深淵
「ARUUA!」
「霊破」
今度は霊力は先行してしまって、ただの霊力パンチになってしまい、アルマジロ鳥は倒しきれなかった。
やはり、まだ〈霊破〉は安定しない。
お姉さんが見てくれていると思いながら、今度こそ。
「〈霊破〉!」
「AAA!」
今度は霊力がアルマジロ鳥の甲羅を貫通し、身体の中から破壊した。
今回のは、今までで一番綺麗な〈霊破〉ができた気がする。
「もう少し安定させたいな」
もう一度拳を猫の手にして、アルマジロ鳥を倒そうとしていると、誰かに肩を捕まれた。
今日は一人で行動しているし、誰に掴まれたのか分からない。
振り返ってみると、中学生くらいの……左目に眼帯を着けた少女がいた。
「お前、カッコいい戦い方するな」
「えっと……ありがとうございます?」
眼帯のせいで左目は見えないが、見えている右目はキラキラしていて、とりあえず悪意はなさそうだ。
「何て言う名前なの?」
「いい質問だ」
そう言いつつ、右腕を突き出し、
「我の名は深淵。深淵と書いてアビスと読む」
そう自身満々に宣言した。
だが、その名前の所以になっているのか、彼女のベルスリーブ(袖が広い服)の袖内は漆黒に包まれていて、その中の彼女の手は見えない。
彼女のスキルが関係しているのだろう。
「私はシロン。【始祖鳥】だよ」
「【始祖鳥】!? いいな、ますます気に入った!」
謎に数回頷いて、背中を見せ、
「我に付いて来い、相棒」
勝手に相棒にされた。
◇
することもないし、悪意はなさそうだから深淵に付き合ってあげることにした。
アルマジロ鳥が出現する場所から、町の方に飛んで行って……コロシアムの様な建物に着いた。
シロンたち以外にも二人組の人たちが、何人か並んでいる。
「えっと……ここで何をするの?」
「ここのタッグマッチで勝ったら、誰でも使えるスキルの〈ノックバック〉が貰える。安心しろ、我と相棒のタッグなら無敵だ」
〈ノックバック〉は【スキル】に関係なく取得できるスキルで、攻撃が当たった相手を吹っ飛ばすことができる。
シロンにとって、スピード特化でも相手を動かせる数少ない手段として、結構使えそうな感じだ。
「……深淵はどういう戦い方をするの?」
「遠距離タイプだ。近づかれたら弱いから、その辺を相棒がカバーしてくれ。あと、相棒も我を相棒と呼ぶがいい」
「私の相棒は多分ツィンじゃ……」
そんな会話をしていると、いつの間にか並んでいる人はいなくなって、シロンと深淵の順になっていた。
「よし、じゃあ頑張ろう!」
「フッ……我の深淵が疼く」
コロシアムの一つのフィールドを使って試合は行われる。
シロンと深淵が並んで入場すると、反対側の入場口からも、高校生くらいの男女が入場してきた。
しかし、何かの違和感を感じていて……
「羽がついてない?」
しっかり飛べているが、相手の二人には羽が付いていない。
「スキルが関係してるのか?」
「……そういえば、深淵のスキルって何なの?」
「……秘密だ。我のスキルは、人に明かすことはできない」
『デュエル開始ィィィ』
もう少し粘ろうとしたが、試合開始の合成音声が流れたので、先に戦闘を優先することにした。
とりあえず、前に出ている相手の男の方に突っ込んで……とりあえずで突っ込むかなりの脳筋になっています。
〈霊破〉のための猫の手を用意して、タイミングを合わせ……
「ッ!?」
何か直感のような物に従って、急ブレーキを掛ける。
そして、それは当たっていて、
「〈帯電〉」
男の人の周りに電気が発せられ、シロンの前髪の一部が焦げた。
電気の範囲は小さめだが、一撃でほぼ即死するシロンにとっては由々しき事態である。
「ごめん、この人倒せそうにない」
「チッ。仕方ない、我が直々に手を下してやる。相棒はもう一人の方をやれ」
「分かった」
まだ帯電している男の人を無視して、後衛の女の人方に突っ込む。
今度こそタイミングを意識して、猫を意識し、
「〈霊破〉」
「〈ダークマター〉」
今度の〈霊破〉は完璧に機能したが、女の人が咄嗟に出した黒い壁に防がれる。
だが、直撃してなくても、貫通した霊力は当たっている。
「もう一回!」
もう一度猫の手を振りかぶった時、壁の端から何かが出てきて……光線銃。
「〈ビーム光線〉」
「わ!」
ギリギリで離脱したからなんとか避けれた。
当たっていたら即死していただろう。
当たったら
「〈光弾〉」
SF映画に出てきそうな黄色い球の軍団がシロンに襲いかかるが、一発も当たらない。
そもそも、この程度の弾幕にやられるなら、イベントの覇者になどなれない。
全てアクロバティックに美しく躱し切り、もう一発〈霊破〉を叩き込もうとしたが、
「〈帯電〉ハニー、大丈夫かい?」
「ええ、問題ないわ、ダーリン」
男の人が近づいてきたせいで、接近できなくなった。
……それにしても、試合中にハグをし始めるのはどうなのだろう?
今では100人に聞いたら300人から「リア充爆発しろ」と回答する様な光景が繰り広げられている。
「リア充爆発しろ!」
勿論厨二もその範疇で、今まで漆黒に包まれていた彼女の袖が光だし、
「〈黄金砲〉」
金のコイン、延べ棒、ネックレスなど、様々な物が相手に飛ばされた。
深淵のスキルは【スズメ】で、能力は黄金を飛ばせるというものだ。
スズメ自身にそんな能力や迷信はひとつもないが、舌切り雀という昔話が元になっている。
知りたい人は自分で調べてくれ。
名前がダサいからという理由で、深淵自身はあまり公言したがらない。
「ハニー!」
深淵から飛ばされた黄金を、男の方が受けた。
黄金も勢いからして、結構効きそうなのに、あそこまでケロッとしてるのは……
「男の方は耐久型だな。……恐らく、どっちの遠距離アタッカーが先に相手の壁役を倒せるかで勝敗が決まる。壁役頼んだぞ、相棒」
冷静に分析した。
【宇宙ステーション】
能力:防御力上昇 帯電
……宇宙に浮かんでいるやつですね。
マッハ以上の速度で飛んでくる宇宙ゴミに耐える耐久力と、太陽光発電がある。
【UFO】
能力:メカニック
……宇宙人が乗ってるやつですね。
地球にはない技術力があります。
最後に一言。
筆者「私がルールだ」




