10人目
……登場キャラが多いので、誰のセリフか分からない時は、教えて下さい。
「ピヨ(……アニキ、これあげる)」
「好き嫌いはダメだぞ」
ハルヒがヒロに、にんじんを押し付けようとしたが、力のステータスが低いせいで押し返された。
「まあでも、このまま食べるっていうのもアレですよねー」
「なら……料理しちゃおう!」
◇
数日後。
「キャンプだー!」
「テンション高いね」
フレンド全員、シロン、ツィン、ヒロ、ハルヒ、ハッシュ、リムス、深淵、Fの8人……沢山でキャンプをすることになった。
シロンたちの後から、他のメンバーで地底のダンジョンに挑み、無事クリアしてきたらしい。
耳が良いツィンのセルフ索敵スキルと、ボスにFの炎が刺さったのもあって、結構楽勝だったとか。
「きょーはキャンプ日和♪ お日様テカテカ、風はヒューヒュー♪ モンスターも元気です♪〈霊破〉」
「歌いながらワンパンすんの怖いなぁ……。で、これはどこに向かってるんや?」
現在、よく分かんない草原の山を8人で登っている状態。
たまに出現する豚鳥を余裕で轢き殺し、順調に進んでいるが……どこか足取りが定まらない。
「ピヨ?(もしかして、現在進行形で、キャンプ場所してるの?)」
「そうだよ。みんなも良い場所あったら教えてね」
「……事前リサーチとかしてねーのか?」
「してない」
……シロン以外の全員が頭を抱えた。
「モンスターもあんまり強くないんだし、散らばって探した方が効率よくない?」
「深淵ナイスアイディア!じゃあ、一時間後にここに集合ね。散!」
8人は、四方八方に飛び去って行った。
◇
「全員いる?」
「ピヨ(方向音痴アニキがまだだ)」
「やっちまえ、リムス」
「分かった。〈爆音〉」
静かだった山の中が、一瞬でけたたましい音に包まれる。
「これで分かるやろ」
「……なんかFとリムス仲良い?ねえシロン」
「え、なんて?」
「……シロンの鼓膜さん、今までご苦労様でした」
防御が低いのもあって、シロンの鼓膜は破れてしまった。
どうやったら治るか分からなかったが、適当にポーション飲ませれば治った。
そこに、遠方まで行っていたらしいヒロが帰還する。
「すまん、遅れた。でも、良い場所見つけてきたぞ」
「ほう……では楽しみにさせて貰おうか」
他に良い場所を見つけてきた人もいなかったので、ヒロが見つけてきた場所に行ってみることにした。
「ここを上だな」とか言いながら下に行くような、やばい方向音痴を発揮したせいで時間はかかったが、なんとかヒロのキャンプ場に着くことができた。
そこは、山の中腹くらいの位置にあり、遠方には綺麗な山脈が立ち並んでいる。
左側には、透き通った水色の川があり、山の上には4月の終盤にも関わらず、なんとか生き残っている桜が咲き誇る。
時折吹く風が、その桜の花びらを乗せてくる。
「凄い、綺麗!」
「オー、ビューティフル!」
「ピヨ(流石うちのアニキ)」
「みんな、ここでいい?」
「異議なし!」×7
別に泊まる訳ではないが、雰囲気作りのためにテントを3つほど組み立て、ついでにレジャーシートを広げた。
「ピヨ(そういえば、何作るの?」
「にんじん、ジャガイモ、タマネギ、さつまいもと言えば……カレーでしょ!」
「いや、サツマイモは入れないでよ? じゃあ、役割分担してくから」
ツィンによって、各自の役割が与えられていくのだが……いつまで経ってもシロンの役割は伝えられない。
「以上よ」
「ねえ、私の役割は?」
「……だって、真白絶望的に料理センスないし(ボソボソ)」
「え?」
「いや、えっと……監督。そう、現場監督よ! 一番大切な役割だから、よろしくね」
「分かった、頑張る!」
「……(ホッ)。じゃあ、各自役割に従事して下さい」
「はーい」×7
みんなバラバラに散って、ダンジョン報酬の野菜を使った、凄いカレーの制作に取り掛かる。
テキパキと動いて、まるでその道10年のプロの様な手さばきだ。
さて、シロンの役割は監督なのだが……
「監督って何するんだろう?」
シロンの脳内
監督→映画の監督→撮影
野菜切り班のツィンに質問しに行った。
「ねえツィン、画面撮影ってどうやるの?」
「え……(困惑)。メニュー欄から、撮影の欄をタップして……ほら、こうすればいけるよ」
「ありがとう」
教えてもらったように、撮影を開始して、
「はーい、シロンです。カレー作りの様子を撮影していきたいと思います」
「え?」
「おー、虹色の野菜がレインボーですね。ツィンの銀杏切りが良い味を出しています」
「……虹色がレインボーって何?」
ツィンはシロンが何か勘違いしたことに気付いたが、料理の邪魔にならないから放っておくことにした。
「じゃあ、次の人に行ってみましょう!」
キョロキョロと周りを見回して……近くにいた深淵に接近していく。
「深淵さん、何してるんですか?」
「いや、相棒こそなにしてんだ?」
「映画撮影」
「……まあいいや。我がいま行っているのは、原初の自然から、真実をさらけ出す作業だ」
「野菜の皮むきですね」
暗黒の袖から、皮を剥かれたジャガイモが出てきた。
「おー、器用ですね」
「だろ!なにせ、黄金の皮むきを使ってるからな」
「……どうやってやってるか、見せてくれない?」
深淵は、長い袖の中で作業していて、どのようにしているか分からない。
……あと、まだ1度も見たこと無い深淵の手を見てみたい。
「フッ……私の両腕には、世界を滅ぼせる力が封じられているのだ」
「え、本当!?」
「あ、ああ……だから、この袖から出す訳にはいかない。ちなみにこの眼帯には……」
「ええ!?」
深淵の中二病は、しっかりと映像に保存されました。
「さーて、次の人は……ハッシュさんとFさんですね」
「ワット?」
「今何をしているんですか?」
「米を焚いているところや。ワイが炎を出して、」
「ミーがそれを、風で操るんですよ」
「ええもん見せたるわ」
バッとFが腕を振り上げると、米を焚いていた炎が、大きく燃え上がった。
「おおー!」
「すっごいやろ」
「……ウェアイズライス?」
大きく燃え上がった炎が収まったかと思うと、その中に隠れていた米の鍋は消えていた。
「……あれ?」
「あ、いた!」
一匹の豚鳥が、米の鍋の手提げを掴んで、森の方に飛んでいく。
所々に焦げがついていて、なんとしても米を盗もうとする意思を感じさせる。
「返せや!〈炎槍〉」
「〈エアカッター〉」
ハッシュとFから、ほぼ同時に魔法を撃たれた、互いに衝突して霧散してしまった。
「ちょ、ワイがやる〈炎槍〉」
もう一度Fが炎魔法を撃ったが……手に霊力を纏ったシロンが、それを叩き落とした。
「なにするんや!」
「火事になっちゃうかもしれないじゃん!」
そんなことをやっている間に、鍋を持っている豚鳥は、森の中に消え去ってしまった。
「……キャン追う?」
「いや、森に逃げられたら無理だろ。それに、もし取り返せたとしても、なんか変な物が入ってるかもしれない」
「代わりのライスあります?」
「ちょっとあるけど、足りない。米とカレーの比率が、1:5くらいになっちまう」
Fから関西弁が抜けてるが、それほどヤバい状況だということだ。
彼は、少しだけ悩んでから、
「シロン、町でナンでも買ってきてくれ。費用は俺が出す」
「え、いいよ」
「ミーも半分出します」
こんな時でも口調を崩さないプロフェッショナルハッシュたちと話し合っていると……森から二つの影がやって来た。
その手には、米の鍋が握られていた。
「あのー、なんかこんなの拾ったんですけど」
「あ、私たちのです。ありがとうございます」
シロンが、二人の男女プレイヤーたちから、米の鍋を受け取った。
一応中身を確認してみたが、特に何も入っていない。
むしろ、香ばしい香りが解き放たれる。
「……これは何をしているんですか?」
「みんなでキャンプしてるんです。……参加します?」
材料的には、少し余りができそうなくらいには余裕があるし、恩返しがしたい。
「どうする?ダーリン」
「君の好きにしなよ、ハニー」
「……参加させて下さい。私はユー【UFO】よ」
「俺はラウル【宇宙ステーション】だ」
「私シロン。よろしくね」
このシーンも、しっかり映像に残しつつ、他の人たちに挨拶して回った。
特に何も起こらなかったが、深淵だけは「コロシアムで殺り合った仲」だと言っていた。
ちなみにシロンは覚えてない。
「じゃあ、私とダーリンはデザートでも作っとくね」
「なんか過剰に材料あるもんな」
「やったー!」
◇
数十分後、レジャーシートの上には、今回集まった10人と、人数分のカレーライス(野菜は虹色)にパフェが並んだ。
「シロン、なんかそれっぽいこと言って」
「え、私でいいの?」
「早く」
ツィンに促されて、いただきますの前振りを考える。
「ええ、今日はお集まりいただき、ありがとうございます。では、いただき……」
「ちょ、短くない?」
「いいじゃん、早く食べたいし」
「……まあいっか。続きをどうぞ」
「いただきます!」
「いただきます」×9
スプーンの中に小さなカレーを作り出し、それを口の中に入れた。
「美味しい!」
カレーの丁度いい辛さと、ダンジョン報酬の野菜が、いい味を出している。
ハッシュとFの焼き方が良かったのか、しっかりと味が閉じ込められている。
「やっぱり、自分で作るのが一番美味しいね」
「……(自分で作る?)」




