ハイブリットでサラブレット
「えっと、ここにカセットを入れて、電源ボタン……これかな?」
もたもたしつつも、親切な説明書のお陰で、なんとか一人でできそうだ。
「じゃあ、ログイーン!」
◇
目を開くと……真っ白な空間に、何故かサングラスを掛けているペンギンがいた。
「ペンギンさん?」
「ああ。設定を手助けするNPCだ」
「声低!」
1メートルくらいしかない身長に対して、声は思いっ切りテノールボイスである。
「説明書は呼んで来たか?」
「……テヘ」
「読んでないのか」
買ってからすぐにログインしたし、芽衣のお勧めだったから、ロクに調べてもいない。
「じゃあ、説明する。このゲームは、自由に飛べる空の世界か、自由に泳げる海の世界を体験できる新感覚ゲームだ」
「ふむふむ」
「もう一つの目玉要素として、生き物を元にしたスキルが貰える」
「……どういうこと?」
「例えば、【ハト】なら平和の象徴とされている一面があるから、相手の攻撃力を下げる能力を得られるんだ」
……つまり面白そうってことだ。
「海と空、どっちにする?」
宙に海と空の選択肢が浮かんで来た。
真白には。昔海で溺れそうになった経験があるから、ちょっと水に抵抗がある。
ゲームでそのトラウマを払拭するのもありだけど、
「空の方にします」
子供の頃から、空を飛ぶのが夢だった。
「そうか。飛べない鳥の俺の分まで飛んできてくれ。カモン!」
ペンギンが手を振り上げると……周りに青空と幾つかの雲が浮かび、地面から生えてきた机には、猟銃が置かれていた。
「……これ、何ですか?」
「例のスキル選びだ。時々鳥の影が見えるだろ、撃ち落とした鳥がスキルになる」
「う、撃つの?」
「……まあ、そういうことだな」
怖いけれどやらなければ進まなそうなので、テレビの見よう見まねで猟銃を構え、引き金を引いて……見当もない方向へ飛んで行った銃弾は、すごい曲線を描いて一番近くの鳥の影に当たった。
メジャーリーグでもあんなカーブは見れない。
「すごい、当たった!」
「そ、そうだな」
絶対に当たる設定になっているのだが、あそこまで露骨に曲がるのは珍しい。
「もう一回やっていい?」
「弾一発しか入ってないから。それより撃ち落とした鳥は何か確認しに行くぞ」
「はーい」
ちょっと残念に思いつつも、ペンギンと二人で鳥が落ちた所まで歩いて行き……落ちていたのは、謎の骨だった。
「えー!? 私のスキル、骨!?」
項垂れている真白を尻目に、ペンギンがどこからか取り出した虫メガネで、その骨を観察し、
「これは、始祖鳥だな」
「え……何そのカッコいい鳥」
「手に持ってみろ」
落ちている骨の一つを拾い上げ、握ってみると……光り出して、骨は消えてしまった。
代わりに、テッテテーという効果音が鳴って、スキル【始祖鳥】獲得という文字が浮かんできた。
【始祖鳥】
・ダブルステータス
「ダブルステータス?」
「解説しよう。そもそも始祖鳥とは、ジュラ紀後期(約紀元前1億4千万年)に生息していた、爬虫類と鳥類の中間とも言える存在だ。二つの特徴を持つという意味で、二つのステータスをいつでも切り替えられるという能力になっている」
「……?」
「つまり、ステータスが二つあるから、壁兼アタッカーができるんだ。ハイブリットだ」
「ハイブリット!」
ちょっとテクニックや判断力が必要な能力だけど、真白はまだ気付いていなかった。
まあ、気付いていたとしても、リセマラなんて出来ないのだが。
「次はプレイヤーネームを決めてくれ」
キーボードが浮かんできて……とりあえず「真白」と打ち込んだ。
「できました!」
「……それ、本名じゃないよな?」
「本名じゃダメなんですか?」
「学校でプライバシーについて習っただろ」
本名では色々と問題がある。
「えー、じゃあどんな名前がいいと思う?」
「そうだな……本名から白だけ取って、シロンってのはどうだ?」
「いいねー」
語感がいいよね。
少し手間取りながらも、キーボードに「シロン」と打ち込んだ。
「最後にキャラメイクをしてくれ」
キャラメイク。理想の姿になれる、VRMMOの人気理由でもあるのだが、シロンにとっては早くプレイしてみたいという気持ちが勝っていた。
「……現実と一緒でいっか」
「だからプライバシーを考えろ……せめて髪の色くらい変えとけ」
「じゃあ、シロンだし白色で」
「あいよ」
髪が白色になった真白の身体が出てきたが……ちょっと黒目が目立っている気がする。
「白に合う目の色って何?」
「水色とかじゃないか?」
真白の瞳が水色になり……違和感なし。
「これで!」
「OK。じゃ、始まりの町に送るから、頑張れよ」
「うん!」