれているの」
「惚気はストップです!さっさと行きますよ」
目を輝かせたユーをハッシュが引っ張って、今度こそ決闘場へと向かった。
◇
「さて、一対一の練習でしたね」
「うん。まだあんまり慣れてないから」
「誰からする?」
「「「……ジャンケン!」」」
シロンとハッシュは握った手を出し、ユーはピースの手を出した。
「ああ!」
「じゃあ、最初はミーとシロンで」
「負けないよ!」
シロンとハッシュは分かれて決闘場に立った。
そして、シロンは開始と同時に突撃出せる体勢をとり、ハッシュはカラカラと風車を回す。
「ユー、デュエル開始の宣言を!」
「デュエル開始ィィィ!」
「【古代凱装羅骨】」
必殺技を発動させ、体から骨の鎧が這い出してきた。
これで、シロンは激硬の外装を纏い、霊力が覚醒した最強の状態になる。
そして、それを見たハッシュも必殺技を発動させた。
「キュルンキュルン! フェアリーパワーチャージ完了! 変☆身」
「……え?」
風車を回して頭上に掲げ……彼女は光の絹に包まれた。
裸体の様に体のラインが強調され、緑色の光が纏わりついて服を変えていく。
下から、黄緑のブーツ、フリルのあるスカート、純白の手袋、髪飾りがつき、風車の持ち手が杖の様に伸びた。
その姿は、日曜の朝に放送されていそうな、女の子のヒーロー。
「【フェアリー戦士 ウィンドグリーン】参上!」
「……ハッシュって何歳なの?」
「20代前半とだけ言っておきましょう」
「ちなみにプリ〇ュアは見てる?」
「当たり前じゃないですか。サンデーでも八時起きですよ」
……さて、両者変身を終えて、強化状態で相対する。
皮肉にも、シロンが外装を纏っているのも相まって、モンスターVS少女戦士の構図になっている。
「ジャスティスは勝つんですよ」
「こっちもヒーローっぽいでしょ〈ゴーストジェット〉」
霊力のジェットで一気に距離を詰め、第三の腕を伸ばして心臓を掴み取ろうとしたが、あっちのステータスも強化されているのか躱された。
第三の腕はほぼ透明だが、目を凝らせば見えなくもない。
「こっちからも行きますよ。〈ブリーズビーム〉」
ハッシュは風で加速して第三の腕を躱しつつ、風車をシロンの方に向け……緑色のビームを放った。
シロンはジェットの向きを調整してビームを躱したが、鎧の端っこにビームが着弾し、綺麗な穴が空いた。
外装を突破する攻撃は持っているらしい。
「ドンドン行きますよ〈ブリーズビーム〉」
「〈ゴーストジェット〉」
連続で緑色のビームを放つが、気を付けていれば問題ない。
風車の真正面から出てくるのも分かっているので、軌道も読みやすい。
それを見たハッシュは、風車の一羽を手に持ってステッキごとクルクルと回し、
「やっぱり拘束が先ですかね〈ストーム〉」
シロンの近くに乱気流を作り出した。
凄まじい大気の勢いに引き込まれそうになりつつも、そのパワーで無理やり脱出しようとしたが、打ち込まれたビームを避けようとした時に巻き込まれてしまった。
「これでエンドです。〈アトモプレッション〉」
ハッシュが高速で回転する風車から、風の爆弾を作り出した。
高い密度で濃縮されており、キーンと甲高い音を鳴らしている。
弾速は遅いが、シロンは今乱気流に飲まれていて、上手く動けない。
しかし……そう簡単にシロンはやられない。
さっきからずっと出していた第三の腕を引っ込めて、足に霊力を集中させた。
「〈ゴーストジェット〉」
ブウウウウン
爆音を鳴らしながら、全力のジェットで乱気流から脱出した。
驚愕した表情を浮かべるハッシュにそのまま接近し、拳を振りかぶった。
「〈凱正拳〉」
霊力は全て足に回していたので、腕の鎧で殴りつける。
吹っ飛ばされたハッシュは体勢を整えながら、風車を手で回そうとしたが、シロンはそれを掴んで止めた。
「あッ!」
「〈凱霊脚〉」
ジェットを操って横腹を蹴り、ボキボキという音がしてハッシュはやられた。




