74.VSボサタル軍団
前回までのあらすじ。
暴走タルタルのさまようオランデー遺跡に住む地縛霊的な昔のタルタル研究者の幽霊さん。それを魔導石につっこんでタルタル研究所に連れて行こうとした俺たち。その時遺跡に異常が起き、暴走タルタルたちが俺たちを逃すまいと集まってきた。いや、これは異常ではなく暴走タルタルたちの正常な行動なのかもしれない……。
フラウのゲーム生活の中で、初めて負ける可能性のある戦いの火蓋が切って落とされた。
さて、わりと絶望的な状況下の中で戦闘開始だ。
敵の配置だが、どの敵に手を出しても全てがリンクするような布陣である。
中心には指揮官ぽいのもいるし、とりあえず攻撃を開始してみるか。
近場の一体にボウガンを打ち込んでみる。
『侵入者発見! 先鋒隊、カカレ!』
3体の剣を持ったタルタルが接近してくる。
敵は一斉にかかってくるのではなく、指揮官の指示で少しずつ来るようだ。
これならちゃんと勝てるように設計されているイベントかも?
予定通り通路に逃げ込み迎え撃つ。
「フラウ、敵は様子見をしながら少しずつ戦力を送り込んで来るようだ。確固撃破していくぞ。魔力は節約しながらな」
「承知したわ。わたしたちはたいした戦力ではないと敵に油断させるのね」
「そういうことだ」
ここの敵がそういう思考をするかはわからないが、そうやって作戦を考えるのも楽しいものだ。
さあ、倒していくぞ。
「まず足止めね……捕縛!」
一番最後に来ていたタルタルがフラウのバインドにより動きを止める。
俺はやってきた2体のうちの一体に攻撃を開始だ。
「あなたには眠っていてもらうわ。ふふ、兵器が眠るというのもおかしな話だけど、魔力を遮断し活動を停止してもらう」
続いて眠りの魔法がタルタルを襲う。
確かに生き物でもないのに眠るのは不思議だったが、フラウが言ってるのがそれっぽい。
さて、じっくり戦うか。
『オ父サン、サポートシマス。パライズ!』
『スロウ!』
レオルとラーニャは回復役だが、敵を弱らせる魔法も少しは使える。
序盤はMP満タンなので楽だな。
あとは交互にMPを回復してもらえば長期戦ができる。
長期戦における、わりと定番の戦法である。
そんなわけで、敵の先鋒隊3体はあっさりとやっつけた。
そして指揮官がまた喋り出す。
『侵入者ハ単ナル賊デハナイ。トレースセヨ!』
トレース?
お、なんかでっかい剣を持ったアタッカー的な大きめタルタルが一体だけやってきた。
通路で迎撃開始だ。
「一体来たぞ。強そうだが、先ほどのように確実に倒していく」
「いえ、あなたを狙っている魔力の流れがあるわ!」
「む? くうっ!」
でか剣タルタルに隠れて見えにくいが、その背後から火球が飛んできた。
さらには体を麻痺させる弱体魔法も飛んでくる。
ついでにでか剣タルタルに防御アップ魔法も飛んできた。
後衛タルタルが3体いる……そしてその種類は……。
「今度は俺たちと同じ布陣で来るようだ」
「ふっ、ならば余裕ね。わたしたちの連携を見せつけてあげましょう」
「その通りだ、行くぞ」
とは言えこのまま普通に戦っていたら勝負はつかない。
なにせ前衛1人と一体が殴り合って、サポートに魔術師1と回復術師2だ。
どちらの前衛もまず倒されずに回復を受け続けるだろう。
「一体は眠っていなさい」
フラウの睡眠魔法が敵の回復タルタルを眠らせる……が、もう一体の回復タルタルがすかさず起こす。
回復が厚いとはそういう厄介な状況なのだ。
ならば!
「フラウ、もう少ししたら俺は前に出る。通路入り口付近でサポートしてくれ」
「わかったわ。脆いところをつくのね」
少しの間でか剣タルタルと殴り合い、ヘイトを稼ぐ。
これから後衛タルタルに殴りかかりに行くわけで、その間もこいつの攻撃は俺が受けられるようにしておかねばならない。
そろそろいいか。
「いくぞ! 魔術師タルタルに全力攻撃だ! 燃え上がれ!」
俺はバーニングの魔法を唱え、そのまま魔術師タルタルになぐりかかる。
やわらかいのでHPを一気に削れる感触が心地よい。
「ポイズン!」
『サイレント!』
『パライズ』
俺の背後より弱体魔法がいくつも飛んできて敵を襲う。
それを敵タルタルが順に回復していくが問題ない。
むしろ弱体を解除させる魔法を使わせて、HPを回復させる回復魔法は使わせないようにしているのだ。
「いいぞ、回復されてもどんどん放て! そしてフラウも攻撃魔法を連続で放つんだ」
「任せて!」
そしていい感じにじわじわ減っていく魔術師タルタルのHP。
回復もされてはいるが、柔らかい分追いついていない。
『敵ノ戦法ヲ学べ!』
む? タルタル指揮官が何か叫んだ。
すると先ほどまで俺を殴ってきていたでか大剣タルタルが向きを変え、フラウの方へと向かって行った。
「フラウ、そっちへいくぞ。足止めしつつ耐えてくれ。俺はこいつを倒すまでお前を守れない」
「バインド! 大丈夫、いつまでも守られるわたしではないわ。まずは目的を果たして。くうっ!」
足止め魔法をかけるも、それはすぐに回復されてしまい、フラウが殴られる。
くそう、俺の可愛い嫁になんてことを……。
だがフラウの言うように、まずは魔術師タルタルを倒さねば。
ここが勝負の踏ん張りどきだ。
「はああああっ!」
ここで闇騎士の不人気技である闇の闘気を纏う。
これは攻撃のたびに自身のHPを犠牲にし、大ダメージを与えると言うものだ。
回復が面倒ということで野良パーティとかで使うと嫌われちゃうのだ。
でも今は文句を言わずに回復してくれる可愛い我が子たちがいる幸せ。
『オ父サンヲ回復、キュアー』
『ダブルキュアー』
同時に回復魔法を受けることで効果が上がるわけではないが、気分は上がる。
ここで決める!
『ダークパワースラーッシュゥ!』
闇の力を纏った大剣で一気に突く技を発動。
タルタル魔術師をやっつけた!
『オ母サンヲ回復、キュアー』
『ラブキュアー』
フラウが殴られてピンチなので急ぎ助けに行こう。
闇のオーラはもういいので解除してと。
「待たせたなフラウ!」
「ふっ、来るとわかっている相手を待つのは苦ではないわ」
「さすがだな。ではここから逆転と行くぞ」
俺が攻撃を始めると、大剣タルタルもこちらを攻撃対象にしてきた。
俺たちの行動をトレースしているようだな。
「よし、時間を稼ぐ。みんな交代でMP回復だ」
敵が減った状態であれば余裕がある。
今の戦力差であれば、消費MPより回復MPの方が多いのでじっくり回復を待とう。
そしてある程度回復したら敵の回復タルタルを先ほどのように一斉攻撃で潰すのだ。
卑怯と言うなかれ、これはれっきとした戦術なのだよ。
『戦力補充!』
え?
敵の指揮官の叫びと共に、敵の陣営に魔術師タルタルが参加した。
つまり元の木阿弥、最初の状態に巻き戻り……。
いや、いろいろ消耗している分俺たちの方が不利だぞ。
「やばいなこれは……。フラウ、先に謝っておく。お前たちを守り切れないかも知れない」
「覚悟の上よ。それにこの子達は大丈夫よ。敗北前に回収しましょう。わたしたちが倒れようとあの空間ならば無事よ」
「そうだな」
普段はアイテムボックスに収まっているタルっ子たちである。
なお敗北してやられてもちゃんとアイテムボックスに戻る。
とは言え、フラウの言うようにやられる前に回収しておく方が気分的には良い。
普通のタルタルと違う我が子たち、壊される瞬間は見たくない。
「それで作戦はどうするの? まだあきらめたわけではないのでしょう?」
うーん……さっきのが確実な作戦だったんだけどなあ……。
倒しても補充されるとか、勝てる要素がないぞ……。
お、ふと昔ゲームでやった特殊な敵を思い出した。
こちらの攻撃を真似て反撃してきて、攻略方法は何もしないってやつ。
「少し試したいことがある。レオルを一旦引っ込めるぞ」
「こんな時に? いえ……あなたの意図は伝わってきたわ。やってみましょう」
タルタル操具タルリンガーを高く掲げ、レオルを帰還させる。
こうすると敵はどうなる?
『敵戦力ノ減少ヲ確認。油断セズ警戒体制ニ移行セヨ』
タルタル指揮官が指示を出し、戦闘体制だった敵の回復タルタルが待機状態となった。
よし、この状態でがんばるか。
「フラウ、ラーニャを帰還させてくれ。俺たちだけでやるぞ」
「わかったわ。ラーニャ……母の活躍を安全地帯で見ていなさい」
『ハイ、オ母サン』
いい感じに母性を見せてくれるフラウが眩しいし将来が楽しみ。
さて、これにより敵もさらに一体が待機状態となった。
2体2で一気に勝負を決めよう。
「フラウ、俺たちだけで同時に奴らを倒すぞ。回復にはとっておきの食事を使う」
「ええ、お母様とくーちゃんに毎日たくさんもらっているわ。いきましょう!」
戦いの勝敗を決めるのは戦闘力、戦術、そして財力である。
こう言う時のために取っておいた食事や回復アイテムを惜しみなく使うのだ。
能力を大幅に上げる目玉焼きハンバーグ焼きそば、名付けて月光そば。
さらにHPがじじわ回復してくれるスペシャルブレンドミックスオレかしわもちスペシャル!
「うまい!」
「ふふ、魔力の熟成が進んでいるわ」
フラウは濃い紫色の飲み物を飲んでいる。
葡萄を発酵させたジュース? だろう。
現実では未成年が飲んではいけないかも知れないその飲み物をグラスで飲む姿がなにか色っぽい。
なおこのゲーム、戦闘中で敵が攻撃してこようとも食事は邪魔されないし、たくさん食べたけどこの間実に10秒程度の出来事である。
「よし、まずはこいつを弱らせてからだ」
「わかったわ」
ここからはやられる前にやる時間との勝負。
まず大剣タルタルのHPを1割ほどまで削る。
次に魔術師タルタルのHPも同様に削る。
ここで俺たちのHPは3割ほどと、敵には勝るも油断できない状況である。
「よし、一気に決めるぞ!」
「わかったわ。禁断の秘薬を使う」
フラウが飲むのはMP回復ポーション。
わりとお高いものだが、貧乏性で使えなかった俺は多めに在庫がある。
ここで使わなきゃいつ使う!
俺も回復ポーションを飲みつつ闇のオーラ展開!
「はあああああっ!」
大剣タルタルを闇の剣撃と攻撃魔法で一気に倒す。
そのまま間髪入れずに魔術師タルタルを倒す!
さあ、敵の指揮官はどう出る?
『各機ソノママ待機、陣形ヲ再構築スル』
よし、一旦戦闘はお休みのようだ。
フラウと共に通路の奥に徹底し、レオルとラーニャを再度呼び出す。
どのくらい待ってくれるかわからないが休憩だ。
「ふう、なんとかなったな」
「ええ、さすがの機転だったわ。でも敗北の危機は変わらずよね」
「そうだな……今は舐められてるようだが、あの大群に一気に来られては勝ち目がない」
「そう……覚悟は決めたわ。でも少しだけ怖い……」
俺の横に座っていたフラウが頭を俺の肩に預けてくる。
それをなでなでしてやる俺。
なんかピンチ時の決戦前にイチャつく映画とかでよくあるやつっぽくて楽しい。
一度はやってみたかったシーンをやれている感動。
どうせならもっとドラマっぽく。
「ならば戦いをあきらめることも可能だぞ。こんな時のために安らかに逝ける毒薬もある」
「それをわたしに飲ませるつもり?」
「そうだな……あんな狂った奴らに殺されるくらいなら俺の手で……」
「ん……それもいいかも……」
俺の手で殺すと言うのが気に入ってくれたのか、フラウがニヤリと笑い顔を接近させてくる。
キスしたいのかな?
「でもどうせならその毒は一緒に……いえ、お互いに飲ませ合いましょう。あなたと繋がったままお互いに殺す。悪くないわ……。そのまま一緒に来世まで行きましょう」
「そうだな、この世界での来世はすぐだが、同時に死んで同時に復活も悪くない」
ゲーム的には死んだら設定してある場所……俺たちは俺たちの家に戻るのだが、こういう言い方をするとなにかロマンチック。
戦いとかもうほっぽり出してそれしたい気分だ。
『全軍突撃態勢!』
大通路から指揮官タルタルの大声が響いてきた。
くそう、せっかくのいいムードを邪魔してくれたな。
ちょうど回復できたわけだが、もしかすると回復することが次のイベント開始トリガーだったのかもしれない。。
仕方ない、悲劇の副毒死は今度に持ち越しだ。
「自害する暇もくれないようだ。やるぞみんな」
「ええ、でもみんなはダメ。名前を呼んで」
「そうだな……やるぞフラウ、ラーニャ、レオル!」
「いきましょう」
『イクノー』
『ヤッツケルー』
さて、こちらの部屋になだれ込まれる前に狭い通路を確保だ。
先ほどのように大通路に出る直前あたりに陣取り敵に囲まれないようにする。
それを合図にしたかのように指揮官タルタルが杖を掲げた。
『殲滅セヨ!』
うお……何十もいるタルタルが一斉にこっちに近づいてくる。
何気に怖いぞこの光景。
遥か過去、暴走タルタルのせいでここから脱出できなくなった研究員たちもきっとこんな風に絶望的だったのだろう。
通路に最初に入ってきた2体の前衛タルタルと殴り合い開始。
「うまいこと動きを止めて塞いでくれ」
「やってみるわ。捕縛と睡眠の力を……」
フラウがバインドと睡眠魔法で敵を止め、他のタルタルが入ってこれないよう道を塞ぐ。
狭い場所でたくさんの敵と戦う時に有効なテクニックだ。
おかげで一体だけとの戦闘になったが……。
『アノ剣士ニ集中砲火ヲ浴ビセヨ!』
指揮下の言葉と共に、多数の魔法が俺に襲いかかる。
炎氷風岩に各種弱体が飛んできて、一気に削られていく俺のHP。
『オ父サンヲ回復ダー!』
『異常モ治スヨ』
我が子たちから回復が飛んでくるが、このままではいずれ……。
幸い今戦っている集団はレベルが低め。
回復をもらいつつ、なんとか数を減らしていく。
だが敵が多すぎる……。
『魔力枯渇……休ム……』
必死に回復をしてくれたラーニャのMPが尽きてしまう。
つまりフラウが必死に回復指示を出してたってことなので、ピンチながら嬉しい。
レオルは節約気味に魔法を使っていだが、MPが尽きるのは時間の問題だろう。
ふう……だめっぽい……。
「フラウ、覚悟を決めよう。予定通りレオルとラーニャは戻す……」
「そうね……わかったわ……」
『ヤダ!』
『最後マデ一緒ニ戦ウ!』
え? レオルとラーニャが壊されるのを見たくないので戻すつもりなのだが、拒否された。
操っているのは俺たちなわけだし、俺たちの本音?
いや、それともこの子達が自立して自分意思で喋ってる?
よくわからんが可愛いのでヨシ!
「そうか……ならば最後までこのままいこう。フラウもいいか?」
「ええ、子供は親の意思で制限をかけるものではないと思っているの」
フラウの子育てにおける方針を確認である。
きっとフラウはいろいろ制限を受けていたのであろう。
もし制限されていなければ事件を起こしてそうな気もするのでこの場合は良かった気もするが……。
何はともあれ戦いを続けよう。
「たとえやられようともお前たちもただでは済まさん」
「来世のわたしたちが必ずや打ち倒すわ」
『オ父サンカッコイイ、オ母サン大好キ!』
『オ母サンモステキ! オ父サン愛シテル』
各自好きなセリフを放ちつつ戦闘……とはいえ順調に削られていく俺たちのHPである。
暴走タルタルズの魔法は俺たち全員に向かってえちこちから飛んできている。
もうやられるのも時間の問題なんだよなあ。
ここで奇跡の大逆転イベントが起こる可能性もなくはないかもしれない。
だってわりと長期戦バトルしてるわけだし、そろそろなにか起きるべきだ。
だが現実は非常という可能性もある。
なんにせよ必死に戦うのみである。
『ム、ナンダ貴様ハ? 我ガ配下ニ加ワリ戦闘ニ参加セヨ』
なんだ? 指揮官が変なことを言っている。
暴走タルタルの中に言うこと聞かない奴でもいるのかな。
見にいきたいけど、狭い通路は敵で埋まっていて大通路の方は見えない。
『ソイツハ暴走シテイル! 攻撃対象ニセヨ!』
なんだろう、助けが来たのかな?
よく考えるとファーリィは研究所からレオルとラーニャを通して俺たちをモニターしてるはずだし、応援をよこしてくれてもおかしくない。
俺たちに攻撃魔法や遠隔攻撃を仕掛けてくるボサタルの数も減っているな。
なんとなく勝てる可能性が見えてきた?
だが俺たちのHPはじわじわ削られ回復も追いつかず、MPも尽きかけている。
回復アイテムだってもうほとんどない。
この状態を覆すにはまだ足りない。
『ナンダアノ動キハッ!』
指揮官の叫びがまた聞こえる。
どんな動きか気になる。
うお? 急に一体のタルタルが見えたのだが、そいつは敵たちの頭上……というか壁を走ってくる。
たしかに見たことないタルタルの動きだ。
『助ケガ来タヨ!』
『ファーリィオ姉チャンガ呼ンデクレタヨッ!』
レオルとラーニャが勝手に喋り出す。
やはり研究所からモニターしているファーリィが助けを呼んでくれたのか。
なんと胸熱な展開よ。
ここにやってきたタルタルは戦闘用ではなさそうだが、先ほどの壁走りを見るに最新型なのだろうか。
だが1体だけで何ができるのか。
なにかすごい展開が起きることに期待しつつ次回に続くっ!




