燕刀一文字
「〈トンボ返し〉」
「ック!」
肩から脇腹にかけて、大きな傷がついた。
ギリギリで後ろに下がったお陰でそこまで深くはないが、ツィン自身の耐久は低めで、HPは6割程になってしまう。
「右に避けろ!〈炎弩〉」
まだ目は見えないが、Fの言葉に従って右に移動し……体の左側が熱くなった。
……彼の炎魔法は、かなりスレスレな所を通過したらしい。
目が見えない分、音に集中していたが、特に何も聞こえてこない。
「もういない?」
「ああ、戻っていったわ。お前も一旦下がれ」
言われた通り、おとなしく下がった。
目の方は、数秒目を擦ると、段々視力が戻って来た。
「粉に当たったら、目が見えなくなるみたい。気を付けて」
「分かった」
目が見えなくなると、まともに戦闘できなくなるので、あの粉には絶対に当たらない様にしたい。
さて、現在は互いに一旦引いて、膠着状態になっている。
ユーとラウルは1対1を継続しているが、良くも悪くもその勝負は拮抗している。
できればリムスの強化がある分、勝っていて欲しい所ではあるが、相手全体を動きにくくしているユーと、元から耐久寄りのラウルだから仕方ない。
強いて言うなら、Fも攻撃していたラウルの相手はもう少しで倒せそうといった所だ。
「……流石に3対1は無理だから、Fはこっちの援護をして。あと、粉が来たら全部焼き尽くして」
「ああ、任せてくれや」
「リムスは演奏継続で。なんだかんだでありがたいよ」
「う、うん」
「……?」
演奏中にしてはテンションが低いリムスが少し心配になったが、今は戦うのが先決だ。
筋肉の人と眼鏡の人が同時に迫る。
ツィンは[双透刀 シンテゑ]を構え、果敢に立ち向かった。
「〈トンボ返し〉」
「〈ツバメ返し〉」
刀と刀が衝突し、火花が散った。
これだけならさっきまでと同じだが……筋肉の人は、不格好な棍棒を持っていた。
相手だって翔具を持っているのだ。
それが凄まじいパワーで振るわれる。
「〈カブト割り〉!」
「クッ!」
今度は後衛が近くにいるので、吹っ飛ぶ訳には行かない。
受け止めている左手の刀を斜めに倒し、出来る限り受け流す。
その間にも、眼鏡の人の刀を右手の刀で受け止め、
「〈ツバメ返し・麓恋〉!」
六連撃で無理やり食らいつく。
眼鏡の人は辛そうだったが……筋肉の人はその肉体で楽々受けた。
そして棍棒を引き、渾身の力で突き出す。
「〈カブト突き〉!」
「っと!」
ツィンは双刀をクロスさせ、その交差点で棍棒を止めた。
まともに受けたことで吹っ飛ぶが、むしろ目論み通りだ。
「〈炎鳥〉」
さっきから地味に粉を焼いていたFが、炎の鳥で直接攻撃した。
眼鏡の人は避けたが、筋肉の人はまともに食らう。
「ナイス!」
そして、相手が怯んでいる間にツィンは、左手の刀先と右手の柄をくっつけ……一本の長刀となった。
「[繋透刀 シンテゑ β]」
その長さは、シンテゑの前に使っていた長刀と同じくらいだが、その威圧感は比べ物にならない。
ツィンは、それを長くなった鞘にしまい、抜刀術の用意をする。
「F!」
「はいよ。〈炎纏い〉」
Fが刀に炎を纏わせ、火力を上げた。
小回りが悪くなったと思ったのか、眼鏡の人と筋肉の人が突っ込んでくる。
ツィンはタイミングを計り……機を見て抜刀した。
「〈燕刀一文字〉」
刀身を鞘に滑らせて加速し、横薙ぎに刀を振るった。
軌道上には炎が残り、視界が紅に染まる。
「おあ!?」
「危ね!」
二人はギリギリで止まり、なんとかツィンの刀を回避した。
そして、彼女の懐に潜り込もうとした瞬間。
「〈返しの刃〉」
【ツバメ】の能力で空気の刃が通り、二人の胴体が二つに別れた。
光のポリゴンとなって消えていく。
「ふう」
残ったツィンは、安心して溜息をついた。
そして、まだやることは残っていると気合を入れ直す。
「Fはそのまま粉を抑え込んで。私はユーに加勢しに行く」
「了解!」
Fやリムスと別れ、ユーと戦っている大ハサミ使いに斬りかかる。
その攻撃はハサミで受け止められたが、あくまでこっちは二人。
「〈円盤〉」
ユーの円盤を腹に入れ、それに怯んだ瞬間。
「〈燕刀一文字〉」
元から削れていた相手を首ちょんぱした。
この後、ラウルの相手を粉の人を人数差でゴリ押し、二回戦を突破した。
【カブトムシ】
筋肉
筋肉。筋肉。
真面目に言うと、自分の体重の数倍の物でも持ち上げられる筋力。
【チョウチョ】
鱗粉
粉の人。蝶の粉が目に入ったら失明する可能性があるから、気を付けてね。
【クワガタ】
ハサミ
ユーと戦ってた人。顎のハサミが元ネタ。
【ハチ】
槍強化
ラウルと戦ってた人。もはや登場してない。




