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73.過去の亡霊

 前回までのあらすじ。

 正義のために日々戦いを続ける魔法少女フラウであったが、立ちはだかる敵は日々強力になっていく。新たなる敵に敗北しそうになった時、彼女は新たなる力を手に入れてそれを打ち倒した。

 これからもがんばれ魔法少女フラウ!


 今日は2人でオランデー遺跡に来ている。

 ここは人があまり来ることのない、わりと寂れた冒険スポット。

 いつものように他に人がいないことを確認し、フラウは魔法少女のコスプレ衣装に着替えるのであった。

 機能のお祝いで着た時に気に入ったらしく、かしわもちにプレゼントしてもらったらしい。


「変身完了よ」


「今日も似合っているな」


「よして、このような幼児が着るべく服は少し恥ずかしいの。使命のために着ているだけよ」


 その使命はフラウが勝手に作ったものである。

 本当は着たくてたまらない服なのに、仕方なく着ているというスタンスのフラウ、可愛くてそれだけで抱きしめてしまう。


「ならばあまり見ないほうがいいか? こうしていれば視界にあまり入らないぞ」


「それもいいわね……。でも進まなくては。では子供達を呼びましょう」


「よし」


 イチャつきつつ、今日の目的に向かって準備。

 タルタルへの指示を出す魔法の指示棒タルリンガーを手に、俺たちの子供であるタルタルのファーリィと意思疎通。

 それを通し、ファーリィのの弟と妹にあたるレオルとラーニャを呼び出して操作するのだ。

 不思議な段階を経ているが、これが俺たちだけに扱える専用タルタルなのである。


 現れたレオルとラーニャは、フラウを抱きしめたままの俺を並んで見上げてくる。

 そしてレオルが俺の真似をしてラーニャを後ろから抱きしめるのだった。

 なんか親を見て真似してて可愛いのだが、教育上よろしくない感。

 恋人同士の俺たちと違ってこの子達は双子の兄妹、禁断の愛的な感じになってしまう。


「では出発するか。陣形はどうする?」


「小翼一の陣でいきましょう」


 まず俺とフラウが手を繋ぎ、空いた手で俺はラーニャと、フラウはレオルと手を繋ぐ。

 両端が小さい子たちということで小翼、一直線で横並びなので一の陣である。

 要約すると仲良し家族。


「では行こう。目指すは書庫の隠し扉だ」


「ええ、心して向かいましょう」


 今日の目的は、この遺跡に住み着いた幽霊さんに会いに行くことである。

 かなり大昔のタルタル研究者で、この遺跡にいる暴走タルタルを生み出してしまった人とも言える。

 なにか悔いがあるのか、地縛霊的な感じで隠し部屋にいるのだ。


 以前俺たちはクエストでここに来て、タルタルの心臓となるコアを作りに来た。

 その時にばったり出会ったのだ。

 そこで幽霊さんは俺たちの作る魔道コアに興味を持った。

 魔力と同時に人の想いをこめたコアはどうなるのか……その結果であるレオルとラーニャを見せにいくのだ。


「来るのが遅くなってしまったわね。まだ存在が残っていればいいのだけど……」


「長い時を過ごしてきた幽霊だ。この程度は誤差だろう。ただ、偶然に消滅の時期が今という可能性もある。急ごう」


 もっと早く来れば良かったのだが、フラウとの仲が急接近したことでこのクエストのことを忘れていたのだ。

 クエスト進行より恋が優先である。

 ま、ゲームのNPCなのでそんな待ってないだろうし怒られることもないだろう。


『遅かったのう……』


 幽霊さんは出会って早々、嫌味たらしく言ってきた。

 こういう性格なのか、すぐ来ても遅いと言う設定なのか。


「すみませんね。お見せする前にいろいろテストをしておきたかったもので」


『そんなこと言って、どうせ2人でイチャついてて儂のことなど忘れておったんじゃろう?』


 なんで知ってるのだ。

 もしやこのゲームの基幹AIは俺たちを見て楽しんでいるのだろうか。

 そしてNPCを通してこんなこと言わせてると……。

 AIが愛を知ろうとしてあれこれする的なSFが頭をよぎる。


「なぜ知っているの? あなたはここから動けないはずですよね。もしや遠見の術などを行使していたのかしら?」


 フラウがそういうゲーム的なことは一切考えず質問した。

 ま、普通は気になるよな。


『なとなくじゃよ。それに、明らかに以前より距離が縮まっておる』


「そうかしら……。以前はもっと密着してるところを見たはず。今は手を繋いでいるだけ……」


『2人の間にあった緊張感が消えて自然体なんじゃ。って……こんな話をしたかったんじゃない。そのタルタルがお前さんたちの成果かえ?』


 そうか、以前ここでフラウとイチャついたというか、魔導石作ってた時は緊張しまくってたもんなあ。

 今は自然体か、そうかそうか。


「確かに今は当たり前のようにこうできているわね。以前まで持っていた遠慮や恥の感情がないわ」


 フラウは頭を俺の肩に乗せるようにくっついてくる。

 うん、自然体でとても心地よく安らぎ幸せを感じる。


『だからそれはもういいと言うとろうが……。早く本題に入るのじゃ』


 最初にこの話を振ってきたのは幽霊さんなのだが、NPCも呆れる俺たちのバカップルぶりであった。

 さて、ちゃんと本題に戻るか。

 レオルとラーニャを一歩前に出し、幽霊さんの前に立たせる。


「さあレオルとラーニャ、ちゃんと挨拶をするんだぞ」


「あなたたちならできるわ」


『くっ……もうつっこまんぞ……』


 子供を紹介するのだから、親バカっぽくなるのは当然である。

 話をとっとと進めるようとしてるのか、これには何も言ってこない幽霊さんであった。

 なおNPC相手だと恥ずかしさも少ないので、俺はもっと見せつけたかったりするわけだが、話を進めるために我慢するか。


『レオルデス』

『ラーニャデス』


 2体で手を繋いで、いい感じにお辞儀。

 レオルは優雅に、ラーニャは可憐である。

 ま、親バカ視点なので他の人から見たら他のタルタルと変わらないのかもしれない。


『ほう、これがお前さんたちの作った魔導石で動く人形か。確かに他のものとは違うのう』


「わかるのですか」


『うむ、従来ならば動きに個体差など出ないものじゃ。だがこやつらは性別があるかのように振る舞っておる。すごいことじゃ』


 とうやら俺の親バカではなく、他者から見てもこの子達は他のタルタルと違うわけだな。

 さすが俺たちの子である。


「私たちの愛の結晶を埋め込むことで同期を可能にしているわ。わたしたちが操作しているはずなのだけど、時々操作していることを忘れるわね」


『ふむふむ……詳しく説明してくれるか』


 というわけでこの子達のことをあらためて説明するのだが、フラウに説明させると変なことになりそうなので俺がすることにして。

 まず俺とフラウは、非戦闘タルタルであるファーリィと魔力による通信で繋がっている。

 そのファーリィを通し、戦闘タルタルであるレオルとラーニャを操る。

 直にではなく中継することでなんかよくわからんが、精度やらなんやらを上げてるはずだ。

 正直俺も何を言ってるかよくわからんが、幽霊さんは理解しながら聞いてくれている感じである。


『ほうほう、実に興味深いのう。研究の話というのはいつ聞いてもいいものじゃ。しかし懸念点はあるのう』


「なんですか?」


『ここの人形が暴走した根本的なことがまだわかっとらんことじゃ。お前たちの話を聞く限り、そのタルタルとやらの技術は遺跡からの拾い物じゃろう? いつまた暴走するやも知れぬ』


 うーん、確かにそれもそうなのかな。

 街中に大量にあるタルタルが暴走したらえらいことになるだろう。

 ゲーム的にはそういうイベントが発生したら楽しそうと思ってしまうのは不謹慎だろうか。


「そんなことにはならないわ、と言いたいところだけど……その油断が悲劇を招いたのよね」


『その通りじゃ。儂も昔は自信に満ち溢れておった。それがこのザマじゃ。お前たちには過ちを繰り返してほしくない』


「でもどうしたらいいのかしら。わたしたちは所詮素人。魔導兵器の研究に介入はできないわ」


『うむ、じゃから儂を連れて行ってくれ』


 幽霊を連れていく?

 なんかすごいことを言い出したな。

 また愉快な仲間が増えてしまうじゃないかと、ちょっとワクワク。


「連れてくと言われても、どうやって?」


『儂の魂を魔導石に詰めて持っていってくれればよい。儂は人形のコアとして蘇るのじゃ』


「そんなことできるのか?」


『お前たちなら可能じゃ、やってみてくれ』


 やってみることにした。

 魔導石の材料はここに来る途中に暴走タルタルを倒して時に拾っている。

 まずは以前やったように、この中身を空にして純粋な魔導石を作る。

 あとは魔力を注入すると同時にこの中に幽霊さんを詰め込むわけだが……検討した結果こうなった。


「さあ、この中に入ってきて」


『なんでそうなるのじゃ……』


 魔導石に魔力を込める装置の両端は、前回と同じように魔力を供給されている本と繋いでいる。

 前回はその装置の上に手を繋いでいたのだが、今回はその装置を挟み込むように俺とフラウが抱きしめあっている。

 なんでこうなったかと言われると、流れで……としか言いようがない。

 この幽霊さんには俺たちのイチャつきをすでに見られまくっているので、とことんまでやってしまえというのは俺の心の中の意見。


「あなたがこの中に入れるようわたしたちがサポートするわ。わたしたちの想いの力を信じてほしい」


『そ、そういうもんかえ? なんかやりにくい気がするのじゃが、まあええか……』


 フラウはいたって真面目に幽霊さんがちゃんと魔導石に入れるよう考えているようだ。

 いや、きっとその想いの中に俺と同じく仲の良さを見せつけたいという気持ちも少しはあると思いたい。

 さて、幽霊さんは渋々といった感じで俺たちの間にある装置にセットされた魔導石に手をかざしてきた。

 ちっこいホビホビ族の幽霊さんは空中に浮くことが可能なようで、ファンタジー的な絵で良い。


『ふむ……本当に魔導石に誘導されてる感じがあるようじゃ……。これが人の想いか……。これならば儂が行かなくとも問題がない気がしてきたのう』


 なんか成仏しそうなことを言い出したぞ。

 でも魔導石に入ったら出られなくなったりするかもだし、そのほうがいいのかも?


「ならばやめておく? 不安定な幽体から安定した魔力と一体になる。今より楽になるかも知れないけど、今より苦しくなる可能性もあるわ」


『いや、やろう。この中に入ったとて、儂の意識はいずれ消えるじゃろう。どうせ消えるのならば、希望のある未来を見ながらがええわい』


 しんみりとした感じで語る幽霊さん。

 そうか、永遠に意識が残るなんてことはないのだな……。


「死……消滅はは平等、幽体となってもそれじゃ同じことなのね」


『そうじゃ、じゃが消えるときにはお前さんたちにくらいは別れを告げたいもんじゃがな』


 きっとここからいろんなイベントがあって幽霊さんとさらに仲良くなったりするのだろう。

 そして別れイベントもあるのかもしれない。

 いつか来るかもしれない未来を思うとなんとなく切なくなる。

 ちなみにここで未来の話をネタバレしておくと、この幽霊さんの意識はサービス終了まで消えることなく元気にしている。


『では2人共、儂をその魔導石の中へ導いてくれ……』


「よし……」

「迷わぬよう来て……」


 幽霊さんを受け入れることを考えつつ、フラウ可愛いなと考えつつ、魔導石への魔力充填を開始する。

 魔力が満たされながら幽霊さんがそうめんを食べるときのようにちゅるんっと魔導石に吸い込まれていく。

 やがて魔導石は完成する。

 成功だろうか?


「うまくいったの?」


「どうだろうな? おーい幽霊さーん」


 そういえば名前聞いてなかったな。

 魔導石は小さく輝きを放っているだけで何も言葉を発しない。


「魔導石の生成には成功したはずよね? ならばこの状態では言葉を発せないのかしら」


「かもしれないな。よし、このままタルタル研究所にいくか」


「待って、そうなるとこの変身を解かなくてはいけないわ。一定の時間が経過前に解くには余計な魔力を消費してしまうのよ」


 フラウは今魔法少女コスプレ中である。

 研究所は街にあるわけで、この格好で行く訳にはいかない。

 せっかく着たのにすぐ脱ぎたくないのだろう。

 それを素直に言わずそれっぽい設定作るフラウかわいい。


「そうだな、では少しの間この隠し書庫で他に読める本がないか探すか? 無い可能性が高いが……」


「ええ、恐らくは全て封印されているのでしょうね。それより、こういうのはどう? お母様より教わったの。わたしとあなたの魔力を高める方法について」


「ほう? やってみたいな」


「では見ていて。暗いからわたしをしっかりと照らしてね」


 暗い書庫の中、俺は手にしたランタンをフラウに向ける。

 するとフラウはくるくると舞うように回りだした。

 なんで中が見えないのか不思議なスカートがひらひらと舞い、太ももが眩しい。

 俺の中のなにか……フラウの言うところの魔力が上昇するのを感じる。


「ふむ、素晴らしいな。たしかに魔力上昇効果があるようだ」


「うふふ、さすがはお母様。あなたと2人きりの時に舞えば効果があると聞いたの」


 さすが俺の母さん。

 たぶん俺というかたいていの男が喜びそうなことをフラウに教えたんだろうけど、フラウ的には魔力バフの舞いと脳内変換されたに違いない。

 なんにせよ可愛いしずっと見ていられるフラウの舞である。

 スカートの中がどうやっても見えないのは、全ての魔法少女が持っているスキルっぽいのでそういうものと思っておく。

 見えそうで見えないのがいいんじゃよ。


 ん? なんとなくではあるが、手にした魔導石から『そんなことしとらんと早く研究所に連れていかんかい!』とツッコミが聞こえた気がする。

 きっと気のせいだろう。

 しばし俺の誘惑するフラウの舞を楽しむのであった……。


 そして満足!


「ではいくか」


「そうね、入り口で変身を解けばちょうどいいと思うわ」


 来たときと同じように2人と2タルタルで1列に手を繋いで移動開始。

 だが、書庫を出たあたりで空気が一変した。

 この感じは覚えがある……通常エリアからイベント専用エリアにいつのまにか変化している?

 なんか暴走タルタル、略してボサタルが大量に集まってきているようだし。


『異常ヲ検知! 警戒セヨ警戒セヨ』


 普段喋ることなくさまよっているボサタルが喋っているのが聞こえてくる。

 てことはあれはイベント用のボサタルかもしれない。

 つまり、幽霊さんのクエストのイベントが進行してるってことっぽいな。

 書庫から通路に出たら戦闘が始まりそう。


「どうやら幽霊さんの魔導石に反応しているようだな」


「過去ここにいた研究員は皆逃げることもできず殺されたのよね。最後の一人が例え幽体と化していても逃さないつもりかしら」


 なんかそれっぽいな。

 どんな仕掛けでそうなるんだよというツッコミもしたくなるが、魔法の力はきっとなんでもありさ。


「そのようだな、なんとか俺たちだけで突破しなくてはいけないな」


「そうね……あれだけの大群をどう相手したらいいのかしら……」


「誘い込み各個撃破だな」


 大通路には大量のタルタル、書庫と大通路を繋ぐのは細い通路。

 この細い通路であれば、敵タルタルは3体くらいしか入ってこれない。

 幸い敵のレベルは低そうなので、そのくらいなら同時に相手できそう。

 問題は長期戦になるところか。


「戦闘指示はあなたに任せるわ。レオルとラーニャの形態は?」


「共に回復術師モードだ。片方が回復役をしながらもう一方が休んでMPを回復させる」


「長期戦の構えね。では主戦力はあなた。わたしは敵の足止めが主ね」


「そうだな、任せる」


 とりあえずかっこよく作戦を決めたわけだが、改めて敵の様子を見てみてちょっと尻込み。

 やはり多すぎるのと、指揮官ぽいタルタルがいて未知数だ。

 ううむ……ここでフラウ初めての敗北とかあり得るかもしれない。

 それも経験だが、ゲームではなく現実と考えるフラウは落ち込みそう。


「フラウ、先に言っておく。この戦い負けるかもしれない」


「あなたがそんな弱気だなんて珍しいわね。まだこんなところで死ぬ訳にはいかないわよ」


「それについてだが、まだ説明していなかったな。俺たちは戦いに敗北しても死にはしない。特殊な魔法で死ぬ前に安全なところへ送られる。多少の経験値を失うデメリットはあるがな。あとレオルとラーニャも無事に帰れる」


「なるほど……強敵に敗北した人が無事に戻ってきているのはそういう仕組なのね。わかったわ、敗北も一つの経験。あなたと共にであればそれも受け入れるわ」


 なんかいい感じにわかってくれた。

 しかも嬉しいことを言ってくれた。


「そうだな、勝利も敗北も俺たちは一緒だ」


「ええ、その言葉さえあれば結果は問わないわ。でも気になるのだけど、敗北した場合、先程の魔導石はどうなるのかしら?」


「これがあいつらの出現している原因だとしたら奪われるだろうな。だがその場合、再度ここに来て戦えば取り返すことが可能だ。その際に他の仲間に力を借りることもできる」


 ゲームなので、戦闘イベントに負けても再挑戦できる。

 低レベル職業で冒険中に高レベル用イベントが始まっちゃって、一旦逃げて後から改めて戦闘をするというのもよくあること。


「不思議な仕組みね。でもあなたがそれだけ落ち着いて言うということは問題ないのね。あなたの安心をわたしに分けてちょうだい。その後ではじめましょう」


「ああ、好きなだけ持っていけ」


 俺はフラウを抱き寄せ、落ち着かせるべく強く抱きしめる。

 隣でレオルとラーニャも同じことしてて、教育上よろしくないのかなとか思ってみたり。

 さて、負けるかもと言ったがなんとか勝ちたいよなあ……。

 魔導石からは『なんでこんな時でもイチャついとるんじゃお前らは!』と怒鳴ってくる幻聴が聞こえた気がした……。

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