99.ずっと一緒に
前回までのあらすじ。花ちゃんの誕生日が近いということで、俺は現実とゲーム内両方で祝うべく準備を進めていた。現実では花ちゃんのお母さんも交え、ゲーム内は俺の母ことかしわもちにお任せ。お母さんたち大活躍である。
というわけで当日、花ちゃんは学校の友達たちとなにかしら食べに行ってから帰ってくるらしい。俺と花ちゃんのお母さんは俺の部屋で待機中である。
「タカシくん、ソワソワしてるわね」
「あはは……いろいろ緊張しちゃって」
花ちゃんの誕生日をうまく祝えるかという緊張はもちろんある。
ただそれだけではなく、花ちゃんのお母さんと2人きりでいるこの状況に緊張している。
なにせ美少女な花ちゃんの生みの親なわけで、当然のように美人なのだ。
「ありがとね、花の誕生日パーティーにあなたの部屋を使わせてもらって」
「いえいえ、全然問題ないですよ」
お祝いを俺の部屋でしようというのは、花ちゃんのお母さんの言い出したことである。
もちろん俺がそれを断る理由はない。
将来のお義母さんになる予定なわけで、ポイントを稼いでおきたいしね。
「ふふ、このサプライズにあの子は喜んでくれるかしら。あの子の驚く顔って滅多に見れないから楽しみなの」
「そ、そうですか……」
妖艶な笑みを浮かべつつ、舌をぺろっと出すお母さん。
その仕草がやけに色っぽくてドキッとしちゃう俺。
大人の色香ってやばいなあ……花ちゃんも将来こんな雰囲気を纏う大人になるのだろうか。
ピロリン!
ここで花ちゃんから、もうすぐ帰るとのメッセージが届いた。
「あと10分ほどで帰ってくるみたいです」
「うふふ、わたしには帰るメッセージなんてくれないのに、やはり恋人は違うのね。準備しましょうか」
「あはは……」
お母さんはからかうように、少し羨ましいかのようにそう言いつつ立ち上がった。
まず俺はいつものようにドアを開けに行き、ストッパーを挟んでおく。
花ちゃんのお母さんは台所へ行き紅茶を淹れる準備をしてくれている。
次に俺は冷蔵庫からケーキを取り出しテーブルの真ん中に配置する。
「ふふ、あの子が好みそうなケーキ。あの子のことをよくわかっているようね。でもよくそんなケーキ見つけたわね」
「オーダーメイドで作ってくれるケーキ屋さん見つけたんです」
「ふふ、あの子は幸せものね」
ケーキは小ぶりなチョコレートケーキをベースに、魔方陣が描かれて祭壇のような形状のお菓子が乗っかっている。
そこにロウソクを立てればまるで何かの儀式をするかのよう。
小さいのはすでに友だちと食べてきた可能性を見越したからで、味を重視に作ってもらったのでわりとお高かった。
喜んでくれる自信はある。
準備を終えて再度2人で席につく。
ここにお母さんがいることに花ちゃんはどんな反応を示すのだろう。
お母さんはワクワクした顔で、俺は怒られないかなあとちょっとドキドキしつつ待つ。
やがてその時がやってきた。
「ただいま」
玄関から花ちゃんの声が聞こえ、ドアが閉まる音がした。
お母さんはなにかクスクスと笑っているのだが、『ただいま』という単語に反応したのかもしれない。
やがて俺たちのいる部屋に花ちゃんが入ってきた。
「誕生日おめでとう!」
俺とお母さんが同時にクラッカーを引っ張り花ちゃんにテープが飛んでいく。
花ちゃんのリアクションは薄いが、お母さんを見て少しびっくりした感じはある。
サプライズは成功……なのか?
「ありがとう。でもどうしてお母さんまでここに?」
「あなたを驚かせたかったのよ。それとも彼氏さんと2人きりの方が良かった?」
「いえ、問題ないわ」
「そう、じゃあ座って座って。ほら、タカシ君が素敵なケーキ用意してくれてるから」
花ちゃんのお母さんは楽しそうである。
俺にはほとんどわからなかったが、花ちゃんの驚く顔を見ることに成功したのかもしれない。
そして俺はケーキを見て少しニヤリとする花ちゃんに一安心。
「あら、確かに素敵なケーキだわ」
「では火をつけようか」
ロウソクは祭壇の左右に豪華なものが2本だけ立っている。
その装飾にそれぞれ9と8と書いてあって合わせて17である。
火がつくとなにかしらの怪しい儀式が始まりそうな雰囲気になる。
本来はここで歌を歌うのだろうが、それは恥ずかしいので無しにしようということになっている。
「では改めて誕生日おめでとう!」
「おめでとう、花」
「ありがとう」
花ちゃんは顔の前で何かの印を結ぶように手を動かした後、一息でロウソクの火を吹き消した。
このあたりは思ったより普通で安心してしまう俺。
「では切り分けるわね」
お母さんがケーキを三等分にしていく。
祭壇っぽい飾りはもちろん花ちゃんの元だ。
それを見つめ、なかなか手を出そうとしない花ちゃん。
すでにお腹いっぱいだったらどうしよう。
「食べるのがもったいないなら後にするか?」
「ん……そういうわけではないわ。魔力の補充は必要だもの。ただ……」
花ちゃんはお母さんをチラッと見る。
はてさて、いったいどうしたのだろうか。
そしてお母さんが何かに気づいたようだ。
「あ、タカシ君。ちょっとお手洗い借りるね」
「あ、はい……」
お母さんはささっとトイレへ移動した。
すると花ちゃんがケーキ皿をサッと俺の方へ持ってきた。
「さあ、今のうちよ。儀式を行使しましょう」
わかった……花ちゃんは俺に食べさせて欲しかったのか。
でもお母さんがいるからそれができないから動きを止めていたと。
てかお母さん、それを察してトイレ行ったのか?
すごすぎる。
「さあ、残された時間は僅かよ」
「よ、よし……」
緊迫した場面かのように急かしてくる花ちゃんである。
とりあえずフォークでケーキを小さく切り分け、花ちゃんのお口へ……。
「あーんして」
「あーん……」
花ちゃんは嬉しそうにケーキを食べる。
うーむ、可愛すぎる。
これは後でゆっくりやるのもありかもしれない。
「残しておいて後で食べるのもありだぞ」
「そうね、でもそれは食べきりたいわ」
花ちゃんが目で指すのは、祭壇を模したお菓子である。
俺はそれをフォークで取ろうとしたがうまくいかない。
突き刺すと砕けちゃうかもしれないな。
「手でいいか?」
「その方がいいわ」
というわけでお菓子を手でつまみ、花ちゃんのお口へ接近させる。
一口で食べるには少し大きめかな。
花ちゃんは半分ほどくわえて……そのまま俺の顔に急接近してきた。
俺は思わず口を開けてお菓子の半分を受け入れた。
思ったほど固くなく、口の中でとろけるように砕けていく。
ひとつのお菓子を2人で食べつつキスをしていく……まさにバカップルである!
前にも似たようなことをしたことはあるが、今はその時以上に興奮している俺がいる。
お母さんに隠れてこっそりしているからだろうか……。
ううむ……新たな発見をした日である。
「おいしいわ……今日消費した魔力を補給できた……」
「そうか、魔力のこもってそうなケーキにしたからな」
口元を舐め、妖しく微笑む花ちゃん。
まだ口周りにチョコが残っているので舐めとりたい衝動に駆られる。
いや、でもそろそろお母さんが戻ってくるかも……でもちょっとくらい……。
何か悪いことを企んでいるようなこの状況がやけに楽しい……。
「ふふ、あとは普通に食べるわ。これ以上続けると制止できなくなり見られてしまうもの」
「そうだな」
確かにその通り。
このまま2人の世界に入ったままお母さんに見られるのはとても気まずそう。
いや、あのお母さんなら喜んでからかってくるのだろうか。
なんて考えてる間にお母さんが戻ってきた。
そして俺たちの顔を交互に見てクスリと笑う。
「うふふ、2人とも口の周りにクリームついてるわ。そんなに夢中で食べたのかしら」
「ええ、食べてみたら最高に美味しかったのよ」
「そっかそっか、じゃあお母さんも食べようっと。あらほんと、美味しいわねこれ。タカシ君、いいお店知ってるのね」
「いろいろ探した甲斐がありました」
2人に褒められ、頑張って良かったと心から思う。
またあのケーキ屋を贔屓にしよう。
やがてケーキを食べ終わり、プレゼントを渡すこととなった。
まずは俺の用意した髪飾りを渡す。
一見おしゃれなデザインだが、よく見ると猫の形という代物だ。
「素敵ね。どんな効果の魔道具かしら?」
「付けていればわかるさ」
「そうね、お母さんお願い」
「はいはい」
当たり前のようにお母さんを頼る花ちゃんがなんか子供っぽくて可愛い。
てか、まだ親からしたら全然子供だよな。
お母さんはやけに嬉しそうなので、久々に頼られたのかもしれない。
そして花ちゃんが普段より可愛くなった。
「素敵よ花、ほら鏡」
「本当ね。わたしに相応しいものだわ。ありがとう」
花ちゃんの満面の笑みをいただきました。
プレゼントを喜んでくれて一安心である。
続いてはお母さんが、なにか封筒のようなものを取り出した。
花ちゃんはそれを受け取り開封する。
そしてニヤリと笑い、その中身を俺に見せてきた。
『お泊まり許可証。タカシ君の部屋にいつものゲームを持ち込んで泊まることを許可します』
ん? なんかすごいことが書いてあるぞ……。
お母さんを見ると、イタズラをするような顔で微笑まれた。
「そういうわけだからタカシ君、この子を一晩預けるからよろしくね」
「よろしく頼むわ」
「え? あ、はい……」
ということになった。
あまりのことにとうしていいかよくわからず固まる俺。
そんな俺はそのまま放置され、花ちゃんとお母さんはどんどん準備を進めていった。
そして……気がつくとえらいことになっていた。
俺はいつの間にか風呂に入り終えていて、こないだ通販で購入した猫コスプレセット男性用を着ていた。
花ちゃんもセクシー猫コスプレセットを着ていて、シャンプーのいい香りを漂わせていた。
なんてこった……ここまでの流れは記憶にあるのだが、夢を見ていたかのようであやふや。
いや、今も夢を見ているのではなかろうか。
猫となった花ちゃんがとろんとした目つきで俺を誘惑してくる。
「夜は長いわ。楽しみましょう。まずは……行きましょうか」
「ど、どこへ?」
そして俺たちはベッドの上で手を繋いで横になり……VRゲームのヘッドセットを装着していた。
花ちゃんの誕生日祝いをした後はゲーム世界へ行く……うん、予定通りである。
花ちゃんと知り合って間もない頃の、俺の部屋で一緒にゲームをしていた時を思い出す。
「では一緒に世界を飛びましょう。また向こうでね……」
「ああ……すぐに会おう」
そして俺たちは同時にゲームを起動し、世界を移動するのだった。
――Welcome to Eternal Fantasy――
ふう、いつものゲーム内の俺たちの家、俺の部屋である。
さっきまでの現実は記憶が飛びまくるくらい脳が展開についていけてなかったが、ここにくると何か落ち着く。
そして改めて考える……さっきまでの展開は夢ではなかったと。
現実の俺たちは恥ずかしげもなく猫っぽいコスプレをして、同じベッドで手を繋いでゲームインしているのだ!
さて、フラウを迎えに行くか。
俺は自分の部屋を出て、隣のフラウの部屋をノックする。
「どうぞ」
返事が聞こえてドアを開けると、見たことのないたドレスに身を包んだフラウがいた。
こっちの世界でもこの子は可愛すぎて俺は幸せを感じまくる。
「似合ってるな。それは?」
「ありがとう。机の上に置き手紙と共にこれが置いてあったの」
手紙はくーちゃんとニャーノさんからのようで、『着てね』と書いてあった。
「これは着ないわけにはいかないな」
「ええ。でもこんな用意までされてしまうと、もう驚かせる気もない感じだわ」
「どうせお祝いすることはバレてるとわかってるだろうし、それならそれ前提で楽しんでもらおうとしてるんだろう
「そうね、ありがたいことだわ。ではエスコートを頼むわ」
差し出されたフラウの手を取り一緒に部屋を出る。
階段を降りて一階の廊下に着くが、シーンと静まり返っている。
団らん室では皆が待ち構えているはずなのだが、なんとなく誰もいないような気分となる。
そんなわけないよなと思いつつ部屋のドアを開けると……本当に誰もいなかった。
「あれ? おかしいな」
「ふむ……気配は感じるのだけど……。あれは何かしら?」
部屋の真ん中にあるテーブルに小さな箱が置いてある。
あの中に何かあるのだろうか。
誰か入ってる可能性も考えたが、あのサイズではかしわもちすら入れないだろう。
「フラウ、とりあえず開けてみるか」
「ええ、一緒に開けましょう」
手を繋いだまま、もう片方の手でリボンを解く共同作業。
そして一緒に箱を持ち上げると……中には小さな部屋があった。
まるでなんとかヴァニアのような部屋、その中に小さな人形が置いて……ではなく動いている?
てか、ちっこいかしわもちちやユースやくーちゃんが手を振っている?
「これは……?」
「みんな小人になったのか?」
「タカシー、フラウちゃーん、こっちおいでー。モチんプイプイ!」
かしわもちが不思議な呪文を唱えると、体を引っ張られるような感覚。
そのまま俺たちは箱の中の部屋に吸い込まれていった……。
気がつくと知らない部屋の中。
唖然とする俺たちをかしわもち、ユース、くーちゃん、レオン、ニャーノさんが楽しそうに見つめている。
先ほどとは違い普通サイズだ。
そしてみんなが何かをこちらに向け、パーンという派手な音が響く。
「誕生日おめでとうー!」
「サプラーイズ!」
不思議な部屋に連れ込まれて驚いた状態のままお祝いされるフラウ。
キョトンと可愛い顔となっていたが、すぐに笑顔に溢れる。
「みんな、ありがとう」
俺も驚かされたサプライズは成功したようだ。
お祝いすることをサプライズするのではなく、お祝いまでの流れでサプライズとはやりおる。
「すごいな……。この部屋は一体何?」
「レンタルスペースだよ。入り口はあんな風に面白く設定できるのさ。ほんと、いろんな便利機能があるよね」
まだまだこのゲームには俺の知らないことが多いようだ。
でも知らない方が今回のように驚けていいな。
「それを見つけるとはさすがかしわもち」
「お母様、わたしのためにありがとうございます」
「どういたしまして。お祝いは大好きだからねー。フラウちゃんも驚いてくれて嬉しいよ」
「はい、とても驚きました。でも不思議ですね。外から見た時は無かった天井がここにはあります」
外からは中が見えるおもちゃの家って感じだった。
でもここはちゃんとした部屋の中だ。
おそらく俺たちは小さくなって部屋に入ったわけではなく、違う空間にエリアチェンジしたのだろう。
でもそれを言うと夢が壊れる感じなので言わない。
かしわもちがうまいこと言うだろうし。
「それはあれだよ。魔法の力的なあれ……うまく言えないけど空間をこうくにゃって……」
「なるほど……。禁忌の秘術、おいそれと仕組みは言えないと言うことですね」
「そうそれ、フラウちゃんは理解が早いねえ」
「お母様の説明がうまいからですわ」
ほらね。
そしてこの後はいつものように盛り上がった。
最近ことあるごとにみんなで騒いでる気がするな。
やはりオンラインゲームは人と遊ぶのがいいんだろうな。
もちろんソロも楽しいのでそこは否定しないが……。
ある程度わいわいし、解散となった。
早寝のかしわもちはこの家のかしわもちルームで寝たままログアウトした。
ユースたちや、レオンたちも2人きりの時間を過ごしに戻って行った。
と言うわけでフラウと2人きりだ。
「今夜はどちらの世界で過ごす?」
フラウがそう聞いてくる。
普段はゲームから出ると1人の部屋だったから、ゲーム世界で長めに一緒に過ごしていた。
でも今日は現実で2人きりなのだ。
ならば俺の希望は決まっている。
「せっかく一緒にいるんだ。向こうの世界へ行こう」
「ええ、では同じ形で転移しましょう」
というわけでゲーム内の俺の部屋へ行く。
そこでベッドに一緒に横になって手を繋いだままログアウトである。
いざ新たなる世界へ!
目を開けるといつもの俺の部屋。
だがいつもと違うのは、隣に花ちゃんが寝ていることだ。
繋いだままの手は少し汗ばんでいて、ゲームと現実の違いを大きく感じさせてくれる。
なんか緊張してきた……。
「花、戻ってきたか?」
「うん……でもいつものように転移酔いだわ」
「待ってろ、すぐ飲み物を取ってくる」
「手……離しちゃやだ……」
花ちゃんはゲームから帰還するとすぐに動けない体質のようだ。
これはVRゲームでよくあることらしく、医学的に見て体に問題とかはないらしい。
でも、汗かいてたりするのでゲーム後は水分補給が推奨されている。
冷えた飲み物をあげたかったが手を離してくれないので、枕元に常備しているペットポトルの水を取る。
「ほらこれ、開けられるか?」
「ん、このくらいはできるわ」
ては繋いだまま、共同作業でペットボトルを開ける。
花ちゃんの体を起こしてあげて水を飲ませる。
と……ここまで花ちゃんが心配で普通にしてたのだが、花ちゃんは今ビキニ猫コスビキニ水着姿ということを思い出した。
つまり肌の露出面積が多いわけで、今起こす時に俺は背中の肌に直に触れていた……。
くっ……静まれ俺の第三の腕……。まだその時ではない……。
「ふう、少し落ち着いたわ」
「それならよかった。もう少し横になってやすんでいなよ」
「いえ、時間が勿体無いわ。あなたの癒しの魔術をかけてほしい」
もちろんそんなの使えないわけだが、どうしたらいいのだろうか……。
聞いちゃえ。
「よし、どんなのがいい?」
「今日の姿ならば直に魔力を伝達しやすいわ。接触面積を最大限に増やして」
花ちゃんが両腕を持ち上げ、さあ抱きしめてといった感じのポーズ。
肌と肌をたくさん接触させようということらしい。
俺は震える手で花ちゃんを抱きしめる。
「こうか?」
「ん、まだ足りない。全力で……こう!」
花ちゃんが俺をベッドに押し倒してきた。
そのまま強く強く抱きしめられ、体のあらゆる場所で花ちゃんの肌の感触を感じる。
俺の方が体温が高いのかひんやりとした感じ……でも少しずつ熱くなってくる……。
あ……胸に押し付けられてるやわらかな感触もすごい……。
「落ち着くわ……にゃあ……」
猫言葉になる花ちゃんが可愛すぎる。
これは男を押し倒したというより、猫を可愛がる感じかな。
そう考えると少しだけ落ち着いてきた。
これは恋人同士の営みでなく猫同士のじゃれつき……。
花ちゃんの頭と猫耳をなでなで……。
「よしよし、にゃあにゃあ」
「にゃーん」
まさに猫撫で声、いつもクールな口調で喋っているのでギャップがすごくてヨシ!
花ちゃんは少し起き上がり俺を見下ろしてくる。
獲物を狙うような目にちょっと恥ずかしくなって目線を下げると、そこに見えるは猫毛質感の布から素敵な谷間が見え、慌てて視線を上に戻す。
うん、全然冷静にはなれてないな。
「花……今日は一段と可愛い……にゃ」
「ん、あなたも可愛い……にゃう……。あ、でもその前に……」
「ん? どうした」
花ちゃんが少し真面目ないつもの顔となる。
「わたしたちはきっと今夜繋がりを深め、絆を強固にするわよね」
それはきっといつも以上にすごいことをやってしまうということだろう……きっと……。
「そうだな」
「おそらくわたしたちは理性を失い二匹の獣と化すわ。だからその前に真面目な話をさせてほしいの」
真剣な表情……。
いったいどんな話かはわからないが、俺も真剣に受け止めるべきだろう。
「わかった」
「ありがとう。まずわたしはあなたが好き、あなたも私のことを好き、そうよね?」
「ああ、もちろん大好きだ」
「それで確認しておきたいの……。わたしは……今のままでいいの?」
これはどういう意味だろう?
質問に質問に返す形となるかもだが、ここは変に誤魔化すような曖昧な回答はダメだ。
質問の意図をしっかり確認しよう。
「質問の意味がよくわからない。俺は今の花が好きだし、今のままでずっと好きだと思うぞ」
「そう、ならば言い方を変えるわ。あなたは今のままでいいの?」
む、余計に意味がわからなくなってきた。
「俺は花といる今が幸せなんだ、その質問もよくわからない」
「本当にそう? あなたは魔法を使えないと言っていたわね。でもわたしはあなたが魔法を使えると思っている。このままでいいの?」
少し責められるような口調にドキッとする。
魔法は使えないと何度も言った覚えがはあるし、花ちゃんはそれを嘘だと思っているっぽいことも知っている。
そのままでいいかと言われると……。
「そうだな……正直にいうとこのままは怖い。いつか花が俺が本当に魔法が使えないことに気づいて幻滅して離れていくんじゃないかと……」
「そう……やはり本当なのね……」
「幻滅……したか?」
おそるおそる聞いてみる。
このタイミングで別れるとかなったらショックで死んでしまいそうだ。
ビクビクしつつ花ちゃんの言葉を待った……。
「ううん、思ったよりしてないわ。そして気づいたわ。わたしは魔法が使えるとか関係なくあなたが好き。これまでこんなわたしに付き合ってくれてありがとう」
それでも好きと言われてホッとする。
でもまだ安心はできない。
安心したところから別れ話に発展する可能性もよくドラマとかで見るし……。
「お礼を言われるほどでもない。これからだって……」
「いえ、これからはもういいの」
え? これは別れ話になる流れ?
やばいやばい、どう返せばいい?
何も思いつかない……。
「いい……ってどういうことだ?」
「あなたがわたしに合わせてくれなくていいってことよ。わたしは現実と向き合い、普通の女の子になろうと思う」
「普通?」
「わたしね、あなたのことがよくわかるの。魔法だと思っていたけど、単純にあなたをよく知ったから。あなたはこんなおかしなことばかり言う女の子ではなく、普通の子が好き。そうでしょ? 普通の子と付き合って、普通に結婚して……。わたし……あなたの好みの子になりたい……」
なんだろう……すごく嬉しいことを言われている。
別れ話ではなかったな。
しかも俺が最初狙っていたように、いつかは中二病でなくなって普通の女の子になるというのが叶うのか。
それはすごく楽しそう。
「花……嬉しいよ……」
「でしょう? さっそく今からがんばるわ。だからおかしなことを言ったらあなたが直して……。あなたの好みに……」
俺好みに育て上げる……なにその素敵な恋人生活。
楽しい未来が待っている……そう思ったその時、俺の心の中で何かが動き出した。
これは……心の中の悪魔と天使とカーチャン?
『悪魔、天使、合体だよ!』
『いいですとも!』
『よくってよ!』
俺の心の中の悪魔と天使とカーチャンが合体していく。
『三位一体、心の中の真実! その名もタカシ!』
なんか出た。
真実か……よし、自分の心と向き合おう。
これは間違いなく心の中の俺だ。
『本当にそれでいいのか? 中二病から普通の女の子にプリチェン、よく考えろ』
昔とあるゲームで乱暴口調な女の子がいて、ストーリーがいい感じに終わった後久々に再開すると、『わたし、普通の女の子になったんです。うふふ』と言い出す萌え萌えイベントがあった。
その時はすんごいニヤけた覚えがある。
まあ、後から嘘だったと判明したんだけど。
『嘘とわかった時お前はどう思った?』
がっかりしつつも安心したかな……。
やっぱりこの子はこの方がいいなって。
つまりこれは花ちゃんにも当てはまるのだろうか……。
『そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。でもあの子は無理して変わろうとしてるんじゃないのか。お前に合わせようとして』
そうだな……俺が花ちゃんに合わせていたのと同じように、あの子も俺に合わせようと……。
くっ……どちらかが相手に合わせるしかないのか?
『考えろ、共存の道を!』
そうだな、どちらかが妥協する形ではいけない。お互いが楽しく過ごす道を……。
花ちゃんは俺好みの性格になりたい……ならば俺の好みが今の中二病花ちゃんであれば全て解決するのだが……。
わりと好きなところもあるけど、そうでない部分もある悲しさ……。
『そうでない部分は、世間体か?』
そうだな……、周囲におかしなことを言って巻き込まないかヒヤヒヤしているのはある。
ならばそうか……中二病花ちゃんを俺だけに見せてくれたらいいんだな。
あとはこれをどう伝えるかだ。
『呼び起こせ……お前の心の奥に潜む中二病を。そしてあの子が1番好きであろう形に話をつけろ!』
よし、やってみる!
この心の中の高速思考は3秒ほどだろうか。
花ちゃんは真剣な眼差しで俺の返答を待っている。
いざ出てこい……俺の心の中の中二病よ!
「くくくくく……花よ。半分正解だが半分は外れている。俺のミスリードに見事ひっかかってくれたようだな」
「え? どういうこと?」
「確かに普通の女の子となる花を見たいし、きっと好きになるだろう。だが俺は今の花も当然好きだ。失いたくない。俺は欲張りだからな。どちらも手に入れたい」
「ということは……わたしはこのままでいい……? いえ、どちらもということは普通にも……」
花ちゃんは混乱している。
俺が変なこと言ってるせいだがな。
このまま押し切る!
「花、お前は世界の真実を知りすぎた。だが周囲の人間はそれを知らない。だからお前は普通ではないと言われていただろう」
「ええそうよ。始めはそうだと思っていた……。でも最近それがわたしの妄想なのかもと……」
花ちゃんは正気に返りかけている。
このまま普通の思考になってもらう方がいいのかもしれない。
今からの俺の言葉は彼女の人生を大きく変えるのだろう。
だが……俺と花ちゃんの幸せのためにはこれがベストと信じて!
「真実だ。だがそれを知っているのは俺と花の2人だけ。それでいいだろう」
「いい……の? でもそれだとこの世界でうまく生きてはいけないかも……」
「ああ、だから普段は知らないふりをして擬態しよう。2人きりの時だけ真の俺たちでいよう」
花ちゃんは目を閉じて、俺の言葉の意味を考えているようだ。
我ながら勢いで行っているのでよくわからない。
でも、普段は通常生活。2人きりの時だけ非日常な状態にする、そんな生活はきっと楽しい。
ある意味今まで通りか。
「それは楽しそうな生活ね。今までのあなたとの楽しい生活はそのまま、周囲から不審者扱いされることもなくなる。でも……」
「どうした?」
「あなたと2人きりの時だけ真実を隠さないのはいいわ。でも……それをいつか疑ってしまいそうな気がするの」
正気に返りかけてしまったせいで不安があるようだ。
でも……今しばらくは楽しい中二病の世界に浸っていよう。
「花、俺は魔法が使えないと言ったな」
「ええ、悲しいけれどそれは真実……」
「だが、今後も使えないとは言っていない。さらには、俺自身気付かぬうちに使っていないとも言い切れない」
「それはそうね、わたしもそうだと思っていたもの。でもその根拠は?」
根拠は普段ならないと思うところだが、実はある。
これは心の底から本気で思っている。
「花、俺とお前が出会えたことだ。魔法を探していた花と、魔法を使ったかのように見えた俺、この出会いは偶然か?」
「いえ、奇跡の出会いよ。魔法か存在のわからない神か、超常的な現象としか思えないわ」
花ちゃんが中二病だったから俺に出会ってくれた。
そんな花ちゃんのままでいてほしい。
これは単に俺のわがままなのかもしれないが……こんな俺のわがままも花ちゃんには好きになってほしい。
「その通りだ。俺たちが出会ったことには何か意味がある。それをこれからも探究していこう」
「ええ、世間には悟られぬよう2人きりで……。ふふ、なんて楽しそうな生活」
「だろう?」
「ええ、ワクワクしてきたわ。そして……そんな未来を思い描いていたら今の状況に我慢ならなくなってきたわ」
花ちゃんの目が妖しく輝く。
獲物を狙う目とでも言おうか。
「では心のモヤは晴れたか?」
「ええ、綺麗さっぱりね。だから今の状況に集中したいわ。まずわたしたちは今、猫の姿を模倣しているわね」
「そうだな、これもなるべくしてなったのかもしれない」
さっきまですごく真面目な話をしていたが、今の俺たちの姿は猫のコスプレをしたバカップルである。
「そうね。わたしたちの正体、もしくは前世は魔法使いだったかもしれないし猫かもしれない。無限の可能性があるわ。ひとつずつ検証していきましょう」
「よし、まずは猫の可能性だな」
「ええ、野生の本能に返ってみましょう」
花ちゃんは爪を立てるようなポーズを取り、俺に覆い被さってくる。
そして、これまでで一番熱く幸せなキス……。
きっと幸せの最絶頂に俺たちはいるのだろう。
この後……めっちゃにゃんにゃんした。
次回最終話です。




