赤点と爆炎のスペースデブリ
「須藤」
「はい」
前の席に座ってた人が、先生から1枚の紙を受け取った。
チラっと中を覗いて、すぐにいつものグループに合流する。
「ねえねえ、どうだった?」
「まあ、平均くらい。今回あんまり勉強してなかったから、仕方ないかなー」
「空峰」
……ついに、真白の番になった。
神に祈りながら、ゆっくりと噛みしめる様に先生の元へと歩いていき、折りたたまれた数学のテストを受け取った。
ある人は言った、「信じれば必ず救われる」と。
……ちょっと見えてしまった左側の3の文字にショックを受けつつ、出てきた点数は32点。
ちなみにこのクラスの最低点は4×8点だ。
「どうだった?」
「……(パッ)」
横からやって来たツィンこと芽衣が、点数を覗き見しようとしてきたが、UAOで鍛えられた反射神経で隠した。
「見してよー」
「……ちょっと、紛失しちゃった」
「いや、手の中にあんじゃん……え、32?」
「キャー!!」
芽衣 83点
蘭丸 67点(平均)
◇
帰ってすぐに鞄を投げ出し、ゲームのハードを握った。
……真白は、文系なのだ。
「ログイーン!」
テスト週間はUAOを親に禁止されていたので、実に1週間ぶりにUAOにログインする。
アップデートもあったらしいので、とても楽しみだ。
次に目を開けた時には、いつもより少し閑散とした、ピポ弐アにいた。
ツィンやリムスもすぐ来るらしいので、色々と新しい情報を追って、時間を潰しておく。
「お、シロンやん」
「Fじゃん!やっほー」
Fもやって来た。
「何や? お前もテストやったんか?」
「ワー!」
大音量のシロンの声が、Fの言葉をかき消した。
通行人が時間が止まったように静止し、何事もなかったように過ぎ去っていく。
「……もうなんか全部察したわ」
「あ、赤点はなかったから」
「いや、数学赤点だったじゃん」
背後から聞こえてきた声に振り返ると、若干呆れ顔になっているツィンと、少し動きが硬くなりながら並飛するリムスがいた。
「え……数学の欠点って何点からだっけ?」
「確か、平均の半分だから……34か33ってところかな?」
「……ねえねえ、今回のアップデートって何が追加されたの?」
「こいつ、強引に話題変えたぞ……」
これ以上テストの話題を続けていると、シロンのライフが消し飛びそうなので、本格的にUAO の話に入った。
「えっと……第3の町、グル参が追加されたらしいよ」
「いいじゃん、行こう行こう!」
「場所は、どこなんでしょう?」
リムスの質問に、ツィンは人差し指を上げ、
「上よ」
「また空中?」
「いいや、もっと上。宇宙よ」
ツィンに連れられて、宇宙空挺都市グル参へと続く、宇宙エレベーターの様な金属の管へと向かった。
地上から天空へと聳え立つそれは、とても重厚で、宇宙へと届けだしてくれそうな安心感がある。
「ここにいない《チーム・スカイマウス》のメンバーは、もう行っちゃったらしい」
「あれ……ヒロとか学生じゃないの?」
「あいつはキャンパスライフの大学生やから」
「……単位ヤバいって言ってた」
どうやら、うちの男子組は結構仲がいいらしい。
あと、中二の深淵は不登校なので心配ない。
「さっさとグル参に行って、みんなと合流しよう」
「そうだねー」
4人で金属の管の中に入っていき、遥か上空にあるグル参を目指す。
だが、素通りさせてもらえるほど甘くはない。
「GOMI!」
リムスのBGMを聞きながら、大気圏を突破しかけた頃、鉄くずみたいなモンスターが出現した。
もちろん羽もついてる、ゴミ鳥だ。
「GOMIII!」
「うわあ!」
本物の宇宙ゴミの様に、一直線に突っ込んできた。
スピードが無いリムスの方に行ったので、余裕があるシロンが横から〈霊破〉を入れ、直撃だったルートをずらす。
「あれ……思ったよりダメージ入らない」
「金属だから硬いんでしょ。F」
「〈炎弩〉」
シロンの〈霊破〉では2割くらいしか入らなかったが、Fの魔法はあと8割を削りきった。
「やっぱり鋼タイプには炎タイプだね」
「そうやなぁ。〈炎纏い〉」
Fが、シロンとツィンに炎を付与して、炎タイプに変わった。
「「GOMIII!」」
「〈ツバメ返し・弐連〉」
「〈霊炎破〉」
新しく出てきたゴミ鳥を、熱を纏った長刀が3つに切り刻み、炎を帯びた霊力が……ドロドロに溶かした。
人数が少なかったので、少し不安だったが、これで火力は足りそうだ。
「〈超音波〉……前方に、群れがいる。多分それ倒したら終わり」
「〈炎纏い〉切れる前に、さっさと行こう!」
シロンの言葉に頷いて、ずんずん進んで行くと……宇宙ゴミ問題を風刺しているような、ゴミ鳥の群れがいた。
「群れ、です」
「いや、確かに群れだけどさぁ……」
陰キャによくある、情報伝達不足である。
「GOMIIIAAAA!」×無限
「ヒー!」
流星群の様に降り注ぐゴミを、
「〈ツバメ返し・散連〉」
「〈霊炎纏い〉」
ツィンの返しと合わせて2倍の斬撃と、霊破ではなく、攻撃範囲を大きくする〈霊炎纏い〉で広い範囲を防ぐ。
だが、今は前から降って来るだけだが、一回通り抜けた奴が、背後から突進されると辛い。
「ッチ、あれやるぞリムス、合わせろ!」
「は、はい」
BGMだった音楽が、聞いたことあるような曲に変わり……山場に入る瞬間。
「〈爆音奏撃〉」
「〈炎纏い〉」
ダーン!
爆音が響き渡り、辺りの生物全てにダメージを与えた。
ゴミ鳥達に一律で3割ほどダメージを与え、シロンに7割ほどダメージを与えた。
「ねえ、私にもダメージ入ったんだけど!?」
「あー、すまん、耳栓つけててくれ」
もう少しでまた曲の山場に入るので、慌てて耳栓を装着した。
ツィンは既に着用していた。
「さて、もう一発や!」
ダーン!
また3割削り、シロン達がダメージを与えたゴミ鳥達は消し飛んだ。
「オラ、ラスト行っくぜぇぇぇ!」
「乗って来たなぁ」
一層大きな爆音が響き渡り、全てのゴミ鳥を倒した。
「うわー、すごい経験値入ってくんな」
「数が数だからね」
とりあえず、待望のグル参に到着した。
……普通は一点突破で、全部討伐したりしないんだけど。




