84.かしわもちのドラゴン内放浪記
前回までのあらすじ。
俺とフラウは遠くから放たれるドラゴンの炎ブレスを避けながら進んでいた。
だがそれを避け切ることができずにフラウは炎に包まれてしまう。
その時、かしわもっちの水晶玉という魔道具が光を放ちフラウは無傷、ドラゴンも何故か去っていった。
これから話すのは、その時かしわもちがドラゴンの体内で何をしていたかである。
先に言っておくが、後に口伝により伝えられた歴史のため真実かどうかはわからない。
こういった歴史の記録は権力者の都合の良いように書き換えられるのが常なのである。
でははじまるよー。
かしわもちはクエストをこなすべくドラゴンの体内を走っていた。
クエストとは、ドラゴンの体内の冒険者ギルドで受けたものである。
このドラゴンの体内では飲み込まれた人たちが過酷なその日暮らしをしているのだが、その生活を脅かす危険地帯がある。
今向かっているのは、なんでも溶かす強力な酸の池……要は胃袋であり、その浄化を依頼されたのだ。
だがドラゴンの体内はダンジョンとなっており広い。
かしわもちは迷って別の場所に来てしまった。
「あれー、ここどこだろう? なんか人がいっぱいいるねえ」
そこでは多くの人が何かの作業をしている、
さらには二足歩行のトカゲのような魔物が鞭を持ってそれを見ていた。
そのトカゲがかしわもちに気づき近づいてくる。
「なんだ、新しい奴隷か?」
「どれい?」
「ここでドラゴン様のために死ぬまで働く奴らのことだ」
「何言ってんだい。奴隷なんて制度はもう廃れたんだよ、人は皆平等さ」
「ふむ、ならば体に教え込んでやろう!」
トカゲは痛そうな鞭をかしわもちに向けて放つ。
だが、かしわもちが着ているのは伝説のかしわもちアーマー。
かしわもちを模した素材の程良き弾力により、鞭はかしわもちに食い込むが跳ね戻される。
「なんだいマッサージでもしてくれるのかい?」
「なっ! 鋼鉄をも切り裂くドラゴン様のヒゲの鞭を食らって無傷だと?」
もしこの時俺がこの場にいたら、そんなヤバい武器を奴隷に使ってたらすぐ殺してしまって脅しにならないだろう、とツッコミを入れていただろう。
でもかしわもちは真面目っ子。
「物騒だねえ。そんなおもちゃは取り上げるよ」
かしわもちはかしわもちアーマーに手を突っ込みなにかを取り出す。
先端にかしわもちのついた棒、あれこそかしわとりもちだ!
その先端をトカゲの手元に突き出すと、鞭がかしわもちにひっつき、そのまま奪い取る。
そしてかしわとりもちと一緒にかしわもちの中に収納だ。
「な、俺の鞭が消えた! も、もしやアイテムボックスの使い手だと?」
「ん? こんなの普通じゃないかい。タカシもゆうすけも使ってるよ」
「くっ、こいつはもしや勇者パーティーなのか。おいみんな、緊急事態だ!」
その声に続々集合してくるトカゲたち。
そんな状況でもかしわもちは慌てない。
もし現実であればさぞかし怯えていただろうが、かしわもちはゲームと現実の区別がはっきりできる子なのだ!
「なんだいみんなイライラしてるね。懲らしめてあげると言いたいけど、改心させるのもあたしの役目さ。きっとお腹がすいてるから悪いことするんだよ」
かしわもちはフライパンその他の調理器具と食材を取り出す。
さらには台所まで出てきた。
「な! あいつアイテムボックスにあれだけのものを収容できるのか!」
「くそっ、何されるかわからねえぞ。あいつを攻撃だ!」
その時、台所に置かれたレディオから軽快な音楽が流れてくる。
3分かしわもクッキングのテーマソングだ。
「な、なんだこの音楽は……。む、体が動かせないぞ」
「ああ、俺もだ。なんとなく3分間は動かずに見ていなきゃいけない気がする」
うろたえるトカゲたち。
そんな中、かしわもちは普段通りに料理を開始する。
「はい、今日はこのドラゴンの中の壁のお肉を使います。食材の味を活かすためにステーキにするよ」
「ドラゴン様の肉ならいつも食ってるぞ。その程度で満足できるか!」
「はいはい、ちゃんとお野菜もつけるからね。特製ソースも使えばいつもと全然違う味付けになるってものさ」
玉ねぎをおろし器ですりおろし始めた。
あっという間に玉ねぎはペースト状となっていき、玉ねぎの香りと辛味が空気中に漂う。
「なんだ、目が痛い……。これはやつの攻撃か? 料理と見せかけて俺たちに毒を……?」
「ちくしょう、目を閉じても涙が出てきやがる。なんであいつは平気なんだ」
「たまねぎの成分はね、目だけでなく鼻や口からも入ってくるんだよ。だから目を閉じることより、呼吸を浅くして吸わないようにするのが泣かないコツさ」
毎日のように玉ねぎを扱う主婦の知恵である。
俺が昔玉ねぎをみじん切りする時に、ゴーグルをかけていたのに涙まみれになった思い出が蘇る。
包丁を使うドキドキ感に鼻息が荒くなっていたのが敗因だった。
「さてさて、ここにいろいろ入れていきますよ」
「なんだあの茶色い液体は。あれは食べ物なのか?」
「おいチビ、食材の味を活かすなら塩だけでいいんじゃないか?」
「食材の味を活かすってのは味付けしないって意味じゃないよ。この肉の味を最大限まで引き出すのさ。素人は黙って見てな」
さらに、にんにくも混ぜたソースの素がフライパンに入れられて煮立っていく。
その香ばしい香りにトカゲたちは文句を言うのをやめて見守り始めた。
やがて美味しそうなソースが完成。
この間に添え物の野菜は切られ、肉の下ごしらえもできていて、あとは焼くだけである!
「はい、あとは焼くだけなんですが、今日はもうすぐお時間が来てしまいますね」
「な! ここまで期待させておいて食べられないとか言わないでくれよ!?」
「そうだそうだ! 時間の延長を要求する!」
「野球じゃないんだから延長は無理だよ。それにあんたたちはお約束を知らないのかい? 調理したものはこちらにございます」
かしわもちが手を振ると、そこに現るはテーブルセット。
豪華に蓋がされたお皿がいくつも並んでいる。
「も、もしやこれがその作りかけの完成品か? 食べていいのか?」
「まずは手洗いしてからだよ。それとあの人たちも一緒に食べなきゃダメだ」
かしわもちが指差すのはここで働かされている奴隷たち。
彼らはこのかしわもち騒ぎの間も何かしらの作業をしていた。
「こいつらにも一緒に食べさせるだと? だがそれでは作業が滞ってしまう……」
「そんなに働き詰めでも仕方ないだろう。しっかり休まなきゃいけないよ。なにか方法考えて」
「ちっ、仕方ねえ」
本来ならそれを聞くトカゲたちではないのだろうが、今は食べたさに必死でかしわもちの意見を聞く気のようだ。
「おい、今炎はどのくらいチャージされている?」
「2回分くらいだ。だがダミーモードに切り替えれば8回は持つ」
「よし、それなら食べる時間は作れそうか。それでいけそうか?」
「そうだな、あいつらは炎を避けてるし、コウモリはほぼ焼き尽くされている。バレることはないだろう」
大きなモニターを確認しながら会議をするトカゲたち。
そこにはドラゴンの炎を避けながら進むカーターとフラウの姿が映っていた。
「あ、タカシにフラウちゃんだ。仲良く登ってるみたいだねえ。ねえねえ、そもそもここは何するところなの?」
「ああ、ここはドラゴン様の炎を作る工場だ。ドラゴン様はご高齢のため魔力で炎を生み出すのが大変ってことで、有志たちでこの工場を作ったんだ」
「ふむふむ、お年寄りを労わるのはいいことだけど、奴隷を使うってのは感心しないねえ。この人たちどこからさらってきたのさ」
「山に来た人をドラゴン様が食べちまうのさ。ほっとけば死んじまうところをこうやって生かしてるだけでも感謝してほしいもんだ」
「うーん……とりあえず食べてからその辺を話し合おうか」
かしわもちとリーダーらしきトカゲが雑談している間に、炎モードの設定が変えられたらしい。
なお先ほど話していたダミーモードとは、脅し用で当たることのない時に使うものとのこと。
毎回本物の炎を出していると、ドラゴンの健康にも環境にも優しくないからという配慮である。
やがてトカゲたちと、働かされていた人たちが皆席についた。
食事の数が人数とぴったり一致しているのはさすがかしわもちである。
「はーい、では手を合わせて」
「む、なんだそれは?」
「これは食べる前に感謝の気持ちを表す表現さ。このままみんなで一斉にいただきますって言うんだよ。せーの」
「いただきます!」
遥か異世界のドラゴンのお腹の中で日本文化の食事時の習慣の挨拶が大きく響き渡る。
美味しいものを目前とすれば皆素直になる。
これに関しては敵であるはずのトカゲも同じなのだ。
まずはトカゲのリーダーが恐る恐る肉を口にかじりついた。
「う、うまいぞ! ドラゴン様の肉がこんなうまくなるなんてどんな魔法だ」
「魔法じゃないよ。ちょっとした工夫の積み重ねと愛情さ。ほらほら、他のみんなも食いな」
そして全員が食事に手をつけ始め、あちらこちらから感嘆のため息や賞賛の声が出始める。
「こんなうまいもの生まれて初めて食べた!」
「この野菜もうまいぞ、こんな新鮮な野菜がここで食べられるなんて、まさかあのアイテムボックスは時も止められるのか?」
「なによりこのソースが香ばしくていい。これを舐めるだけでも1日過ごせそうだ」
絶賛の嵐である。
後にドラゴン体内の食事サイト食べドラにて前代未聞の評価、平均星4.8がついたとかつかないとか。そもそもそんなサイト無いとか。
なおかしわもちは食べドラに課金していないので、食べドラは平等で不正のないサイトということも証明された。
「ふう、ごちそうさま。うまかったぜ、かしわもちさんよ」
「はいはいお粗末様でした。どうだい、食べて何か気分は変わったかい?」
「そうだな、このうまいものを食うために働かなきゃって気分になったよ。これからは奴隷を使うのはやめだ。俺たちで炎を燃やす!」
こうして、ドラゴンの炎工場の奴隷たちは解放されたのである。
この展開の早さ、美味しい料理は何でも解決してくれるということの証明だ。
奴隷たちは1匹のトカゲの案内で一旦冒険者ギルドへ向かうこととなった。
かしわもちはなんとなく工場見学である。
「よーし、そろそろ奴らも疲れてきたはずだ。炎もチャージできてきたし、そろそろ本物に切り替えるぞ」
「ねえねえ、あたしにもなんか手伝わせてよ」
「お? じゃあそこのレバーの切り替えを頼む」
「これだね、がちゃこん」
先ほどまでダミーモードだった炎が本物に切り替わる。
モニターには相変わらず炎を避けて進むカーターとフラウが映っている。
「よーしみんな、気合いを入れるぞ。あいつらを焼き尽くすんだ」
「うーん、あの子達焼かれちゃ困るけど、せっかくみんなやる気出してるし、あたしは平等の立場で見守ろうかねえ」
これが現実ならばかしわもちはなんとしても皆を止めたであろう。
だがかしわもちは現実とゲームを区別できる子。
ここは何もしない方がタカシとフラウがゲームを楽しめると知っていたのだ。
「よし、あいつら避難穴を見誤ったぞ。次で命中させられる!」
モニターには炎を避けるための穴をカーターに譲ってダッシュするフラウが見えた。
だが次の炎を避けられそうにない。
かしわもちは考えた、ここで自分がレバーを引けば炎がダミーとなりフラウちゃんは助かる。でもそれはズルをすることとなって、ゲームを楽しんでいる皆に失礼なのではないかと。
「でもフラウちゃんになにかあったらタカシ悲しむだろうし……どうしよう……」
その時かしわもちは気づいた。
自身が着ているかしわもちアーマーに謎のボタンがついていたのだ。
かしわもちは頭でなく心で直感的に理解した。
このボタンを押せば奇跡が起こる、そして今がこれを使う時なのだと。
「ポチッとな」
「よし、炎発射だ。あいつを焼き尽くせ!」
ドラゴンの口から本物の炎が吐かれ、避難していないフラウを包み込む。
だがその時、フラウの体から光が発せられ炎から守っていた。
それはかしわもちは知る由もなかったが、かしわもちとフラウとを繋ぐ魔道具、かしわもっちの水晶玉から発せられた光だった。
「な! あいつ無事だぞ。なんだあの光は!」
「もしかすると伝説の……」
「知っているのか、とかげん」
「ああ、この山でドラゴン様が守りし秘宝の1つ。死を一度だけ防いでくれる魔道具だ。おそらく、以前洞窟に来た奴が盗み、逃げる途中で落としたんだろう」
「そうか、それを拾っていたのか。悔しいがあの女は運がいいな」
なおこの説明していたトカゲ、虚言癖がある。
誰も知らないことに対してそれっぽく語るのが得意なのだ。
かしわもちはよくわからないので、そうなんだなと納得。
「このボタンは気のせいだったのかな。あれ? なくなってる……。粉がだまになってただけなのかも?」
何故フラウが助かったのか……その真実はかしわもっちの水晶玉だけが知っていた……。
そしてざわざわしていたドラゴンの炎工場内に突如チャイムの音が鳴り響く。
「なにこの学校のチャイムみたいなのは。休憩時間?」
「そんなところだ。ドラゴン様が炎を吐くのをやめた合図だ。しばらくは休憩だな」
「そうかい、それじゃあたしは行くよ。あ、酸の池ってとっちかわかる?」
「胃袋のことか。よし、俺が案内してやるよ。うまかったステーキのお礼だ」
こうしてトカゲのリーダーであるトカベェと共にかしわもちは胃袋へ向かうのだった。
この後胃袋でかしわもちが常用してる胃薬を撒いて胃酸過多を抑えたり、食べられた人たちで結託して脱出劇を図ることとなる。
でもそれは、別のお話……。




