バカップルになる方法
これをクリスマスに書く悲しさ。
メリークリスマス!
「あーズルい、その技禁止」
「ノーセンキュー。食らえ上B連打!」
さっそくゲットした拠点にゲーム機を持ち込み、学校の先生と格ゲーをするという、地味に珍しい体験をしていた。
「スマーッシュ!」
「そんな見え見えなのには引っ掛かりませんよってキャー!」
シロンが繰り出した、威力は高いけど隙が大きい系の技を、ハッシュが回避しようとしたのだが……逆方向に撃ったせいで、背後に回り込んだハッシュは食らってしまった。
「……どうだー、私の天才的読みは(棒読み)」
「嘘ですライです!絶対アクシデントでしょ!ワンモアです!」
これで10勝1敗だ。ハッシュにとって。
つまり、シロンにとってはボロ負けである。
「なんかハッシュ上手くない?」
「そりゃあ、教師なんて格ゲー上手くないと務まりませんよ」
「あんたはプロゲーマーの講師かよ……」
その声に振り向くと、ラウルがいた。
もちろん、ユーさんも付いて来てる。
「良い所に!何故かハッシュが強いんです」
「よーし、俺に任せろ」
と言いながら、ゲームのコントローラーを握り……ついでに3P設定に変えて、ユーもコントローラーを握った。
さも当然かの様に、2対1でやろうとしてる。
「ちょちょ、何でそうなるの!?」
「だって、私とダーリンは2人で1人みたいなもんだし」
「大丈夫、俺弱いから」
ドリャア!
グア
フッ!
GAME SET チーン
「え、本当に弱いんですけど」
「だから言っただろ、弱いって」
「どうして少し自慢気なんだ……」
彼らのコントローラー捌きはたどたどしく、慣れていない感じがする。
指が20本に見えるハッシュに勝てる訳がない。
「あーもうヤダ。ダンジョン行こうダーリン」
「え、見つかったの?」
「だから応援を呼びに来たんだよ」
「じゃあ、行こう!」
と言うことで、今いるメンバー、シロン、ハッシュ、ユーラウルの4人で、月のダンジョンへと行くことになった。
◇
「おー、ここが月か」
「ムーンですねー」
十数分後、シロン達は薄く光り輝く月に舞い降りた。
広大な大地が広がり、ポツポツと点在しているクレーターが、月であることを強調する。
その中に、一本の線があり、この線に沿っていけばボスの元に行けるということらしい。
「月でもいつも通り動けます?」
「うーん、ちょっといつもより動きにくいかな?でも、相手の動きも遅くなってると思うし、大丈夫だよ。ハッシュの方は?」
「……いつもより魔法が出しにくいですね」
「私たちはいつもより調子いいよ」
「宇宙だからな」
【UFO】と【宇宙ステーション】は、グル参に来てから調子がいいらしい。
……動きやすい分、ベタベタ具合も上がった気がする。
「……シロンもラブストーリーの一つくらいないんですか?」
「えー、ないよ。ハッシュは?」
「わ、私もありませんけど、まだ20代前半ですから。新任ピチピチ公務員の優良物件ですから!」
「……一人称が、ミーから私になってるよ」
ハッシュさんの焦り具合が分かる。
もしかしたら、20代後半なのかもしれない。
「そういえば、ユーとラウルはどうやって……そう、なったの?」
「イエス。テルミープリーズ、参考にさせて!」
「「やだよ恥ずかしい」」
「そこをなんとか!」
……ハッシュが、土下座でもしそうな勢いで必死に頼み込む。
「自分も将来こんな風になっちゃうのかなぁ」と、若干達観したような気持ちになってきた頃、
「あなた達のラヴの、愛のストーリーを教えて下さい」
この殺し文句で、二人の話を聞き出した。
「まあ、簡単にいうと、駆け落ちだな」
二人は田舎の生まれで、その中でもユーは結構良い家の生まれらしい。
この2050年に珍しい政略結婚までする家系で、彼女は高校を卒業したら、40歳のおじさんと結婚させられるところだった。
そこから救い出す為に、小学生以前からの幼馴染だったラウルが、高校卒業と同時に、二人で知らない電車に乗り、知らない駅まで行ったのだと。
「今考えれば無計画も良い所だけど、運が良かったんだ」
もちろん金も働き口も住居もなく、二人揃ってホームレスになりかけた時、優しい老夫婦に拾われた。
事情を話すと、温かいご飯とスープをくれ、働き口まで用意してくれた。
「まあ、そこまで高給って訳でもないけど、最近は2人でゲームできるくらいになったし、」
「何より隣にはダーリンがいる」
「ハニー……」
「ダーリン……」
二人は頬を赤らめて目を見つめ合い……シロンとハッシュは、目を閉じた。
「……参考にはならなそうですね」
「だよね」
「RABI」
「ッツ〈エアカッター〉」
スパッ
「あ……」
ハッシュが空気の刃で斬りつけたのは、兎だった。
今回は翼がなく、普通の兎らしい。
「ウサちゃーん!」
HPが減った兎をシロンが介抱し始めるが、肩から脇腹にかけて付けられた傷は深く、光のポリゴンとなって消えた。
涙を流しながら、血走った目でハッシュを睨みつけ、
「何すんの!?」
「……いやー、イッツアモンスターですよ」
「そんなんだから結婚できないんだよ!」
「グハ!」
「やめとけ、ハッシュのライフはもうゼロだ」
涙を流しながら、ウサちゃんの墓を作っていると、ユーが肩口から顔を出し、
「ちょっと見せて」
「……(?)どうぞ」
ユーは、機械のアームハンドを伸ばして兎を解剖し始めた。
難しそうな機械から表示される難しそうな数値を読み取って……爪を一つ切り取った。
そして、ハンマーでそれを叩くと……木でできた杵(うすとセットでモチを作るやつ)がでてきた。
「なにそれ?」
「多分、隠し武器みたいな奴だね。可愛い見た目に騙された奴を、ドカンっと」
恐らく、耐久紙のシロンだったら即死だっただろう。
それを聞いたハッシュは自慢気に、
「これがティーチャーの授業中にスマホを発見するテクニックです」
「え、あれバレてたの!?」




