76.バズエタッター
前回までのあらすじ。
オランデー遺跡にいた過去のタルタル研究者の幽霊さんを魔導石に入れ、それを新型タルタルに入れたらタルタルとして生まれ変わった。というわけで詳細を聞きにタルタル研究所へ向かう俺たち。ちなみに俺は、戦いで力を使い果たした設定のフラウをお姫様抱っこして、さらには子供設定のタルタル双子のレオルとラーニャを肩にぶらさげている。ちょっとした家族団らんというやつである。
こんな感じでのんびり楽しくタルタロスの街へ着いたところから事件は始まる。
さて、俺的に理想の家族スタイルではあるが、周囲からはそうは見えないだろうな。
街中ではすっごい目立つし大道芸人かと思われていそうだ。
女性を1人お姫様抱っこして、両肩にはタルタルをぶら下げている。
もし俺がそんな人を見かけたら写真撮ってどっかSNSあげることだろう。
いっそワープして研究所まで行きたいが、フラウが後で怒りそうなのでこのまま歩く。
研究所を目指して歩いていると、見知った顔が現れた。
かしわもちとくーちゃんだ。
俺たちを見て嬉しそうに笑顔で近づいてくる。
「あー、やっぱりタカシだー。やっほー」
「お兄さん、こんばんはー」
「やあ2人とも、こんばんは。やっぱりって何?」
「なんかエタッターにね、タルタルアクセぶら下げた人がお姫様を抱っこして街中歩いてるって評判になってたんだよ。だからもしかしても思って見に来たの」
エタッターとは、このエターナルファンタジー内におけるSNSみたいなものである。
ゲーム内のことならいろいろ投稿していいし、今の俺みたいに他者の写真を撮って投稿しても許される。
って呑気に説明してる場合じゃない……。
ちょっとした噂くらいにはなるかと思ったけど、どうやらかなり広がってる?
「ちょっと激しい戦いがあってね。疲れちゃったんだよ」
「ええ! そうなのかい? フラウちゃんは大丈夫なの? おろおろ……」
「うふふ、フラウちゃん素敵な寝顔ですね」
素直に心配してオロオロするかしわもちと、フラウが倒れたフリをしているとすぐに察して楽しそうにするくーちゃん。
このあたりがゲーム経験の差である。
「早く病院に行ったほうがいいよ。救急車呼ぶ? あ、ここではじーえむさん、だっけ?」
「お母様ちょっとお耳を……」
本当にリアルで俺の部屋あたりに救急車を呼びかねないかしわもちに対し、くーちゃんがこそこそと耳打ち。
フラウは大丈夫だと、なんとなく説明してくれてるのだろう。
やがてほっとした顔になるかしわもち。
「そっかあ、それもクエストってやつなんだね。でもフラウちゃんを抱っこして歩けるなんてタカシは幸せものだよ」
どんな説明したのかわかんないが、かしわもちが俺を冷やかすモードになった。
勘違いされるのも困るが、母親に冷やかされるのも居心地が悪い。
ここはささっと切り抜けよう。
「そうかな、とりあえず急いで研究所に行かなきゃならないんだ。またね」
「そういうことなら護衛させてもらうよ。ね、くーちゃん」
「そうしましょう!」
そして俺の前方にかしわもちが歩くことになった。
なんか西洋鎧っぽいフルアーマーを着込みおっきな盾を構えながら歩くちっこい存在。
これによりエタッターはさらに盛り上がってしまったらしいが後の祭り。
なおくーちゃんは普通に歩いて着いてきたのだが、それを見た人たちがパレード的なものと勘違いして長蛇の列ができた。
そして俺は伝説へ……。
そんな感じで愉快なエタカシワモパレードはタルタル研究所まで続くのであった。
ここで俺とフラウはイベントが発生するので研究所のイベント専用エリアへワープ。
ワープといっても気づかないレベルで移動するのだが、今回は周囲にいた人たちが急に消えるのでよくわかった。
なお他の人からしたら俺たちが急に消えたことだろう。
ま、周囲にいる人がこんな風に消えるのはよくあること。
ただ今回は話題の中心人物が消えたので、後で聞いたところによるとエタッターは盛り上がったらしい。
あんなパレードをしなきゃいけないクエストがあるのだろうと様々な考察がなされたらしい。
そして同様のクエストを発生させるべく、タルタロスの街ではタルタルを2体肩にぶら下げ、お姫様抱っこをして歩くパレードが時々発生した……というのはまた別のお話。
さて、脱線しすぎたが無事に研究所へ到着だ。
フラウはまだ目を覚まさないな。
お、向こうから幽霊タルタルさんがやってきたぞ。
『おお、戻ってきたか。待っておったぞ。タルーガ博士が向こうで待っておる。む、その娘はまだ起きんのか?』
「あ、今起こします。フラウ、魔力を注入するぞ」
フラウに話しかけると、動かないままうなずいたように見える。
俺はもう当たり前のようにキスをする。
そして目を開けるフラウである。
「ん……ここは……?」
「タルタル研究所だ」
「そう、連れてきてくれたのね」
『なんでお前らはわざわざ儂の前でいちゃつくんじゃ……』
幽霊博士タルはうんざりした感じでツッコミをくれる。
なんかもうそういう流れというかお約束になってしまったのである。
さて、フラウとレオルとラーニャと仲良く横並びなって手を繋いで準備完了。
「では博士、行きましょう」
『うむ』
「待って、博士呼びではタルーガ博士と混同してしまう。やはり名前は必要ではないかしら」
ふむ、確かにそうだな。
博士と呼びかけたらタルーガ博士と幽霊タル博士が同時に振り向きそう。
『ならば儂は博士と呼ばれん方がええのう。所詮は過去の失敗者。大層な肩書などおこがましいわい。適当に名付けてくれ』
「ではあなたに任せるわ」
任せられてしまった。
子供設定のタルタルに名前をつけた時と違うし、適当でいいか。
幽霊タル博士……ユウタル、レイタル、タルレイ、ユータ、ターレ……最後のでいっか。
「じゃあ、ターレで」
『うむ、今日からターレと呼んでくれ。あと儂の正体を知ってるのはタルーガ博士と一部の助手だけじゃ。基本的には普通のタルタルと接する感じで頼む』
「了解だ」
「ふっ……その知識と肩書きを覆い隠し暗躍するわけね。期待しているわ」
タルタル転~?過去の研究における膨大な知識を持っていますが、目立ちたくないので1タルタルとして生きます~
といったタイトルが思い浮かんだのでそういう小説を書きたくなったが、たぶん人気でないのでやめとこう。
なんて考えつつ、タルーガ博士のいる研究室に到着した。
「おお君たち、無事だったようじゃな。助けが間に合って良かった」
「タルーガ博士、救援ありがとうございました。あと少しで全滅するところでした」
「うむうむ、新型が想定通りに機能するかが心配じゃったが、その様子だとうまくいったようじゃな」
タルーガ博士がターレを見て満足そうにうなづく。
ぶっつけ本番でなんとかなるのはロボットもののお約束である。
「はい、見事な動きでした。さらには魔導石をセットしたあとの活躍は凄かった」
「そうかそうか、こちらこそ貴重な過去の遺物を持ち帰ってくれて感謝するよ。過去の偉人の意思がこもった魔導石とはな」
「偉人なのですか?」
『博士、儂はそんな大したものではない。今は単なる1タルタルとして扱っておくれ』
「おお、そうでしたな」
『あと先ほど新たに名付けてもらった。今後はターレと呼んでほしい』
「ターレさんですな。承知しました」
タルーガ博士はターレの中身を知っているようで、実はすごい人だったっぽいな。
まあ気にするまい、歴史に興味がないのが俺である。
フラウは興味津々なようで、横で目を輝かせてる。
いろいろ聞きたそうな顔をしているが、本人の意思を尊重して聞くのを我慢しているようだ。
『ではタルーガ博士、彼らに話があるのじゃろう?』
「そうでしたな。君たちがターレさんを連れてきてくれたおかげでタルタル研究が一段と発展することじゃろう。お礼を言いたくてな」
「それは良かったです。具体的にはどのように発展するのでしょう?」
「うむ、彼女の研究による知識はは素晴らしいものじゃ。これまでどの資料にもなかったタルタルを効率よく動かす方法を知っておる」
「それはすごい」
ターレを彼女と言ったので、幽霊さんは女性だったのだな。
一人称は儂だしご高齢な感じだったので性別不明だったわけだがスッキリ。
『主には戦闘向けの知識じゃから危険はあるがな。じゃがお前さんたちなら問題はないじゃろう』
「そうですな、一歩使い方を間違えれば危険な力。まずはその双子たちを強化して実験していこうと思っておる」
おお、レオルとラーニャがパワーアップするわけか。
これで家族オンリー戦闘がますますやりやすくなるな。
はてさてこれはユニークイベントか共通イベントか気になるところ。
ちょいと探りを入れてみよう。
「この子達が強くなるのはありがたいです。でも実験するのはこの子達だけなんですか?」
「いや、君たちのように信用できるものがいれば続々と実験に参加してもらう予定じゃ。君の信用できる仲間たちが専用タルタルに興味あれば、ぜひ研究所に来るよう伝えてほしい」
意訳すると、タルタル研究所でクエストあるから、タルタル好きな友達に教えてあげてね。もいうことか。
ユニークイベントではなくみんなに起きるイベントのようだ。
ま、レオルとラーニャの双子設定がユニークイベントだったし、そうそう続かないか。
「では皆に紹介しておきます」
「うむうむ、タルタルの発展のために頼んだぞ」
俺はこんなクエストがあるよーとギルドメンバーや友達に発信。
こういうのは早いほうがいい。
この間の会話はフラウに任せよう。
「実験という言い方は好みません。教育という形にしていただけますか」
「おおそうじゃったな。お前さんたちの子供に実験とは失礼じゃ。よし、いい教育をしていこう」
見た目が樽のコミカルなタルタルであれど俺たちの子供設定。
フラウは将来実の子供も大切にしそう。
一歩間違えればモンスターペアレントになる恐れもあるが、きっと話し合えば大丈夫と思いたい。
「ありがとうございます。それで具体的にはどのようなきょういくを?」
「うむ、モードチェンジ機能を考えておる。戦闘中であれど臨機応変に戦い方を変えるのじゃ。魔術モードから戦士モードに即座に切り替えたりのう」
「まさに魔法による変身ですね。素晴らしいです」
なにかフラウが興奮している。
たしか、フラウが好きだった魔法少女マジカルロリカは普段杖を持って魔法を使うのだが、さらに変身して斧を持って物理で戦うファイターロリカになったりする。
それと重ね合わせて興奮しているに違いない。
後半だとさらにウォリアーロリカとか、どんどん魔法から離れていった気もする。
「うむ、これまでは君たち人と同じようなことしかできなかったタルタルじゃが、これでタルタルにしかできない戦術が取れるのじゃよ」
「素晴らしい構想です。ではさらに変身を繰り返して万能な存在になることは?」
後からフラウに聞いたのだが、マジカルロリカは最終回でミラクルロリカとなって魔法も物理もなんでもできる、もうあいつ1人でいいんじゃないかな状態になれるらしい。
だが、さすがにこのタルタルの新機能にそこまではないだろうな。
「そんなタルタルもいつかは作りたいが、今はまだ無理じゃな。ひとつの機能を上げれば他は下がる。そういうものじゃ」
『うむ。それにそういった無理矢理なものを作るとどうなるか。先ほどの指揮官機を見たじゃろう。万能じゃが安定性に欠ける、そういった存在となるのじゃよ』
「なるほど、よくわかります。万能が故に力を過信し己を失う。歴史を繰り返すわけにはいきませんね」
『そうじゃ。儂はそのためにここで協力することに決めたのじゃからな』
博士級が2人いるとなんか難しい会話がどんどん弾んでいきそう。
フラウが多少おかしなことを言ってもうまく相手してくれるので楽しそうに会話している。
とりあえず俺はしばし聞き手に回った。
先ほど言っていたように、今後のレオルとラーニャは戦闘中にモードを好きに変えられるようだ。
いろんな戦闘方法が妄想できるなあ。
基本は回復や補助してるけど、余裕が出てきたら攻撃魔法の使い手になるとか。
魔術師タイプでMP尽きるまで魔法使わせて、敵が怒って攻撃してきた瞬間、硬いガードタイプに変形とか。
「万能にはなれないと言われましたが、すでに万能のような気がしますね」
「そうじゃな。じゃが連続では使えぬからな。ここぞという時に上手く使っていくんじゃ」
「なるほど、戦術に工夫が必要ですね」
「うむ。まずは普通のタルタルと同じモードを用意してある。この状態で試してほしい」
普通のモードというと人間とほぼ同じ職業だな。
戦士とか騎士とか魔術師とか回復術師とか、獣使いみたいな特殊なのを除いて大体ある。
「まずはということは、今後はモードが増えるということですか?」
「いや、各種パーツをカスタマイズしてオリジナルのモードを作ってもらおうと思う。これまで以上に特化した状態にもできるぞ」
攻撃力はめちゃくちゃ高いが、防御がへなちょことかできるわけかな。
なんにせよ世界に1つだけのタルタル。
昔やったロボをカスタマイズするゲームを思い出すなあ。
「戦闘に使えるのはわかりました。日常生活においてはどうでしょう? 戦いだけが全てではありません」
「ふむ……」
フラウの質問に考え込むタルーガ博士。
おそらく、戦闘以外の機能は特にないのだろう。
でも俺たちの子供設定なわけだし、もうすぐ完成する新居で一緒に暮らせれたら楽しそう。
ここでの会話が運営さんに届いて実装を検討することを願う。
『それも面白そうじゃな。せっかく人の心を魔導石に込めてあるのじゃし、戦い以外でも様々な機能をつけるべきかも知れぬぞ』
「ふむ、たしかに検討の余地はありそうですな。ではフラウさん、できるかはわからぬが、それも研究項目に加えておくよ」
「ありがとうございます」
お、一応考えてくれるのであれば期待が持てる。
あとで某掲示板に、タルタルが戦闘以外でも使えたらいいよね、とか書き込んでおこう。
賛同してくれる人が増えれば、運営さんの耳に届いて実装の可能性が上がる。
レオルとラーニャは今俺とフラウの意思で喋らせているわけだが、自分から喋ってくれるときっと楽しい。
それからしばし、博士ーズの知的な会話を聞いたり混ざってみたりと楽しい時間を過ごした。
とりあえず本日の成果はレオルとラーニャのパワーアップである。
もうすぐ行く予定のドラゴン退治ミッションに向けての戦力が増えた。
ちなみに一緒に行くメンバーも俺たちと同じようにマイタルタルをゲットするクエストをやっているはずなので、きっと賑やかな旅路になることであろう。
楽しみ!




