62.三者三様
前回までのあらすじ。まさかりかついだかしわもち、植木に扮して忍んだならば、愛の邂逅覗きけり。いかがなものかと謝れば、擬態の妖術褒められり。未来の娘と話弾めば、俺の妄想全ての高き山に登りけり。
さてさて、ユースたちはと……。
お、向こうにくーちゃんと一緒にいるようだ。
こちらに背を向けているようなのでこっそり接近……と思ったが、先程のかしわもちののぞき事件もあったし堂々と歩いて向かおう。
「じゃあくーちゃん、心の準備はいい?」
「うん……大丈夫かなあ。痛くない?」
「大丈夫、優しくするから」
「うん……じゃあお願い」
ムフフなことをしてるのではと思わせるような会話をしているが、当然そんなわけは無い。
なにが始まるのかなと思いつつ近づいていくと、ユースがくーちゃんの足をつかんでぐるぐる回し始めた。
なるほど、先ほど母さんにやっていた『かしわもランバーミサイル』をくーちゃんにもやってるんだな。
ちっこいホビホビ族だからできるコミカルなお遊び。
「そおいっ!」
「きゃーっ!!」
可愛い悲鳴とともにくーちゃんが飛んでいき、着弾地点にあった木に斧を叩きつける。
かしわもちと全く同じことをしているのに、こっちの方がやけに可愛く見えるのは中の人の年齢のせいだろうか。
とりあえず話しかけるか。
「よっ、やってるな」
「あ、兄ちゃん。くーちゃんも母さんみたいに飛んでみたいって言ってさ」
「ホビホビ族は絵になるからなあ」
なおゲームなので人のサイズや重さは問題でなく、大っきい人が大っきい人を投げることも可能。
だけど見た目がすごい怖いというか、見てはいけないものを見た感じになってしまうのだ。
子供にしか見えないホビホビ族のお得な点である。
「あ、お兄さん。お母様みたいに飛んでみましたー。すごく気持ちいいですねー」
くーちゃんも俺に気づいて、楽しそうに喋りながら可愛く駆け寄ってくる。
今度それをフラウに演技指導しといてほしい。
うーん、でも違和感バリバリかなあ。
「よく飛んでたね。かしわもちが飛ぶの見てやりたくなったの?」
「はい! お母様っていろんなことを楽しそうにやるので、見てたら真似したくなっちゃうんですよー」
「そっかそっか、はしゃいで遊べるホビホビ族ならではだね」
「はい!」
くーちゃんとの会話も楽しいなあ。
そういえば最近は男より女性との会話の方が多いな。
なんとなくハーレム物の主人公になった気分である。
母さんとか、弟や友人の彼女ではあるが、現実だと本命は1人だけいればいいのだ。
さてさて本題。
「木材たくさん採れたからさ、ユースに加工を頼みたいんだ。いいか?」
「もちろん、ついでにくーちゃんの分も一気にやっちゃおう」
というわけで、ユースの周りに大量の丸太が並ぶ。
もうこのまま積み上げてログハウスでも作りたい気分だ。
「ではわたしは料理を作ります!」
「じゃあ俺はそれを食べよう」
「はーい、美味しいの作りますね」
冗談で言ったのだが、くーちゃんは満面の笑顔で受け止めてくれる。
こんないい子なんだからちゃんとゲットしろよ、と心の中で弟に言っておく。
さーて、俺はユースの加工してくれた木材を数えつつ必要数予測と比較していくか。
っても現実と違って自動集計された数値を見るだけという単純作業である。
「ねえねえユースくん、あれお兄さんに言っちゃっていいかな? 早めに聞いとかなきゃいけないこともあるし」
「そうだね、構わないよ」
アイテム作製作業をしながら会話する未来の夫婦。
俺にいうことってなんだろう?
ユースに確認するってことはゲーム内結婚かな?
「えっとお兄さん、まず聞いておきたいのですが、例の試練はいつ頃挑む予定なんですか?」
試練というのは、ゲームが用意してくれる様々なイベントのひとつだ。
この場合は、結婚する予定の人専用に試練クエストを作ってくれるらしい。
それもある程度の要望を伝えると優秀なAIがいい感じにしてくれるらしく、受ける人によって違うオリジナルクエストになるそうな。
ちなみにフラウの要望では、ドラゴンを倒してその角で結婚指輪を作るらしい。
「そうだなあ……順調にいけばフラウももうすぐ、試練に挑めるレベル30だし近いうちにかな」
「そうなんですね。こないだ運営に問い合わせてみたんですが、なんとあの試練は複数人でも受けられるらしいんです。ですのでえっと……よかったらご一緒させてください!」
「おお……ということはもしかして?」
俺はくーちゃんの大きく輝いている目を確認しつつ、ユースの方も見てみる。
照れくさそうに頷く弟がこれまでで一番可愛いと思ったお兄ちゃんが俺である。
「結婚します!」
頭の中でウエディン強ベルが鳴り響く。
そうかそうか、ついに決めたってわけか。
「2人ともおめでとう。兄として嬉しいよ。このことは母さんには?」
「まだ言ってないんです。とうせなら驚かせたいなあって。元々わたしたちって、お兄さんたちの試練を手伝う予定だったじゃないですか。お母様も一緒だと思うので、その最後がいいかなって」
「はは、それは面白そうだね。母さんびっくりだ」
かしわもちにこないだもレベル30おめでとうサプライズをしたばかりだが、いいサプライズは何度してもいいのだ。
そういえばフラウが試練に挑めるレベル30になったら先にお祝いだよな。
おそらくかしわもちが楽しいサプライズを用意してくるはず?
「楽しみですね。それであの……こないだわたしの家に来ていたお二人も結婚を前提にお付き合いと聞きましたが、参加されるでしょうか?」
こないだくーちゃんの家……かしわもち殺人事件の時だな。
レオンとニャーノさんのことだろう。
試練クエストは当然手伝いを頼む予定だが、どうせなら一緒に当事者になってくれた方が面白いよな。
「試練は来る予定だったけど、どうせなら3組合同とか盛り上がりそうだよね。提案しとくよ」
「はい、多い方が楽しいですもんね」
というわけでそんな感じのメッセージをまずはレオンに送る。
ニャーノさんにはレオンから言ってもらおう。
少ししたら返事がやってきた。
『ネカマさんとの恋愛はゲーム内において成り立つかどうか検討中なんだ。フラウさんのレベル30おめでとうパーティーまでには結論を出しておくよ。なおニャーノさんは俺が決意すれば明日にでも結婚してくれるつもりらしい』
ふむふむ、あとはレオンの心次第か。
がんばれ若者よ……。
ネカマと結婚して幸せになる姿を是非見せてほしい。
実はネカマに扮した女性の可能性もまだあるわけだし。
というわけで、間に合えば参加とくーちゃんとユースに言っておく。
「間に合うといいですね。たくさんいた方がきっと楽しいですよー」
まさにその通りで、普通に皆で遊んでるだけでも楽しいのに、愛の試練に立ち向かう三組のカップル+保護者。
最後の1人に違和感はあれど、このゲーム生活の中で最高のクエストになる予感。
あ、俺たちの子供設定のレオルとラーニャも連れて行こう。自動的にファーリィも連れていく形となる。
「そうだね。まだ時間はあるから、それまでにバッチリ決めておいてもらおう」
「仲良さそうでしたもん。きっと大丈夫ですよね?」
ネカマでなければとっくにゲーム内結婚してたんだろうなあ。
いや……ネカマだからこそ、あんな急展開で付き合ったり仲が進展したとも言える。
とりあえず、恋バナ大好きくーちゃんのさらなる笑顔が見たいのでがんばれレオン!
「ああ、きっと大丈夫。とりあえずあいつを信じて、余計なおせっかいはせずに見守っておこうと思う」
「お兄さんの親友ですもんね。じゃあわたしも見守ります。ちょっともどかしいですけどね。えへへー」
くーちゃんは俺とフラウの仲を進展させてくれるキューピッドであり、その実績はかなりのものである。
だが、ネカマという要素があると、例えくーちゃんががんばってもどう影響するかわからない。
というわけで何もしないのがレオンのためになると思う。
ネカマ問題はきっと本人の心持ち次第?
「おいカーター、相談に乗ってくれ!」
レオンのことを考えていたら急にレオンが現れた。
こういうのはフラウで起きてほしい……。
「どうしたレオン。俺でよければなんでも乗るぞ。とりあえず向こうへ行くか?」
「いや、どうせなら多い方がいい。ユースも、えーと……クーピーさんもよろしいでしょうか」
「僕は大丈夫だよ」
「あ、わたしなんかでお役に立てるなら」
「あたしもいるよ!」
いつの間にかかしわもちもやってきていた。
フラウは……来ていないようだな。
「ではかしわもちさんもお願いします。あ、もうここまで揃ったならフラウさんにも……」
というわけで、伐採作業もキリがいいのでフラウのテントにみんなで向かうことにした。
そして、テントの隣に優雅なお茶会セットが並べられる。
優雅なお茶会と共に、レオンのなにかしらの相談スタート!
「みなさんも知っての通り、俺はニャーノさんという女性とお付き合いしています。良い感じに仲良くなれているのですが、1つだけ問題があります。それはニャーノさんが現実では男だということです」
やはりそのことで悩んでいたか。
俺の意見としては、ゲーム内で幸せなら良いじゃない。なのだが……もし逆の立場だったらその答えじゃ納得しないと思う。
皆もどう言えばいいか同じように悩んで……あ、かしわもちは意味がよくわからなかったようでくーちゃんに小声で説明を受けている。
そんな中、最初に口を開いたのはフラウだった。
「まず前提が間違っているわね。現実はこの世界のことよ。だからあの猫の形は真実の姿。あちらの世界で男だからと言って問題はないでしょう。仮の世界での性別など自由なのだから」
「お、おう?」
レオンはこんらしている。
フラウはこの世界を現実と思い、現実世界を偽者としている……本気でそう思っているわけだが、レオンはそれを知らない。
そのままフラウの説を押し切って納得してくれたら楽なのにな。
信ずる者は救われる……がんばれフラウ!
「あなたは何故あの猫の子を好きになったの? 考えてみなさい。それは全てこの世界のことのはずよ。ならばあちらの世界のことなど考える必要もないでしょう」
「そ、それはまあ確かに……。ニャーノさん、最初に会って遊んだ時から魅力的で……理想の女性で……」
今回のフラウの言葉はわかりやすいし、偶然かもだけどいいこと言ってる。
男から見ての女性像を容易く演じられるのがネカマなわけだけど、それは気づかない方がいいお約束。
てかレオンのやつ、よく恥ずかしげもなくノロけてるな。
あ、かしわもちが綺麗な姿勢で手を上げた。
「どうぞ、お母様」
「あたしもフラウちゃんに賛成だよ。この世界は向こうとは別物、だけど真実なんだよ。あたしも昔、向こうで何考えてるかわかんない子の心にこの世界で触れてねえ……」
「かしわもちさん……そうですよね、この世界で起きたことを、感じたことを信じなくては……」
かしわもちが懐かしそうに語っているのは、某引きこもりで会話してくれなくなった息子と、ゲーム内で会話できたことを言っているのだろう。
ユースが少し照れくさそうに優しく微笑んでいる。
とりあえず言えるのは、このゲーム内の出会いはたいてい素晴らしいってことである。
俺もそろそろ何か言うべきかと考えていると、くーちゃんが手を上げた。
「次はわたしもいいですか? レオンさんとはあまり面識がないですが」
「もちろん問題ない。いろんな人の意見を聞きたいんだ」
「わたしもフラウちゃんと同じ意見です。わたしもこの世界でえっと……素敵な人と出逢いまして……」
ちょっと照れくさそうにユースをみるくーちゃん可愛い。
一緒に照れてるユースも可愛いお似合いカップルである。
「その時から思ってたんです。この世界で感じたことを大切にしようって。だからもし仮にげんじ……向こうの世界で会うことになった時、もしどんな人だろうと、それで考えを変えたりはしたくないなって……。えっとえっと……うまく言えませんし、わたしたちの場合は男女の出会いなのでレオンさんとはまた違うかもですけど……」
言葉にするのは難しい気持ちのお話を一生懸命するくーちゃん。
要は、例えユースの中身が好みの顔でなくともそれで嫌ったりはしないぞ的な。
うん、俺も言葉に上手くできないけど、なんとなく、わかるよくーちゃん。
それはきっとレオンにも伝わってるといいな。
あ、ユースが手を上げた。
「僕もくーちゃんに賛成だよ。上手く言えないけど……このゲーム内での出会いはゲーム外のことには左右されちゃいけないと思うんだ」
「ありがとう……クーピーさんにユース。そうだよな、たとえ女性だったとしても、中の人は好みかどうかなんて考えてたらキリがないもんな。なら男だって関係ないのか……。この世界の楽しい日々……ずっと続けていきたいよな……」
さて、ここらで最後の一押しをかっこよく決めたくなった俺がいる。
意見を言ってないのは俺だけになったからな。
皆に習って手を上げる。
「次いいか?」
「ああ、カーター。親友のお前の意見を聞かせてくれ」
「きっとお前はもう、どうしたいか決まってるんだろう? ならば俺たち全員が背中を押してやる。お前の考えている道は間違っていない。行け」
「カーター……さすが俺のことをよくわかっているな。そうだな……悩む必要なんてないんだ。俺はプロポーズするぞ!」
よし、決まった。
実は最初からこれを言ってみたかったのだが、実は違ってたら怖いので言えなかった。
フラウやかしわもちの言葉の流れでいけるなヨシ、と確信できたわけだ。
普通は言わないことを言えるフラウと、こういう時はいいことを言ってくれるかしわもちのコンボに乗っかる、名付けてヨシ乗り。
「おめでとう!」
かしわもちが最初にその言葉を発し、パチパチと拍手を始める。
次第に周りも拍手をしながら祝福の言葉をレオンに浴びせる。
「おめでとう」
「おめでとう」
「おめでとう」
昔あった某賛否両論アニメのエンディングのような状態となりつつ、スタッフロールが流れる。
よーし、例の結婚の試練クエストは今いる6人にニャーノさんを加えた7人で挑むことになりそうかな。
いや、お祭り大好きなギルドメンバーたちも来てくれそうだしフルメンバーで行けるかもしれない。
ワクワクしてきたぞ。
あ、このままここにニャーノさんを呼んで公開プロポーズとかどうだろう。
いや、それはさすがに急すぎてレオンに悪いかな。
「こんにちニャー」
テントの外から聞き覚えのある猫の声。
間違いなくニャーノさんなわけだが、偶然通りすがった?
テントの主であるフラウが出口に近づいて声をかける。
「ようこそ、入っていいわ」
「おじゃましニャーす。なにかサプライズがあると聞いて来ましたニャー。あ、レオンさんだー。あ、他のみんなもいるー。ニャー」
皆を見渡して楽しそうなニャーノさん。
でも最初にレオンを発見して喜ぶあたり、ラブラブ度がよくわかる。
てか、フラウが呼んだのかな?
満足そうな顔となったフラウは、レオンに向かってニヤリと微笑む。
「さあ、舞台は整ったわ。あなたの心を解放しなさい」
「えっ? ええっ?!」
戸惑うレオン。そりゃそーだ。
フラウは時々突拍子もないことをする。
あ、でも俺もこん風にしたいと考えてたわけで、心が通じ合ったのか?
俺と違ってフラウにイタズラ心は皆無で純粋にそれがいいと確信してるんだろうけど。
「レオンさん、にゃんですかにゃ?」
「え、えーとあのその……」
ワクワク顔のニャーノさんと、タジタジ顔のレオン。
見守る俺たちからは期待と不安の空気が入り混じる。
がんばれレオン!
「ニャーノさん!」
「は、はい!」
「今夜22時……オルカオルデ海岸のいつもの場所に来てもらえませんか?」
「は、はい……行きます……にゃっ」
「ではまた!」
猛ダッシュでテントから出ていくレオン。
まるで逃亡するかのよう。
この場でプロポーズを期待していたのだが、プロポーズの予約をしたってことなのか?
残されたニャーノさんは、やけにあたふたしている。
「ニャニャニャ! これはもしかしてもしかしちゃうのですかニャ? フラウさんフラウさんどー思いますにゃ?」
「ええ、あなたの思っていることが正解よ」
フラウはさも当然と言う顔で答える。
フラウはこうなるとわかっていたのだろうか?
いや……俺もフラウに対してよくやるけど、とりあえず相手の言うことに同意しておけばなんとかなるあれだきっと。
「で、では心と体の準備があるので失礼しますニャー!」
ニャーノさんも大慌てでテントを出ていく。
残された俺たち5人はしばし黙ってぼーっとしていたが、やがて何か耐えられなくなって大笑いを始めた。
ほんと楽しい1日だよ。
レオンたちを覗きにいくことは流石にしないので、成功を祈る俺たちであった。




