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97.猫VSお化け

 前回までのあらすじ。

 新居に住み始めた俺とフラウ。だが、最初の夜に怪現象が起きて幽霊的何かが家を乗っ取ろうとしてきた。それを防ぐための戦いが今始まる。

 でもその前に、俺とフラウはお互いに相手に着て欲しい服を当ててもらうクイズを出し合った。正解と思う服に着替え終わり、これから正解かどうかわかります。


 フラウが自身の姿として選んだニャコラ族は、猫型の獣人的な見た目で、可愛くて人気がある。

 その種族は何故か女性型しか選べず、中の人が実は男というネカマがたくさんいる種族でもある。

 フラウは猫になりたくてその種族を選んだわけだが、当然ながら猫を愛でるのも好き。

 というわけで、フラウが俺に着て欲しい服はニャコラ族なりきりセットと予想した。


 まあ実際には手足がぬいぐるみのようなもこもこ、動きやすいタンクトップと尻尾つきショートパンツ。あと猫耳ヘッドセット

 女の子がパジャマとして着たらさぞかし可愛いだろうなという状態。

 正直かなりおかしな格好であり、フラウ以外には絶対見られたくない。

 そして正解ならいいが、外れていたら俺は恥ずかしすぎて死ぬかもしれない。


「わたしは着替え終わったわ。あなたは?」


「ああ、俺もだ。これで合っているのか不安ではあるがな」


「ふふ、きっと正解よ。わたしがすぐにわかったようにあなたもすぐにわかったはずだもの」


 その絶大な信頼がプレッシャーなのである。

 そこまで期待されて外してたら怖い。

 大学の受験結果発表以上に緊張しているぞ。

 この結果が今後の人生……フラウとの結婚生活を左右するといっても過言ではないのである。


「では同時に振り向くか?」


「そうね。ではお母様の寝息があと5回聞こえたら……」


 すっかり忘れていたが、ここはかしわもちの部屋。

 かしわもちがベッドで寝ているが、中の人はいないので景色みたいな状態。

 何故俺たちがここにいるかというと、幽霊が家を乗っ取りかけた状態でこの部屋だけが安全地帯だったから。

 すっかり忘れていた幽霊騒動のことを思い出しつつ、気持ちよさそうに寝ているかしわもちの寝息を数える。


「……3……4……5!」


 覚悟を決めて振り向く。

 そこにはなんともセクシーなピンクの透けるネグリジェを着たフラウがいた。

 透けた先には水色で色っぽい下着が見えている。

 正解だし可愛すぎる!

 抱きしめたくなる衝動に駆られる俺。


 そしてフラウの表情を見ると、いつものクールな感じがとこかに吹っ飛んだかのように目を輝かせている。

 獲物を見つけたかのように俺を見つめ、今にも飛びかかってきそう。

 つまり……俺も正解したのだろう。


「お互いに正解のようね」


「ん? 俺はまだ正解と言ってないがわかるのか?」


「あなたの反応はわかりやすいもの」


「そ、そうか……」


 もしかして俺はだらしない顔になっていたりするのだろうか。

 あのフラウが表情に出しまくってるし、俺も気付かぬうちに出ているのかもしれない。

 とりあえず……これから夜を楽しむバカップルが完成である。


「では家を取り戻しに行きましょうか」


「あ……そうだったな」


「ふふ、余裕ね。既にあなたは勝利を確信しているのかしら? 実はわたしもよ」


「まあそんなところだ」


 幽霊に家を乗っ取られたとか、完全に忘れ去っていたのだがそんなこと言えない。

 ま、実際余裕で勝てそうな気がしている。

 だってこんな変な格好してるんだのもの。

 某昔のゲームでの装備にあった性能良ければ見た目が悪い法則で言えば、無敵の力を宿してそうな格好である。


「作戦はもうわかっているわよね。行きましょうか」


 いや、全くわかんないっす。

 教えてもらわねば。


「わかってはいるが確認しておこう。万が一があっては困る」


 ここで寝ているかしわもちに目線を向ける。

 よいこのフラウは納得した顔でうなづいてくれた。


「そうね、わたしたちだけの問題ではないもの。では、わたしたちがこの家の主だということを知らしめながら歩き回りましょう。先ほどは気押されたけども、強き意思が力となるわ」


「それで問題なさそうだな。よし、俺たちの家を取り戻しに行こう」


「ええ、2人でね」


 フラウが俺の腕にからみつくようにくっついてくる。

 薄衣の触れ心地が気持ちいい。

 普段はしっかり服やら鎧を着込んでいるので、今日は距離がすごく近く感じる。

 このままささっと問題を解決して寝室に連れ込みたい気分。

 浮かれた気持ちのまま部屋を出るが……。


「むっ……寒いな……」


「ここまで侵食が進んでいるとは……。急ぎましょう。行き先は任せるわ」


 部屋の外に出ると浮かれ気分が一瞬でどこかへ行ってしまった。

 寒気がするし、実際に温度が低いのだろう。

 寝る気満々と言ってもいい薄着の2人、まずは暖炉のある団らん室へ行きたい。


「昼に皆で過ごしてあの部屋ならば取り戻すのも容易だと思う。そこに繋がる食堂と調理場もな」


「そうね。短い時間とはいえ多くの想いを残した場所だわ」


 まずとっかかりとして一部屋取り返す。

 ただ逆に言うと、あの部屋以外はまだ使ってないので難しいわけだが……。

 ま、それは後で考えるか。

 団らん室の部屋のドアは普通に開いたので中へと入る。


『侵入者ダ……立チ去レ……』


 侵入者である幽霊たちの声が聞こえた。

 すでに乗っ取った気でいるようで、なんだか腹が立ってきた。

 人魂のようなものがふわふわ飛ぶ恐ろしい光景だが、怖さより怒りが増す。


「フラウ、暖炉に火を放ってくれ」


「わかったわ。原初の火よ……輝き悪きものどもを打ち払え!」


 暖炉に炎が上がり、パチパチと燃える音がし始める。

 なんとも心地よい音だ。

 俺たちはその暖炉の元へ移動する。


『ナント心地悪イ……』


「そう感じるってことは、この家はお前たちが住むには向いてないな。とっとと出ていけ」


『分散シテイテハ敵ワヌ……』


 人魂たちはあっさりと部屋を出ていった。


「あっさりと引いたわね。でも退治はできなかった」


「そうだな、集まられると厄介だ。倒す方法を考えなくては」


「この火……使えそうよね」


 部屋には移動時に使うための手提げランプがいくつかあった。

 そのランプを暖炉の火で点ける。

 これが武器になりそうだ。


「この部屋は暖炉が燃えている限り大丈夫だろう。次は調理場だな」


「ええ、行きましょう」


 調理場に入ると、人魂があちこちに分散して浮いていた。

 なんとなく、今日女性陣が使っていた調理器具を避けているような感じだ。

 さて、生活感を満たすには……。


「フラウ、明日の朝食はなんの予定だった?」


「お味噌汁と納豆と目玉焼きよ」


「それは美味そうだ、楽しみだな」


『グググ……リア充ドモメ……』


 人魂たちが居心地悪そうに動き出す。

 負の感情の塊だからか、俺たちの楽しい会話でダメージを与えられるのかもしれない。

 よし、もっとイチャついてみるか。


「フラウ、その姿でエプロンをつけてくれないか」


「構わないわよ。でも裸でなくていいの?」


 ぬお!?

 下着姿にエプロンを楽しもうと思ったら裸エプロンだと……。

 それは普通にありなのか……てか、もしかしたらリアルでもしてくれる?


『ナンダコノ気ハ!』

『フオオ……消エテシマウ……』

『オノレ……オノレ……』


 なんか人魂たちが逃げ回りつつ、いくつかは消滅していく。

 俺の妄想が膨らんだからその気にあてられたのか?

 もしくは人魂たちも妄想が膨らみ、それで自身の邪気を消してしまったとか?


「あなたの淫の気にあてられたようね。さすがだわ」


「そうか……」


 え? この子何言ってるの?

 俺がエロい妄想をしていたんだと普通に理解している?

 そしてそれを当たり前のように受け入れてくれている?

 やばい、ドキドキが止まらない。


「倒す方法もなんとなくわかってきたわね。次はこの部屋に結界を張る方法だけど……少し思いついたことがあるわ」


 フラウは棚を開けて何かを取り出す。

 てか、エプロンだ!

 そのまま下着姿の上からそれを装着!

 裸エプロンに続く男の夢、下着姿でエプロン!


「さあ、この部屋にわたしたちの想いを残しましょう。もう奴らが入ってこれないように」


 フラウはフライパンを手にコンロの前に立つ。

 そして料理をしているかのように動き出す、エアー料理だ。

 しかし妄想脳を働かせれば見える……目玉焼きを焼いている姿が!

 俺は要望のまま、フラウを後ろから抱きしめる。


「ちょっと……焦げちゃうじゃない……」


 フラウが俺の言って欲しいことを言ってくれている?

 なんだこの俺の妄想を具現化したようなこの状態。

 実はフラウも幽霊で、俺を洗脳しようとしてるのではとかいろいろ考えてしまう。

 何を言えばいいんだ……とりあえず欲望のままに……。


「多少焦げてもいいさ。フラウが可愛すぎるのがいけないんだ」


「そう……ならば仕方ないわ」


「フラウ……好きだ……」


「うん……」


 完全にイチャついた次の瞬間、部屋の空気が変わった。

 かしわもちの部屋や先ほどの暖炉をつけた部屋と同じでここも安全となった感。


「この部屋はもう大丈夫そうだな」


「わたしたちの絆という名の結界は強固だわ。この調子でいきましょう」


 なんと楽しい幽霊退治だろうか。

 既に恐怖はなく、楽しい気分で食堂へと向かった。

 今日は食事にここを使ってないので、幽霊が多く侵入してそうである。


 食堂へ入ると空気が一気に冷え込んだ。

 浮かれた気持ちを冷ましてくるのが不快である。

 最初から強気でいこう。


「ここはお前たちのいる場所ではない。消滅したくなければ今すぐ出ていけ」


 部屋にたくさん浮いている人魂が一斉にこちらを振り向いた……ような気がする。

 少し恐怖を感じるも、フラウを抱き寄せて温もりを感じてみる。


『ナンダ貴様ノソノ格好ハ』


『猫ヲ模シテイルノカ? ナントモ恥ズカシイナ』


『フハハ……負ノ感情ノ集合体デアル我ラヲ笑ワセルホドニナ』


 人魂たちがいやらしく俺を笑う。

 くっ……浮かれて猫コスプレをしている俺への精神攻撃か。

 改めて第三者から言われるとなんか恥ずかしい。

 何を言い返すべきか考えていると、フラウが先に口を開いた。


「ふふ、あなたたちにはわからないのね。この可愛さが!」


『カワ……イイダト……?』


「ええそうよ。さあ、ここに座って」


 椅子に座らされる俺。

 そして俺の頭を優しく抱きしめてくるフラウ。


「このモフモフ感、耳の造形、尻尾の存在感。このまま永劫の時を過ごせるわ」


『ヌヌヌ……ウラヤマ……デハナク、ナントオカシナ人間タチヨ』


 人魂たちは動揺している。

 そして俺は興奮している。

 フラウが猫を可愛がるときのように俺に接してくると思ったが、まさにこれが俺の望んだ展開!


「さあ、ご飯の時間だよー、カーにゃん」


 カーにゃん……フラウが可愛く壊れている。

 妄想の上をいく変貌っぷりに思考がついていかない俺である。

 もちろんいい意味で。


「あれあれー? 返事はどうしたのかにゃ。カーにゃん?」


「にゃ……にゃあ……」


「きゃあんっ、カーにゃんかわいいっ!」


 さらに強く抱きしめられる俺。

 もう俺はこのまま猫として生きていたいと思ってしまう。

 もっとこのフラウを見たい!


「にゃうー」


「うん、そうだね。今日はカーにゃんの大好きな焼き魚だよー」


「にゃっ!」


 目の前にお皿に乗った焼き魚が現れ、香ばしい香りが部屋に漂う。

 これは猫らしくかぶりつけばいいのかなと考えていると、フラウが箸で魚の身をつかみ……。


「はい、あーんして」


「にゃあーん」


 猫状態の俺はフラウがなんでも世話をしてくれるらしい。

 俺は猫になりたい……。


『ヌオオ……我ラハ何ヲ見セラレテイルノダ……』


『見テイラレヌ……逃ゲ……グワアアアッ!』


 人魂たちは逃げようとするも、逃げ切れずに次々に消滅していく。

 だがそんなことはどうでもいいので俺はフラウとの猫時間を楽しむ。


「お魚美味しい? カーにゃん」


「にゃんっ」


「ふふっ、可愛いねー」


「にゃうにゃう」


 フラウとイチャつきつつ魚を食べ終わる頃には、部屋から人魂は全て消えていた。

 そしてこの部屋も俺たちの思いが満たされて安全地帯となったようだ。


「作戦成功ね」


「にゃー」


「やはり思った通りにわたしたちは普段通りにしていればいいのよ。この調子で全ての部屋に痕跡を残していきましょう」


「にゃー」


「ふふ、そんなこと言われたらさすがに照れるわ」


「にゃうー」


 フラウは先ほどの暴走状態を終え、いつもの感じに戻っている。

 俺は人の言葉を忘れた猫である。

 さっきの猫可愛がりが普段の状態というのなら、またいつでも見れるわけだな。

 リアルでも猫になってみようかと思う……。


「さあ、次はどこへ向かうの? あなたに任せるわ」


「そうか、ならこうしよう」


 俺はフラウをお姫様抱っこ。

 そのまま廊下へと向かう。

 ちなみにこの家のドアは普通に手で開けなくとも、念じれば開く仕様である。


「なるほど。この状態であればわたしからは幸福という名の聖の魔力が発せられるわ」


「そうだ、このまま移動する場所全てに結界を張っていこう」


 そんなわけで一階の各部屋を巡る俺たち。

 なんともあっさりと制圧を完了した。

 人魂にあまり遭遇しなかったのでどこかに集まっているのかもしれない。


「次は2階ね。邪悪な気が集まっている気配があるわ」


「そうだな、俺たちに対抗するためになにか企んでいるかもしれない。行くぞ」


 フラウをお姫様抱っこしたまま階段を登る。

 空気が少しずつ冷たく、そして重くなっていくのを感じる。


「先ほどまでのように簡単にはいかないかもしれないわね」


「そうだな。ではさっき以上に俺たちの仲を見せつけるか」


「それがいいわ。あなたの好きなようにして」


「おう……」


 俺の脳内で今の会話を訳すと、もっとイチャつこうぜ、いいわよ好きなことして、ということになる。

 いや、これは妄想ではなく本当にそうなのだろう。

 彼女ができたら周りに見せつけたいという野望が昔からあったが、実際にするのは恥ずかしいという思いもあった。

 しかし、ゲーム内であれば恥ずかしくなくそれが叶うのだ!


 2階の廊下に足を踏み入れると、空気が重く気持ち悪い。

 それを吹き飛ばすべく俺は叫んだ。


「フラウ、愛してる!」


「ん……急な大声はびっくりする……」


 急な叫びにフラウはびっくりしたと言うが、照れているようにも見える。

 ううん、わかんないけど絶対そう!

 抱っこしてるフラウが熱くなってる気がするし、冷たかった周囲の空気も少しあったかく甘ったるくなった気がする。

 こんな感じで俺の部屋の前に到着。


「この中……多数の邪気を感じるわね」


「そうだな。俺たちに対抗するべく集まっているのかもしれない。覚悟して入ろう」


「ならば絆を深める儀式をしておきましょう」


 フラウは俺に顔を向けて目を閉じる。

 俺は吸い込まれるように、自然とキスをする。

 そのまま気が済むまで時が止まるような感覚を味わう……。


『長イワ!』


 なんか部屋の中からツッコミというか苦情が聞こえた。

 2人の世界を邪魔するとは幽霊のくせになまいきだ。


「フラウ、この続きはやつらを退治してからだ」


「そうね。でも続きをすることで退治できるかもしれないわよ」


「それもありだな」


 部屋のドアはあっさりと開いた。

 もし開かなければイチャつきの続きをすることになったと思うので、幽霊がそれを察したのかもしれない。

 中に入ると、部屋の中心に人の形をした邪気の塊がいた。

 ただその姿は黒髪和服の美女である。


『口惜しや……我が愛しの殿方……。妾を捨てそんな女に走るとは……』


 先ほどまでの幽霊たちと違い、流暢に美しい女性の声で喋り出した。

 てか、何言ってるの?


「どういうことかしら? 説明してちょうだい」


 フラウは俺と幽霊女を見比べて強い口調で聞いてくる。

 まるで浮気を疑われているかのように……。

 むう……予想外の展開だぞ。


「俺はこんな女を知らないぞ」


『ひどいお方よ。あんなに愛し合ったではありませぬか。ここにはあなたの子が……』


 幽霊は自分のお腹を愛おしそうに撫でる。

 当然俺にそんな覚えはなく……。


「フラウ、この女は嘘をついている。俺を信じてくれ」


『嘘ではない……。妾が裸に割烹着であさげを作っておる時、其方は背後から忍び寄りそのまま……』


 俺の好きなプレイを的確に言ってくるが、さっき俺とフラウが調理場でしていたことを言っているだけだ。

 フラウは信じてくれるはずと思い、フラウを見つめる。


「ふっ、邪悪なる存在よ。あなたが嘘をついているのは明白だわ。だってこの人は……童貞だもの!」


 フラウの自信満々の叫びに固まる俺。

 この子何言ってるのさ。


『どうしてそのようなことが分かろうか。妾は間違いなくその男に抱かれ、愛を授かった』


「ふっ、わたしの同胞には占いという名の予言や透視術を嗜む者がいるのよ。間違いないわ。この人は童貞よ」


『むむむ……そのような術者が……童貞とは迂闊であったわ……』


「ふ、自身の嘘を見つめたわね。ふふ、あなたが童貞でよかったわ」


 にっこりと俺に微笑むフラウ。

 そんな童貞を連呼しないでいただきたいのだが……。

 てか、この子意味わかって言ってるの?


「フラウ……一応聞いておきたいんだけど、童貞の意味はわかってるのか?」


「ええ、その能力者に聞いたわ。汚れを知らぬ純粋な存在のことだと。つまりあなたはあんな邪悪な存在と心を通わしてなどいないということよ」


 なんか童貞をすごくいいように言っている。

 フラウのクラスメイトはおかしな知識を植え付ける厄介者揃いだ……。

 その子達に説教したい。


「そうか、とりあえず信じてくれて嬉しい。ただひとつ覚えておいてほしいんだが、童貞という単語は一般的にいい意味では使われないんだ」


「そうね、揶揄される言葉とも聞いたわ。でもわたしは真の意味を知っている。だから問題ないわ。あなたは立派な童貞よ」


 よし、この話は打ち切ろう。

 なんでもいいように考えてしまうフラウに対してはうまく説明しきれない。

 童貞から幽霊に意識を戻して……。


「俺たちの絆の深さがわかっただろう。お前の小細工など通じないぞ」


「ええ、観念して出ていくか消滅するか、好きな方を選びなさい」


『おのれオノレ……ナラば力づくでデモ……』


 わりと綺麗だった声がだんだんと荒くなり、外見も邪悪になっていく幽霊。

 綺麗なままだとやりにくかったので、この方がありがたい。

 幽霊のからのおぞましい邪気が広がり部屋を包み込んでいくように広がる。

 そして俺たちを食べようとするかのように襲いかかってきた。


『マズハお前たちヲ引き離しテクレるわ!』


 俺の足を掬い取るように襲いくる邪気。

 フラウをお姫様抱っこしている俺は耐えられず倒れそうになる。

 だが!


「わたしはこの人から離れないわ」


「もちろん俺も離さないさ」


 転びながら、お姫様抱っこの体勢から普通に抱きつく形にフォームチェンジ!

 フラウをしっかり受け止めつつ床に背中を打ちつける俺。

 前面の柔らかさと温もりのおかげで背中は痛くない!

 その次の瞬間、偶然か必然かフラウとキスする形となった。


『オノレ……ココに来てマダ見せつけテクルカ! ヌウウ……ナゼ近寄れヌ……』


 幽霊さんはお怒りだが、俺たちを攻撃できないようだ。

 ここにくるまでと同じように、俺とフラウがイチャつけば攻略可能なようだ。

 俺の知る限り、一番幸せな幽霊退治である。


 さて、俺の頭は床についている。

 つまり、このキスはフラウが満足して離れるまで続くということである。

 その時がくるまで堪能させていただきます。


 やがて長いようで短いような時が過ぎ、フラウの唇が俺から離れた。

 俺を見下ろすフラウの目が妖艶に潤い輝いている気がする。


「ふふ、この体勢も悪くないわ。わたしがあなたを好きにできる。普段と逆ね」


 フラウがなんかすごいとこを言う。

 妄想多き第二思春期の俺はそっち方面にしか思考がいかない。

 フラウがそういうことを意識して言っているかは不明だが、いつか現実でもベッドでこうなりたい。

 とりあえず今……俺は童貞感を隠しつつ、余裕のある男を演じてみる。


「ならフラウの好きなようにしてみるといい。この幽霊を退治できるかはお前次第だ」


「ええ、わたしたちの空間に邪悪な者は存在できないことを知らしめる。まずはそうね……そういえばこの姿の感想を聞いていなかったわ」


 フラウは少し起き上がり、俺にその上半身を見せつけるように体を浮かせる。

 胸の谷間が強調される下着……改めて見るとエロ過ぎてやばい。

 ゲーム内でなければフラウに硬い何かが当たっているところだ。


「綺麗だ……。その姿、絶対他の人には見せたくない。お前は俺だけのものだ……」


「もちろんよ。わたしはあなた以外と契約するつもりはない。生涯ね……。そしてもちろん……」


「ああ、俺もフラウだけだ……」


 フラウが満足した顔をしつつ俺の顔に触れてくる。

 愛おしい人に触れる優しい感じ、もしかしたら猫に触る時のようにかもしれない。

 なおフラウの背後には怒りを露わにした幽霊さんが見えているのだが、フラウ的にはもういないようなものだろう。

 2人の世界という名の結界が完全に完成している。


「2人きりの時はまたこの姿になってくれる? わたしもあなたのためならどんな姿にもなるわ。2人の世界において否定の二文字はないの」


 どんな姿でも……バニーとか巫女さんとかメイドさんとか、さらには考えるのも恥ずかしいような様々なコスプレが脳裏に浮かぶ。

 ひゃっほー!


「もちろんだ。俺もフラウにだけであればどんな姿にでもなれるぞ」


「これからの生活が楽しみだわ。この家であなたと2人……」


 俺もフラウとの楽しい夫婦生活を思い浮かべてワクワクが止まらない。

 フラウは今俺の猫耳を人差し指でサワサワしつつ、親指で本物の耳を触るという器用なことをしている。

 おかげで俺に本物の猫耳があってそれを撫でられているような気分。

 おや……幽霊さんの前になにか魔法陣が見えるな。

 なんとなくほっといてはいけない予感。


「フラウ、敵もそろそろ限界のようだ。トドメをさしてしまおう」


「ん……忘れていたわ。早く追い出さなくてはね」


 フラウは俺の横にコロンと寝転んで抱きついてきた。

 2人で夜空を眺めるかのような体勢で幽霊を見上げる。

 なんか魔法陣から出てきたぞ。

 えーと……爆弾?


『リア充ヨ……爆散セヨ……』


 まさかこの家を爆破する気か?

 先ほどまでの幽霊たちは物を動かすことはあっても、破壊するほどの力はなかった。

 だがあの爆弾は物理的に破壊してくれそうだ。


「フラウ、凍結魔法だ」


「凍りつきなさい!」


 爆弾を液体窒素で凍らせるのをよく刑事もので見る。

 そんな感じで凍ればいいと思ったのだが……。


『コレハ怨念ノ炎ニヨリ爆スル……無駄ナコトヨ……』


 爆弾の導火線に火が付き、じわじわと短くなっていく。

 怨念という割には、ゲームによくあるようないかにもって形の丸い爆弾なのである。


「どうする? このままではわたしたちの家が……」


「大丈夫、俺に任せろ」


 いいことを思いついた。

 ここは俺たち専用空間なので、便利な専用機能が多数ある。

 この家だって積み木のように組み立てられわけだし、こんなこともできる。


「クリエイディブモードチェンジ! この部屋の空間を指定座標に転送」


 この部屋にいる俺たちと家具と幽霊と爆弾が家の外、この専用空間の端っこへと移動した。

 ここでなら爆発しても問題はない。


『ナ、ナンだと?』


 狼狽える幽霊さん、ここでさらに……。


「タンス位置変更。さらにタンスを鋼鉄製大金庫に置き換え」


 タンスが幽霊と爆弾と重なる位置に移動する。

 そしてタンスが金庫に変わる。

 つまり幽霊と爆弾が金庫に閉じ込められる形だ。

 あとは……。


「金庫に補助機能、魔結界を展開」


 俺がやろうとしたことをフラウが先に行った。

 これで幽霊は完全に閉じ込められた。


 やがて地味な爆発音が聞こえてきた。

 おそらく大爆発したのだと思うが、丈夫な金庫に結界まで張ってあるので外からではそれがわからないのだ。

 幽霊は断末魔をあげたと思うが、それも残念ながら聞こえない。


「金庫とその内部空間の全てをデリート」


 金庫が消えるとそこには何もなかった。

 なんともあっさりでズルい手を使った気分だが、俺たちは勝利したのだ。


「勝ったな……」


「ええ、では続きをしましょうか。ピクニックシート展開」


 ちなみに俺とフラウは先ほどの体勢のまま、地面に寝っ転がった状態だ。

 背中にピクニックシートが現れ、夜中に星空を眺めるデート状態。


「月が綺麗だな」


「そうね、でもそなことより今はわたしがあなたを好きにできる時間……」


「そうか……」


 さっきは幽霊を退治するために、俺を好きにしていいと言ったのだが……まだフラウの中では続いているようだ。

 まあいっか……可愛いフラウが見れる。

 フラウは俺のお腹に座り……妖しげな目で見下ろしてくる。

 この後……たくさんモフモフされた。


 余談だが、後で判明したこの謎の幽霊騒ぎの真相。

 サプライズイベントというものがあり、くーちゃんがこっそり応募していた。

 びっくりさせてごめんなさいと後で言われるわけだが、くーちゃんなので許した。

 このゲームは専用イベントをいろいろ作ってくれることを改めて実感させられるのであったとさ。

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