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86.ドラゴン戦開幕

 前回までのあらすじ。

 結婚に向けた試練を受けるべく、ドラゴンの住む火の山へ挑む俺たち3バカップルと保護者のかしわもち。道中で、かしわもちはドラゴンに食べられる、残りメンバーは分断され、3種の試練を乗り越えて頂上へと集った。

 あとはドラゴンを倒してかしわもちの仇を取るだけである。


 ドラゴンへ向かう道が現れたものの、実は俺はビビっている。

 だってドラゴン異様にでかい。

 食べられたかしわもちが楽しく冒険できるだけの大きさなのだ。

 他の皆も同じ感じらしく、ドラゴンの元へ進むのをためらっている感じ。


「行かなきゃ……だよな?」


「そうだな、だがまずかしわもちの安否も気になるところだ。もう少しここで何かできないだろうか」


 目の前にあるのはかしわもっちの祭壇。

 今映されている映像ではかしわもちがドラゴンの体内で胃袋に向かって歩いている。

 あとはもう見守ることしかできない状態だが、面白いことが起きる可能性を考えるともう少し見ていたい。


 だがそれを許さないと言わんばかりに地面が揺れ始めた。

 かしわもっちの祭壇付近にヒビが入り、近づけなくなる。

 しかもこのあたりも崩れてきている?


「やばいぞ、崩れそうだ。もう覚悟を決めるしかない。ドラゴンの元へ迎え!」


 ドラゴンに向かうか、地割れに落ちて死ぬか、この2択では行くしかない。

 俺たちはドラゴン戦のフィールドへ到着してしまうのだった……。

 幸いなのはこんな地響きがしようともドラゴンは寝たまま起きそうにないってことか。


「さてどうするかな、先制攻撃は仕掛けられそうだが、攻撃が効く気が全然しないぞ」


「そうだな……俺も盾役が務まるかどうかわからん。一撃で吹っ飛ばされそうだ」


「魔法もあの堅き鱗に弾かれそうね……」


 ドラゴンの見た目に尻込みする俺たち。

 一応ゲームなので見た目と強さが比例しないことはある。

 敵が強いエリアだと、ちっこいウサギがこのドラゴンより強いことも普通にある。

 と心の中でわかってはいても、これまで戦ったことのない巨大サイズの敵ってことで怖い……。

 とりあえず、ゲームシステムを使って強さを調べてみよう。


『ドラゴンの強さは計り知れない。ドラゴンは胃もたれにより休んでいる』


 ふむ……計り知れない強さというのはこの場合、イベント敵だから戦うまでわからないよという意味だ。

 例え一撃で倒せるような雑魚でもイベント敵は計り知れない強さとなる。

 問題はその次の胃もたれ……初めて見る状態異常だな。

 かしわもちが胃袋で何かしているのだろうか?

 さて、作戦会議するか。


「いつまでもこうしているわけにはいかないな。かしわもちが何かしてくれる可能性はあるが、それに期待しすぎてもよくない」


「そうね、お母様の力に頼らずわたしたちの力で試練を乗り越えましょう」


「よし……恐ろしい相手だが俺が盾として皆を守る!」


「レオンさんかっこいいニャー」


「じゃあ、万全にしてから挑まないとだね」


「とっておきの料理で皆さんを強化しますね」


 みんなドラゴンに怯えつつも、やる気はバッチリだ。

 くーちゃんの料理を始め、防御アップや炎耐性アップの強化魔法をかけていく。

 最初はタイミングを合わせて弱体魔法を放ちつつ、射撃タルタルも矢を放つ定番戦法の予定だ。

 それに合わせて前衛陣も殴りかかる。

 さあ、戦闘開始だ! 魔法が発動……?


 フラウは怯んでいる。

 ニャーノは怯んでいる。

 戦闘状況ログに怯んでいると表示される。

 この2人だけではなく、みんな怯んでいる?


「お、おいこのドラゴン……」


「ああ……恐ろしいことに恐怖の覇気持ちだ。それもかなり強力な……」


 強敵の中には稀にいる存在なのだが、敵に対してなにかアクションをしようとすると怯んでキャンセルされてしまう。

 魔法の発動も止まるし、攻撃しようとしても手が止まる。

 敵によって怯む確率は違うのだが、このドラゴンは今のところ俺たちの行動を全てキャンセルしている。

 ドラゴンを見て怖いと怯えてしまっていたのだが、それはこの特性のせいだったのか。


「おいどうするカーター、このままあいつが目覚めたら手も出せずにやられるぞ」


「そうだな……。ここまでの強さだとこれは何かのイベントだろう。あえて起こしてみようと思うかどうだ? みんな?」


「今日の指揮官はあなたよ、任せるわ」


 フラウのその返答に、周りのみんなもうなづいて同意してくれた。

 よし、話しかけてみよう。

 多分言葉は通じるはず?

 無視されたらカッコ悪いので無理されませんように……。


「ドラゴンよ、俺たちはこの山に試練を受けにきた! どうか戦ってはもらえないだろうか」


 するとドラゴンは目をゆっくりと開いた。

 やばい……漏らしそうなくらい怖い。

 そして大地を揺るがすような声が聞こえてくる。


『我は今機嫌が悪い。戦いたければ好きにかかってくるがよい』


 そう言ったドラゴンの目が光る。

 それと同時にドラゴンの体から何かが発せられ、俺の体は動かなくなった。

 とりあえず声は出せそうだ。


「く……怒らせただけか? みんな、すまない。大丈夫か?」


「大丈夫……だがやばいぞ。見ろ!」


 ドラゴンが口を大きく開けている。

 そしてそこにエネルギーが凝縮していく感じがわかる。

 炎を吐かれる?

 次の瞬間、俺の視界は真っ白になった。


 ん……死んではいないようだな。

 だが視界が真っ白で何も見えない。

 周りの音も聞こえない。

 まるで気絶して夢でも見ているかのような……。


『聞こえますか? 試練に挑みし戦士よ……』


 どこかから声が聞こえる。

 聞こえますと返事をしようとするも声が出ない。


『聞こえているようですね、そのままお聞きなさい。あのドラゴンはあなたたちの恐怖を増幅し、幻覚を見せています。それを打ち破るのです』


 恐怖で幻覚……そう言われてもあの心の底から湧いて出る恐怖はなんとかできそうにかないぞ。

 というかあなたは誰ですか?


『この試練を担当する愛の女神です。もうおわかりですね?』


 もうおわかりですねとか言われても……。

 でも確かにベタというか定番な展開なのでわかってしまうな。

 つまり、愛の力でこの状況を打破できるということか。


『その通りです。さあ、心のままにあなたの想いを伝えるのです!』


 えー、この状況でも始められるラブシーンがあるんですか?

 他のみんなもいるしなんか恥ずかしいっす。

 1番見られて恥ずかしいかしわもちがいないのだけが救いだが。


『これが試練なのです。ラブ、オア、ダーイ!』


 謎のノリで女神様は消えていった。

 なんとなく俺の心の中の天使に似ている気がする、

 そして周囲の風景がうっすらと元に戻っていく。

 目の前にはドラゴン、横にはいつの間にかうずくまっているフラウ。


『フラウ、大丈夫か?』


 返事がない。

 ドラゴンへの恐怖に怯んでいるでいるのか、俺のように女神と対話でもしているのか。

 とりあえずしゃがみ込んで抱き抱えると、目を閉じているので気絶している?

 とりあえず小声で話しかけてみるか。


「フラウ、愛しているぞ」


『うーん、声が小さい。だめね、やり直し!』


 なんか女神様の声が脳内に響いてくる。

 あんたまだいたのかよ、そしてダメだしって……。

 フラウは俺の腕の中でピクリとも動かないし、もう恥ずかしさは捨てるしかないか。


『そうそう、ドラマチックにね!』


 この女神様は試練の担当というが、監督とか演出担当って感じだな。

 やり直しをさせられたくないのでがんばるか。

 俺の心の中の中二病ラブコメモード、生まれいでよ!


「フラウ、目を覚ましてくれ。俺はお前がいないと生きていけないんだ。お前を愛している!」


 そのままキスである。

 眠った愛する人を起こすには古来より伝わる伝統的方法。


『そうそう、いいわよー。そのまま長めにしちゃいましょ。はいフラウちゃん、少しずつ頬をピンク色に染めていってー』


 女神様が悪ノリしすぎである。

 フラウにこの声は聞こえているのだろうか?

 いや、俺の愉快なものを求める心に合わせた会話をしているだけで、フラウはもっと中二病全開の会話をしていると思いたい。

 あ、なんか周囲からレオンとユースの愛の叫びが聞こえる……俺のあれを聞かれたと思うとやっぱちょっと恥ずかしいな。


「ん……」


 フラウが反応を示す。

 抱き抱えている部分が熱くなっているのは、きっと2人ともの体温が上がっているせいだろう。

 キスをやめて顔を離すと、フラウがゆっくり目を開ける……そしてまた閉じる。

 まるで続けてと言わんばかりの色っぽさを感じ、俺は欲望のままに再度キスをする。


『うんうん、いい絵が撮れてるわー。さ、暑そうだねって言いながら脱がせちゃいましょう』


 いやいや、なんかいかがわしい撮影みたいになってるぞ。

 さすがにそれは違うだろうと、ここで俺は気づく。

 この俺の欲望を体現したかのような女神……こいつは外部の存在ではなく俺の心の中に存在しているのではなかろうか。

 出ていけ、俺のおふざけ心よ!


『ふふ、試練の本質に気づいてしまったようね。本来ラブシーンは言われてやるものではないわ。あなたたちの意思でやるものなのよ。さあ、好きなようにしなさい』


 そして女神の声は聞こえなくなった。

 さて、おふざけ感が出てしまったが、シリアスに決めていこう。

 俺はフラウをお姫様抱っこして立ち上がる。


「ドラゴンよ、俺たちは負けない! 皆の力を合わせてお前を倒して見せる!」


 ドラゴンはこいつ何言ってんの? そして何やってんの? という顔で俺を見ていた。

 確かに先ほどまで怯えていた奴らが急にラブシーンを演じ始め、何事もなかったかのように戦いを続けようとしている。

 ドラゴンの頭の中はハテナマークで埋め尽くされていることだろう。


『我は機嫌が悪いと言っただろう。脅しが効かぬようならば、次は焼き尽くしてくれるわ』


 ドラゴンは少し怒った感じで咆哮する。

 この咆哮で俺たちの体はすくんてんしま……わない?


『愛の力により、一時的に恐怖耐性を得た!』


 おお、なんか急に怖くなくなったぞ。

 先ほどまでうまく動かなかった身体が動く。

 ドラゴンは大きく息を吸い込んで火を吹く準備をしている。

 まずはあれを避けなくては。


「フラウ、炎を避けるために敵の懐に飛び込む!」


「ええ、あなたについて行くわ!」


 ついて行くと言っても、俺はフラウをお姫様抱っこしたままである。

 フラウは俺にしがみついていて降りる気配もないのでこのままドラゴンに向けてダッシュ!

 ギリギリ間に合ったようで、頭上を炎が掠めて行く。


『ええい、うっとおしい!』


 ドラゴンは体をひねり、接近した俺たちに向けて尻尾をぶつけようとしてきた。

 避けられそうにないのでフラウを安全そうな方向に投げてガードの構え!

 強い衝撃が俺を襲い吹っ飛ばされる。

 HPの3分の1ほどが削られるが、これなら戦えそうだ。


「キュアにゃー!」


 ニャーノさんの回復魔法が飛んできた。

 さらにレオンもドラゴンに向けて走ってくる。

 こいつらもドラゴンへの恐怖耐性を獲得したようだ。

 おそらくユースたちもだろう。


「よし、陣形は崩れた状態だが立て直すぞ」


「ああ、まずはドラゴンの目を俺に向ける。かかってこい!」


 レオンが攻撃を向けさせるスキルをドラゴンに発動する。

 そうなれば他のメンバーはドラゴンの横や後ろの安全地帯から攻撃できる。

 つまりいつも通りの慣れた戦闘スタイルになるはずだ。


『鬱陶しいわ!』


「無効化された!? くそ、一筋縄では行かないぞ。誰が狙われるかわからん。気をつけろ!」


 ドラゴンは誰を攻撃しようか考える感じで辺りを見回している。

 どこに攻撃してくるかわからないので、俺たちはドラゴンの周りにばらけた状態のまま、皆がどこにいるかも把握できない。

 さすがドラゴン、こちらの陣形を立なおすこともままならない。

 指示をしなければだが、適当なことしか思いつかないな。


「攻撃を受けそうだったら逃げることに専念するんだ。大丈夫そうであれば隙を見て攻撃してくれ」


 ドラゴンが誰かに向けてブレスを吐く。

 その誰かが無事なことを願いつつ俺は剣でドラゴンの体に斬りかかってみた。

 え? まったくダメージを与えた感触がなく弾き返された。

 ドラゴンが硬いというか、なにか結界のようなものに弾かれた感じ。


「凍りつきなさい!」


 フラウの氷魔法がドラゴンにぶつかるのが見えたが、それも当たる前にかき消された感じだ。

 射撃タルタルの矢が飛ぶのも見えたが、それも弾き落とされている。

 攻撃通じないんだけど、まだ愛の力が足りないのか?


「攻撃が効いてない、みんな一旦離れるんだ」


 ドラゴンは全然本気を出してない感じで面倒そうに攻撃してきているが、このままではいつか全滅しそうだ。

 とりあえず逃げつつ作戦を考えたり、なにかイベントが起きるのを待とう。


『飽きた。焼き尽くしてくれよう』


 ドラゴンが翼を大きく広げて飛び立ち、発生する強風でまともに立っていられずうずくまる。

 なんとか上空を見上げると、大きく口をあけて息を吸い込むドラゴンが見える。

 炎を吐くのだろうが、そのチャージ時間であろう溜めが異様に長い。

 言葉通りに俺たち全員を焼き尽くせるだけの威力があるのかもしれない。


「避けるのは無理だ。みんな俺の後ろに集まれ!」


 レオンが叫ぶ。

 やりたくはないが、レオンを犠牲になんとか被害を少なくするのが最善手かもしれない。

 皆で集合して守りの陣を組む。

 レオンの左右後ろに俺とユースで固め、女性陣は1番安全であろう位置についてもらう。

 これでも半壊しそうだが、きっと愛の力の奇跡とか起きるはず、起きてほしい。


『む?』


 急にドラゴンの動きが止まり、ドラゴンに集まっていた魔力というか力が周囲に散った。

 何が起きた?

 次の瞬間、ドラゴンの体が光に包まれる。

 あれは回復魔法のエフェクトによく似ている。


『かしわもちの治療完了! ドラゴンの胃もたれが治った!』


 戦闘ログにドラゴンの状態が表示される。

 かしわもちがドラゴンの中から攻撃してくれるのを期待していたが、治療したのか。

 この状態が果たしてどうなるのかさっぱりわからない。

 すると上空のドラゴンが笑い出した。


『ふはははは! まさか食べた小さき者に助けられるとはな。それとも、我が体調不良の際には防護結界が展開されることを知っていたのか?』


 そんな不思議な設定知らないっす。

 かしわもちも困ってるなら助けようかなって感じで深く考えてないだろうし。

 あるいは治療したわけでなく、遊んでたらたまたまこうなった可能性もある。


『よし、今の我は機嫌が良い。お前たちと同じ土俵で戦ってやろう。まずはこいつを返すぞ』


 ドラゴンの口から何かが飛び出した。

 その白と緑色が鮮やかな塊は……かしわもちだ!

 かしわもちは不思議な光に包まれ、地面にゆっくりと置かれるように落ちた。


「お母様!」


 真っ先に動いたのはフラウとくーちゃんである。

 俺とユースも行きたいのだが、ドラゴンへの警戒を緩めるわけにはいかない。

 ここは未来の嫁たちに任せて見守ろう。


「ああ……フラウちゃんにくーちゃんかい……。最後に2人に会えてよかったよ……」


「お母様、しっかりしてください!」


「早く回復を!」


「いや、もうだめだよ……。それより顔をよく見せておくれ……。なんだか霧が濃くて前がよく見えないよ……」


 ドラゴンから無事脱出できたかしわもちは虫の息のようだ。

 ここで俺がやるべきことは……。


「ドラゴン……よくもかしわもちを! 絶対に許さないぞ!」


『む? いや、そんなはずはないのだが……』


 ドラゴンは少し困った顔をしている。

 ということは……かしわもちの死にかけは演技だろうか。

 よし、劇団かしわもちの精神攻撃をドラゴンにお見舞いしてやろう。

 俺の設定は……かしわもちをやられた怒りで我を忘れたってところか。


「先ほど同じ土俵で戦うと言っただろう。降りてきて俺たちと戦え!」


『う、うむ……』


 ドラゴンはゆーっくりと気を遣う感じで翼をはためかせて降りてきた。

 先ほどの強風とは違い、涼やかな風の吹いてくる火山の頂上。

 着地したドラゴンはなんとサイズが小さくなった。


「小さく……?」


『お前たちと戦うならばこのサイズがちょうどいい。弱くなったわけではないぞ、これならば小回りも効く』


 先ほどまではどうしたらいいかわからないほどのビルサイズだった。

 今は普通の一軒家に押し込んだら入りそうなサイズ。

 これなら戦いやすそうだが、先ほどのように避けるのも難しそうだ。

 とりあえず……戦闘準備の時間をもらうか。


「では正々堂々と戦おう。だがその前に時間をくれるか? 仲間を見送りたい」


『よかろう……』


 このドラゴンが俺たちを騙し討ちすることはまずないだろう。

 俺はドラゴンに背を向けてかしわもちの元へ向かう。

 ユースも同様に走ってきた。


「かしわもち、大丈夫か?」


「ああタカシにゆうすけ……最後にお前たちの顔を見れてよかったよ……がくっ……」


 そしてかしわもちは安らかな顔で息絶えた……。

 強敵で全く歯が立たなかったドラゴンと戦える状態を作ってくれたかしわもち……。

 その犠牲はあまりにも大きいものであった。

 これからかしわもちの弔い合戦が始まる!

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