78.リアルdeデート
前回までのあらすじ。
少し前のこと、俺は花ちゃんとリアルの世界で釣りデートをする約束をした。リアルJKと一緒に歩くだけで逮捕される可能性のあるこのご時世だが、花ちゃんのお母さんの許可もとったので、問題はない。さあ、楽しませていただこう。
まだまだ残暑の残る10月の始め頃である。
最初は電車で行こうかと思ったのだが、ちょっとカッコつけてレンタカーで行くことにした。
彼女を助手席に乗せてドライブという憧れのシチュエーションである。
なお、迎えにいくというのがやりたかったので今1人で運転中である。
なお俺はペーパードライバー。
運転はお世辞にも上手と言えないので安全運転を心がけさせていただきます。
これはいつも通り正直に言えばいいように解釈してくれると思う。
さあ、俺たちの住むマンションが見えてきた。
その入り口付近に白いワンピースと麦わら帽子をかぶった髪の長い女性がいる。
あれは間違いなく花ちゃんだ。
釣りに行く格好ではない気もするが、制服以外を初めて見た気もするし、遠目でもメチャクチャ可愛いのでヨシ!
軽くクラクションを鳴らして横に停める。
「お待たせ、待った?」
「いいえ、ちょうど今来たところよ。あなたとわたしの間で待つという時間は存在しないわ」
「そっか、乗ってよ」
「ええ、お手並み拝見させていただくわ」
一度はやってみたかった会話が成立した。
早めに出て待ってくれていた感はあるのにそう言ってくれるのが醍醐味である。
さあ、まずは運転が下手と言っておこう。
「正直なところ、運転はあまり上手じゃないんだ。免許取って以降あまり乗ってないからな。安全運転でゆっくり行かせてもらうぞ」
「わかったわ。あなたは科学より魔法に秀でているものね。でもいざとなれば空をも飛んでくれると信じているわ」
「さすがにそれは目立ちすぎだな。花の身を守る以外はこの世界の物理法則に従うさ」
「ええ、あとあなたの身もね」
と言うわけで、たとえ事故ったとしても怪我だけは無いようにしたい。
では左右前方ヨシ!
気持ちは全速前進だが、アクセルはそーっと踏んで出発である。
さて、真剣ラブゼミで予習しておいた気の利いた会話をせねば。
「今日の服装かわいいね。まだまだ暑い今にはちょうどいい感じだ」
「そう? 何故か母が張り切って選んだのよ。釣りという行為には不一致だと思うのだけど……」
なるほど、以前花ちゃんは服は適当と言ってたものなあ。
とりあえず花ちゃんのお母さん、素敵にコーデしてくれてありがとうございます。
「そうだな、水は少しかかるかもしれないが汚れ仕事は俺がやるから大丈夫だ。何より……」
花ちゃんの素敵な姿が見れて嬉しいから問題ない……と言いたいわけだが、なんか躊躇してしまう。
「何より?」
「この先は秘密だ。知りたいなら心を読んでみてくれ」
「あちらの世界でのわたしの普段着に似ている? 色は違えども表裏一体の世界。こちらは光で向こうは闇……」
えーと、向こうの世界では黒いローブで今は白いワンピース。
ローブにフードがあることを除けば似たようなもの……なのか?
つまりローブとはフード付きワンピース?
ううむ……。
「確かに似ているかもな。でも俺が言いたいのはそうじゃなくて……」
「ならば……これはあなたの好み?」
なんか予想外のまともな答えが来た。
完全一致ではないものの、正解には間違いないな。
「そうだ、よくわかったな」
「いえ、母が言っていたのよ。これはあなたが好むだろうと……。なんだか悔しいわね、わたしよりあなたのことをわかっているなんて……」
花ちゃんがお母さんに嫉妬、なんか可愛い。
お母さんは俺のことをよくわかってると言うか、男の大半を射止める方法をよくわかっているとも言える。
だって彼女が初デートで今の花ちゃんのような格好してきたら、たいてい嬉しい。
「年長者の知識は侮れないからな。俺の母親も俺の知らないことをよく知っているし」
「そうね……。あなたの母親は尊敬すべき存在。そう考えると今まで気づかなかっただけで、わたしの母にも尊敬できる点があるということね」
「そうだな。ちょっと聞いてみたいんだが、花はお母さんのことそんな好きじゃないのか?」
「どうかしら、あまり考えたことないわね。当たり前の存在だったわ。ても一時期はわたしの行動を制限する存在として疎ましかったかも……」
えーと、たしか反抗期というやつは中学生くらいの頃にあるわけだよな。
中二病真っ盛りの時期に反抗期も来ていれば、親をかなり嫌うかもしれないな。
とは言え今はお母さんの用意した服を素直に着ているし、問題はないのかな?
とりあえず俺の理想の将来設計は家族共々仲良くなので、そういう話に持っていきたい。
「そうか、俺は花のお母さんが好きだぞ」
「それはどういうことかしら? わたしは母とあなたを巡って争うことになるの?」
ちょっと怖い感じでそう返された。
なんか勘違いして嫉妬してる。
勘違いといえど嫉妬されることが少し快感な俺がいる。
「そういう意味じゃない。人として好感が持てるってことだ。あのお母さんのおかげで花の家庭教師となり、さらに恋人になれたんだ。感謝もするさ」
「ふむ……そういう考えもあるわね。確かに珍しくわたしの願いを聞いてくれた。念のために聞くけど、あなたの魔法でなにか操作をしたわけではないわよね」
「もちろんだ。そもそも俺に人の意思を操ることはできない」
「何を言うのよ。わたしの心をこんなにも捉えておいて……」
「それは魔法ではない、運命だ」
「うん……そうね……」
車内に甘い空気が流れている気がする。
今すぐベッドに飛び込んで枕に顔を押し付けて、花ちゃんが可愛いよーと悶えまくりたい。
さて、話を少し戻してと……。
「そういうわけで、俺は花だけでなく花のお母さんとも仲良くしたいんだ。だから2人が仲良くしてくれていると嬉しい」
「そうね……過去のしがらみは忘れて努力するわ。少なくとも、あなたのことを相談した結果は全て良い方向に行っているもの」
「そうか、ありがたい」
やはりいつも通りの素直ないい子。
花ちゃんがお母さんに『あの人の目をわたしだけに向ける方法を教えて』とか相談する妄想をしてみる俺であった。
花ちゃんがもっと美人になったりして……。
でもそうなると俺が不釣り合いになる恐れもあるのでいろいろ頑張らねば……。
「そうだわ、これについて教えて欲しいのだけど」
「なに?」
突如花ちゃんが話を振ってきた。
そして肩にかけていたハンドバックの中身をゴソゴソしている。
「以前母が言っていた謎の単語。それを学友に尋ねたらもらったの。肝心の使い方は皆教えてくれなくて、想い人に聞くよう言われたわ。これよ」
横目に見えたのは小さな四角くて薄い袋で、破って開けるためのギザギザが付いている。
使ったことはないけど見たことはある。
男女が子供を作らぬようにするあれである。
唐突にこの子は何を言い出すのか、そしてなんでそんなものを持ってきているのか。
『よーし、使い方を実践してやろうぜ。釣りは中止でホテルにGo!』
俺の心の中の悪魔が囁きかけてくる。
相変わらずストレートだなおい。
続いて天使が反論である。
『何を言うの。釣りは行きましょう。水に濡れて服が透けちゃってイヤンなイベントもあるかもしれないわ。そういったことを積み重ねて気持ちを高めるの。そこからおせっくるはもう始まっているのよ!』
『くっ、恐れ入ったぜ。確かにお前の言うとおりだ。まずは釣りだな。そいつの説明は後で実践するとだけ伝えておきな』
どっちにしろホテルに連れ込むのは同意見のようだ。
車を運転している俺はどこへでも自由に連れ込める。
じゃなくて……そういう方向には持っていかない形で話をまとめていただきたい。
『いやいや、思い出してみろよ。花ちゃんのお母さんが言ってたんだぜ。子作りは卒業してから、ゴムはつけなさいねってさ。つまり許可をもらってるようなものだぜ』
そんな会話確かにしたような……。
そしてその時花ちゃんはゴムが何か分からず、クラスメイトに聞いたと……。
いやいや、でも初デートでいきなりはちょっとなあ。
『なに怖気ついているのよこのへたれ童貞。ゲーム世界を含めればもうかなりのデートをしてきているでしょう。今日決めましょう。新しい自分になるの』
やばい、今日は悪魔も天使も俺の欲望を後押ししてくる。
こうなったら頼りは心の中のカーチャンだけだ。
どうせ子供はできないわけだし、今すぐの必要らないよね?
『そうだねえ、でもその前に花ちゃんの質問にはちゃんと答えてあげようよ。今の流れだと騙してホテル連れ込むみたいになっちゃう。行くとしても2人の意思で行くんだよ』
おお……今日の心の中の母さんは本物のようなまともなことを言ってくれた。
よし、回りくどいことは考えずにちゃんと教えよう。
下手に適当なことを言うと、花ちゃんがどこかで恥をかくかもしれない。
なおこの思考は実に1秒ほど……さあ、花ちゃんの質問に回答だ。
「それは……子供を作る行為の際に子供ができなくするためのものだ」
「子作りを阻害……そのような魔道具だったとは。こんなにも小さいのに……。でも意味がわからないわ。なぜ阻害する必要があるの?」
「子作りという行為だけを練習したい時、または楽しみたい時に使うんだ。子作りは生き物の本能、つまりいつの間にかしたくなるものだ。だからその衝動を抑えられない時、それを使う。例えば子供ができては困る学生の場合とかだな」
「なるほど、ならば今のわたしには必要なもののようね。子作りの衝動というものはまだないけど……練習はしておきたいわ。それは今日できるもの?」
花ちゃんからのお誘いが来てしまった。
いやいや、まだなにをするかを知らないんだろうし……。
はて? 本当に知らないのかちょっと確認してみるか。
「まず聞いておきたいんだが、花は子供の作り方を知っているか?」
「ええ、理論だけだけどね。男性が魔力を高めそれを放ち、女性がそれを受け入れる。それを自身の魔力と融合させて子供の核となる。あっているかしら?」
うん、だいたいあってるな。
だが具体的なやり方は知らないようだ。
教えてとか言われそうだが、とりあえず続けよう。
「あっている。その道具は魔力の融合を阻むものだ。混ざり合わなかった魔力はそれぞれ四散する」
「なるほど……。てわも四散した魔力はいったい……。そういえば聞いたことがあるわ。水子の霊という怪現象。もしやその発生源?」
水子の霊とは確か……生まれてすぐ死んじゃった赤子とかの幽霊だよな?
まだその前だな。
「いや、水子の霊は魔力が融合した後でしか成り得ない。その道具を使った場合の魔力は問題なく消え去る」
ゴミ箱とかにね……。
しかし自分でやっといてなんだが、漫才のネタにできそうな会話である。
「でもあなたの魔力は並ではないでしょう? この魔道具の機能を狂わせる可能性もあるのでは?」
ごく稀に破れることはよくあると聞く。
でも俺の放つ魔力にそんな力はないと思う。
てか、深く話せば話すほどわけわかんなくなりそうなので、早く終わらせたくなってきた。
「大丈夫だ。問題ない」
「あなたが言うならそうなのね。とりあえず使ってみたいのだけど? これはもうすぐ魔力切れになるみたいなの。だから譲ってもらえたのだけど、使ってみて感想を伝える約束なの」
それをくれた花ちゃんのお友達は何を考えているのか。
からかってるんだろうけど、悪意はないと思いたい……。
しかしどうしたものか……。
「今は無理だな。それは手が汚れてしまうぞ」
「そうなのね。では釣りの時ならどうせ手を汚すわよね。そこで使える?」
「いや、それは2人きりの時に使うものだ。落ち着いた場所でな」
「ならば今夜あなたの家で使わせて」
とうしよう……家だともうそのまま正しい使い方をしてしまいそう。
なんとか別のものでつけ方だけとかで誤魔化せるか?
釣り竿の持つところにつけて……いやしかし結局これは何を模したものとか聞かれそう。
よし、保護者に丸投げしよう。
「とりあえず花のお母さんにまず聞いてみてほしい」
「ん……なんだか教えたくないような言い方ね。もしかしてあなたはこれを使いたくない人なの? これをもらう時に聞いたの。使いたくないと言う男とは付き合わない方がいいと」
うん、それは確かにその通り……その通りなんだけど……。
やばい、なんか変な流れになってきた。
とりあえず花ちゃんに嫌われるのだけは避けたい。
「いや、必要であれば使うし、むしろ使いたいくらいだ。だがまだ早いと考えている。だからこそ、花の1番近しい存在であるお母さんに相談してほしいんだ」
「ふむ……わかったわ。先ほど母との仲を深める約束をしたものね。ではこれは一旦しまっておく」
「わかってくれて嬉しい。あとそれは人前で出すものではないと言うことも覚えておいてくれ。他者に見られるとよろしくないんだ」
「そうなの? でもあの子は当たり前のようにスカートに忍ばせていた……。でもわかったわ、あなたに従う」
ううむ……最近のJKはそんななのか?
いや、たまたま花ちゃんのお友達がそういう子だっただけと思いたい。
とりあえず今夜何が起こるか不安ではあるが、一旦保留!
そんなこと考えていたらデートが楽しめないものな。
この後はなんとか普通の会話……普通の魔法の会話? をしつつ目的地へと到着するのであった。
さあ、リアル釣りだ!
デートだ!




