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Universal Sky and Sea Online 空中のVRMMO  作者: カレーアイス
第四章 超インフレ編
58/76

知らない知り合い アイドルの裏側

 二話構成になっています

「彼が、浮気をしていました……」

「……ドンマイ」

「あなたの思うままに動きなさい。浮気した彼を許容するのか、別れるのか。何より大切なのは、あなたが幸せになることです」


「実は、仕事でミスをしてしまって……まだ上司に報告できてません」

「具体的に聞いてもいいですか?」

「新築の家を建てる仕事をしています。ほとんど完成したところでしたが……」

「……(ゴクリ)」

「壁にトラックを突っ込ませました。見ます?写真」

「わー、綺麗に突っ込ませましたね」

「もはや芸術品じゃん」


プルルル プルルル

「……上司から電話がかかってきました」

「いずれバレるんですから、もう言っちゃいましょう!」


『もしもし。俺は夢を見ているのかもしれない。例の新居にトラックが刺さっていたんだぜ?』

「……申し訳ございません。私がやりました」

『……あのトラックと壁、芸術品として高く売れるらしい』

「は?」

『外国貴族の感性はよくわからん」

「おい真白。見てくれ、さっき落札した、このゴッホとピカソを足して二で割った様な超芸術品ヲ」





「フー。ちょっと疲れた」

「割と上手くいくね。お茶どうぞ」

「ありがと」


 お客さんの足取りが止まり、真白たちはほっと息をついた。

 ここに来た全ての人が幸せになった訳でもないし、運に救われたこともあったが、誰かの役に立っている。

 きっとそんな気がする。


「そろそろご飯にしよっか」

「そうだね」


 昼ごはんを食べるために、店を一旦閉じようとすると……外に一人だけお客さんがいた。

 中学生くらいの、少し暗いけど可愛い子だ。


「ご相談ですか?」

「……はい」

「どうぞ中へお入り下さい」


 閉店の立札を飾り、少女を中に入れた。

 その時、真白のお腹が鳴った。


「えっと……茶菓子とかいります?」

「……食べながらでもいいですよ」

「ありがとう」


 芽衣が出してくれた茶菓子を嗜んだ。

 自分だけ食べるのもアレなので、少女に菓子を勧めつつ話を促した。


「ご相談は何でしょう?何も言わずに帰ってもいいですよ」

「……実は私は学校を超越した者です」

「どういうこと?」

「俗にいう不登校というやつだ……です」

「うんうん……ん?」


 どこか聞き覚えがある声だったが、記憶のアルバムを掘り返しても少女の記憶はない。


「どうして学校に行けないのですか?」

「ちょっと独特な口調をしていたので、陰口が辛くて……。容姿が良いのもあったのだろうな……です」

「普通に話してくれていいですよ」

「そうか、ではそうさせて貰おう」


 一応取り繕おうとしていた敬語は消え去り、傲慢な話し方になった。

 身近にこんな話をする人がいたような……。


「……アビス?」

「ッツ!?まさかお前は、異世界で共に戦った我が相棒、シロンか!?」

「そんなことある?」

「となるとお前はハッシュか!?」

「あのダメ先生と間違えないで!ツィンだよ!」


 相談に来た少女はリアルの深淵だった。

 

「今日はどうしてここまで?」

「お前らがお悩み相談するって聞いて、やってみたくなってな。別に不登校なだけで、引きこもりじゃないし」


 シロン達は、クランメンバーにもお悩み相談の練習をしていた。

 ヒロの大学の単位が足りないことくらいしか相談されなかったが、深淵は興味を持っていたらしい。


「それで……不登校の話だよね」

「ああ。流石に今の状態に思うところが無い訳じゃないのだ」

「ならその話し方をどうにかしなよ……」

「無理だ。例えば、明日からアラビア語で喋れって言われたらどうする?」

「いや、普通に無理だけど」

「そういうことなんだよ」


 ……流石にそれは言い過ぎだが、彼女にとってはそれだけ難しいことなのかもしれない。

 とにかく、口調を変えることはできないらしい。


「あと、アイデンティティを失いたくない」

「……そっちの方が割合大きそう」

「敬語くらいは使えた方がいいと思うけどね」

「フッ……聞こえないな」


 何故か笑い話の様に話しているが、真白には彼女が真面目に話していることが分かった。

 どうにかしてあげたいが、何も思いつかない。


「もう少し情報が欲しいんだけど……自己紹介してくれる?」

「仲いい相手に自己紹介っていうのは、どうも違和感があるが、まあいいだろう」


 彼女は立ち上がって、右手を左脇腹に当て、左手を前に突き出した独特のポーズを取った。

 そして、声高らかに自己紹介を始めた。


「我が名は天野(あまの)(ゆめ)。第二中学校三年五組15歳、不登校。好きな漫画はブ〇ーチだ」

「読んじゃったかー、厨二病製造漫画」

「まあ、一応オンライン授業は受けているから、そこそこ勉強はできるぞ」

「……じゃあ、うちの学校に来たら?」


 深淵こと夢が勉強できると聞いた時、思わず真白は勧誘していた。


「どういうことだ?」

「なんかうちの学校は変わった人が多いから。リムスもうちの学校だよ」

「あいつか……なるほど」


 かなり慣れていたが、あの演奏を開始したら豹変する性格は結構変わっている。

 初めて会った時は、深淵もかなり引いていた。


「多分、受け入れてくれる人も多いよ」

「だが……偏差値高いんだろう?」

「今から頑張れば大丈夫だよ。真白でも入れたんだよ?」

「確かに」

「酷くない!?」

「もし良ければ、私がUAOで教えてあげるし……やってみない?」


 夢は、少し考えるような素振りを見せたが、


「よろしく頼む」


 不登校脱出への一歩を踏み出した。





「そういえば、リムスもここにいるのか?」


 夢も加わって、3人で昼ごはんを食べ終わった後、深淵が切り出した。

 真白は、個人情報を晒してもいいのかと少し躊躇したが、彼女を信頼して蘭丸を紹介することにした。


「今どこにいるのかな?」

「ライブは休憩時間中だから、控え室にいるんじゃない?」


 相談室を空けたまま、蘭丸を探してアイドルステージの舞台裏に歩いて行った。

 真白を先頭に、物珍しそうに周りを見渡しながら控え室のドアを開け……そっと閉じた。


「どうした相棒。着替えでもしてたか?」

「ちょっと大事そうな話をしてたから」

「どれどれ……」


 ドアを少しだけ空けて部屋を覗き込むと、中では蘭丸とアイドルの放愛さんが話をしていた。


「今日はありがとうね、晴山君。お陰でいつもより盛り上がってる気がするよ」

「いえ、そんな……。みんなのお陰ですよ。僕は後ろで少し演奏してただけです」

「……作詞作曲が少し?」


 楽曲の権利がなんだとかの問題で、いつもの歌が使えなかったからと、今回使った曲は全てメイドイン蘭丸だ。

 彼は、グループの雰囲気に合ったのを数曲、1週間程度で作り上げていた。


「まあプロじゃないから、ちょっと甘い所はあるけどね」

「すみません……」


「……リムスって思ったより凄いのか?」

「そうかもしれない」

「静かに!(小声)」


 真白はもう入ってもいいのではと思ったが、何か面白くなりそうな雰囲気を感じ取った夢が、それを引き止める。

 その後、数分は談笑していたが、


「ねえ、うちの専属になる気はない?」

「……え?」


 さっきまでのアイドルキラキラオーラは鳴りを潜め、打算的な冷酷声になった。

 もはや別人の様な喋り方に、蘭丸はおろか真白達も衝撃を受ける。


「あれがアイドルの裏側か……」

「アイドルなんてそんなもんでしょ」


 不気味な笑みを浮かべて近づく放愛に、メンタル激弱の蘭丸は泣きそうになりながら後ずさりした。

 まるで逆レ〇プ。


「せ、専属って?」

「これからも私たちの曲を作って欲しいってこと。なんか最近伸び悩んでてね。ファンにアンケート取ってみたら、『歌詞と曲が噛み合ってない』っていう意見が多かったのよ」

「確かに、恋愛ソングにしてはテンポが速いなと思いますけど」

「それで、新しく良い感じの人を探してたら、あなたがいたって訳」

「えぇ……」


 後ずさりは続き、遂に壁に追いつめられ……蘭丸は壁ドンされた。

 キャー、と真白達から黄色い声が上がったが、当の本人は気付く気配なし。


「勿論、学校に通いながらでいいし、お金も払う」

「あ、あ」

「いつスキャンダルがあるか分からないから、今はできないけど……引退したら、シてあげてもいいよ?」


 放愛はさらに顔を近づけ、耳元で囁いた。

 流石に今の言葉を言うのには、彼女も勇気がいったのか、顔が真っ赤になっている。


 数秒の沈黙。

 目に見えて動揺していた蘭丸だったが、ポケットに手を入れた瞬間、急に落ち着いて、放愛の肩を持って距離をとった。


「答えは?」

「オーケー、というかこちらから頼みたい。曲を作るのは好きだからな。それをあなた達に歌ってもらえるのは、とても光栄なことだ」

「そ、そう」

「でも、俺もまだまだ未熟だから、講師を紹介して欲しい」

「……分かった、手配しとく」


 急に別人の様になった蘭丸に、今度は放愛が後ずさる。

 彼のポケットに入っていたのは、小さなカスタネット。

 パチパチとリズムを刻み、軽い演奏モードに入っていたのだ。


「頑張れリムス!」

「……これは何を頑張るの?」


 形勢は完全に逆転し、今度は放愛が壁に追いつめられ……壁ドン。


「でも、そういうことをする必要はない」

「……どうして?」


 耳元に口を近づけ、


「好きな人がいるんだ」


 イケボで囁いた。


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