楓風瘋
「おりゃあ!」
「グア!」
シロンの蒼いオーラが、残ったプレイヤーの鳩尾に突き刺さり、HPが全損して光となって消えていった。
これで、近くのプレイヤーはもういない。
「ふー。ちょっと疲れちゃった」
乱戦に巻き込まれた時はちょっとヤバかったけど、なんとか全て躱しきれたみたいだ。
もうイベント開始から2時間30分も経って……
「た、体感30分くらいだったんだけど……」
同じような作業をやっていると、体感の時間が増えるのはよくあることだ。
そして、この間にランキングが表示されているみたいで、
「やった、一位だ!」
ランキングの一番上に、シロンの文字が輝いている。
ツィンの名前は見えないけど……結果を楽しみにしておこう。
「まだ2位の人との差もあんまりないし、残り30分頑張ろう!」
独り言で自分を鼓舞し、飛び立とうとした瞬間、
「〈エアカッター〉」
どこからか空気の刃が飛んできて、ギリギリで避けたシロンの背後にあった木を切り裂いた。
空気の刃が飛ばされた方を見てみると、薄く緑色に光っている、妖精みたいな人がいる。
いつも通り接近して、霊力を纏った右手を振りかざし……当たる直前に、
「〈ブラスト〉」
「うわー!」
相手の周りに暴風が起こって、シロンは吹っ飛ばされてしまった。
木に叩きつけられそうになったが、霊力をクッションにしたことで、耐久ペラペラのシロンでも1発は耐えられた。
「〈エアカッター〉」
緑の人が追撃の空刃を放ち……霊力のオーラでなんとか打ち消す。
そして、もう一度接近してみたが、
「ワオ、スピーディーですねー。でも、効きませんよ〈ブラスト〉」
また暴風に吹き飛ばされ、
「〈エアカッター〉」
追撃の空刃が飛ばされたけど、
「フッ!」
霊力のオーラで打ち消した。
だが、その後も何回か攻撃しようとしても、暴風で吹き飛ばされて、相手に拳が届かない。
相手の方も、今のところ決定打はなさそうだけど、気を抜いたら一発でやられてしまうだろう。
とりあえず、近づいても吹っ飛ばされるだけなので、近くにある木の枝を取って、
「おりゃー!」
思いっきり相手に投げた。
途中までスピード特化で振りかぶり、投げる直前に攻撃特化にすると、すごい勢いで飛んでいく。
「ワット!? 〈大気の奔流〉」
人がスッポリ入るくらいの太さの空気道が、投げられた木の枝を弾き飛ばす。
けど、なんだか違和感が……
「……もしかして、連発できない?」
木の枝を吹っ飛ばすなら、周囲全てに暴風を起こす〈ブラスト〉でいい。
それなのに、他の魔法を使うのは怪しい。
ボキボキボキ
攻撃特化でそこら中の木の枝を折って、弾を用意する。
「え、〈エアカッター〉」
焦って飛ばされた空刃を余裕で避け、
「とー!」
枝の塊を殴ると、大量の木が散弾の様に相手に襲い掛かった。
「〈大気の奔流〉」
奔流の方で全て防がれたので〈ブラスト〉は使ってくれなかったが、できた隙に枝の塊をもう一つ用意する。
「……ワオ」
「オリャー!」
もう一度〈大気の奔流〉で、大体の木の枝は吹き飛ばされたが、数本は飛ばしきれず幾つか切り傷がつく。
さらに……もう次弾は装填してある。
「ちょ、それ以上はバッドですって!」
「3回目!」
木の散弾が放たれ……
「〈ブラスト〉」
ついに暴風で防いだ。
恐らく、今はクールタイムの途中。
風で帰って来た枝を、所々傷つきつつも、できるだけ両手の霊力で押しのけて、スピード特化で一心不乱に突っ込む。
だけど、
「……引っかかりましたねー。〈ブラスト〉」
さっきから連続で暴風を使っていなかったのはブラフで、本当は普通に連続で使える。
でも、今までで一番近づけた。
あと少し、あと少し腕を伸ばせば……届く!
いつもみたいに霊力のオーラを伸ばしても、まだ足りない。
「……霊力が足りない?」
暴風が始まったけど、少しだけ踏ん張って左腕の[エイジリング]を外し、霊力を右腕に集中させ、
「ハッ!」
「チート、フール、ファ〇ク!」
いつもの3倍くらい伸びた霊力のオーラが相手の頬に入り、光の粒となって霧散した。
相手のスキルは、再登場する時に解説します。
風魔法を強化するとだけ。




