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95.指令:新居を防衛せよ

 前回までのあらすじ。

 ついにゲーム内での我が家が完成し、まったりしようとしていたところにモンスターが襲撃を仕掛けてきた! というイベントなのだが、ガチと勘違いしたかしわもちが単身で迎撃に向かってしまった。どうせならこのまま戦ってもらおうということで、かしわもち無双が開幕されるのであった。


 まずはクエスト設定を調整っと。

 作戦司令室のモニターに設定画面を表示させて、ほど良き設定を皆で考える。

 フラウは目を閉じて瞑想し、それを見ない構え。


「かしわもちの今のレベルは……盗賊21か。できることは少ないな。装備武器は短剣とブーメランか」


「ちょっと心許ないな」


 ブーメラン、それは古代より狩猟や戦争などで使われていたとされる立派な武器。

 某お笑い芸人のコントではブーメランを手に銀行強盗をしていたほどの武器だ。

 だが、ゲーム的には無くならずに何度でも投げられる便利な遠隔武器という扱いでしかなく、はっきり言って弱い。

 遠隔攻撃が重要な防衛戦では使えない。


「大丈夫、実は渡そうと思ってボウガンを作ってあるんだ。これを支給品として送るよ」


「それはいいな。だがかしわもちにボウガンスキルはあるのだろうか?」


「うーん……使ったことないかもね」


「飛命を上げる食事も送りましょう。あとは相手のレベルさえ低ければ何とか……」


 というわけで敵モンスターのレベル設定は5~20あたりとした。

 これなら雑魚を一撃で倒していくかしわもち無双が見られるはずだ。

 最後のボスだけギリギリ倒せる強さにしておく。


「次は罠と兵器だな。罠は元々配置してあったことにして敵の半数くらいは倒せる形にしよう。兵器をどうするかだ」


「手動兵器を送ってかしわもちさんが使ってくれるのか疑問だニャー」


「いっそ天の声として話しかけて説明するか」


 兵器は巨大ボウガンとか大砲。

 普通に考えると素人には操作できないが、ゲームなので近づいて使用しようとすればあとは自動でわかる便利システム。

 問題は近づいて使用までいかない可能性があることなので、もう話しかけるという力技で済ませることにした。


「この場合、誰が話しかけている設定にするかだな」


「前回は山の精霊さんだったので、今回は家の精霊さんがいいと思いますニャー」


「採用。音声は一番かしわもちが声を覚えていないニャーノさんにお願いしたい」


「うにゃっ!? それは重大な役目ですにゃ……がんばりますにゃっ! えーと……力がほしいか……あ、ニャー」


 精霊の声の練習を始めたニャーノさん。

 きっと本番では猫語を封印してくれるはず?


「こんなところか、あとなにかあるか?」


「この戦い、勝利条件と敗北条件はどうなるんだ?」


「勝利条件は敵の殲滅のみだな。敗北条件は、家の周囲4か所にある結界クリスタルの破壊だ。このクリスタルは耐久力が連動しているため、全方位守る必要がある」


「ひとつを残して集中して守るってのはできないわけだな」


「そうなるな、かしわもちが撃ち漏らした敵はバレないように家の前で倒す」


 かしわもちはわりと遠くの敵出現地点にいる。

 俺たちは家を守ると同時に、かしわもちが1人で敵を撃退したかのように演出する予定だ。

 かしわもちは俺たちに気づかれることなく単身敵を倒しこっそり戻ってくる……という陰のヒーロー役なのだ。

 なぜこんなことをするかというと、かしわもちが昨日テレビで見た映画がこんなストーリーたったからに他ならない。


 この後細かな打ち合わせをして、ついに防衛戦が始まった。

 劇団かしわもちの総力をあげて挑みます!

 なお俺とフラウは司令室で指示出し係。

 本気でやばくなった時だけ出ていき乱戦予定。


「ドラゴン戦の時はまだ逃げ帰るという選択もあったわ。でも今回は退路なし。守りましょう、わたしたちの未来を」


「そうだな。俺たちなら必ずできるさを」


 そして2人は抱き合い……戦闘前のラブシーンをこっそりとやっておきます。

 これはやる気を出すための必要な儀式なのである。

 そしてフラウにバレないようこっそりスタートボタンをポチッとな。

 その瞬間警報が鳴り響き、フラウは名残惜しそうに俺から少し離れる。


「来たようね」


「ああ、やるぞ!」


 まずはかしわもちのサポート、映像をかしわもちに切り替える。

 魔物の第一陣がゆっくりと進軍を始めるのを見下ろしながら、かしわもちは微かに震えていた。

 それは恐怖によるものか、はたまた武者震いなのか……。

 そんなかしわもちにどこかから声が聞こえてきた。


『力が……欲しいか……に……』


「え? なんか声が聞こえてきた? かに?」


 かしわもちはキョロキョロと周りを見渡すも、あたりにあるのは先ほどまではなかった怪しげな箱のみ。

 ここから声を飛ばす方法はうまくいきそうになかったので、直に話しかけにいくこの形となった。

 偽装はバッチリだが、ニャーノさんがニャーを言わずに耐えているのが伝わってくるな。

 その箱の中からさらに声は聞こえてくる。


『力が欲しければ願うがよい……ぬ……』


「よくわかないけど、タカシとフラウちゃんの家を守りたいんだよ。カニでも犬でも手伝っておくれ!」


『ならば2つの力を与えよう……に』


 かしわもちの左右に巨大ボウガンと大砲が現れる。


「これは……」


『範囲攻撃ができる大砲に……ゃを一撃必殺で放てるボウガン!』


「ふむふむ、これがあればなとかなりそうだよ。ありがと!」


『うむうむにいにぃ』


 謎の単語を発しつつ、謎の箱はかしわもちの前から去っていった。

 かしわもちはボウガンを選んだようで、早速弦を引っ張って発射準備。

 この武器を使うのだと理解してくれたようで何より。


「あれが敵の親玉だね。あいつに狙いをつけてと……」


 どうやら敵の指揮官を狙うようだ。

 あれを倒しても戦闘が終わるわけではないが、敵の統率が乱れて動きが悪くなる。

 だから最初に倒すのは悪い選択肢ではない。

 なかなかやるな、かしわもち。と思っていたのだが……何故かボウガンの矢の上に乗るかしわもち。


「発射! ヒャッハー!」


 なんか矢と一緒に飛んでいっちゃった。

 敵の指揮官は鳥型のおっきな獣人、ボウガンの矢が腕に刺さると共に、かしわもちの先制ナイフアタックか決まる。

 とはいえ敵も強者、この程度では全然倒せない。


『まさかここに突撃してくるとはな。皆の者、我を守れ!』


「あんたを倒してタカシとフラウちゃんの家を守る!」


 指揮官とかしわもちの一騎打ち!

 だが進撃した他の雑魚たちがちょっとずつ戻ってくる。

 いろいろ予定が変わってしまったが、かしわもちを守るべく作戦を立て直そう。


「レオルとラーニャはさっきのボウガンと大砲でかしわもちを援護だ! ニャーノさんは兵器に近づく敵を頼む。かしわもちには悟られないように」


 レオルとラーニャは兵器のすぐ横で、立木に扮してかしわもちを見守っていた。

 各兵器に取り付き、使ってもらおう。

 大砲は敵の集団に適当に撃ってもらい、ボウガンはかしわもちの方に向かう雑魚退治だ。

 あとその他の敵は家に向かってくるな。


「ユース、くーちゃん、レオン、家に接近する敵は普通に倒してくれ。かしわもちは最前線にいるから見られることはない」


 これで家の方は安心だろう。

 いくつかの罠と兵器と信頼できる仲間、何も問題はない。

 さてさて、かしわもちは?


『なかなかやるな人間。だがお前1人で我々を倒せるとでも?』


「できるかどうかじゃない。やるんだよ!」


 とっても真剣モードのかしわもち、なんかホロリときてしまう。

 俺の家に背を向けて指揮官と戦い続けている。

 つまり後ろの光景は何も見えてないという、俺たちには都合のいい状態である。


 かしわもちの背後では大砲が爆発したり、ボウガンで敵が倒れたりしているのだが、それに気づかないほど戦いに集中しているかしわもち。

 後ろからニャーノさんがこっそり近づいてかしわもちに回復魔法をかけたりもしている。

 なお敵の指揮官は空気を読んでくれているようで、かしわもち以外をいないものとしてくれているようだ。

 ほんと謎に優秀なAIである。


『くっ、魔法も使えぬ戦闘向きでもない盗賊のはず。何故こうも戦える』


「守りたいものがあるからだよ! 魔法なんかなくとも気合いでなんとかなるんだよっ!」


『くっ、部下もその気合いに押されて貴様に近づけないようだな。ならば我が本気を見せてやる!』


 敵の指揮官のHPが半分になり、プチパワーアップイベントが始まったらしく、体にオーラを纏った。

 ちなみにこの指揮官は戦士タイプのようで、魔法とか使わない。

 攻防能力は高いが特殊なことはしてこないので楽なタイプだが、その能力が大幅に強化されたようだ。


「じゃあ、あたしも本気を見せる時が来たね!」


 かしわもちはポシェットをごそこそ。

 取り出しましたのはサンドイッチとミルクラテ。

 しかも勝利の印、カツサンドだ!

 戦闘しながらもぐもぐタイムが始まります。


『戦いの最中に食事とは舐めておるのか!』


「よく噛んでるよ! これはくーちゃんと一緒に考えた究極の携帯食さ。これで勝利は確定さ」


 カツサンドの効果により、かしわもちの攻撃力、防御力、HPが上昇した。

 ミルクラテの効果は、HPがじわじわ回復だ。

 これで強化された指揮官と対等になったな。

 かしわもちはこのままで大丈夫そうなので、他を確認だ。


 家の周りは問題なさそうである。

 危ないのは前線のレオルとラーニャだ。

 付近に配置してあった罠はほぼ発動しており、兵器付近に敵が群がっている。

 あの兵器が壊されてしまうと、雑魚の群れが次はかしわもちを襲うだろう。


「わたしがいくわ」


「そうか、任せたぞ。かしわもちには見られないようにな」


「ええ、わたしは元より陰の存在。隠密行動は得意とするところよ」


「そうか、任せたぞ」


 防衛の司令室からは、まだ戦闘してない人員を任意の場所にワープができる。

 というわけでさっそくフラウを転送!

 先ほどまで横にいたフラウがモニターに映し出される。


「待たせたわね。まず雑兵を一掃するわ。燃え盛れ!」


 フラウの範囲魔法が炸裂。

 かしわもちに合わせて低レベル設定の敵なので、ぽこじゃかと倒していける。

 これでかしわもち周りは安全そうだ。

 さて、そのかしわもちは?


『本気の我と対等に戦えるとはな。名前を聞いておこうか』


「かしわもちだよ。っていうか人に聞く前にあんたも名乗りなよ」


『これは失礼した。だがあいにく、我に名はついていないのだ』


 敵の頭上の名前は指揮官とした書かれていない、名もなき悲しき存在である。

 なんか適当に名乗ればいいのに、こういう時は気の利かない不思議なAIである。


「そうかい、じゃあ記念につけてあげるよ。鳥さんだから……とりもちとかどうだい?」


『ふっ、ならばそう名乗らせてもらおう。我が名はとりもち……勝負だかしわもちよ!』


 こうしてかしわもちと、とりもちの最終決戦が始まった。

 名前だけ聞くと、くっつきあってごちゃごちゃになってしまいそうな不安がある。

 でも本人たちはかなりシリアスな真剣勝負。

 あまり見ることのない、かっこいいかしわもちをお楽しみください。

 俺はふと思うことがあり、ちょっとした準備をする。


「ところで、なんであんた達はここに攻めてきたんだい?」


『ふ、この家の存在が将来脅威になると予言されたのでな。恐らくはお前達の子孫が勇者にでもなるのだろう』


「そうかい、つまりあたしにも孫が……。それなら尚更負けられないね。みんなの未来のために!」


『それは我らも同じこと。魔物達の未来のために!』


 そんな設定があって攻めてきたのか。

 それだと、今後も定期的に攻めてこられそうな設定である。

 このままだとかしわもちが毎日見張りに立ちそうなので、なんとかあきらめる的なことを言ってほしいな。


 やがてとりもちのHPが尽きかけてきた。

 かしわもちの方は、ニャーノさんがこっそり回復魔法を飛ばしているので問題なし。

 本人は、飲んだミルクラテの効果がたまたますごいなと勘違いしてるようで安心。


『くうう……このままでは我が負けるな……。だが、続々と刺客は送り込まれてくるぞ』


「そんなの全部返り討ちにしてやるよ。てか、倒さずに見逃してやるよ」


 かしわもちは武器を収めた。

 それに合わせてとりもちも攻撃体勢を解く。


『どういうつもりだ?』


「帰ってお仲間に伝えな。ここに攻めてきたって、絶対落とせはしないってね」


『…………』


 とりもちは考え込んでいる。

 かしわもちの言う通りに、もうここへは来ないってことにしてほしい。

 AIよ、いい感じに終わらせておくれ。


『理解した……。かしわもちよ、貴様が生きている間は侵攻は無意味のようだ』


「わかってくれて嬉しいよ」


『ではさらばだ、我が宿敵よ』


「ばいばーい」


 かしわもちが手を振り、とりもちは撤退していく。

 ちなみにこの時点で他の雑魚も殲滅していたので完全勝利である。

 各種兵器は引っ込めて、出撃していた全員はかしわもちに見られないよう家へと戻ってきた。

 さて、かしわもちはこの後どうするのかな。


「ふう……なんとかなったね……。でも、もう、限界かな……」


 かしわもちはその場に崩れ落ちた。

 先ほどは強気な発言をしていたが、もう立っているのもやっとの状態という設定なのだろう。


「夕飯のお肉……冷蔵庫から出しとかなきゃね……」


 そのままかしわもちは目を閉じて動かなくなった。

 ちょっとした用事を思い出してログアウトしたのだろう。

 俺は今がチャンスと思い、かしわもちの元へ転移!


 付近の木にハンモックを取り付け、そこにかしわもちを寝かせる。

 せっかくなので快適に休んでもらおう。

 防衛戦中は見てるだけだったので、これを作っていたのだ。

 さて、幸せそうに眠るかしわもちを残して家に帰ろう。


 その後、予定していたお茶会の準備が終了した。

 あとはかしわもちを待つだけである。

 少しすると、かしわもちが普通に部屋に入ってきた。


「みんなお待たせー。あれ? まだ始まってなかったんだ。始めててよかったのにー」


 ごくごく普通の会話を始めるかしわもち。

 これはつまり、先ほどの戦いはかしわもちがこっそり出撃して誰にも知られることなく終わらせてきた設定。

 予想していたが、かしわもちの思惑も同じようで安心した。

 ならば俺たちも同じように普通にするのみ。


「何言ってんの。みんな揃わなきゃ始まらないよ。さあさあ、そこに座って」


 かしわもちを一番豪華なソファに座らせる。

 そしてみんなで取り囲む。


「肩揉んであげるよ」


「わたしは手のマッサージを」


「お母様、お茶をどうぞ」

 

「お菓子もどうぞですニャー」


 急に王様のように扱われて戸惑うかしわもち。

 俺たちは普通にしようと思ったが、どうしてもかしわもちをねぎらいたい気持ちが強いようだ。


「なんだいなんだい? なんかみんな優しいよ?」


「そういうこともあるよ。なんか今日はそういう気分なんだ」


「そうです。今日はお母様を労う日とたった今決まりました」


「そうなの? じゃあ遠慮なく……タカシ、もうちょっと強くもんでー」


 肩を揉みながら、母さんこんな小さくなっちゃって……という定番の感想が頭に浮かぶ。

 ゲーム内なんで物理的に小さいんだけどね。

 ま、ゲーム内と言えど素晴らしき親孝行ができている気分。


「なんかちょっと疲れが肩に出てるね。なんか運動してた?」


「んー、ハンモックで寝てたんだけど、鳥さんと戦う夢見てたかも。あれは夢だったのかなあ」


「鳥さん? なんで戦ってたの?」


「えーとね、タカシとフラウちゃんの……。ううん、なんでもないや。夢だしわかんない」


「そっか」


 かしわもちは気持ちいいのか、半分寝ぼけた感じだ。

 でも俺の家を守るために戦ってたことを隠すのは忘れていない。

 素晴らしい陰のヒーローである。

 とまあこんな感じで過ぎていく平和な一日でしたとさ。

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